第25話 憎しみに満ちた心
氷の大陸を目指すためにアルヴァン達はライウン王国へと向かう。
その道中、小さな村に着くもその村は何かに襲われ村人たちは皆死んでいた。
村の中を調べ回っている最中、アルヴァン達のもとにクロルと名乗る灰色の髪をした少年が現れる。
クロルが犯人と言うことが分かり、戦うも鉄のように全身が硬く、圧倒的な強さを見せつけられ、全滅寸前に追い込まれる。
しかし、アルヴァンとガウディアは回復薬を使い再び挑んだ。
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勝機と言えるものはない中、アルヴァンとガウディアは立ち上がり再び挑む。
ナズナとスヤキには、武器を捨ててクロルに向かっていく二人の行動が理解できない。
自殺行為とも言えるその行動はまともな人間がとる行為じゃない。
傷も全快したわけでもなく、状況は何も変わっていない。
それは二人もわかってるはずだ。
クロルはニヤニヤ笑いながら構える。
すると、ガウディアは歩くのをやめた。
「アルヴァン、止まれ」
「お前がやるか?」
「よくわかってんじゃねえか、ありがとな」
アルヴァンは後ろに下がった。
武器を拾うかと思っていたが、ガウディアは武器を拾おうとしない。
クロルはガウディアの手に視線を向ける。
「まさか、本気で素手でくるのか?」
「お前見てるとイライラしてくるぜ」
「おい、無視か?」
「お前はこの村の人間に何かされたか?されてないだろ。なら魔物のように食べるためか? 違うよな。快楽っていうよりにもよってそんなカスみたいな理由で....まじでイライラするぜ」
ガウディアの怒りに対して、クロルは表情を変えることなく言った。
「強い奴がが弱い奴をどうしようと勝手だ。弱い奴はいつか魔物に襲撃されて死ぬだろ。少し死ぬのが早くなっただけだろ」
ガウディアの目が鋭くなった。
呼吸も荒くなり、ただただクロルを睨みつける。
「お前みたいな性格が腐った奴は...俺が直接ぶん殴らないとな!」
怒りを露わにするガウディアの背後でアルヴァンは心の中で笑う。
「(とかいいながら、一番怒ってるのはナズナが怪我したからだろうな。まったく、こんな状況下で好きなやつのこと考えてるなんてな)」
愛する人のためなら強敵にも立ち向かうその精神はさすがと言える。
一見、このままではガウディアが返り討ちにあってしまう。
しかし、アルヴァンは加勢しようとしない。
クロルはしびれを切らし、ガウディアに突っ込んでいった。
「気合いだけでも強くなった気か! 弱い奴がどうなるか教えてやるよ!」
「あー、教えてくれよ」
「(強がりやがって。横に動くか? それとも後ろに下がるか!? もしくは後ろの男が加勢してくるのか。どれを選択してもお前には死ぬ未来しかねえな!)」
クロルの頭の中でガウディアがどう避けるかを考え、すぐに反応できるように集中力を最大まで高めた。
アルヴァンに動きはなく、今から加勢しても間に合う距離じゃない。
「(へっ、そこで仲間が死ぬのを見てな!)」
クロルは笑った。
しかし、そんなクロルの笑顔を見てアルヴァンも笑った。
そのアルヴァンの顔を違和感を覚えたと同時に、クロルから笑いは消えた。
ガウディアまで残り1mといったとところで、ガウディアは避けずにクロルに向かって地面を蹴り突撃した。
「(なっ....)」
本来、いつものクロルなら、たとえこちらに向かってくる選択肢をとられてもすぐに反撃に動くことができた。
しかし、相手が素手であり、なおかつ武器を拾う様子もなかった。
また、アルヴァンに気をとられてしまったのも原因の一つだ。
予想外の行動に頭はついていけなかった。
「ビビったな? 武器もない、実力も弱いってわかってて逃げる動きも予測できて負けるはずはないって勝ち誇ってたんだろ?」
隙だらけなクロルの顔めがけて、ガウディアは怒りの拳を叩き込んだ。
鉄の塊を殴った音が響き渡り、クロルは吹っ飛びはしなかったが大きく仰け反った。
「(何が起こった...)」
理解する間もなく、ガウディアは更に力を込めてクロルを殴り飛ばす。
手に激痛が走るも、痛みなんて感じている余裕はない。
「やっぱりか。体は硬くたって衝撃は消せないみたいだな。動きからして重量じゃないのはわかってたぜ。ぶっ飛ばせるなら対抗策なんていくらでもあるぜ。ていうか...いってぇ、骨粉々になりそうだ」
ダメージを与えられておらず、殴りかかった自分が激痛に襲われるだけだが、この状況で皆が生存できる道はこれしかない。
ガウディアは何度もクロルの顔を殴り続けた。
アルヴァンはその間にナズナとスヤキを起こし、逃げる準備を始める。
「ガウディアが足止めしている間になるべく遠くに逃げるぞ」
「だ....大丈夫ですか。貴方も加勢したほうが」
「あー、あいつなら大丈夫だ」
振り返ると、ガウディアはまだ殴り続けている。
三人はなるべく遠くの民家に入り、身を隠す。
クロルは反撃しようとしているものの、間髪入れず続く攻撃により反撃できない。
自分よりも力の弱い相手に一方的に殴られることはかない屈辱だった。
20回は殴っただろうかガウディアの手は悲鳴を上げている。
これ以上殴れば本当に骨が粉々になってしまう。
「(そろそろ離れないとな。こいつも我慢の限界だろうし)」
クロルの怒りはもうすぐ限界点に達する。
ガウディアは殴るのやめ、そっとその場から離れる。
ガウディアが近くの民家に隠れたと同時にクロルは怒りを表しに大声を上げた。
「....なめんじゃねええ!!!」
しかし、クロルが気づいたときには既にガウディアは消えている。
罵声を上げながら近くに合ったものを壊し続け、何度も何度も叫び続けた。
「どこいきやがったんだこらああ!!!」
ガウディアの隠れている民家まで迫ってくる。
入口寸前まで迫った時、クロルは足を止めた。
「....」
すると、頭を押さえ苦しみの声を上げる。
「あああああ、痛い...痛い痛い!」
頭の中で何か恐ろしい記憶が蘇ろうとしている。
2分間、その叫びは続いた。
「やめろ。やめろやめろやめろー!」
複数人の男たちに押さえつけられている光景が頭に思い浮かんだ。
必死に抵抗するも、まるで敵わず何かを口に入れられてしまう。
恐ろしい記憶が蘇り、頭の中は憎しみで埋め尽くされる。
「ああああああああああああ!!!」
その叫びとともに、クロルは大人しくなった。
「思い出した。俺は...あの時、あいつらに...」
ガウディアまでもう少しというところで、クロルはどこかへと走り去っていく。
ナズナが民家かたこっそり除くと、一瞬でクロルが通過しどこかへと向かっていく。
助かったと思い、ほっと一息ついた。
数分後、皆の無事を確認するとスヤキは皆の傷を治し一度休憩する。
「なんとか助かったが、事態はいい方向に進んだとは言えないな」
「だな。あいつが生きてるってことはまた新しい犠牲者が出る」
「...また、出会う気がする。それも、近いうちに」
ナズナは不安に襲われる。
そしてこの大陸に居る限り、近いうちに出会うだろう。
次出会えばもしかすれば...。
「野放しにはできないよな。ナズナ、あいつがどこに向かったかわかるか?」
「た...たしか」
ナズナはゆっくりと一方向を指さす。
その先にはライウン王国がある。
「さすがに国ともなると大被害だ。ゆっくりしちゃいられないな。すぐに向かった方がいい」
「今日中に到着は無理があるぞ。明日の朝に着くかどうか怪しいくらいだな」
「気合いで走れば夜には着くだろ。根性出して走るぞ」
「みなさん、先に行っててください」
「追いかけて来いよ?」
スヤキは村に行き、一人一人に祈りを捧げた。
「スヤキは優しいな」
後ろから先に向かったはずのアルヴァンが立っていた。
アルヴァンはスヤキの隣で一緒に祈りを捧げる。
「いつか、死人の出ない世界にしたいですね」
「...そうだな」
死人の中には、親子らしき3人が抱き合って死んでいるのを見つける。
スヤキはじっと見つめると、強く握りこぶしを作った。
「次会ったときは、私がこの手で.....」
「俺達じゃ攻撃は通らないもんな。魔法も効くか怪しいが...」
「アルヴァン」
「ん?」
「私は....やっぱり、なんでも、ありません。ささ、行きますよ」
スヤキはガウディア達を追いかけた。
アルヴァンはその場で、考え込んだ。
「(レイアもクロルも人を殺す理由がわからないな。本当に楽しいからか?この辺には弱い魔物だってたくさんいるというのに、魔物の死体の山が見つからない。これじゃあ、まるで人間だけが対象に....)」
「アルヴァン!早く行きますよ。貴方は武器を持っていないんですから、私が守りますよ」
「あー、悪い。今行く」
アルヴァンとスヤキは急いで2人を追いかけた。
その頃、数百メートル先を走るガウディアとナズナ。
「助かったからいいけど、ガウディア無茶しすぎだよ」
「悪いな。ついついキレちまった」
「もう。でも、怪我しなくてよかった。もし、ガウディアが怪我したら...」
「(お、これはまさか)」
ガウディアの頭の中はメルヘンな世界が広がっている。
ここで『怪我したら泣いちゃう。私貴方のことが好き』と言われるのを想像している。
「(今まで努力してきてよかったぜ。俺は...俺は...)」
「ガウディア怪我したら戦える人減っちゃうもん」
思わずガウディアは転び、地面に顔を押しつけた。
そして、久しぶりに大声で叫んだ。
「なんだよ、ちくしょおおおおお!!」
「どどどどうしたの!?」
「(なんでこうなんのかな....強い酒が飲みてえよ)」
************
その日の夜、ライウン城内の一室にて。
そこには机に大陸地図を広げるレオンがいた。
「うーん、この近辺の村や街は襲撃したしな。どこかに街は...」
レオンの横には銀貨が山ほど詰まった袋が置かれている。
合成兵を生み出すたびに大量にもらえ、村や街を滅ぼしたときには更にもらえる。
一瞬にして金持ちになり、浴びるほど溜まった銀貨を見て顔がにやける。
「合成兵は合計4人。だけど、レイアはもう使えないな。実験体もみんな死んだからな、新しい実験体がほしい。さすがにこの国の住民はだめだしな...オウタイ王国に4人送り込んで実験体を集めさせるか?」
その時、後ろの窓から音が聞こえる。
振り返ると、窓からクロルが侵入してきた。
「おい、どっから入ってきてるんだ」
「...殺す」
「ん?」
次の瞬間、クロルはレオンに襲い掛かった。
反射的に頭を下げて回避し、クロルの手は壁に突き刺さる。
「おい、いきなりなんだ!」
「思い出した...。お前らにされたことを」
「な、何言って」
「ぶっ殺してやる」
レオンは部屋を急いで飛び出した。
「(どうして記憶を取り戻したんだ。合成兵になれば記憶はほとんど消えるんじゃないのか! 合成兵になった奴は名前以外覚えてなかったんだぞ!)」
「待てよ、逃げてんじゃねえよ!」
すれ違う兵士に助けを求めるも、クロルによって一瞬で防具ごと引き裂かれる。
レオンは命がけで走り続けていると、前から赤髪の少女が歩いてくる。
「ちょうどいいところに来た、あいつをなんとかしろ!」
クロルが赤髪の少女が対面すると、怒り狂った表情は大人しい少年の姿に代わり、涙を流した。
「...ダリア、そいつは俺達を」
「い、いいから早くあいつを始末しろ!」
「わかりました」
「ダリア、思い出せ!」
クロルのその言葉に耳を貸さず、ダリアという少女はクロルに向かっていった。
*************
その頃、ライウン城の地下牢ではレイアがリシオスに食事を運んでいた。
「おまたせ。ゆっくり食べてね。後で戻ってくるね」
薄汚れた地下牢に長い間過ごしてきたためか、光というものを忘れかける。
新鮮な空気なんてここには届かず、薄汚れた空気が辺りを漂う。
外の世界はどうなっているのか、知ることができるのはレイアと話している時だけだ。
老人と変わらないほどやせ細った体。
かつては研究者として励んでいた男もこのざまだ。
「味も感じなくなってきたな」
生きる希望など無くなりかけていたリシオスにとって唯一の生きる希望はレイアだった。
レイアの昨日の足の傷も治り元気にしている。
「ここから出たら、まずは外の世界を見ていたい」
1年どころか半年も牢の中にはいないが、リシオスにとっては何十年と過ごしているように感じる。
いつものように食事を終え、考えるのは自分の昔の姿だった。
「妻の言う通り、研究者をやめていれば...今も幸せな家庭を築けていたのだろうか」
そんなことを考えると、階段からレオンとクロルを鎖で何重にも縛りつけて運びながら多数の兵士が降りてくる。
相当厳重に巻かれているのかクロルは身動きができない。
リシオスとは向かいの牢に乱暴に入れられると、更に鎖を巻かれ、ミノムシのような形になっている。
「おい、リシオス!」
レオンはリシオスのいる牢を蹴った。
「どうなってる! 合成兵になったら記憶のほとんどは消えるんじゃないのか! お前が言ったんだぞ。なのにあいつは思い出して襲いかかってきやがった」
「...私に聞くな。何かきっかけがあったんだろう。それよりもだ、あいつの顔から伝わってくる憎しみが気になる。相当恨まれることをしたようだな」
「俺に質問するな。...くそ、まさか他の奴らも記憶を取り戻して襲ってくるんじゃ...。このことが王に伝わったら俺はもうおしまいだ! 王は今寝てるよな。誰も報告してないだろうな!?」
「は、はい」
「よし、なら魔物の仕業にしろ。適当に言い訳とあいつの処分も考えておく」
ぶつぶつと呟きながら、レオンは階段を昇って行った。
牢に入れられたクロルはずっとこちらを睨み続けている。
「お前一体なにされた」
「黙れ! こんなところ、すぐに抜け出して」
「そんな姿でどう抜け出すつもりだ」
強力に巻かれた鎖は必死に力を込めてもビクともせず、重りもあってかまるで動けない。
そこにレイアが食器を回収するため、戻ってきて。
クロルには見向きもせず、せっせと食器を回収していく。
「レイア...だろ?」
後ろ姿であったが、クロルにはわかっていた。
涙を流し、何度もレイアの名を呼び続ける。
「貴方誰?」
その言葉で喜びから悲しみに変わった。
「なんだよ、ダリアもレイアも忘れちまったのか。くそ...くそ...」
「一体何があった。私は敵じゃない」
「騙されるかよ。お前もどうせ腐った人間だろ。信じられるかよ」
すると、レイアはクロルに向かって食器を投げつけた。
大人しい表情は一瞬にして怒りに染まり、クロルを威圧した。
「次言ったら貴方を殺すから」
「レイア、思い出してくれよ。俺はクロルだ! シャイン村で、一緒に育ったクロルだ!」
しかし、レイアに思い出した素振りはない。
「私は昔のことを思い出したいなんて思わない。私にはリシオスがいるから」
「クロルと言ったな。私は本当に敵じゃない。何があったか話せ」
「....わかったよ」
クロルは静かにリシオス達に何があったかを話した。
地下牢にはクロルの声が響き渡り、話を聞くにつれてリシオスの表情が暗くなる。
「レイア、ほしいものがある」
リシオスはとある感情に動かされた。
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