第4話 あら、いい感じ♪(彩side)

  いやいや何もそこまで好きにならなくていいのよ。 と思ったけれど、私は努めて冷静に言った。

「 そう。凛にもそんなに気に入ってもらえて良かった」

「 涼介さんはママの仕事のお客さんだっけ?ママの仕事のふくしほけんかんごしの?」

「 社会保険労務士!凛ちゃんももう少しで高校生なんだから。ママの職業ぐらい覚えてよ。 その仕事で凛ちゃんはこの歳まで育ってきたんだからね。」

「 えーほとんど合ってるじゃん」

「 いやいや。 イメージだけじゃないの。 興味ないの丸わかり」

「 へへ、バレたか」

「 あんたは外面が良くてしっかりしてるふりをしてるのに。こういう時だけはね」

「 猫かぶりなのはママも一緒じゃん。 男の人の前だと、あんなに上目遣いするんだ」

「 そんなに上目遣いとかしてた?そっか。 じゃあこれからもっと気をつけるね」いけないけない。年頃の女の子はこういうのに、ほんっと敏感だから、嫌悪感持たれないように応援してもらえるように気をつけなくっちゃ。母娘とは言っても女同士だからね。

「 うーうん、気にしなくていいよ。 あの人のことが本当に好きなんだなーってよくわかったし、応援するよ」と凛は温かい目で言ってくれた。まあ考えたら「付き合ってもいい」というのは、そんな深い意味はなかったかも。でも、これから一つ屋根の下で過ごしていく上で不安は無くしておく必要があるなと思って言った。



「ありがとう。でも、凛も不用意に付き合ってもいいとか言っちゃダメよ。涼介さんも同世代ではイケメンでモテなくもないと思うけど歳の離れた女の子にそんなこと言われる免疫ないと思うから」

 そしたら、凛はちょっと変な間を少し開けてから

「はーい。分かった」と分かったかどうか分からないような返事をした。

 おいおい…と一抹の不安を感じながらも私はそれ以上突っ込まないことにした。気になるけど。





 半年後、初めて凛と日向くんとを交えて四人で会った時、今度は凛は日向くんにはえらくすました顔で挨拶してた。

「岩橋彩の娘の凛です」ちょっと凛が冷たい娘に見えそうであららと思ったけど、日向くんはまじまじと彩を見つめていた。あれあれ、凛ちゃんは日向くんにとってはストライクだったのかな。

「おいおい、見過ぎじゃないか」と涼介さんがたしなめた後に、

「ああ、すみません。初めてまして。日向です」と日向くんが控え目爽やかに挨拶した。



日向くんって涼介さんを若くしたみたいでこれまたシュッとしたイケメンでいいんだよね。女の子にモテてるからか、若干塩対応ぽいところもあるんだよね。そんな日向くんだからそんなに凛に食いつくとは思ってなかった。だからもしかしたら、凛のすました態度は却って好印象だったのかもしれない。



 で、その時思ったんだよね。日向くんと凛が付き合っちゃえばいいのにって。若さが不安ではあるけど、知らない人と付き合うよりよっぽど安心。日向くんきっと、多分すごくいい子だし。「親子で恋人同士!?」なんて世間体、私気にしないし。



 もう気分は勝手に「付き合っちゃいなさいよ」ムード。勝手に。まあ、涼介さん何て言うか分からないけど。でも、こういうのって娘の親が気にしなかったら息子の父親はそこまで嫌がらないんじゃないかしら?分からないけど。



 そこから半年経ってめでたく一緒に住むようになって、すぐ凛は打ち解けて、 涼介さんのことはそのままパパ、 日向くんのことはお兄ちゃんって呼ぶようになった。

「お兄ちゃん」って凛が言う度に日向くん照れてかわいいんだよね。なんかむず痒そう。若っいな。

「お兄ちゃんって呼ぶんだ?」なんて毎回初めて呼ばれるような反応してかわいらしいこと言ってる。

そしたら、

「どうして?恥ずかしいの?」なんて、凛もかわいらしく聞くじゃない。

「いや、そうじゃないけど…」まあ、こんな綺麗な子にお兄ちゃんと呼ばれるのは嬉しいだろうね。

 凛も慣れてなくて無理してるのか、ちょっぴり笑顔に力が入っているような気もするけど、それも初々しくていいよね。



 一緒に住むようになってから数ヶ月経った頃、そろそろ夏も終わるねなんて凛と二人で話をしている時に

「日向くんとすごく仲良くなったね」と凛に言った。

「あーそうだね」と言った後に凛は「お兄ちゃんかっこいいよね」だって。あら、まあ!いい感じ。

少しウキウキしてたら、なんだか凛の視線を感じた。え?何々?って表情をしたら、

「ママって私がパパのこといいって言ったら、あんまりいい顔しないのにお兄ちゃんのこといいっていう時は笑顔だよね?」あれ?ちょっと見抜かれてる?ってギクッとしちゃった。



 でも、それはこの年頃特有の恥ずかしさからくる前フリだったのだと思う。だって凛はその後

「私お兄ちゃんのこと、ちょっといいなって思いかけてるかも」と照れながら続けたから。

おおーっ。やっぱりあるんだこういう少女漫画的展開!凛からこういう話聞くの何気に初めてだし、ママ嬉しいな。



うん、決めた。私は温かい目でそっと応援しよう。

ああそうだ、涼介さんには言っとかなくっちゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る