第3話 ちょっと待った!…(彩side)
「涼介さんとだったら、 付き合ってもいいな、私」
凛がとんでもないこと言い出した。
それはまだ四人で一緒に住む前のことで、初めて涼介さんと凛との顔合わせをした後のことだった。
「 涼介さんいいじゃん。ありあり!」のとこまでは、良かった。 そりゃ複雑な年頃だし、一度も男の人と暮らしたこともない。我が娘ながら綺麗な子だから男の人にじろじろ見られることも多くて若干男性が苦手っぽいところもある。
もし、涼介さんのことが気に入らなくて「一緒に住むのなんか絶対嫌」って言われたらどうしようかってすごく心配してた。
だから、さりげなく普段の話題に涼介さんがいい人だって織り交ぜていたし、顔合わせに誘う時も
「凛が前から見たいって言ってた映画だよ。三人で一緒に見に行こうよ」 と少しテンション高めに、楽しめのイベントとしてセッティングした。でも、凛は、
「映画は一人でも見れるし、 別に私に気を遣わなくても二人で見に行きなよ」だって。
年頃の娘ならではの軽い拒否反応。頭がクラクラした。
「そんなこと言わずに3人で行こうよ。みんなで見た方が楽しいよ。ね。ママのお願い」とお願いしたら、
「えーっ」とか言いながら渋々了承してくれた。
これまで女手一つで、15年間娘を育ててきた。 お母さんにも手伝ってもらったけど、本当に色んなことがあった。
本当によく頑張ったと思う。 えらいぞ私。
でも、だからこそ、 このチャンスを逃したくなかった。
涼介さんは稀に見るいい感じの独り身。しかもイケメン!切れ長の目が涼し気で、優しいの。その辺にうようよしているような、なんちゃんて独り身でもなく、変な癖もない希少物件だった。
それよりも、大事なのはやっぱり「好き」って思えたこと。自分が好きな人に好きって思ってもらえるなんて正直数年前まで諦めてた。
だから、この歳で子供が大きくなってからそう思える人と出会えたことは運命だと思った。
子育ても一段落したから、これからは好きな人と暮らしたい。だから頑張ろうって決めた。
うまくいってほしいから、涼介さんの方にも凛に気に入ってもらえるように、「美人だと言われ慣れてるから顔は褒めたらだめ」とか、「髪とか考え方を褒めてあげて」とか、映画の原作の小説を読んでおいてとか、ちょーっとだけ事前に仕込んだりもした。
だから初めての三人の顔合わせの時に、
「流れるような綺麗な髪だね、風でなびく時が絵画のよう」って涼介さんが凛に言い出した時は「そりゃ、やり過ぎだ!」と内心ヒヤヒヤした。クールに聞き流してる振りをしながらどうフォローしようかと必死に考えた。でも、そんな私の心配をよそに凛もまんざらでもなさそうで、
「実は一時期風が吹いた時にどちら側を向けば髪がきれいに見えるか友達と研究したことがあるんです」と上機嫌に答えているのを見て、ホッとした。
「ほんとに?そんなこと研究するの?すごいね探究心が強いんだ」と涼介さんが食いついたら凛も、
「そうそう。女性は内緒でいろいろと研究してるんですよ」ですって。
「いや、でもそう聞くとまんまとはめられた気がする…女性って怖い」
「怖いって、何ですか。ひどくないですか」とすねたような表情をしながらも凛はなんだかいい感じ。
「いや、ごめんなさい」という涼介さんを見ながら、 二人には悪いけど ちょっと二人とも小芝居臭いかもなんて思ってた。
「あなたの隣でかわいらしい顔をしている人も実は怖い女性ですよ」なんて凛が言い出した時は変なこと言わないかドキドキしたけど、私は何くわぬ顔でクールにほほ笑んだ。そういえば、付き合う前の作戦を凛に相談したことあったな…。凛が反対しませんようにって涼介さんには仕込んだけど、凛には何も口止めとか考えてなかったな。あれ?そんなに知られて困ることはなかった、よね?
「あなたの隣って、自分の母親でしょ」と涼介さんも笑ってる。
「あ、そういえば、あなたって呼び方も他人行儀ですよね、何て呼びましょう?パパって呼んでもいいんですか?馴れ馴れしいですかね?」
「いや、うん。パパって呼んでくれたら嬉しいな」 と涼介さん、 「これからよろしく」ってさわやかスマイル。
よかった、とってもいい雰囲気。
この時点ではちょっと涼介さんが照れてるのも微笑ましかった。まあ、こんな若い子と話す機会なんてないだろうし、凛は私の欲目もあるかもだけど結構綺麗な子だし、悪くはないと思ってるな。けど、凛は今日はえらくぶりっ子だねえ。私に気を遣ってるんだろうなあ。ありがとうね。
なーんて、まあ、そんな感じでその日の顔合わせが上手くいってホッとした。マンションに帰ってから涼介さんがどうだったか凛に一応確認したら「付き合ってもいい」のびっくり発言だったのだ。
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