第5話 当たり前でしょ?(凛side)

 ママはまるで般若のような顔をした。



 それは初めてパパと三人で食事をしてマンションに帰った後のことだった。

 ちょーっと軽い気持ちで「 涼介さんとだったら付き合えるかな」って言ちゃったんだよね。



 びっくりした。 本当にびっくりした。いやあれだよ私の反応すごく気にしてたから、ちょっとしたリップサービスのつもりもあったんだよ。 そんな娘相手に本気で怒る?ママ童顔だから、普段は大きな瞳がくりくりしてるのに、その時は白眼が多いの三白眼って言うんだっけ?もう八白眼みたいな眼になってたって。瞳ってあんなに小さくなるもの?蛇かよっ!こわいって!



 とにかく初めて見るママの殺意に近い顔にびっくりした。だから、とにかくなんとかその場を取り繕おうとした。

「 ママの仕事の福祉保健看護師で出逢ったんだっけ」 と私がわざと間違えて言うと、ママは安心した顔になって笑って言った

「 またママの職業名間違えてる」

 実はこれ、ママを安心させるおまじないみたいなもの。良かったよお。いつものくりくりした瞳のママに戻ってくれた。

ずっと女二人で暮らしていたからか、私とママはこういうおまじないみたいなものをいくつか持っている。家によってはないんだってねこういうの。うちはパパがいたことなんてないから、普通の家のことはよく知らないけれど。



 さっきの顔、ママの彼氏に見せちゃダメだよ。本当に今のママ、恋する乙女なんだねえ。恋愛したことないからちょっと羨ましいかも。

 まあとにかくパパは私にとっては合格点だった。変な人じゃなくて良かった。男の人として付き合うレベルで合格かどうかは 告白されてみないと分からないけどね。



 さっきの般若顔以外にも、今日は初めて見るママの表情が多くて時々思わず笑ってしまいそうになちゃった。

「髪が風になびいてきれいですねって」パパが頑張ってる感じで言ってた時も何か「くわっ」と目を見開いていた。事前に台本でもあったのかな?あれ?笑

 私も吹き出しそうなのを堪えるのに必死で、友達と研究してたなんてありもしないこと言っちゃった。



「あなたの隣でかわいい顔してる人も研究してますよ、色々」って冗談ぽく言った時もママは血相変えて慌てて話題変えてるし、却って怪しまれそうで、こっちがヒヤヒヤしちゃった。そのうち仲良くなったらパパに聞いてみようかな。ママって思ってることすぐ顔に出てバレバレだよねって。



 なんて、微笑ましくママの横顔を見ながら色々考えてたら、ママが私にとってもっともっと大事なことを言い出した。

「 実は凛より1歳年上の息子さんがいるの」

「 誰に?」

「 涼介さんに」

「え?」 って何それ重大発言!!ええー!!!それは、正直、ちょっと、…怖いよ。私はそれでもママに気を遣って不安をあまり見せないようにしながらも続けた「 どんな感じの男の子なの?」

「それがよくできた息子さんみたいで」



 ママが結婚するのを私が大学生になるまで待ってくれたら私一人暮らしするのに、と思ったけど、男女の関係なんて3年も経ったらどうなるか分からないよね。友達の有紗とか中学3年間の間に7、8人?くらいの人と付き合ったり別れたりしてる。

正直付き合ったこともない私からしたら、そんなに怒ったり笑ったりで疲れないかなって思うくらい。



 そんなことも考えながら、ぼんやりママが言う「息子さんはいい人」みたいな洗脳?話を少し聞き流してたら、

「 まだママも会ったことないから。 来週会う予定なんだ」とママが言った。何、ソレ。これはすごい大ニュース!これだ!と思う気持ちを抑えて、気のないフリで、

「へえ。そうなんだ」と聞き流した。

 その後ママは、しばらくしたらまた四人で会おうねみたいなことを言っていたけれど、 そこまで待てるわけないでしょ!



 尾行しますよ。来週。当たり前でしょ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る