第23話 レイアという女の子

死にかけのアルヴァンの救うために、スヤキはヒールと唱えるも使うことはできなかった。

そんな時、過去に父親に言われていた言葉絵思い出し、もう一度ヒールと唱えるとアルヴァンの傷が回復し、スヤキはヒールを習得した。

少女を追いかけ、再び遭遇し戦いを挑む。

戦いの末、レイアという少女に勝つことができあと一歩の所で突如やってきたレオンと名乗る男にレイアは連れて行かれる。


********************


激闘を終え、街に戻ると大騒ぎになっていた。

あちこちに死体があり、小柄な少女が人を殺したのを見たという人間まで現れ、パニックになっている。

犠牲者の中には冒険者も含まれており、実力もそれなりにあったらしい。

そのため、住民だけでなく同じ冒険者も警戒していた。

アルヴァンは銀貨で武器を買いなおし、スヤキは服を買いなおす。

真夜中だというのに昼間と変わらぬくらい騒がしい。

宿に戻ろうにも人が多すぎて、なかなか近づけない。

兵士と思われる人間は険しい顔で街の中を歩き回っている。

やっとの思いで宿に戻ると、心配した顔でガウディア達が待っていた。

「おいおい、どこ行ってたんだよ」

「心配したんだよ!」

アルヴァンは二人に事情を話す。

「何!?例の少女に襲われたって!?」

「静かに。声がでかいって」

「しかも..倒したの?」

「倒したって言うより、勝ったかな。変な連中に連れて行かれちゃってさ」

「まじかよ...」

しばらくの間、ガウディアとナズナは固まっていた。

アルヴァンは新しくベッドに横になり、体を休める。

魔物はまだまだたくさんいるものの、少女による犠牲者はこれ以上増えないだろう。

あの妙な連中が気になるが、城に連れ帰ると言っていたので、牢屋にでも入れてくれるだろう。

「まったく、お前たちすごいな」

「このことは他言するなよ?言っても信じてもらえないし、変な誤解されたら困るからな」

外はまだ騒がしい。

窓から死んだ者の家族と思われる女が死体の前で泣いているのが見える。

「これであの女性のように悲しい思いをする人も減ってくれるといいですね」

「あーあ、俺も活躍したかったぜ。かなり強かったんだろ?」

「そりゃな。何度も戦って動きは見えたから勝てただけだ。もし、そうじゃなかったら瞬殺だ」

「ただ、その妙な連中気になるな。どこの国の兵士か言ってないんだろ?」

「レオンって名乗ってきた奴が一人だな」

アルヴァンは大陸地図を広げる。

「確かあいつらが行った方向的に....ライウン王国だな」

「結構遠くねえか?」

少女を追っていたとも言っていたので、討伐隊の可能性も高い。

深く考えても仕方がないので、詮索はやめた。

「驚きすぎだしから喉乾いたな。水でも飲むか」

「報告はアルヴァンだけじゃありませんよ。私、回復魔法使えるようになりました」

ガウディアが思わず水を壁に噴き出した。

「ゲッホゲッホ!おい、畳みかけるなよ。壁汚したじゃねえか」

スヤキは氷の刃で自身の腕に切り傷を付け、ヒールと唱える。

すると手と傷口が光り、傷が治った。

「すごい!本当に使えるようになったんだ!」

「魔法って本当にすごいな。....てことは、もう回復薬も買わなくていいと」

その発言にスヤキが大きな声で怒鳴る。

「だめです!もし何かあった時のためにいつものようにそろえておいてください!魔法は無限に打てません。連続して使うと疲れますし、もし別行動で魔物に襲われたら大変です。いいですね!?」

「わかったわかったから、大声出すなって」

二人が激闘を繰り広げている間、ガウディアは炎の大陸のリベンジのためかまたナズナを酒場に連れて行ったらしい。

結果は見ての通り、失敗だったようだ。

スヤキはため息をついたが、もし別行動しなければレイアと遭遇せずにいたかもしれないと思うと、あまり起こることもできない。

「次こそは俺が活躍するからな!」

「俺だってもっと活躍するさ。よし、今日はもう遅いし寝るか」

「そうですね」

疲れがたまっているのか、アルヴァンとスヤキはすぐに寝てしまった。

一方残りの二人はまだ先ほどの報告の驚きが消えないのか、なかなか眠れない。

「(あの時は深くは気にしてなかったけど、レイアの目的ってなんだったんだ?ただ快楽を得るために殺人...いや、それならもっと大暴れをしてるはずだしな)」

ガウディアはレイアの目的についてかんがえていた。

そもそも、あの見た目からは想像できない強さを持っていることにすら疑問を抱いている。

「(剣術は練習すれば身に着く。それよりも小柄な体のどこからあの力が湧いてくる。筋肉もそんなにあるようには見えないし....あーだめだだめだ。このままじゃ眠れない!)」

ガウディアは立ち上がり、窓まで歩き出す。

窓を開け、空を眺め昔を思い出す。

「(俺も強くならなくちゃな。絶対に闇の大陸に戻って仲間の仇を討ってやる。見てろよ、最強の斧使いって呼ばれるくらい有名になって...かわいい女に囲まれて...ふふふ)」

「ガウディア顔怖いよ」

「うおっ!?なんだ、ナズナ起きてたのか」

「だって眠れないもん。それより何考えてたの?」

「いいんだよ。よし、俺も寝るか。おやすみ!」



*********


同時刻、ライウン王国まで向かう馬車の一つにレイアが乗せられていた。

「合成兵が人間に負けるなんて....呆れるな」

レオンはレイアに向かってため息をつきながら、ぐちぐちと言っている。

「よりにもよってあんな弱そうな人間にか。なんで負けた?」

「....」

「なんか言えよ!」

返す言葉などなく、レイアは無言で答えるしかなかった。

レオンだけじゃない、周囲には冷たい視線を送る兵士たちの姿があった。

目を閉じても聞こえる言葉の数々。

ライウン王国に到着し、城に戻ると両足を負傷しているがレイアは歩き出した。

「おい、どこ行く」

ふらふらとぎこちない歩き方で肩がぶつかれば倒れてしまう。

加えて、片手も大きく動かしずらく合成兵と言われても信じてもらえないほど今のレイアは弱弱しく見えた。

「またあいつの所か」

そんなレイアが向かった先はライウン城にある地下牢。

その地下牢の檻の中の一つにやせ細った青い髪の男が奥に座り込んでいた。

彼の名はリシオス。元研究者だ。

合成兵の研究をしており、人間の合成兵レイアを生み出したもののレオンに奪われ地下牢に入れられている。

研究者だった頃の面影はなく、今は誰が見ても罪人と変わらない。

レイアは檻の前に立つとリシオスの前に座り込む。

「ただいま」

そう言うとまるで動かなかったリシオスが動き出した。

レイアが檻の隙間に顔を入れると、リシオスは優しく撫でた。

「今日ね、負けちゃった。それで肩と足やられちゃって。まだ痛いかな」

「そうか...」

「すぐ食事貰ってくるね」

レイアは地下牢から立ち去るとすぐに食事を持ってきた。

牢に入れられてからというものの、食事は与えられているが量は少なく、最低限生きられる程度で満腹感などまるでない。

貧相な見た目、味。

牢に入れられて間もない頃は妻子に会いたいがために生きていたが、もうその願いも薄れていった。

レオンには情報提供すれば出してやると言われているが、いつになったら出してもらえるのだろう。

今のリシオスの生きる希望は目の前にいるレイアか。

たびたび地下牢へやってきては一日の報告をし、牢の側で寝ている。

レイアは他の人間には冷たい態度をとっているが、リシオスに対しては違った。

「レイア」

「うん?」

「どうして...逃げようとしない」

「私が逃げたらリシオスが死んじゃうから。だから私言ったの。リシオスを殺したら言うことは聞かないって」

リシオスは久しぶりに涙を流した。

「だって、リシオスは恩人だから。本当は檻を壊して一緒に逃げたいけど、頑丈でどうしようも...」

リシオスにとってレイアは単なる物として見ていたが、こうして牢に入れられる生活になってからというもの、レイアを見る目が少しずつ変わっていた。

「お前は...いい子だな」

レイアのやっていることはリシオスもわかっていた。

「じゃあ、リシオスもいい人。あの時、助けれくれたから」



時は大きく遡る。

リシオスが合成兵のことを諦めきれず、シャイン村周辺の森を歩いている時だった。リシオスは新しい実験材料を確保するため、危険覚悟で魔物を捕まえようとしていた。

「はあ。次失敗すれば間違いなく処刑されるな。....やはり、人間にこの石を使えば。だめだだめだ。そんな非人道的行為、人間として狂ってしまう。しかし...」

生活は苦しく、もう後もない。

そんな時、森のどこからか少女の声聞こえる。

気になり、声の聞こえる方へと足を進めると崖の側で血を流し倒れている少女がいた。

「子供....。この近くのシャイン村の人間か?なるほど、崖から落ちたのか...。崖の上は急な坂道になってするどい葉を持つ植物も多い。それにやられたな」

少女はリシオスの存在に気づくと、涙声で話しかけてきた。

「痛い...痛いよ...助けて」

「この傷じゃもう助からないな。手足の骨も折れてる。悪いが...どうしようもない」

少女は空を見つめたまま、大声で泣いた。

哀れな姿を見たくなく、リシオスはその場から立ち去ろうとした時ふと思いつく。

「これを食べてみろ」

そう言って少女に差し出したのが、紫色に光る小さな石だった。

「何....それ」

「確率は低いが、もしかすれば助かる。ただ...失敗すれば」

「生きたい」

「恐らく全身を激痛が襲う。経験したことはないが、痛みのショックで最悪」

「生きたい。...生きたいよ」

少女は生きたいという意思を強く込め、ゆっくりと口を開けた。

その目には覚悟があった。

リシオスはそっと石を少女の口の中に入れる。

少女が石を飲み込むと、直後全身を激痛が襲う。

その痛みは全身の骨が同時に折れるほどとも言えるか...。

ただただ悲痛な叫びが森の中に響き渡る。

それでも少女は生きたいと強く願った。

そんな少女の願いに答えたのか、全身から痛みが消える。

「.....」

血が止まっており、体の傷が消えている。

手も動く、足も動く。

少女は静かに起き上がる。

「...」

「せ、成功したのか...!?」

初めての人間への投与だったが、無事成功し少女は合成兵となった。

「...あなた、誰?」

原因はわからないが、少女は記憶が一部欠けてしまったようだ。

また、性格も大きく変わっている。

「名前はわかるか?」

「レイア...。それ以外、何もわからない」

「(目つきも鋭く、元気がないように見える。ネズミ同様身体能力が強化されているなら下手に刺激すると危ないな)」

少女は警戒しているのかリシオスを睨み続ける。

何やら恐ろしい力を感じた。

一歩でも近づこうものなら何をされるかわからない。

「....でも、助けてくれたことは覚えてる」

その言葉と同時に少女から放たれる恐ろしい力のようなものが消える。

警戒心を解き、少女はゆっくりとリシオスに近づいた。

「恩返し...したい」

リシオスが歩き出すと、少女が後ろを歩いてついてくる。

試しにその辺にある木を殴らせると、小柄な体からは想像できないほどの一撃を放った。一般男性より力は少し上か。

「レイア、いいって言うまで動くなよ」

「....わかった」

「(なんだか感情がないように見えるな。まあいい。とりあえず、このくらい離れて...)」

50mは離れただろうか。

リシオスが合図を出すと、レイアはすごい速度でやってきた。

身体能力が大幅に強化されていることは確認できた。

「(これは...大成功だ)」

リシオスは自宅へ連れて帰り、合成兵について再び調べることにした。

レイアは協力的で何をされても文句を言わない。

いや、嫌がるという感情がないのかもしれないが。

「(筋肉は特に...そこらにいる同年代の少女と変わらないな。どこからあの力が...)」

命令には忠実なようで勝手なことはせず、何も言わなければ動こうともしない。

「なんだか、怖いぞ。何か食べたいものはあるか?」

そんな話をしても、興味がないようで冷たい反応ばかりだ。

「私の娘のこんな時期があったな」

危険を覚悟でレイアの頭を撫でてみる。

気のせいだろうか、小さく笑った気がする。

「(子供の扱いは苦手だ)」

リシオスは試しに武器屋で買った安い剣を持たせてみる。

軽々と扱い、適当に振り回しているが疲れる様子はない。

「レイア、魔物って知ってるか」

「....知ってる」

「よし、さっそく外へ出て実験だ」

人通りの少ない真夜中。

戦闘力は高く、恐らく初めて扱うであろう剣を使いこなし次々と魔物を斬り殺していく。その姿を見て、リシオスは感激していた。

これで大勢から認められる研究者になれると。

「レイア、先に帰ってるぞ。そうだな、10匹倒したら帰って来い」

「....はい」

レイアは言われた通り、魔物と戦い始めた。

長い苦労がようやく報われる気がした。

研究に明け暮れ、妻と子はどこかに行ってしまい追いつめられていた日々もついに終わる。

リシオスにとって生きていて幸せを感じるときは誰かに認められることだ。

「(ようやく大勢の人間に認められる日が来るんだな)」

そう思っていたのに....。



今では牢屋の中だ。

昔のリシオスの姿など影も形もなく、目に映るのはやせ細った情けない姿だ。

「リシオス、大丈夫?」

昔は冷たい態度をとるレイアも、少しずつだが話し方が変わっていた。

今では優しい女の子だ。

「まだ、昔のこと思い出せないけど。それでもリシオスが側にいてくれるだけで嬉しいよ。優しいし...。次は頑張るからね」

「そうか、わかった」

「寝るときはここに戻ってくるね。じゃあね」

レイアはニコニコ笑いながら地下牢からゆっくりと立ち去った。

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