第29話 殺意を砕く者その1
合成兵のことについて調べるナズナとスヤキ。
調べていく中で合成兵は無理やり実験体にされたシャイン村の人間だと知る。
一方アルヴァン達が目を覚ますと、荒れ果てたライウン王国を目の前にした。
スヤキ達と再会し、合成兵のことを聞かされ複雑な心境になる中、アルヴァンはこれ以上犠牲者を出さないためにも合成兵と戦うことを決める。
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空腹に耐えかねて、ライウン王国の酒場で食事をするアルヴァン達。
襲われたのは基本、外にいた者たちだけだったためか店は無事とのことで営業している。
「あいつらの行きそうな場所だが、まずはシャイン村に行ってみるか。他に行きそうな場所は....目的は復讐だったよな」
「となると人の多い所に行きそうですね。オウタイ王国でしょうか。シャイン村はそう遠くありません。すぐに着きます」
「決まりだな。シャイン村に行ってその後にオウタイ王国だ。飯も十分食べた。行くぞ」
すぐに食事を終え、シャイン村を目指そうとガウディアは勢いよく立ち上がった。
代金を払い、店を出ようとするとアルヴァンは3人を呼び止める。
「待て」
「どうしたんだよ。ゆっくりはしてられないだろ」
「30分...いや、10分時間をくれ。調べたいところがある。今日の昼、ボロイ家からレイアが出てきたよな。その家が少し気になる」
「ただ勝手に住み着いてただけだろ。さっさと行こうぜ」
しかし、アルヴァンはじっと何かを考えていた。
ガウディアの言う通りただ住み着いていただけとは思えない。
「じゃあ、10分後入口で集合な。一人で大丈夫か?」
「大きな家じゃないから大丈夫だ。すぐに調べて戻ってくる」
アルヴァンは酒場を飛び出した。
外は既に夜へと変わっている。
向かうは昼頃レイアが出てきた少しぼろい家だ。
あの時レイアは紙袋を抱えて出てきた。
「(確証はないが、何か手掛かりがあるはずだ)」
扉を開け、中に入るとすごい量の埃が舞った。
しばらく誰も使っていないのか辺り一面埃が散乱している。
タンスを開けると男性用や女性用の服が入っている。
「やはりレイアはここに住んでたんじゃないな。何か用事があって立ち寄ったか。住んでいるのは夫婦みたいだな。小さな服もあることから夫婦と子供。ただ女性の服が少ないな。出て行ったのか?男の服が多いことから全員出て行ったわけじゃないと思うが...」
ベッドも3つあることから考えは間違っていないと思われる。
アルヴァンがある一室に入ると、何やら血で染まった小さな檻があった。
この部屋は何か重い空気が漂っている。
「何か小動物でも飼っていたみたいだな。...ん?これは」
机には一冊の日記が置いてあった。
ただの一般家庭とは思えない中、この日記に何か引き寄せられるものがあった。
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今日も失敗してしまった。
妻は応援していると言ってくれてはいるが、周辺の人間からは冷たい視線を向けられる。研究者はあまりいいイメージを持たれない。
娘から『パパはどんな仕事をしているの?』と聞かれたときはとても悩んだ。
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日記の内容としてはとある研修者の毎日の記録と言ったところか。
明るい話ではなく、少し重たい内容になっている。
何か役立つことはないかと流すようにページをめくっていく。
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妻と口論になった。
原因は私が家にシープホーンの赤ちゃんを持ち帰ったからだ。
部屋からは出さないと何度も言ったが魔物がいる家では眠れないと言われた。
今この世界は魔物に対抗する手段を必要としている。
私は大勢の人間を救いたい。
その日は外で研究をしていたが、相変わらず皆は私に冷たい。
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妻も限界が来たのか、とうとう娘を連れて出て行ってしまった。
私はただ頷くことしかできなかった。
同じ研究仲間が励ましてくれたが、重たい現実は何も変わっていない。
もし、研究者をやめて何か別の職に就いたら帰ってきてくれるだろうか。
思えば、妻と出会ったのは私がオウタイ王国周辺の魔物の生態調査をしている時だったか。今思えばあの時出会っていなかったら私は研究者をやめていただろう。
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自殺を考え外を歩いていると、何やら不思議な石を見つけた。
紫色に輝く石は何か引き寄せられるものがあった。
私にはわかる。この石は普通の石じゃない。
ようやく私の研究が努力が報われる気がする。
私の夢の大勢の人間から認められることが叶う。
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研究に勤しんでいると、ある日妻がやってきた。
驚ろいている私に妻は
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その先は思いきり破かれていた。
しかし、少しだが情報は獲得できた。
「ここは研究者の家だ。この日記に出てくる石ってスヤキが話していた石だな。つまり...合成兵の研究をしていたレオンの家か!」
そう考えるとなぜレイアがこの家から出てきたのかが分かった気がする。
レイアは石をこの家に取りに来たのだ。
「大事そうに抱えていたのはそのせいだな。問題はどこでその石を手に入れたかか...。本人は既に死んでいるし聞けないな」
部屋の中を調べ回っていると、壁に穴が空いているのを見つけた。
拳程度の小さな穴で何か入っているのか手を入れてみるも何も入っていない。
「跡からそう古くないよな。いや、今はそんなことしてる場合じゃ」
「アルヴァン」
突然背後からスヤキが話しかけてきた。
アルヴァンは驚き、大きな悲鳴を上げる。
「びっくりした。寿命が縮まるだろ」
「すみません。合成兵を追いかけた人たちが戻ってきたので話を聞いていたんです」
合成兵を追いかけた者は返り討ちに合い、そのうちの3人の男を連れて行かれたそうだ。幸い死人は出ていないらしいが、酷くボロボロな状態で帰ってきたそうだ。
「その帰ってきた人たちによると、とある方向へと進み続けたそうです。その先にはシャイン村があります。彼らは故郷に帰ろうとしています。すぐに行きますよ!」
「そうか、わかった」
もう少し調査したかったが相手の向かった先が確定したならすぐに行かねばならない。
入口に向かうとガウディアとナズナは軽い準備運動をしている。
その近くで介抱されている者達がいた。
「よし、揃ったな。目的地はシャイン村。覚悟できてるよな?」
「当たり前だ」
4人は急いでシャイン村へと走った。
その先には厳しい戦いが待ち受けている。
「アルヴァン。俺にも言えることだが、次は絶対情けなんて捨てろよ」
「....」
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その頃、森の奥深くにある知る人の少ない小さな村。
その名はシャイン村。
ライウン王国によってこの村は合成兵の実験台とされ大勢の者が死に、生き残った者は合成兵となる。
そんな悲しきシャイン村に2人の少年少女がやってきた。
クロルとダリアだ。
ダリアは植物で全身を縛られている男3人を引きずりながら村の中に入る。
「ここが...私の故郷?」
「ダリア、何か思い出せないか?」
クロルはそう聞いたが、ダリアは静かに首を横に振る。
懐かしい光景とともに襲いかかる悲しい過去。
まるで夢のようだ。
「は、離してくれ。俺達をどうする気だ!?」
男のひとりが暴れると、先程まで優しい目をしていたクロルは鋭い目付きに変わり男の耳を引きちぎった。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「俺は人間が憎い。なんで俺たちがこんなに苦しい思いをしないといけないんだ。お前たちにも同じ苦しみを味あわせてやる。ダリア、来い」
「....」
ダリアが歩き出すと、男達は必死に助けを求めた。
だが、その声は虚しく響き渡るだけだった。2人は村の中にあるひとつの民家の中に入る。
「ここがダリアの家だよ」
平凡な家具が並んだどこにでもある家。クロルは必死で説明するも、ダリアは困った顔をしている。
「ダリアは優しくて、よく泣く子供を慰めたり子守りが上手で大人からも」
「...」
「ご、ごめん。だけど、思い出してほしいんだ。レイアも連れてこればよかった」
「私は優しい人なんですね。でも、まるで思い出せません。ごめんなさい。....それよりも、この人たちどうするの?」
2人は冷酷な瞳で男達を見た。
その目から全てを察し、必死に逃げようともがく男達だったが、何も変わらない。
「指からいくか」
クロルは男の人差し指を引きちぎる。
辺り一面に男の叫び声が響き渡り、その声を聞くとクロルは笑顔になった。
「ずっと頭が痛いんだ。でも、人の苦しむ声を聞くと落ち着くんだ。ダリアはどうだ」
「はい。すごく落ち着い...ふっ、ふふふ。あはははは、もっと泣き叫んでよ!だめ、痛い思いさせちゃ...ねぇねぇ、次はどこがいい?楽にしなきゃ」
ダリアの足元周辺から無数の植物の根っこが飛び出す。不気味に笑いながら、植物を撫で回す。
「大丈夫。すぐに終わらせてあげる。あはははははは!」
******
それから数時間後、アルヴァン達がシャイン村に辿り着いた。
地面についた血の跡から異常なことが起こっていることはすぐにわかった。
「間に合わなかったか...」
「まだ死体を見てないだろ。この血の跡を辿ればいい」
ナズナは小さく震えている。
この村からは恐ろしいほどの殺意が溢れ出ており、出迎えるかのように4人の体を包む。
「ナズナ、大丈夫か?」
「へ、平気...ちょっと、怖いだけだから」
「無理に戦えとは言わない。不安なら遠くに逃げ」
「ダメ!」
オドオドしていた様子から突如大きな声でアルヴァンに言い放った。
「私だって戦える。確かに怖いけど、放っておいていい相手じゃない。アルヴァン達と初めて会った時は弱かったけど...今の私はあの時の私と違うから。あ、でもまだちょっとだけ...不安が」
「相変わらずだな」
血の跡を辿る民家の中に続いている。
ナズナとスヤキを外に待機させ、アルヴァンとガウディアは中に入る。
そこにはズタズタにされた男の死体がひとつ転がっていた。
手足が引きちぎられており、目には涙を浮かべている。
「....」
あまりに残酷な姿から思わず恐怖の感情を抱く。もし負ければ同じように目にあって死ぬ事だろう。
「アルヴァン、お前は今何を考えている?」
ガウディアがそっと話しかけた。
目には怒りの感情を感じる。
「俺はよ、これと同じくらい酷い姿の人間を見てきた。慣れたって言いたいわけじゃない。物騒な言い方だが、俺は殺すつもりで戦う。情けは捨てた」
「....お前は強いな。俺はまだ情けを捨てられない」
「相手が人だからか?」
「...」
「辛いよな。この手で人に怪我させるってよ。俺達より強い連中に任せるのが一番いいかもしれない。だが、そんなの待ってられないんだよ!」
その時、どこからか男の叫び声が聞こえた。
ガウディアは気持ちを切り替え、武器を片手に急いで声のする方へと走り出した。その後ろをナズナとスヤキがついて行く。
「(戦いを避けて話し合いで終わりたいと考える俺は馬鹿なのかもな。...やるしかないか)」
アルヴァンは死体に布を被せ手を合わせると、外に出て一度深呼吸をし走り出した。
声は村からではなく、外から聞こえている。
「次は目だ!」
「や、やめてくれ!」
村から出て森の中を走ると、開けた場所に出た。
月明かりで照らされたそこには1人の男に馬乗りになるクロルと泣きながら命乞いをしているもう一人の男の隣で座っているダリアがいた。
男がアルヴァン達に助けを求めると、クロルとダリアはアルヴァン達に視線を向ける。
「なんだお前ら。まだ追ってきてる奴がいたのか」
4人は武器を構え2人を睨みつける。
「今日で2回目ですね。こんばんわ」
そう言ってダリアは頭を下げた。
「ダリア、他に隠れてるやつは?」
「いませんね。気配を感じないところから4人だけかと」
「たった4人か」
クロルはスヤキの顔を見ると、ニコニコと笑った。
「そういえば、あの時会ったな。死にに来たのか?」
スヤキは無言で睨みつける。
片手に小さな火の玉を作り出し、いつでも投げる準備をしている。
男は血を流しているがどちらもまだ生きており、すぐに治療すれば助かる。
「これで6人遊べる。お前たちはどんな声を出すのかな」
お互い警戒しており、動く気配がない。
急いで治療したいが相手の動きがわからなければこちらも動けない。
そんな睨み合いが続く中、ガウディアが小声で3人に話しかける。
「二人同時は厳しい。2対1で持ち込んだほうがいい」
「あちらの女の子はあなた達二人がよく知ってるはずです。お願いしますよ」
「...悪いが、俺はクロルをぶん殴らせてくれ。誰が何と言おうと殴らなきゃ気が済まねえんだよ。悪いが、ナズナはダリアだ」
「わ...わかった」
「ナズナがいいのなら私は特に何も言いません」
クロルはこちらを見てニヤニヤ笑っており、ダリアは冷たい目で睨みつけている。
「このまま睨みあいが続けばあの男たちが死ぬ。かといって動くわけにも...」
その時、スヤキが前にゆっくり歩きだした。
「あなた達の過去を少し知りました。とても苦しい思いをしたんですね」
「同情はいらない」
「そうですか。....しかし、貴方の両親は運が悪いですね。生き残れずに死ぬだなんて、神に見捨てられた哀れな人間です」
クロルの顔から笑顔が消えた。
歯をむき出しにし、誰もが怒りとわかる反応をとった。
「クロル、挑発です。誘導されますよ」
「かわいそうですね。みーんな、死んだんですから。まともな生き方をしてこなかったんでしょうね。貴方の様子から両親のダメな部分がよく表現されてますね。まるで」
「黙れー!! 馬鹿にするんじゃねえ!」
頭に血を登らせ、クロルは怒りに身を任しスヤキに向かって突撃した。
ダリアは止めたが聞くつもりはない。
スヤキは地面に向かって火の玉を放ち、黒い煙を上げた。
「逃げるんだろ? バレてるんだよ!」
そう言い、煙に突入し抜けるとそこには更に大きな火の玉を構えたスヤキが立っていた。
「逃げる? 何言ってるんですか。私は戦うためにここにきた。覚悟しなさい!」
火の玉はクロルに直撃し、遠くへと吹っ飛ばした。
「引き離しましたよ。そっちはお願いしますね」
スヤキとガウディアはクロルの吹っ飛んだ先に走り出した。
走りながら、ガウディアは男に回復薬を投げつける。
残されたアルヴァンとナズナはダリアに剣を向ける。
「ナズナ、あいつは植物を操ることができる。人間の体なんてあっさり貫くぞ」
「わかった。気を付けるね」
ダリアは男を植物を使い遠くに投げた。
「私たちの邪魔をするなら酷い死に方をしますよ。今逃げれば追いかけるつもりありません」
そんなダリアに対し、二人は迷わずゆっくり接近していく。
「わかりました。ふふふ、そんなに死にたいならゆっくりとじわじわとじっくり殺さなきゃねー! あはははは、痛い思いだめだめだめ。目をつぶそうかなー!」
不自然に地面が揺れると、無数の植物の根っこが姿を現す。
ヘビのようにくねくねと動き回り、鞭のように振り回す。
「ここは森の中だよ。あの時のように武器には困らないよ!」
それはアルヴァンもよくわかっている。
相手はライウン城で戦った時よりも強力な強さを発揮することだろう。
しかし、だからといって逃げるなんて考えはない。
「地面は柔らかい。予備動作はないからな」
「アルヴァンも気を付けてね」
ダリアが一斉に植物の根を使い二人に襲い掛かると二人は左右に避け、ダリアへと向かっていく。
無数に現れる根っこは迷路のようにダリアを守り、足元だけでなく横や真上からも攻撃できる。油断していると一瞬で死んでしまう。
暗い森の中にアルヴァンの雄たけびが森に響き渡った。
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