第28話  彼らは被害者か

ダリアと戦いを始めたアルヴァン達。

相手は強敵ではあったが、数や場所のおかげで多少の苦戦で勝利することができた。

戦闘の途中、スヤキとナズナは別行動でレオンを追いかける。

レオンを追い、部屋にたどり着くと合成兵について書かれた資料を見つけた。

その頃、ダリアに勝利したアルヴァンとガウディアはどこからか声が聞こえ、声のする方へと進むと妙な男に出会った。

圧倒的な力で二人はなすすべもなく、倒れた。


***********


「さて、早急に終わらせましょう」

レオンから服を奪い、手足を縛る。

アルヴァンとガウディアとは別行動でここにやってきたが、どこで合流するかまでは決めていなかった。

「今も戦ってるのかな...」

「大きな音は聞こえないところから終わったと思います。勝敗はわかりませんが」

「負けてないにしても、撤退ってことも考えられるよね」

自分たちはダリアが能力を見せてから戦闘に参加していない。

実力がわからないため勝ち負けの判断がしにくい。

しかし、二人が生きているのはわかっている。

たとえ勝てない相手だったとしても死なずにやり過ごすことならできる。

ここまでくるのに随分騒ぎを起こしたため、いつ兵士がやってくるかわからない。

ナズナは何か情報がないかと部屋を荒らし始める。

その間、スヤキは合成兵について書かれた資料を呼んでいた。

「スヤキ、資料にはなんて書いてあるの」

部屋の中を探索しながら、ナズナはスヤキに話しかけた。

「ネズミによる実験の内容が書かれています。石を食べたネズミは激しい苦しみによって死ぬそうですが、稀に生き残ったネズミは強大な力を手に入れるようです」

「石ってどういうこと?」

「それについては...特には...」

流し読みをしていると、人間という単語の前で止まる。

ネズミほど詳しくはなかったが、一人の少女について書かれていた。

シャイン村周辺で死にかけていた少女に石を食べさせると傷は治り、ネズミ同様強大な力を手に入れたと。

「名前は...レイア。やはり、あの子は合成兵ですね。普通じゃないことはわかりきっていましたが」

ふと、大陸地図に目を付けた。

街や村のある場所に丸印が書かれており、恐らく合成兵が襲撃した場所だろう。

「やっぱり、アルヴァンの言う通りだったみたいだね」

「こんな時に人間同士が戦うなんて間違っています。気になるのはどうして合成兵を生み出したかですね」

「どういうこと?」

「資料が正しければ激しい苦痛に襲われるみたいです。成功する確率も低く死ぬとなれば、自分から進んでやるでしょうか?それも子供がですよ」

「...無理やり」

「そうなりますね」

二人は気絶しているレオンを睨みつける。

正確な確率はわからないが、大勢の人間が死んでいるのは間違いない。

「仮に実験台にされた人間が30人としましょう。国で人が30人も消えれば不審に思われます。住民は合成兵のことを知らないようですし...実験台にするなら一斉に攫える人数の村でしょうか。確か...レイアはシャイン村周辺で出会ったと書いていましたね」

スヤキはもう一度資料を読み直しながら、大陸地図を見て何かを探している。

そして、ライウン王国から離れたとても小さな村を指さした。

「この村だと思われます。合成兵はシャイン村の人間かと」

その時、レオンが目を覚ました。

「やっと起きましたか。早速ですが質問に答えてもらいますよ。あなた達はシャイン村の人間を合成兵の実験台にしましたね?」

「な、なんの話だ」

「もうわかってます。とぼけるつもりならもう一度顔を焼きますよ」

スヤキは手に小さな火の玉を浮かべレオンに近づいた。

脅しでもない本気な目で睨みつけ、レオンを恐怖に包み込んだ。

「わ..わかった。認める。確かにシャイン村の人間を攫って実験台にした。ほとんどの人間が死んだ....でも...でも、俺は悪くない! 王に命令されたんだ! 俺だってやりたくてやったわけじゃない! 銀貨だって仕方なく」

「...最低」

「嘘じゃない。俺は無理やり...そうだ、リシオスだ! 合成兵の研究を始めたのはリシオスだ! あいつがすべての元凶だ! 俺はなーんにも悪くない」

先ほどのこともあってかレオンはスヤキに対して怯えていた。

必死に怒りを抑えようとスヤキは震えている。

その時、こちらに向かってくる何者かの足音が聞こえた。

兵士にしてはゆっくり歩きすぎており、何か嫌な予感がする。

「隠れますよ」

スヤキはナズナと共に物陰に身を隠す。

二人が隠れたと同時に部屋に入ってきたのはクロルだった。

入るとすぐにレオンを視界に捉え、笑った。

「ここにいてくれてありがたいな」

「ま...ま」

レオンは何か言おうとしてたが、クロルが顔に横蹴りを入れる。

顔には大きな痣ができ、痛みで苦しがっているがその姿を見て笑っている。

「痛いか?俺 は...いや、俺達はもっと苦しい思いをしたんだ。あの時のお前の顔は忘れねえよ。同じ苦しみを味わって死なせてやる」

クロルは鋭い爪でレオンの腕を切り裂く。

一人の男の悲痛な叫びが辺りにこだまする。

更に足に指を突き刺し、腹を殴るなど残酷な行為が目の前で行われている。

あまりに惨い光景にナズナは吐き気を覚える。

「...そこに誰かいるのか?」

二人は息を殺すもクロルはこちらにゆっくりと近づいてくる。

「(仕方ありませんね。逃げることを最優先で)」

後少しの所でクロルは引き返した。

「おいおい、どこ行くんだよ」

ボロボロな体で必死に逃げようとしているレオンの体を足で押さえる。

「たしゅけて」

「....」

「たしゅけて...許して」

クロルは無言でレオンの喉に指を突き刺す。

すると、レオンは動かなくなった。

「あの時俺を押さえた奴らの顔も覚えてる。そいつらも殺して...アイツの所に行くか」

クロルは静かに部屋を出た。

それから10分後、そっと物陰から顔を出す。

部屋から出ようとしたスヤキだったが、レオンの死体の前で足を止める。

「死ぬよりもしっかり罪を償ってほしかったです。次はいい人間に生まれ変わってください」

ナズナは部屋を出るまで目を閉じていた。

今は急いでアルヴァンとガウディアに合流しなくてはならない。

「やっぱりいたのか」

頭上から声が聞こえ、見上げると天井にはクロルが張り付いている。

天井から降り、二人をじろじろ見ながらにやにや笑っている。

「お前たちはこの城の人間じゃないな」

「(...私たちを覚えていない?)」

そう長い間目を合わせたわけじゃないため、印象に残っていないのだろうか。

少しばかりだがあの村で出会ったクロルとは雰囲気が違っていた。

「侵入者...待てよ。どこかで見た気もするな。お前たち、どこかで会ったか?」

「スヤキ、どうするの....」

スヤキは戦闘態勢に入る。

手に力を込め、魔法を放つ準備をしていた。

「まあ、いいや。俺は誰でもいいから」

「ナズナ、わかっていますね」

「え...あ、うん」

「ありがとうございます」

スヤキは大きな火の玉をクロルと自分たちの間に放った。

大きな衝撃波と黒い煙でお互いに見えなくなる。

煙が消えたころには二人の姿はなかった。

「....戦うと見せかけて逃げたのか。あの目は戦う目に見えたけど...まっ、いいや。先に殺したい奴らがいるからまずはそっちからだな」


************


「う...」

アルヴァンが目を覚ますと、城の通路のど真ん中で倒れていた。

「確か..青い髪の男にやら...いてっ」

体には傷がいくつかあり、ちょうど持っていた回復薬で治した。

近くでガウディアも倒れており、同様に回復薬を使った後に起こした。

「俺達気絶してたのか」

「みたいだな。えっと...外は」

窓から空を見上げると、既に日は暮れ始めていた。

一体どれだけの間気絶していたんだろうか。

「確か城に入ったのは昼過ぎだよな」

「それくらいだな。しかし...静かすぎるな」

数時間倒れていたにもかかわらず、兵士に見つかったりしていない。

いや、それどころか人の気配がまるでない。

「そうだ、二人と合流しないと」

アルヴァンはナズナとスヤキと合流するため、ゆっくりと歩き出した。

不自然な静けさに気を引き締め、武器を構える。

「随分と人が死んでそうだな」

予想は的中し、通路には大勢の兵士たちが倒れている。

皆頭から血を流しており、近づいて調べてみると頭以外に傷がない。

「頭に穴がひとつ空いてるだけか...。即死だな」

「暴れた様子もないことから一瞬でやられたみてえだな。あの男の仕業か」

アルヴァンは嫌な予感がし、窓から城下町を見た。

「....ガウディア」

「どうした?」

窓から見た城下町は酷く荒れていた。

いくつか民家が壊れ、大勢の人間が倒れている。

「....」

自分たちが気絶している間にかなり大事になっているみたいだ。

「とにかく今は二人と合流しよう。あの男はもういないよな?」

「さーな。城にまだいる可能性も考えておくか」

城の中をゆっくりと歩き、城の入口までやってきた。

倒れているはずのダリアがいない。

男と共に行ったか、あるいはどこかに潜んでいるか。

「あの男は、さすがに俺達じゃ敵う相手じゃないよな」

「よかった。戦うなんて言い出してたらぶん殴ってたぜ。俺達より強い人間はやまほどいるんだ。そいつらに任せればいい」

「俺達が戦うべきじゃないな」

いつもならアルヴァンだけでなく、ガウディアも戦うことを選ぶだろう。

しかし、圧倒的な強さを前に勝てるなんて考えは微塵も湧かなかった。

「勝てるかどうか以前なんだよ、あの力」

「まるで超能力だな。いや、魔法か」

荒れ果てた城の中を歩き回り、ナズナとスヤキの名前を呼ぶ。

出会うのは頭から血を流す死体だけだった。

部屋もくまなく探してみるも、どこにもいない。

「外に逃げたってことはないよな」

「もし敵に襲われたらそうしてるかもな。....それより、やっぱりおかしいぞ」

「何が?」

「隠れて生き残った奴がいないんだよ。まさか全員挑んで死んだってのはねえだろ」

「城から逃げた可能性もあるだろ」

「こんなバカでかい城だぞ。城下町よりも部屋なりに隠れたほうが生存率は上がるだろ」

「それはそうだが...」

二人は扉が破壊されている部屋の中に入る。

そこには無残な姿の死体があった。

「うわ、ひでえ」

「また夢に出てくる。見ないようにしないと」

「なんだよ。魔物と戦えば死体は何度も見るだろ」

「人間と魔物は違うだろ」

「俺は既に何人もおぞましい姿を見たから多少は平気だ。....ってそんな話はいい。見ろアルヴァン!」

ガウディアは目を輝かせながら銀貨の詰まった袋を見せた。

1000枚なんてものじゃない。これだけあれば贅沢に暮らせそうだ。

「王の部屋じゃなさそうだが、お偉いさんの部屋なのは間違いねえ。もらったらだめかな」

「だめだだめだ」

「そう硬いこと言うなよ。お前に恋人ができたときにこの銀貨でいいもの買ってやれよ。そしたら好感度どころか結婚間違いなしだぞ!」

「冒険者に恋人作る時間なんてないだろ」

「何言ってんだ。スヤキがいるじゃねえか」

「....べ、別に俺はそんな目で見るきはない。だいたい仲間だぞ!」

「あーあ、アルヴァン君は真面目だなー。でもよ、スヤキから付き合ってって言われたら喜ぶだろ」

「ま....まあ、嬉しいけど。スヤキに限ってそれはないだろ。....ていうか、こんな状況でする話じゃない!」

アルヴァンは別の部屋を調査しに向かった。

「(お堅いなあ)」

城が想像以上に広く、捜索は困難だ。

アルヴァンは目の前にあった扉を開けようとした。

「あれ?開かない」

「おいおい、老人でも開けられるだろ。ぐっ、まじで開かねえ」

二人して扉を蹴っても何かが邪魔してるのか開かない。

突き破ろうかと考えたその時、扉が勝手に開いた。

「ファイアーボール!」

同時にスヤキの声と共に火の玉が二人を襲った。

「おい、ちょっと待てアッヂィー!」

その後、スヤキは二人の顔を治し謝罪する。

中は倉庫のようで箱の上にナズナが座っている。

「たくよー、確認ぐらいしろよ」

「ごめんね。私たち隠れてたの」

「なんだと?」

「二人と別れた後、レオンって人に色々聞いた後いきなりクロルに出会ったから。この部屋に逃げ込んだの」

「蹴散らせよ」

「私一人なら戦うつもりでした。でも、ここで魔法連発したら無関係の死人が...あ、それよりも、二人に話があります」

スヤキはレオンの部屋であったことを全て話した。

ライウン王国はシャイン村の人間を攫い、実験台にしたと。

ほとんどが死んだが、偶然生き残ったのが合成兵になったらしい。

「胸糞悪いな。つまり俺達が戦ってたのは...被害者ってことかよ」

「そういうことになりますね」

「復讐ってことか。あいつらの考えてることはわからねえけどよ」

「俺は行く」

アルヴァンが勢いよく立ち上がり部屋から出ようとする。

「おい、待てよ。お前さっきまで戦うべきじゃないって言ってただろ」

「それはあの男に対してだ。これ以上罪のない人間を殺させるわけにはいかない」

押さえようとするガウディアを振り払い、アルヴァンは飛び出していった。

釣られてスヤキも後を追い、部屋にはガウディアとナズナが残された。

「バカかよあいつ。レイア達と戦うってことはあの男に狙われるってことだろうが。どう考えても勝てる相手じゃないのによ」

「アルヴァンはすぐ人を助けに行くよね」

「別に助けることはいいことだ。でも、死んだらバカで終わりだぞ」

「そうだね。でも私もこれ以上犠牲者は出したくないかな。いこーよ」

「....わかってる。俺も戦うがあの男とは戦わないからな!」

城下町は地獄と言えるほど荒れ果てていた。

植物に串刺しにされている人や腹を引き裂かれていたりと恐ろしい光景が広がる。

まずは彼らの行方を知るため、近くの人に事情を聴いた。

「突然城の方から妙な5人組が歩いてきたと思うといきなり近くにいた人間を殺したんだ。獣のような爪を持った少年がみんなを引き裂いたり、いきなり足元から太い植物が現れみんな串刺しにされた」

民家の被害は大きくはないが、偶然外に出ていた者はのほとんどが殺されたらしい。

抵抗した者もいたようだが、化け物のような力を前に無残に散っていった。

「大勢の人間が彼らを追いかけて行ったよ。でも...どうなることやら」

「大陸の外には行ってないのか?」

「5人全員門から出て行ったよ。ありゃ、まるで魔物だ」

人々はこの大陸は終わりだと嘆いた。

オウタイ王国やモクエンの街のこともあって、この大陸には希望などない。

一部は港に向かい他の大陸に逃げようとしている。

「で、まじで追うつもりか?」

「当たり前だ。嫌なら来なくていい。なんなら俺一人でも行くつもりだ」

「おいおい、誰が行かないって言った。勝手に決めるなよ」

「じゃあ、行くか。二人も文句ないな?」

「行きますよ」

4人は同時に歩き出し、ライウン王国を出た。

あれだけ栄えていた王国もあっという間に悲惨な状況へと変わった。

滅んだわけではないが、希望はどこにも感じられない。

今は合成兵を倒す。

それだけを考え旅立った。

「あ、みんな待って」

「どうした?」

「何が食べてから行こうよ」

「おい、そんな状況じゃないだろ」

そう言うガウディアのお腹が鳴った。

最近食生活はバラバラで一日3食を守れていない日がある。

空腹に耐えかね、ガウディアとナズナは国に戻った。

「全くあいつらは」

「仕方ありませんね。空腹のままでは実力も出せません。さっさと食べて追いかけますよ」

「そうするか」

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