第30話 殺意を砕く者:その2

合成兵を追うために手がかりを探すために、アルヴァンが昼頃レイアが現れた家を探索していると一冊のある研究者の日記を見つけた。

読み進めていると事態は動き、合成兵を追いかけた者たちが返り討ちに合い戻ってきて、数名攫われたことを知る。

合成兵たちが向かった先はシャイン村のようで、そこへ着くと村の外から声が聞こえる。そこには、ダリアとクロルがいた。

覚悟を決めたアルヴァン達は戦闘を開始する。


**************

暗く虫の鳴き声がよく聞こえるほど静かな森の中。

そんな森に小さな爆発音が響き渡る。

クロルはスヤキの魔法を受け、後方へと吹き飛ばされた。

「(熱い。まるで内側から焼かれたように熱い)」

態勢を立て直し、前方を確認すると既にスヤキとガウディアは迫ってきていた。

「魔法あんまり効いてないな」

「引き離せればそれで充分です。怪我を負ったら自分でなんとかしてくださいね」

「わかってるっつうの。お前も攻撃外すなよ」

他に誰の気配もないことからクロルはすぐに察し、姿勢を低くする。

「(引き離されたのか。...まあいい、すぐに片付けて残りの二人も殺してやる)」

勢いよく地面蹴り、獣のように爪を構えながら二人に突進した。

二人は容易に回避したものの、クロルはそのまま茂みの中に消えた。

「くそ、夜じゃ視界がわるいな」

茂みの中を高速に動き回り、油断したところを飛び出し確実に仕留めにやってくる。

二人は背中をくっつけ、少しでも死角を減らす。

「そんなことしたって無駄だ」

獣のごとく動き回り、木の上に登ったりと視界の悪い夜では厄介な動きだ。加えて自分たちは月明かりによって姿を晒されている。

その時、クロルが茂みから飛び出しガウディアに襲った。

相手は圧倒的な硬さを利用し避けようともしない。

だが、それはガウディアも同じだ。

「考えが甘いな」

ガウディアは斧を捨てその場にしゃがみ、クロルが頭上を通過すると足を掴んだ。

「正面で勝てないことくらいわかってるぜ!」

そのままクロルを振り回し、木に投げつける。

そこへスヤキが火の玉を投げつけ、追撃を打った。

爆音とともに近くの茂みに隠れる。

そのまま呼吸を整えようとした時、頭上からクロルが迫ってきた。

「俺は耳や鼻が利くんだ! 隠れたってすぐわかるぜ」

二人が左右に避けると、クロルはスヤキの方へと向かっていった。

「俺の両親をバカにしやがって! 生きたままバラバラにして」

素早い動きでスヤキの首を掴み、地面に押さえつけるともう片方の腕を前に突き出す。そこへガウディアが斧を勢いよく振りクロルに当てた。

「俺を戦力外としてみやがったな。どうだ、今の一撃!」

ダメージをほとんど与えられていないが、魔法同様に遠くへと吹っ飛ばすことができた。

「ありがとうございます」

「あいつ、攻撃を防ぐのが苦手みたいだ。それよりもっと戦いやすい場所を探すぞ」

そのまま森を抜けようと走り出した直後、背後から迫ってくる音が聞こえる。

木の上を高速で飛び回り、二人の目では追いつけない。

一瞬で接近され、横に動いたもののガウディアは肩にダメージを受けた。

クロルは暗闇の中に消える。

「お前たちは俺に敵わないんだ。俺は無敵だ。絶対に負けない」

相手も学習をしたようで、すぐには攻めてこずに暗闇の中でじっとしている。

「(やっぱり強敵だな。長引いて学習されるとどうしようもなくなる)」

一度は掴むことができたが同じチャンスは二度と訪れることはないだろう。

今は有利に戦える場所を探し、森の中を走り回る。

すると遠くに大きな洞窟が見えた。

「あれは...」

「迷ってる暇はありません。すぐに入りますよ」

スヤキが洞窟内部に向かって火の玉を放った。

火の玉は明かりとなりながら洞窟内部を照らし進んで行く。

魔物はいないようだ。

「逃がすかよ!」

洞窟まであと少しと言うところでクロルが目の前に現れ、突進してくる。

しかし、二人は横に動かなかった。

読み合いに負け、クロルは無意味に横に移動してしまった。

二人はそのまま洞窟の中へと逃げる。

「.....」

このまま追うよりもダリアの所へ行き他の二人を始末する方が確実性はある。

しかし、スヤキの言い放った両親をバカにする態度に苛立ちを覚え、足が言うことを聞かない。

すると、洞窟内部からガウディアの声が聞こえる。

「来いよ、意気地なし。威張っても勝たなきゃ雑魚だぜ」

「俺は雑魚じゃない! ぶっ殺してやる。絶対にぶっ殺してやる」

クロルは雄たけびを上げながら全速力で洞窟の中に入り負い始めた。

「あいつ煽りに弱いよな」

「そうですね。ただ、最低限にしてくださいよ? やりすぎると無視されてしまいます」

「了解。ここからはこっちの番だ」

ここは洞窟。

森のように死角ばかりの場所ではない。

足元が少し危ないが、クロルと戦うなら森よりも安全だ。

後ろからすごいスピードでこちらに接近している。

「ファイアーボール!」

追ってくるクロルの顔めがけて火の玉を放つ。

クロルは避けずに腕を前に出し、衝撃から身を守る。

熱さなど我慢できる痛みだ。

だが、読みは甘かった。

「ぜええやあ!」

煙を抜けた先には既に斧を勢いよく振ったガウディアがいた。

咄嗟にガードしたものの、重たい一撃を前に大きく態勢が崩れる。

そこにスヤキが背後に回り大きな火球をぶつけた。

今度はかなり効いたようで、洞窟内部を転がりまわり壁に激突する。

「あ...あ」

クロルはよろけながら立ち上がる。

「お前は初めて戦う相手に強さを発揮する。普通に子供がガチガチな硬さを持ってるんなんて思わないからな」

「それを知ってる私たちは貴方のとる行動が容易に把握できます。さて、私のファイアーボールをあと何発耐えますか?」

「...黙れ」

クロルは硬い手を活かし、地面を掘り無数の小石を集める。

その数30と言ったところか。

それを一斉に二人に向かって投げつけ、当時に接近した。

「ガウディア、後ろに離れてください。私の力見せてあげます」

「...そうか、わかった」

スヤキは手に力を集中させる。

「石なんて意味を成しません。ファイアー!」

言葉と同時に両手から火炎が放射される。

石の勢いを止め、同時に突進してきたクロルを包み込み焼いた。

「うわああ!」

どれだけ硬い肉体でも魔法を完全に無力化はできないようだ。

「お前すげえな」

「ファイアーボールができるならできると思ってやってみました」

「魔法ってすげえ。なんでもできるな」

「貴方が援護してくれたおかげです。私一人では秒殺です」

「二人ってのもあるが、あいつ考えが甘すぎる」

クロルは熱さで床に蹲っている。

疲労の溜まりはかなり早く、息も荒れている。

「あんなに動き回ったんだ。いくら人間よりスタミナあるからって暴れすぎたな」

だが、まだまだ戦いは終わっていない。

「俺は絶対に負けないー!!」

クロルはもぐらのごとく地面に潜り込んだ。

高速で地中を動き回る。

「執念ってやつか」

「避けてください!」

二人が飛び退いた瞬間そこからクロルが飛び出ると、そのまま天井を突き破り再び姿を消した。

もはや体力は残っていないかと思っていたが、甘かったか。

洞窟は自分たちだけが有利な状況にはならなかった。

天井や壁に足元と、あちこちからクロルが飛び出す。

何度も避け続けていると、気づけば辺り一帯は穴だらけになっている。

そして、動きが読まれているのか始めはかすりもしなかったが、徐々に攻撃が当たり始めた。

「お前たちはもう終わりだ」

すると、クロルは出口の岩を崩し完全に塞ぐ。

洞窟は暗闇に閉ざされた。

「(これじゃあ逃げ場が)」

場は静まり、クロルの気配が完全に消える。

有利な状況から大きくひっくり返され、かなりまずいことになっている。

「一撃さえいれればもう動けない。覚悟しろ」

声もどこから聞こえているのかまるでわからない。

明かりをつければすぐに襲われ、じっとしていても呼吸の音ですぐに見つかる。

「.....俺達の勝ちだな」

ガウディアは斧を構え、ゆっくりと歩き出した。

「何が復讐だ。無関係の人間に当たっておいて、弱者いたぶって強いだって?腰抜けじゃねえかよ!」

「...黙れ...黙れ。俺は強いんだ。負けない、この力は絶対に...絶対に...負けないんだー!!!」

突如ガウディアの目の前の穴からクロルが爪を前に出し襲い掛かった。

「覚悟なら俺のほうができてるぜー!」

ガウディアは素早く避けると同時に斧を振り回した。

「俺が前に歩いたから前に先回りしたな?洞窟の奥はまだ穴がない。掘る音も聞こえなんじゃ、出てくるところなんか予想できるんだよー!!」

隙だらけの背中に大きな一撃を叩き込む。

すると、クロルの背中に大きなヒビが入った。

「痛い...痛いー!」

それまでガウディアの攻撃はまるでダメージにならなかったが、ついにダメージを与えた。

「(度重なる攻撃でクロルの体が悲鳴を上げましたか...。なら、やることは1つ)」

スヤキは素早くクロルに向かって走り出し、背中に手を当てた。

「ま...やめて」

「ファイアー!」

クロルの背中のヒビから直接炎を流し込んだ。

体のあちこちに無数のヒビが入り、そこから炎があふれ出す。

クロルはぷるぷると震えており、なんとか立ち上がったもののその表情は苦痛に襲われていた。

「痛い。痛いよ」

腕や顔に足とあちこちにひびが入っている。

「やめて...助けて..ください」

戦う力なんて残っていない。

目からは涙を浮かべ、必死に訴え続けている。

「ごめんなさい。もう人は殺さないかな」

「その言葉、貴方はいくつ無視してきましたか」

「....」

「自分の胸に手を当てて考えなさい」

言われる通り、クロルは胸に手を当てた。

その時、頭の中に無数の声が聞こえた。

「やめて、助けて」

「いやー!」

「お父さん、お母さん」

「子供はやめて!」

「だ、だれかたすけてくれー!」

クロルの心を無数の鎖が締め付ける。

洞窟内部にクロルの叫びが響き渡る。

「くそおおおおおおおー!」

その間、ガウディアは出口を塞いでいる岩を取り除く。

「貴方の気持ちは痛いほどわかります。貴方やその家族...大勢の人間に酷いことをした人間を恨む気持ちはわかります。ですが...無関係な人間を殺すことには同情しません」

情けなんて最初からスヤキは持っていない。

クロルはゆっくりと出口に歩き始める。

「嫌だ。俺はもっと殺したい。負けたなんて嘘だ。もっともっと殺したい」

「諦めなさい」

「.....俺一人で死なない」

クロルは歯をむき出しにし、鋭い目つきでスヤキに飛び掛かる。

「お前だけはここで殺す!」

「そうですか」

スヤキは直径3mもの火球を作り出した。

その大きさからクロルは驚き、向きを変え出口へと逃げ出した。

「ガウディア、避けてくださいね」

ガウディアが洞窟の隅に移動すると、スヤキは出口へと逃げるクロルに投げつける。

体力の残っていないクロルにとって逃げることは不可能だった。

「あ...あぁ...ダ..ダ」

クロルの最後の表情は怒りではなく悲しみだった。

そして頭に思い浮かべた人物。

「ダリアーーーー!!」

火球は命中し、大きな爆発が起こった。

煙が消えると、そこにはクロルが倒れてた。

近寄ると、まだ息はあったようだが長くはない。

「ダ...ア...ダリ」

「恨むなら恨んでくれていい。お前は本当はいい人間なはずだ。悪いのはお前じゃない...」

「....」

「もう死んでますよ」

二人は洞窟を出る。

「なんだか、後味が悪い」

「同じく。ですが、誰かが止めないといけませんから」

「あいつ、最後は人間だったな」

「....そうですね。さて、アルヴァン達の援護に行きますよ」

「そうだな。行くか」

二人は気持ちを切り替え、二人の所へと急いだ。


***************


ガウディアとスヤキがクロルと戦い始めた直後、アルヴァンとナズナはダリアと戦っていた。

地面だけでなく、上や横からも来る根っこの数はライウン城とは比べ物にならない。

剣で斬り落としたりしているが、斬っても斬ってもきりがなく体力だけが減っていく。

その場に立ち止まることは自殺行為で、そんなことをすれば足元からくじ刺しにされる。

かと言って近づこうにも、ダリアの周辺は更に多くの植物で囲まれている。

隙を見つけ、二人同時に接近するも鞭のようにしなる太い根っこに薙ぎ払われてしまう。

「アルヴァン、どうしよう」

「攻撃だけでなく、防御も強力だな。想像以上に強敵だ」

油断していると、背後などの死角から先端がするどく尖った根っこが襲いかかってくる。暗い森の中ではいつものように見えず、一度の失敗ですぐに決着がついてしまう。

二人が移動を強いられている中、ダリアは広場の中心で立っており、根っこを操るだけだ。

二人は木の陰に隠れ、体を休める。

「どうするの?これじゃ近づけないよ」

「なんとかして接近しなきゃな。...待てよ、根っこの動き。よし、作戦を思い付いた」

アルヴァンはナズナに内容を伝える。

ナズナは静かに頷き、武器を強く握りしめる。

「よし、行くぞ」

その声と共に二人は左右から飛び出した。

「そこに隠れてたんだ」

当然根っこが分かれて襲い掛かってきたが、相手をせずにダリアを中心に円を描くように走りまわる。

別々に行動し、ダリアの注意を広げると根っこの動きが悪くなっている。

ダリアの能力の弱点として根っこを複雑に動かすにはしっかりと根っこを見ながら動かさないといけない。

しかし、別々に動かれると一人だけを見て狙うことはできない。

当然このことはダリアもわかっている。

ダリアは背中を太い根っこで壁を作り守りながら、自身の周辺に根っこを出し振り回す。これならば見なくても防御と攻撃を行える。

「その戦法をとってきた人間はたくさんいました。多少攻撃性能は落ちますが、支障はありません」

「それはどうかな」

アルヴァンが根っこの壁に向かって走りだし、短剣を刺した。

その短剣を足場にして大きく跳び上り壁を超え、ダリアの頭上へと移動した。

ダリアは驚き、判断が遅れた。

空中にいる相手ならば下から根っこで串刺しにできたが、予想外の行動に頭が働かなかった。

「終わりーだ!」

限られた時間の中でダリアがとった行動は地面強く蹴り、離れることだった。

しかし、その先にはナズナがいた。

攻撃を避けようとしたものの、すれ違いざまにナズナに肩を斬られる。

そこそこのダメージとなった。

「まさか...あんな動きをするなんて...痛いですね」

ダリアは根っこをたくさん展開し、警戒している。

「俺も戦いたくはない。だが、お前たちを止めなきゃいけないんだ」

「...私..死ぬの?嫌だ嫌だ...そんなの嫌だー!!」

ダリアは叫びながら、大きな根っこを生み出した。

20mはあるかないかと思うほど大きく、また太く長いその根っこは何か嫌な予感がする。

「まずい、ナズナ逃げるぞ!」

「逃がさない...叩き潰す!!」

勢いよく振り下ろされた根っこは凄まじい衝撃波を放ち、周囲の物を吹っ飛ばしていった。

アルヴァンとナズナも同様に吹っ飛ばされ木に激突し、勢いよく飛んできた石などが辺り負傷する。

「あはははははは、みんなぐちゃぐちゃだにしてあげるからねー!」

二人が前を向くと、既にダリアは迫ってきていた。

手には太い根っこを巻いて大きなグローブを作っている。

その顔は狂気に満ち溢れていた。














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