第33話 孤高の闘志
アルヴァン達がオウタイ王国にたどり着くと、既に合成兵によって襲われていた。
そこには190cmはあるかと思われるベリオンと名乗る男がいた。
戦う前から圧倒的な圧を受け、今までに出会った敵とは比べ物にならないと感じさせる。
覚悟を試された状況下でアルヴァン達は武器を構える。
**************
合成兵ベリオン。
190cmを超える巨体は強力な圧を放っている。
巨体に似合わず素早い動きでアルヴァンに接近し、大きく繰り出される拳。
「(死体の状態から見て...)」
剣でガードしようかと一瞬迷よったが、何か嫌な予感を感じ横に避けた。
ベリオンの拳は民家へと命中し、なんと一撃で民家に大きな穴を開けた。
3人は思わず固まる。
民家の壁は柔らかくはない。
一般人が殴ったとしてもヒビすら入らないだろう。
ベリオンは笑いながらアルヴァンに対して言った。
「判断力はあるみたいだな。馬鹿は剣ごと散っていったぜ」
「(やはり...。クロル同様攻撃を受けたらまずいな)」
相手はこちらが考えていたよりも強敵かもしれない。
アルヴァンは急いで二人の元へと下がる。
「二人とも、当たれば終わりだからな」
ベリオンはこちらに背を向けている。
こんなわかりやすい罠には引っかからない。
1分ほど間が開くとベリオンは再び笑った。
「よかったぜ。お前ら全員馬鹿じゃなくてな。さて、品定めも失礼だよなあ。始めようか」
3人は再び武器を強く握りしめた。
同時にベリオンが勢いよく突進し、大きな拳を繰り出す。
3人は3方向に別れベリオンを囲む。
ナズナが剣で攻撃するが、あっさり避けられる。
「(大きさに似合わず速い!)」
すぐに反撃の拳が襲いかかる。
素早く後ろに下がったため当たりはしなかったが、目の前を横切る拳の圧はすさまじい。
援護しようとガウディアとアルヴァンが左右から襲い掛かる。
有効なのは数と武器による射程か。
そんな状態でもベリオンは怯むどころかむしろ喜んでいる。
「はははは。いい勢いだ!」
ベリオンは大きく後ろに跳び退き、二人の攻撃をかわす。
さらに壁を蹴りそのまま二人にラリアットを放った。
「あぶなっ!」
なんとかしゃがみ込み、避けることには成功した。
すぐに攻撃を試みたが勢いよく腕を振り回され迂闊に近づけない。
相手は常に冷静で隙と言えるものがまるで感じない。
「結構期待してるぞ。クロルもダリアも弱くはなかったからな。あいつらに勝つんだから強くなきゃこっちが困るんだ。だから楽しませてくれよ!」
ベリオンが二人に向かって歩き始めた瞬間、ベリオンの背後からナズナが短剣を投げた。短剣は拳によって叩き落され、ナズナに視線がいった。
するとガウディア達が走り出し、裏路地から脱出する。
ナズナもベリオンが破壊した民家の壁を使い中に入る。
「(ここじゃ戦いにくいから移動したか。まー、このままここで暴れたいとは俺も思わない。もともと逃げるのを待ってたしな。おもしれえ、楽しませろよ)」
アルヴァンとガウディアの元に少し遅れてナズナが合流する。
とりあえず見渡しの良い広場へとやってくると既に人はまるで見つからない。
「よし、ここなら辺りも見やすい。邪魔なものもほとんどないし、さっきよりは動ける...」
やや遠くの崩れた民家の近くで座り込んでいる人間がいるが、ここなら戦っても問題ない。
3人は背中合わせになり周囲に警戒する。
「あいつは必ず俺達を追いかけてくる。それより、あいつの能力わかったか?」
クロルとダリアはそれぞれ妙な能力を持っていた。
一般的には考えられないその力はベリオンにもあるはずだ。
「あの力がそうじゃないのか? いくらなんでも怪物すぎる」
「なんだか、昔を思い出すね」
「昔? いつの話だよ」
「ほらー、昔ハイオークと戦ったでしょ」
「あー。そういえばいたな」
「お前こんな時に...」
3人の頭の中にハイオークのブファロとの戦いが蘇る。
ブファロと比べ動きは素早いものの、大きさや一撃の重さは似ている。
「昔って言えるほど時間たってねえだろ。それにオークのような戦い方じゃ、速攻でやられるぞ」
そんな会話をしていると道からゆっくりとベリオンが歩いてくる。
表情は先ほどと同じく笑っている。
「能力がわからない以上変に狙えねえな。...でも、やるしかねえか」
「いくら相手が強い相手だろうと、数を活かせば同格に持ち込める。ただ、無理だけはするなよ」
べリオンが約30mほどの距離まで接近してくきた。
いつでも動けるように準備していると、べリオンの足が止まる。
「今日は地味な相手ばかりだったからな。正直、今日出会う相手には期待してなかった。1人殺せば他の連中は武器を捨て逃げるし、反撃してきた連中もあっさり死んだ。お前達のように俺の攻撃を避けた人間は非常に少ない。....まあ、俺はまだ本気出してないけどな。よし、行くぜ!」
話し終えると猛スピードでこちらに突進してくる。
アルヴァンが地面の砂を蹴り上げると同時にナズナとガウディアが左右に別れる。
前方は砂で隠れ、横に移動した二人。
ベリオンの斜め後ろまで移動したナズナが地面を蹴りベリオンへと接近する。
すると、砂で隠れた前方からアルヴァンが飛び出し、突きを放った。
「(どれも読めてるぜ。次は斧を持った奴が)」
二人の攻撃を避けると、予想通りガウディアが斧を大きく振りかぶって現れる。
素早い動きで斧を避け、拳を放つ。
ガウディアは斧から手を離し後ろに下がる。
一発でも受けるわけにはいかないためか、下手に踏み込むことは許されない。
「ぜえええりゃあー!」
大きな叫びと共にアルヴァンが接近する。
迎え撃とうとベリオンが向きを変えたとき、ナズナが懐に飛び込もうと動いた。
「動きがバレバレなんだよ!」
ベリオンは回し蹴りで二人を立ち止まらせる。
やはり簡単には攻撃させてくれない。
すぐにベリオンはナズナに襲い掛かった。
「(動きは早いけど、落ち着けば交わせる...)」
重たい強烈な一撃が来たが、ナズナは素早く横に移動した。
だが、避けた直後腹に強烈な痛みが襲いかかる。
ナズナの腹に短剣が刺さっている。
「さっきお前が投げただろ。接近だけだと思って油断したな」
叫びたいほど痛みに襲われるも急いでベリオンから離れようとする。
「逃がすかよ」
そこへアルヴァンとガウディアが同時攻撃を仕掛ける。
ベリオンは返り討ちにしようと腕を振り回そうとしたが、ナズナが自分に刺さっている短剣を引き抜きべリオンに投げた。
想定外の攻撃にベリオンは怯み、短剣は当たりはしなかったが態勢は崩れた。
そこに二人の攻撃が叩き込まれる。
避けようにも間に合わず、軽いダメージを負う。
ようやく初めて攻撃が入った。
「くそ、俺達がもう少し早ければ...」
二人はナズナに駆け寄り回復薬を渡す。
「あの時投げてくれてありがとな。とにかく攻撃しまくって疲れさせようと考えてたからよ」
「ナズナ、動けるか?」
「う、うん。平気」
若干痛みは残ってはいるが、問題はない。
ナズナは剣を構える。
「...俺も油断したな。お前たちを甘く見ていた。まさか、投げ返してくるとは。いや、俺の力を知っておきながら怯むことなく何度も向かってくるその覚悟、評価してやる」
空気の流れが変わったように感じる。
「見せてやる。俺の力をな」
べリオンが全身に力を込める。
すると、徐々に体が巨大化していく。
ベリオンは身長10mほどにまで膨れ上がった。
ベリオンの能力についていくつか予想はしていたものの、それをはるかに超える姿に3人は思わず立ちすくんだ。
「お前たちの覚悟に敬意を表し、俺も全力で行くぞ。それが俺の戦いに対する礼儀だ。うおおおおお!」
すぐに悟った。
これがベリオンの能力であることに。
そして、同時に嫌な予感が来る。
「まずい、みんな逃げろ!」
アルヴァンとガウディアが急いで距離をとる。
「あ...あ..」
しかし、ナズナはベリオンの姿に怯え体が動かない。
「これで終わりだ!」
ベリオンは拳を勢いよく地面に向かって振り下ろした。
「ナズナ!」
アルヴァンとガウディアがナズナの前に立つ。
ベリオンの拳が地面に叩きつけられると、大きな爆音と共に強烈な衝撃波が巻き起こる。
3人は吹き飛ばされ、民家に壁に激突する。
しかし、それだけでは終わらなかった。
衝撃波によって飛ばされた瓦礫が3人に襲い掛かる。
硬い瓦礫が砲弾のようにぶつかり、槍のごとく突き刺さる。
衝撃波が治まると、アルヴァンとガウディアは血を流し倒れた。
「あ...みんな」
ベリオンの体が縮み、元に戻る。
「やっぱり加減ができないな。二人は重症か」
ナズナは急いで回復薬を使おうと鞄から取り出すも、ベリオンは素早く接近し蹴り飛ばした。
「い...つあ」
「今度は加減しすぎたか。骨を折るつもりだったんだがな。まー、すぐには動けないだろ」
痛みで動けないナズナの足を掴み、アルヴァンとガウディアのいる方へと投げた。
瓦礫にぶつかり、全身を痛みが襲った。
3人は戦える状態ではない。
アルヴァンが力を振り絞り、自身の回復薬を使おうとしたがベリオンが近づき取り上げる。
「回復薬って便利だよな。大きな傷を負っても使えば治すことができる。便利な反面、『回復薬があるから大丈夫』っていう頼りすぎてしまうところがある。それじゃあ成長速度が悪くなる。こんなもの...あっていいはずがない」
ベリオンは3人の荷物から回復薬を全て奪い、少し離れると全て地面に投げつけ割った。この危険な状況を抜け出せる唯一の手段が消えた。
「その傷じゃあ、そう長くはもたずに死ぬな。少しは楽しめた、じゃーな」
ベリオンは静かにその場から去って行った。
アルヴァンとガウディアは必死に動こうとしたが、やがて視界が暗くなり気を失った。
残されたナズナも痛みによって動けずにいた。
今できることはただ泣くことだった。
冒険者として生きるなら死ぬことにからは逃げられない。
どんな達人だろうといつか死がやってくる。
普段は考えたことがなかったが、ついに自分たちにもその時が訪れた。
「アルヴァン、ガウディア....ねえ」
僅かだが二人の呼吸を感じる。
まだ助かる道はある。
「誰か....助けて..」
そんなナズナの腹から血が流れる。
あの時回復薬を使ったが、完全に治ってはいなかったためか傷が開いたのだろう。
ナズナも死を実感する。
「.....」
やがてナズナも気を失う。
************
同時刻、アルヴァン達から少し離れた場所でスヤキが3人を探していた。
「確か、先ほどの大きな音はこっちから...っ!」
前からベリオンが歩いてくる。
スヤキは咄嗟に物陰に隠れた。
「(確かアルヴァン達が戦っているはずじゃ...どうして。まさか...)」
ベリオンが通りすぎ、遠くまで移動するのを確認するとスヤキはベリオンがやってきた方向へと急いで向かった。
頭の中に嫌なことが思い浮かび焦らせる。
周囲が爆撃にでもあったかのように悲惨なことになっていた。
「アルヴァン、ガウディアどこですか! ナズナ、いるなら返事をしてください!」
だが、無音な世界が広がる。
スヤキは必死に辺りを探し回る。
「....あ」
ようやく見つけた3人を見て、時が止まった。
「嘘ですよね」
*******************
アルヴァンが目を覚ますと緑豊かな草原の上で眠っていた。
どこかで見たことのある光景。
「ここってまさか....」
『よう、久しぶりじゃのう』
聞き覚えのある声が聞こえ、声の聞こえる方を向くとそこには黒く長い髪の少女が空中に浮きこちらを眺めていた。
『久ぶりとまではいかんか。まーどちらにせよ、またわしとお前は会えた。それは変わらんな』
アルヴァンの周りを飛び回り、無邪気に笑っている。
『忘れたのか?』
「いや、覚えている...」
彼女はリセフテューネ。
大空の大陸に住む守護神だ。
『なんじゃ、覚えておるならもっと明るく対応してくれ。寂しいじゃろ!』
「....」
アルヴァンはふと体を見た。
不思議なことにベリオンとの戦いで受けた傷がない。
体も動く。痛みはない。
「どうなってる...確か俺は。リセフテューネ、お前が治してくれたのか?」
『んー。治したというよりもそうじゃなああ。説明が難しいしそれでいいかのう』
何やら隠している雰囲気を漂わせ、ニコニコしながらアルヴァンの目の前に食事を出現させる。
温かいスープとパンだ。
『さー、食べてみろ』
言われた通りに食べる。見た目に反して足がまるで感じられない。
「...」
『やはり形は生み出せても味の調節はできんか。まー、腹が満たせると思えば何でも美味くなる。ムハハハ!』
「リセフテューネ」
『なんじゃ?』
「俺はどうしてここにいる」
そう問いかけた瞬間、リセフテューネの表情が変わる。ふざけた様子から神らしい真面目な顔になった。
『そうじゃな。しっかり言った方がいいか』
リセフテューネは地面に降り、アルヴァンの前まで歩いた。
その緊張感にアルヴァンは唾を飲む。
『アルヴァンよ。お主は死んだ』
「...は?」
リセフテューネの口から出た死んだという単語がアルヴァンには理解できなかった。
「死んだってどういう意味だ...」
『そのままじゃよ。お主もわかっているじゃろ?』
その時、不思議に思っていたこの状況が少しずつ理解できた。
べリオンの攻撃により重傷を負い、回復薬を割られ絶望的な状況に追い込まれた。
その後気を失った...。
『お主は死んだ。だからここに来た。本来死者は死者の世界に行くがお主は特別じゃからのー。わしの所へ連れてきたんじゃよ』
アルヴァンは周囲を見回す。
周辺にはガウディアたちの姿がない。
『お主の仲間は無事じゃ。お主だけ間に合わなかった』
「....」
死んだことにようやく理解出来た。
自分は死んだ。
「リセフテューネ」
『だめじゃ』
アルヴァンの言いたいことはわかっている。
自分を生き返らせてと言うつもりだと知っていた。
『忘れたか? この世界で死ねばお主は終わりじゃ。元の世界に戻れるまではここに』
「そんな...頼む、1度だけ1度だけでいい!」
リセフテューネは静かに首を振った。
その気持ちは揺らぐこともない。
「仲間は..仲間はどうなる」
『他の二人はなんとか助かったな。その後は...』
リセフテューネはふと言うのをやめた。
その沈黙がアルヴァンの不安を煽る。
『聞く覚悟はあるか?』
「どういうことだ!」
『お主の仲間も近いうちに死ぬ。悲惨な死に方をしてな』
「...そんな」
全身の力が抜け、目からは涙が溢れ出した。
考えたくもない世界が容易に頭に思い浮かんだ。
『お主の仲間はお主の復讐のために戦って死ぬ。ガウディアとナズナはべリオンという男に叩き潰され、スヤキは全身を串刺しにされる。なんならその運命を見せてやろうか?』
リセフテューネが指を振るとアルヴァンの目の前に鏡が出現する。
恐る恐る覗き込むと、鏡にはリセフテューネの言う通りの光景が広がる。
アルヴァンはすぐに目を逸らした。
「こんなの嘘だ!」
『わしは人の運命を見ることが出来る。その者がどう生き、どう死ぬかまでを詳細にな。嘘だと思うなら別に構わん』
「嘘だ...嘘だ」
普段なら冗談ととらえるかもしれない。
だが、こんな状況ではどう考えても真実に変わりはない。
アルヴァンは泣崩れる。
自身の弱さを嘆き、何度も地面を叩いた。
『まだ話は終わっとらん。ここからが本題じゃ。アルヴァン、もし生き返れるとしたらどうする?』
「...え?」
『お主には選択するチャンスをやろう』
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