第27話 合成兵ダリア
ライウン王国へとたどり着いたアルヴァン達は一昨日、レオンたちによって捕らえられたレイアと遭遇する。
逃げるレイアを追いかけていると、なんとレイアは城の中に逃げ込んだ。
城に入る方法を考えていると、レオンと出会い城に入れてもらう。
城に入るとレオンの口調が変わり、ダリアという赤髪の少女が現れた。
ライウン王国の裏側に触れたアルヴァン達は武器を手にダリアと戦闘を開始した。
*****************
ライウン王国にあるライウン城の中で、4人の男女と1人の少女が戦っていた。
ダリアは動きがはやく、次々繰り出すアルヴァン達の攻撃を避け続けている。
武器を持っておらず素手での戦闘のようだが、こちらが連続で攻撃しているため防御ばかりだ。
ナズナが連続で攻撃し、ダリアの注意を引きつけるとアルヴァンが背後に回りフェイントをいれ、ガウディアが斧を振り回す。
騒音を聞きつけ兵士たちがやってくるも、邪魔されないようにスヤキが兵士たちの足元付近に火の玉を投げつける。
4人で戦いたいが、3人が暴れまわっているうちはうかつに魔法を打てない。
ナズナがダリアの背中を斬りつける。
経験と数の差が大きな有利を運んだ。
「....強いですね。なるべく手荒なまねはしたくないのに」
痛みを感じないのか表情はかわらない。
疲れているようにも見えず、レイアやクロルといい不思議な相手だ。
「大人しくしていれば痛い思いはさせませんよ」
「お前こそ、今ここで降参すれば終わるぜ」
「私は命令に背くつもりはありません。あなた達が苦しまない道を選んだつもりですが...仕方ありませんね」
ダリアが後ろに飛び退き、大きく距離を取った。
アルヴァン達も警戒し大きく離れた。
「この力はあまり使いたくありませんが、あなた達が悪いんです。手足を失う覚悟をしてください。兵士さん、アレをください」
そう言ってダリアに投げつけられたのは一輪の花が咲いている小さな植木鉢だった。
ダリアはそっと床に置くと、花を優しく撫でた。
「何がくるんだ...」
「爆発でしょうか。それとも火を噴く可能性も」
クロルのこともあってか何が来るのか予想できない。
花に注目するも、特に変化はない。
「花っていいですよね。見てるだけで心が癒されると言うか、落ち着くんです」
気づけば周囲にいた兵士たちがどこにもいない。
逃げたというのか?
「自分でも原理はわかっていませんが、この力は強力です。大勢の者を生かしも殺しもします」
少しずつだが、ダリアの表情が変わり始めた。
ほとんど無表情に近かった顔が笑顔に変わりつつあった。
しかし、その笑顔は悪魔とも言えるほど歪んだ笑顔だった。
「ねえねえ、あなた達は生きたい? それとも死にたい?」
何かわからぬ恐ろしい気配を感じる。
ダリアはクスクスと笑っている。
「気になるんだ~。今から半殺しにする相手が生きたかったのか死にたかったのかってね」
「人格が変わり始めてない? なんだか嫌な予感がする」
「わかってる。周囲に警戒しとけよ」
すると、ダリアは床に拳を叩きつけ小さな穴を開けた。
レイアと同じく、一般男性を超える力を持っている。
「頭が痛い...。痛い。痛いよ。助けて....大丈夫、手や足がなくたって生きていけるから。殺しちゃダメ...足に軽く傷をつけるだけ...だけ...そう。優しく...優しく。痛い思いはさせちゃだめ」
頭を押さえながらダリアは花と周辺の土を穴の中に入れた。
顔からは笑顔が消え、どこか悲しみに満ち溢れており涙を流している。
「小さな痛みがいいでしょう? だから、そこ動かないでね」
すると、突如足元が揺れ始める。
まるで大きなミミズでも潜んでいるかのように何かが地面を移動している。
突如アルヴァン達の足元に小さなヒビが入った。
「足元から何か来るぞ!」
4人が飛び退いた瞬間、立っていた場所から細く長い木の根っこらしきものが飛び出した。
硬い床をあっさりと突き抜け、その威力をアルヴァン達に思い知らしめる。
「どうして避けちゃうの? 痛い思いしたくないんでしょ?」
よくわからないが、危険と言うことだけはわかる。
アルヴァンとガウディアが同時にダリアに向かって走り出した。
「さっきの花は魔物か!?」
「地面を移動して根っこを槍のようにか...さっさと片付けるぞ」
ダリアへと向かっている最中、地面から根っこが飛び出しアルヴァン達の足を狙う。
幸い、飛び出す前にヒビが入るため攻撃してくる位置はつかめる。
アルヴァンがダリアへと接近し、剣を振り上げた瞬間ダリアの目の前から太い大きな根っこが飛び出し剣を防いだ。
クロルほど硬いとは言えないが、一撃では斬り落とせない。
「俺に任せな!」
ガウディアは植物を斧で一撃で斬り落とした。
ダリアが後ろに下がり、いくつか根っこを出し、動きにくい空間を作った。
しかし、2人はものともせず間を抜けて接近する。
「(床が硬いからすぐに攻撃できない...動きも読まれてる)」
死角から攻撃しようにも、壁を移動する音が聞こえ、攻撃する位置がバレてしまう。
「戦う場所が悪かったな」
アルヴァンがダリアの目の前まで接近し、腹に剣を突き刺した。
「あぐっ...」
剣を引き抜かれ、怯んだ所に追い打ちをかけるようにガウディアが素手でダリアの顔を殴り、前に吹っ飛ばした。
「戦う場所が城の中でよかったな。もし草原や森の中じゃあっという間に殺されてたな」
「だな。それにあいつの目的が殺しじゃなく捕獲だからな。攻撃事態も甘い。驚いたけど、落ち着いて対応すれば容易に勝てる」
ダリアは二人に気づかれないように起き上がる。
前を向くと、いつのまにかスヤキとナズナが消えている。
「(二人を気を取られている間に別の方向に逃げられましたか。私としたことが...。もういいです)」
このまま戦うこともできたが結果は見えている。
戦う場所が悪く、勝機は見えない。
起き上がらずそのまま天井を見ていた。
「アルヴァン、心臓に刺さなかったのはわざとか。優しい奴だな」
「相手はこちらを殺しに来たわけじゃない。だから戦闘不能にするぐらいでいいと思っただけだ。....それになるべく人を殺したくない」
「わかるっちゃわかるな。俺だって好きで殺したくない。よし、あのレオンってやつに話を聞きに行くか。もちろん、ぶん殴ってやるぜ」
「話次第で殴るじゃすまさないがな」
二人が動き出そうとしたその時、どこからか男の叫び声が聞こえた。
「うぐあああ!」
レオンが逃げだ方向とは違うところから聞こえる。
「普通じゃねえな今の叫びは。先にそっちだ」
「了解」
**************
アルヴァン達がダリアと戦っている間、レオンは走って逃げていたが途中で走るのをやめた。
「はあ、はあ。さてと、ダリアがやつらを捕まえてくる間に実験の準備だな」
レオンが通路を歩いていると、後ろから兵士の声が聞こえる。
「お前たち、一体どこか...ぐお!」
後ろを振り返ると兵士が3人倒れており、すぐ側にナズナとスヤキが立ちレオンを睨みつけていた。
「見つけたよ」
「なんだと...。ダリアはどうした!」
「下で二人が戦ってます。1対4で勝てると思ってるんですか? 私たちを甘く見ないでください」
ナズナとスヤキがレオンに向かって走り出した。
先ほどまでニコニコとしていたレオンの顔は焦りに変わり、情けない声を上げながら逃げ始める。
だが、日々外で体を動かしている二人の方が足は速い。
「あなたには聞きたいことがたくさんあります。覚悟してください!」
「こ、こっちにくるなー! おい、兵士たち! あいつらをなんとかしろ!」
そう言って兵士を呼び集め二人にぶつける。
ナズナは素早く兵士たちの間を通り抜け、注目を集めている隙にスヤキが火の玉で兵士たちを吹っ飛ばした。
「くそっ」
レオンは自室に逃げこみ、扉を机で塞ぐ。
しかし、爆発音とともに机もろとも扉は吹っ飛んだ。
「逃がさないから」
とっさにレオンは小さなナイフをこちらに向けた。
だが、何の威圧にもならずナズナによって呆気なく取り上げられ、壁の隅に追いやられ、顔に剣を向けられる。
「今から私たちの質問に答えて。さっきのダリアって子は何?」
「な、なんの話だ」
スヤキが無言で氷の刃をレオンの足に突き刺した。
「いぎゃああ!」
「嘘ついたら許さないからね。もう一回聞くよ。ダリアって子のこと教えて」
「....ご...合成兵だ」
「合成兵?」
その間、スヤキが落ちている資料を手に取る。
「俺は...ただ命令されてそれに従っていただけだ!俺は脅されていたんだ」
レオンは涙を流しながら必死に訴える。
「...そうなんだ」
ナズナが剣をゆっくり降ろすとレオンは安堵の表情を浮かべたが、そんなレオンの顔にスヤキが銀貨の詰まった袋を投げつけた。
「脅されていたのにお金はもらえるんですね。それにこの資料...どうみても貴方が進んで関わっているようにしか見えませんが」
レオンが黙っていると、スヤキは声を荒げながら氷の刃を片手にレオンに近づく。
「いい加減にしてください。貴方がこの資料に書かれている合成兵という者について知っていることがあるのはわかっています。さっさと言わないとその目や口をぐちゃぐちゃにしますよ!」
「わ、わかった!全部話すから落ち着いてくれ!」
そう言うと、スヤキは壁を殴りつけて後ろに下がった。
今ここで嘘をつけば殺される。
レオンはそう感じた。
「レイアっていう黒くて短い髪の女の子を知っていますか?」
「....は、はい」
「全部話してください。嘘をついてると分かった瞬間、貴方の目をつぶします」
脅しでなく、本気で言っていることはナズナにもわかった。
怒りを少しでも沈めようと抑えに行ったが、振り払われ鋭い目で睨まれた。
「(怖い...。今後、怒らせないようにしとこ)」
その時、レオンはポケットの中に手を入れ黄色い粉を取り出すと二人目めがけて投げつけた。
「しまっ」
「ごほっごほっ。なにこれ...」
すると、少しずつ体の動きが鈍くなり、やがて力が入らずその場に倒れる。
「バカが! 昨日襲われたことを考えて痺れ粉を用意してたんだよ! 即効性で大型の魔物でもすぐに体が麻痺するらしい。よくも俺の足を...」
レオンがナイフを構え、スヤキに近づいた。
「俺はお前みたいな女が大っ嫌いなんだよ!」
スヤキの目の所にナイフを向ける。
態度が急変し、これが本性と言ったところか。
「何が目をつぶすだ。このまま服を切り裂いてその辺の男に売り飛ばしてやろうか、あぁ?気の強めな女はな、一度痛い目を見ておかないとな」
レオンは笑いながらスヤキの服を切り裂いていく。
「や、やめて」
「うるせえ。このまま素っ裸にしてやる」
今のスヤキには声を出すのもやっとだ。
無抵抗のままただただ服を斬られ続けている。
服はボロボロになり、みすぼらしい格好になる。
「さっきまでの態度はどこ行ったのかなー?そっちの女もあとでじっく」
「...加減はしません」
「はあ?」
突如スヤキの手が動き出し、指先から火の玉がレオンに顔にはなたれ顔を焼いた。
「ああああああちい!」
スヤキは立ち上がり、苦しむレオンの顔を殴った。
「確かに即効性ですが持続はあまりしませんよ。あくまで逃げるよう用だって知らないんですか? 最初は本当に動けませんでしたが、魔法を使えるようになるまでずっと我慢していました」
レオンは前が見えず、虫のように辺りを這いずり回っている。
「貴方に聞かなくても合成兵のことは資料を見ればわかります。貴方が正直に話せば本当に何もしませんでしたが、死ぬ覚悟をしてください」
スヤキは分厚い本を手に取り、何度もレオンを殴りつけた。
「私の! 服を! こんな! 姿じゃ! アルヴァンやガウディアに会えませんよ! 外も出歩けません! 変態だって思われるじゃないですか! 女を下に見過ぎです! このけだもの!」
「(怒るとこそこなんだ...まあ、わかるけど)」
「もし好きな人ができたらどう責任とってくれますか! お嫁にも行けませんね! なんなら目を焼きますか!? 女の敵!」
「スヤキ、もう気絶してるよ」
「はあ、はあ。まだ足りません! 傷を治してもう一回最初から! ナズナも殴りましょう! さあ、そこにある本を!」
「私はいいよ。もうスヤキが殴ったことで気が晴れたし...」
スヤキはやっと正気に戻った。
少しだけレオンの傷を治し、床の上に座り込んだ。
「ごめんなさい、私怒ると前が見えなくなるというか...」
「怖いのは伝わった」
ナズナが服を一枚脱ぎ、スヤキに差し出した。
「その服装じゃアルヴァンに会えないね」
「そうですね...って、なんでアルヴァンだけ」
「え、好きじゃないの?」
「アルヴァンは仲間です。仲間に恋愛感情なんか湧きません。服ありがとうございます。下は....」
「さすがに下までは貸せないよ。この人の上着もらう?」
「そうですね。嫌ですが腰に巻きます」
***************
その頃、アルヴァンとガウディアは男の叫び声が聞こえた方向に向かっていく。
城の中は入り組んでいるため、どこから聞こえたかわからない。
「たしかこっちだよな」
「俺もナズナと結婚してこんな城に住みてえ」
「こんな時に何考えてるんだ」
ガウディアの頭を軽く叩く。
走っていると、地下へと続く階段を見つけた。
「ここか...?」
すると、地下から何者かの足音が聞こえた。
階段から離れ、武器を構える。
階段からは青い髪をした男性が現れる。
『...お前たちこの城の者じゃないな』
ダリアのこともあってか出会う人間すべてに警戒し、そっと距離をとった。
全身からあふれ出す強い力が遠くからでも伝わってくる。
「なんだよあいつ...やべえ」
「蟻になって象を見る気分だ。明らかに今まで出会った人間や魔物とは違う..」
『そう怯えるな。私は戦う気はない』
すると、階段からレイアが現れた。
「あ、この人たち」
『ほう、知り合いか』
「うん」
レイアも男も武器を持っていない。
「アルヴァン、どうする」
「....」
二人は武器を強く握りしめた。
もしレイアやクロルと同じように人の命を狙うならなんとかしなければならない。
二人が睨みつけながら動かないでいると、男はゆっくり口を開いた。
『武器を下ろせば殺しはしない。どうする?』
「お前の考え次第だ。場合によっちゃここで戦う」
『考えか...。人は殺すと思うぞ』
「だったら話は早い。ガウディア、やるぞ」
相手は武器を持っていない。
ダリア同様近づいて斬りつければ勝てるかもしれない。
二人は男に突撃した。
『残念だ。実に残念だ』
瞬間、二人の体を小さな蛍のような光が数発突き抜けていった。
何も考えることもできないまま、二人は倒れた。
けして大きな怪我ではない。
二人が倒れたのは驚きと絶望による脱力だった。
「なんだ...いろんなことに警戒したの...にわからねえ」
『お前たちが強いことはよくわかった。初めての相手として命だけはとらないでおく。運がいいと考えそこでじっとしていろ』
男はレイアとともに二人の間を通っていった。
次元の違う。敵う敵わないなんて考えるような相手じゃない。
昨日クロルに対してそう思ったが、更に上を行く相手が現れた。
「...どうな...ってるんだ」
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