第24話 鉄の肉体
翌日、光の大陸にある小さな村。
村人は少ないが皆旅人を歓迎し、小さな宿で疲れを癒したり、酒場では採れたての野菜を使った美味しい料理がある。
子供たちは駆け回り、笑顔の絶えない絵にかいたような平和な村だ。
近くに獰猛な魔物が生息しているが、村の男たちの手によって近づけさせてはいない。
そんな村に一人の灰色の髪をした少年がやってきた。
「ようこそサライトの村へ。何もない村だけど、どうぞごゆっくり。おや、あんたまだ子供じゃないか。冒険者かい?」
「違う」
「じゃあ、一体何しに?」
「.......へへへ」
数分後、そこに一人の男がやってくる。
「おーい、奥さんが皿洗い手伝えって言ってる...ぞ?」
男の目に飛び込んだのは血を流し倒れている男と、そのすぐ側に立っている少年の姿だった。
少年は男を見ると、ニヤリと笑った。
「お前も弱い?確認させてくれよ」
「う.....うわあああ!!」
****************
朝、アルヴァン達はいつものようにギルドに向かう。
昨日のこともあってか街の空気は重く、兵士は厳重に警戒している。
冒険者を見る目は鋭く、まるで疑われているようだ。
「信用されてないのかな?」
「まー、住民が冒険者殺せるほど強くないからな。実力のある冒険者が疑われて当然だな。もう終わったのによ」
「しー、声が大きいって、聞こえたら面倒だぞ」
幸い聞こえていなかったようで安心はしたが、もし聞こえていたらどうなっていただろう。
拘束、尋問....変な誤解をされて処刑もありえる。
ギルドの中も少し重たい空気が漂っている。
昨日のレイアの事件のせいで冒険者の多くは街を出てしまったらしく、今残っているのはほんのわずかだ。
依頼書もたくさんあり、受付嬢は依頼を受ける人がおらず困っていた。
「さてと、これからどうする?俺は一度風の大陸に戻って氷の大陸を目指そうと思っててな。お前らはどうしたい?」
ガウディアは世界地図を広げる。
氷の大陸へ行くには一度風の大陸に戻ってから出ないといけない。
「さすがに闇の大陸に行くのはまずいだろ?一度ナズナやアルヴァンの故郷に帰ってみるのもありだと思ってな」
「俺の故郷...?まさか、あの村か?あれは故郷じゃないと思うが」
「私帰ったら親に怒られそう」
「でも、久しぶりに帰ってみてもいいな。皆の元気な顔がみたい」
「私はどこへでも」
「よっしゃ!さっそくライウン王国に向かって風の大陸に帰るぞ!」
ここからライウン王国は遠いので、道中の村や街に泊まっていくのがいいだろう。
早速準備をし、4人は街を出た。
だが、街を出て直後1台の馬車とすれ違う。
その馬車には血を流し倒れている冒険者たちが乗せされていた。
「ちょっと待ってくれ!」
アルヴァンが馬車を止める。
中に乗せられている冒険者は皆死んでいる。
「....」
「最近冒険者が死ぬ事故が増えててね。道中で見かけた死体を回収してるのさ。魔物に食われたら成仏もできんだろ?あんたらもこうならないようにしっかりしなよ」
冒険者は常に死が付きまとっている。
一瞬の油断で人生が終わってしまうことをアルヴァンは思い出させられる。
「物騒な世の中だよな」
「....そうだな」
アルヴァンの声には元気が感じられない。
「大丈夫だよ。私たちはそこそこ強いし、この近辺の魔物は簡単に倒せるじゃん」
「そうだぞ。油断しなきゃいいだけだぞ。元気出せって」
ガウディアがアルヴァンの肩を強く叩いた。
その通り、油断さえしなければ道中現れる魔物は彼らにとって敵ではなく、容易に倒せる。もし怪我をしても回復薬やスヤキのヒールがある。
アルヴァンは調子を取り戻し、歩き始めた。
「地図によるとこの先をひたすら進むと小さな村がある。今日はそこを目指すぞ」
光の大陸も半分は歩きつくしただろうか。
訪れていない地域もあと少し。
今は強くなる、ただそれだけだ。
平原を2時間は歩いたところで、遠くに村が見える。
「あの村はサライトって村ですね」
遠くから見ると村はとても静かに見える。
しかし、ある異変に気付いた。
「待て、人倒れてないか...?」
村の中に血を流して倒れている人間が見える。
急いで駆け寄ると想像を絶する光景が目に飛び込んでくる。
村中あちこちに血を流し倒れている人間がおり、皆死んでいる。
「なんだよこれ...」
まるで魔物の大群にでも襲撃されたかのような光景だった。
ガウディアは急いで村の奥へと走り出した。
アルヴァンは近くの民家の中に入り生きている者はいないかを探す。
「おい、誰かいないか!!」
民家の中にも死んでいる者が複数。
生きている人間はどこにもいない。
アルヴァンもガウディア同様奥へと走っていった。
ナズナは死体の傷を確認する。
胸に大きな爪痕が残っており、胸を引き裂かれたようだ。
「この人も...この人も」
「皆同じ傷ですね。背中や胸を引き裂かれてます。獣の仕業でしょうか」
顔は酷く引き攣った恐怖に怯えた表情をしている。
子供も老人も皆同じ傷をつけられ、非常に惨い光景だ。
スヤキは静かに手を合わせた。
中には薪を割るときなどに使う斧を持って死んでいる者がいた。
「戦った者が数名いますね」
「魔物だとしたらかなりの大群だね。こんな小さな子供まで」
「魔物の仕業とは思えませんね」
「え?」
「魔物なら食べられていないのが気になります。傷から見て獣だとは思いますが、皆引き裂かれただけ。おかしいと思いませんか」
スヤキは民家の扉が壊されているのを見つける。
村の外に死人がいないのは皆家の中に逃げ込んだためだと思うが、獣が扉を破壊し引き裂いただけというのはどうも違和感を感じる。
「快楽を得るために殺してるように見えます」
「快楽って....。あれ...ねえ、スヤキ。この村の周辺にはサーベルウルフも生息してるよね。死肉食べてる魔物がいないってことは村が襲われてそんなに時間が経ってないんじゃ....てことはまだ犯人が近くに」
その時、外から足音が聞こえる。
スヤキとナズナは隅に移動し、静かに身を潜めた。
偶然、壁に小さな穴があり、そこから外を覗く。
外には一人の灰色の髪の少年が立っている。
その手には....大量の血が付着している。
「(まさか...)」
少年が遠くに行ったのを確認するとスヤキは小声でナズナに話しかける。
「ナズナ、私の考えを聞いてください。私たちに襲い掛かったレイアという女の子のように....私の村同様に強い力を持った人間が産まれる村があるのかもしれません」
「じゃあ、さっきの子がこの村を襲ったって言うの!?」
「あの手に付着した血を見るとそうだと思います。今は静かに...しまった、アルヴァン達はこのことを!」
その頃、生き残りを探すアルヴァンとガウディアだったが誰も見つけられず近くの民家の中に入る。
「誰も生きてねえな」
「そうだな。魔物の仕業...か。ん?なあ、ガウディア。死肉を食べている魔物がいないってことは死んで間もないよな?」
「だよな。周辺にはサーベルウルフも生息している中、死肉を食べている魔物がいないってことはそういうことだな。俺がサーベルウルフなら喜んで死人を食べる。....てことは」
「まだ犯人が近くにいる?」
その時、外から足を音が聞こえる。
「スヤキか?そっちはどうだ」
二人が外に出ると、そこは一人の灰色の髪の少年が立っていた。
全身血に染まってり、アルヴァンを見つけると泣き出して近づいてきた。
「助けてー!」
ようやく生き残りを見つけた。
アルヴァンに抱き着くと、少年は震えながら涙声で話す。
「いきなり魔物が襲ってきて、みんな殺されたんだ!」
「やはりか。お前は隠れてたのか?」
「僕は...家のタンスの中に隠れて。我慢ができずに外に出たら...そしたらみんなが」
少年は大声で泣いた。
ガウディアが少年の頭をなで、アルヴァンは周辺に警戒する。
「坊主、名前なんて言うんだ?」
「ク...クロル」
「よし、クロル。その魔物はどんなやつかわかるか?」
「み、見てないよ。お父さんがいきなり僕をタンスに」
「....そうか」
ここは危険なため、少年を民家の中に入れる。
死体を見せないように物などで隠し、アルヴァンは民家の入口で外を見張る。
その間ガウディアは少年の側で慰める。
「ひとつ聞いていいか?」
「う、うん」
アルヴァンが静かに剣を構える。
「この家に住んでるのは男だったか?」
「う、うん」
「そうか。ありがとう」
ガウディアはクロルから離れた。
すると、クロルの背後からアルヴァンが斬りかかった。
「ぜええやああ!」
クロルは思わず飛び退いた。
「ちっ、バレてたのかよ!」
クロルは目つきは鋭くなり、先ほどとは様子が違う。
「お前の発言にはいくつか矛盾があるんだよ。魔物を見る前からタンスに隠されたってのになんで血だらけなんだよ。あと、この家には女二人だけしかいなかったぜ!」
「お前が犯人だな!」
二人は民家から飛び出し、クロルから大きく距離をとった。
クロルは民家の中で笑っている。
「ふふふ。はははは。馬鹿だったら一瞬で殺してやったのに。まー、馬鹿は俺だったな」
自分の手に着いた血を舐め、笑っている姿はレイアとは違い狂気を感じる。
「どうして殺した」
「どうして?弱いからじゃん。俺、弱い奴嫌いだから見つけ次第殺したくなっちゃうんだよ。ここの連中はみんな助けてっていいながら逃げ回っていたから楽しくてさ~」
二人はクロルを睨みつけた。
相手が子供だからというそんな情けなんて1つも湧いてこない。
「とんだクズだな」
「はあ?弱い奴殺しちゃだめな理由て何?....ていうか、お前たちも弱そうじゃん。殺すからな」
瞬間、クロルは地面を強く蹴り二人に突撃した。
素早く横に避け、まずは相手を動きを確認する。
「なんだ、攻撃してこないんだ。この前襲った連中は背中見せたらすぐに動いてきたのに。運いいじゃん」
相手は自分たちよりも強い自信があるのか、常にこちらを見下した態度をとっている。武器を隠し持っているようにも見えず、素手で戦うようだが二人にはある疑問が浮かび上がった。
村人たちは爪のような武器で殺されており、犯人はクロルで間違いないのもわかっている。ならばどうやって殺したのだろう。
「ガウディア、俺が左から攻めるから右を頼んだぞ」
「任せろ。あんな見下した奴にはでっかい痛みを与えてやらないとな」
二人は左右に分かれて接近する。
先にアルヴァンが攻撃し、避けた所をガウディアが決める。
あっさりと避けられてしまったが、それはアルヴァン達も予測していた。
ガウディアの攻撃が避けられた直後、アルヴァンがすぐに剣を振り上げる。
クロルは大きく態勢を崩し、ガウディアの追撃を避けたが背後からアルヴァンが剣で斬りかかる。
クロルには避ける時間はなかった。
「俺達を甘く見るなよ!」
アルヴァンは勢いよく剣を振り下ろした。
剣はクロルにあたった。
だが...。
カンッ!
その音と共にアルヴァンの剣が折れた。
「な、なに...!?」
クロルの体は傷一つついていない。
アルヴァンもガウディアも予想外の出来事に硬直している。
「ど、どどうなって」
「....へへへ」
その時、クロルがアルヴァンに素早くパンチを放った。
咄嗟にアルヴァンは剣で防ごうとした。
だが、大きな鈍い音と共に剣は折れ、アルヴァンは拳を受けた。
人間の手とは思えないほど、硬かった。
「(剣が...折られた...)」
確かに剣はクロルの体に命中した。
まるで鉄の塊に攻撃したような音が聞こえたのだ。
そして拳も鉄の塊のように硬い。
アルヴァンとガウディアは一瞬で理解した。
「「(こいつ、全身が硬い!)」」
思わず言葉を失い、アルヴァンは折れた剣を見つめていた。
「(そうか。全身が鉄のように硬く、指先までも硬ければ人を引き裂くのは容易。....何者だ)」
クロルは笑いながら、大きな声で言った。
「そうだぜ。俺の体は刃なんてぶっ壊すほど硬いんだよ。硬いってことはよ、武器にもなるんだぜ!」
硬直するガウディアに向かってクロルは蹴りを放った。
ガウディアは武器を降ろし、両手でガードするも鉄のように硬い一撃はガウディアの腕の骨にひびを入れた。
「ああああああああ!」
ガウディアは叫びをあげ、その場に転がる。
「あはははは、弱いなー」
助けるためにアルヴァンがその場に落ちていた村人の物と思われる片手斧を投げる。
だが、斧はクロルの体に命中すると鈍い音を放ち弾かれる。
「効かないってのがわからないのか?」
「....」
「はははは!その顔いいねー!殺しがいがあるぜ。そのきょとんとした顔、大好きだ。ヨウタイ王国の兵士や森の中を歩いていた連中と同じ顔だぜ」
理解はしたものの、体は動かなかった。
絶対的な強さを持つ相手を前に何もできなかった。
ガウディアは手がまともに動かせず、アルヴァンは戦う気力を失い始めている。
そこへアルヴァン達を探すナズナとスヤキが駆けつける。
「アルヴァン!ガウディア!」
ナズナの声によって標的は変わった。
クロルはナズナに向かってすぐに襲いかかった。
「お前たちがいることも知ってたぜ!ゆっくり殺してやろうと思ってたのに自分たちから来やがってよ!」
ナズナは剣を構えた。
「よ、よせ!逃げろ!」
そんな声も時すでに遅く、ナズナはクロルの攻撃を剣で防ごうとした。
剣はあっさりと砕かれる。
「...え?」
隙だらけのナズナの横腹に回し蹴りを放ち、遠くへと蹴り飛ばす。
スヤキも状況を理解できぬまま、回し蹴りを受け遠くに蹴り飛ばされた。
二人は民家へと激突し、大きなダメージを受ける。
「気持ちいいねえ。楽しいねえ」
クロルは誰から殺そうかと、4人をじろじろと見て回る。
そして、スヤキを見て立ち止まった。
「お前一番弱そうだな」
クロルはスヤキの首元を掴み上げる。
スヤキは魔法を使おうとするも、痛みのせいでうまく使えない。
そんな時、アルヴァンが立ち上がりガウディアに回復薬を投げつける。
二人は回復薬を使用し、クロルに立ち向かう。
「なに?まだやるの?」
ため息をつきながら、スヤキをゴミのように捨てた。
「アルヴァン、俺久しぶりにイライラしたかもな」
「だな。あんな奴にはそれなりのことしなきゃな」
「よくわかってんじゃん。おい、てめえ覚悟しろよ。俺ら怒らせたらただじゃすまねんからな」
アルヴァンとガウディアは武器を持たず、クロルへと歩き出した。
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