第32話 覚悟の審判

アルヴァンとナズナは戦いの末、ダリアに勝利する。

死が近づく中、ダリアは自身の暗く絶望した過去を思い出す。

必死な思いでシャイン村までたどり着くと、ダリアはそのまま息を引き取った。

ガウディア達と合流し、助けた男からは残りの3人はオウタイ王国に向かったと思われる情報を手にし、オウタイ王国を目指す。


*****************

朝、オウタイ王国にて。

ある一軒の民家の扉を誰かが叩いた。

「はーい」

女が扉を開けるとそこには一人の少女が立っていた。

けだるげな表情に冷たい目つきでこちらを見つめ、無言で立っていた。

「どちらさま..ですか?」

女の質問に少女は答えることもなく、ただじっと立ち続けた。

お互いに無言のままきまずい空気が続き、女が扉を閉めようとした時ようやく少女は口を開いた。

「フェインさんですか?」

突如自身の名を言われ、驚きと共に頷く。

すると少女は少し嬉しそうに笑った。

同時に民家の奥から一人の子供がやってくる。

「ママー、その子誰?」

少女は子供に視線を合わせ、笑顔で言った。

「リンファちゃん?」

「うん! 私リンファだよ」

子供が笑顔でそう言い頷くと少女はニッコリと強く笑った。

不審に思うも何の変哲もないどこにでもいる少女だが、ふと少女の手に視線がいった。

細い手に剣が握りしめられている。

おもちゃではない本物で一部には赤い血らしきものが付着していた。

「え...え」

少女の顔は変わらずニコニコしていた。

「よかったー。私レイアって言うの。ずっと探してたんだよ。...死んで」

笑顔で言い放ったその言葉にはとてつもない殺意を感じる。

理由はわからないが、この少女は自分を殺そうとしている。

「お、お金ですか」

「強盗じゃないよ。言ったでしょ。探してたって...」

レイアは笑顔で女の左腕を斬り落とした。

時が止まったかのように女と子供は静止している。

何が起こっているのかわからない。

しかし、ゆっくりと自身の傷口を見ると強烈な痛みが襲った。

「理解しない人は嫌い」

痛みによる悲鳴を上げる前にレイアにより切り刻まれた。

目の前で母親が切り刻まれている中、娘はじっと固まっていた。

「貴方も同罪」

「マ」

容赦のない一撃が子供の胸に刺さる。

早朝の一軒の民家で静かに二人の人間が死んだ。

レイアはその場を静かに去り、民家から出る前に一度振り返る。

「仕方ないよね。あなた達が悪いんだから」

レイアが民家から出ると、1人の男が壁にもたれながら待っていた。

190cmはあるかと言う巨体の男だ。

剣についた血を見ると、男は唾を吐いた。

「嫌な趣味してやがる。わざわざ惨いことしやがって」

「趣味じゃないよ。単純にむかついたの」

「面識ないように見えたが? なんだ、嫌がらせでもされたのか?」

「ない。会ったのも今日が初めて」

「意味わからん。...そういえば、クロルとダリアはまだか?」

レイアは男の隣に移動すると、その場で座り込んだ。

「知らない。私あの二人嫌い」

「嫌い? 仲良かっただろ」

「過去の記憶思い出せないの。でも、大っ嫌い」

「確かこの前無抵抗な人間を解体してたな。狂ってやがる。そういえば、この国もあの二人が襲撃したんだよな」

数日前、オウタイ王国にはクロルとダリアが現れ襲撃した。

そのせいか住民は減り、国の空気は悪くなっている。

「あーあ。俺が行きたかったな」

男は目を輝かせて言っており、レイアは少し引いている。

「戦い好きだね」

「だって大勢の兵士がいたんだろ。そいつらに囲まれて大暴れしたいぜ。あーあ」

男はため息をつきながら道を歩き出す。

レイアも後ろをついていくが、1mほど距離を開けている。

「クロルとダリアはいつくるんだよ」

「知らない。私大っ嫌いだし」

「考えるだけ無駄か。まー、お前のやりたいことが終わったなら次は俺の番だ。適当に斬りつけて回ってくれ」

「誰でもいいの?」

「騒ぎを起こしたいだけだ。10人ほどやったらアイツの所にでも行ってればいい」

すると前から冒険者と思われる男女が6人歩いてくる。

「あいつらは俺がやる。お前は先に行け」

「はーい」

少女は男女の横を駆け抜ける。

男女のうちの一人が少女に対して違和感を感じていたが、目の前に仁王立ちして立っている男に意識が持っていかれる。

「よー、お前ら冒険者だよな。日々魔物と戦い生きてるんだろ? 俺と戦えよ」


***************


その頃、アルヴァン達はアカリ山を移動していた。

オウタイ王国に行くにはアカリ山を抜けなければならない。

昔は険しい場所だったアカリ山も今でも庭感覚で通り抜けることができるほど成長していた。

「もうだめ。休憩しようよ」

シャイン村を出てからほとんど休みなしで走り続けているためか、食事もまともにとっていない。疲労が溜まっていく中でついにナズナが限界を迎えた。

「しっかりしろよ。あと3時間もしないうちにオウタイ王国だぜ」

「3時間も歩きたくない」

「寝言言うな」

「絶対嫌」

ナズナは地面に倒れ全身で抗議をしている。

こうなったナズナは誰だろうと動かすことはできない。

「仕方ねえな。アルヴァン、スヤキ、悪いがここで10分ほど休憩するぞ」

ガウディアは荷物を下ろし、その辺の岩に腰を下ろす。

「お前20超えてるなら根性だせって」

「無茶言わないでよ。戦い続きで満足に休めてないんだよ」

ナズナの言う通り確かに自分たちは昨日から激しい戦いの連続だ。

しっかりとした休息も取れず、ずっと移動を続けている。

しかし、今は一刻でも早くオウタイ王国に行かなければならず、弱音なんて吐いている状況じゃない。

ガウディアとナズナが休んでいる間、アルヴァンとスヤキは地図を眺め話し合っていた。

「恐らく合成兵はオウタイ王国に着いてるだろうな。そもそもの目的はなんだ?」

「人への復讐とは考えにくいですね。ライウン王国への被害が少ない状況を見ると目的は別にありそうですが」

「うーん。何か他に目的か...。ダリアとクロルに聞き出しておけば良かったな」

「そうですね。休んでる時間も惜しいです。私たちだけでも先に行きませんか?」

「そうしたいが....」

急がなければいけないのは十分承知している。

しかし、もし別れた状態で襲われれば危険だ。

加えて相手の力量がわからないこの状況では勝てる可能性なんてわからない。

「なるべく団体行動を心掛けたほうがいい。ここから先はいつ襲われるかわからない。....それよりお腹減ったな」

ここまで来るのに見つけた木の実を口にしたが腹の足しにはならなかった。

贅沢だがどこか店で美味しい肉などが食べたい。

「貴方まで何言ってるんですか。...わからないことはありませんが」

その後、休憩が終わりナズナは投げていたがスヤキに睨まれ抵抗むなしく進むことになった。

「なんだがスヤキ厳しいよ」

「ありゃ将来旦那を尻に引くタイプだな」

「なんだか私のお母さんに似てる。私がちょっとおふざけしたらすごい怖い顔するよ。イノシシくらい」

「(イノシシってなんだ。魔物か?)」

ガウディアはとりあえず笑った。


それから二時間ほど経ち、遠くにオウタイ王国が見えるほどまで進んだ。

4人は立ち止まり遠くから様子を窺うと、正確には見えないが建物がいくつか壊れているように見える。

「確か1回襲撃されたんだよね」

「シェザルが言ってたな。結構死人出たらしい」

「嫌な世の中ですね」

「油断すんなよ。どこに敵がいるかわからないぞ」

周りに警戒しながらゆっくりと歩き始める。

空や地中にも注意しながらいつでも戦えるように武器を構えて進み、入り口の前に来た。

しかし、門は閉まっていた。

「一度襲われてるから門は閉じたままか。どうやって入るかだが....」

そんなことを考えていると、突如門が開き、中から大勢の人間達が飛び出してきた。

「もうこの国は終わりだー!」

「助けてくれー!」

皆何かから逃げているようで中には負傷した者も見える。

「既に何か起こってたか!」

アルヴァンが走り出した。

「おい、待てよ。今行くのは危険だ!」

ガウディアが止めようとするもアルヴァンは聞かず、そのまま人込みをかき分け中に入る。

「全く。...とにかく俺達も行くぞ」

アルヴァンが中に入ると、既に大勢の人間が出ようとしており騒がしい。

建物もいくつか崩れており、大事になっている。

「おい、何があった!」

アルヴァンは崩れた建物の陰で震えていた男に話しかける。

「い、いきなり変な男が...」

男は叫び声を上げその場で蹲る。

よっぽど恐ろしいことがあったに違いない。

「男一人にそんな大騒ぎすることか?」

「あんた知らねえのか!? 数日前にもオウタイ王国は魔物の大群に襲われたんだ! 更に前は殺人鬼が出たそうじゃないか。こんな恐ろしいところ逃げるに決まってるだろ!」

「その変な男はどこだ!」

男は震え、アルヴァンの質問に耳を貸さない。

こうなれば自分で見つけるしかない。

国の中は人々の逃げ惑う声でいっぱいだ。

「(入口に人は集まってるが合成兵の姿がないな。やはり目的は人をただ殺すだけじゃない。この国に何かあるな)」

「おい、勝手に行くなよ」

ガウディアがアルヴァンの手を掴み止める。

「ガウディア、恐らくこの国に何かある」

「何かってなんだよ」

「わからないがきっとある!」

ガウディアの手を振り払いアルヴァンは国の奥へと進んだ。

「だから先に行くなって。お前ら、アルヴァン追いかけるぞ」

奥へ進むほど人は少なくなっており、地面には血を流し死んでいる者を見かけるようになってきた。

死んでいる者は兵士や冒険者がほとんどだが、数人住民も混じっている。

「(住民は無差別に襲われたか。冒険者は抵抗して返り討ちにあったか。)」

住民には剣で斬られた跡が見え、レイアの仕業に見える。

しかし、兵士や冒険者は硬いもので殴られたあとがある。

鎧や武器が砕かれている様子からクロルと似た相手か。

「はあ、はあ。アルヴァン、待ってよ...」

ナズナは後ろからしがみつき、アルヴァンを捕まえる。

「やっと追いついた。少しは待てよ」

「悪い悪い。それより見てくれ。この兵士は剣で斬られるより殴られた跡がある。それもかなりの力だ」

「こりゃやばいな。鈍器か?」

ガウディアがそう聞くと、どこからか声が聞こえる。

「いや、素手だ。そいつらは俺が殺した」

答えたのはアルヴァンでもスヤキでもナズナでもない。

道の先からゆっくりと身長190cmはあると思われる1人の大きな男が歩いてくる。

だが、こちらに向かう最中男の左右から剣を持った二人の男女が現れる。

「こいつだ!」

「よくも私の仲間を」

二人は真剣な眼差しで睨んだが、男は笑っている。

「やっぱり適当に暴れ回った方が次から次へと現れてくれるな。お前たちは強いか?」

男の問いに二人は答えることもなく同時に斬りかかった。

「はあ。質問くらい答えようぜ」

右から来た男を蹴り飛ばし、女の剣は手で止め取り上げる。

「まあ、実力はあるな。でも、今までに戦った中では弱いな」

「ば、化け物め...くそっ!」

女は背を向け男から逃げ出した。

「おい、勝負捨てて逃げる気か? あの男も仲間なんだろ? 弱いのは心もか」

男は逃げた女を追いかけ始める。

アルヴァン達は先に蹴り飛ばされた男の元へと駆けつける。

民家の壁に激突していたが、まだ生きていた。

「スヤキ、治してやってくれ。2人とも行くぞ」

スヤキを除く三人は男を追いかけ始めた。

スヤキは治療している間、あの男のことについて聞いた。

「なんだか騒がしいから広場に行ったらあの男とその周辺に10人ほどの兵士が倒れていた....そして、『強い奴かかってこい』言いながら近くにいた人間を襲い始めたんだ...。俺の仲間は住民を守るために....」

「あの男以外に誰かいましたか?」

「ああ。見てはないが小さな女の子が斬りまわってるって聞い...」

男は気を失った。

スヤキは男の傷をある程度治し、民家の中に入れる。

「多少動けるくらいまで治しておきました。完治させたほうがいいですが、なるべく力は戦いに温存したいので」

民家を出ると、スヤキはすぐに気づいた。

追いかけるのはいいが、どこに行ったかわからない....。

「ええっと...こっち。いや、あっち」


****************

男から逃げる女性は路地裏に追い詰められた。

「く、来るなこの怪物め!」

「怪物? そりゃ随分と冷たいな。何を言っても自由だが見逃すつもりはない」

男は女に剣を放り投げる。

「さー、武器を拾え。このまま殺しても面白くない」

「い、いやああ! 誰か助けてー!」

女が叫び声を上げると、男は怒り狂い接近して掴み上げる。

「ふざけるなよ。いいか、よーく聞け。戦いってのはな、覚悟が必要なんだ。命を懸けて戦う覚悟がな。だというのに、お前はその覚悟がない。『お前は殺すけど私は殺すな』とでも言いたいのか、あぁ!?」

「その女を離せ!」

そこへアルヴァン達3人が駆けつける。

男は振り返り、女を離した。

「かっこいい登場の仕方だが、お前たちは覚悟があるか?」

アルヴァンとガウディアは武器を構え答えた。

ナズナも少し遅れて構える。

「お前、合成兵だな」

「合成兵? あー、確かにそんな呼ばれ方をしていたな。お前あの国の兵士か?」

「目的はなんだ。復讐ならやめろ。お前達が恨む連中は既に死んでる。その女も、この国の人間も無関係だ!」

アルヴァンの言葉に男はまともに耳を貸さず、腕を回したりと準備運動をしている。

女が巻き込まれれば危険なため迂闊に動けない。

「服装から見たところ兵士なわけないか。...なのに合成兵を知ってるのか。そういえば、クロルとダリアがまだ来ないのも変だ。まさか、お前らが?」

男はアルヴァン達の目を見ると嬉しそうに笑った。

「あいつら負けたのか。へへへ、嬉しいな」

仲間を殺されたことに対し怒るのかと思っていたが、男はむしろ嬉しそうにしている。怒りは感じられず、本当に心の底から喜んでいる。

「あいつらを倒したってことはよー、強いってことだろ? へへへ、俺の名前はベリオン。覚悟はできてるな。3人まとめてかかってこいよ!」

ベリオンは女の腕をつかみ、民家の屋根の上に放り投げた。

「あいつが邪魔だったんだろ。これでいいよな!」

2mはあるかもしれぬほど強靭な肉体はとてつもないほどの圧を放った。

恐ろしいことにベリオンは素手で戦うつもりだ。

「(こいつ、今まで出会った相手とは比べ物にならない。見ただけですぐにわかるくらい強い)」

アルヴァンだけじゃない。ナズナもガウディアもわかっていた。

簡単に勝てる相手じゃない。

「いい目をしている。期待してるぜ」

ベリオンは大きな巨体で襲い掛かった。

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