第22話 治療魔法ヒール
アルヴァン達が目を覚ますと、シェザルと言う男の馬車に乗せられていた。
シェザルは倒れていたアルヴァン達を馬車に乗せて街まで運んでくれた。
それから数日後、アルヴァンとスヤキが武器屋の帰り道に一人の少女と遭遇し戦闘になる。
少女を立ち去らせることには成功したが、アルヴァンは大きく負傷した。
スヤキは一か八か治すためにヒールと唱えるが、傷は治らなかった。
*******************
静かな街の中でスヤキの必死に呟くヒールだけが聞こえる。
倒れて血を流すアルヴァンの横に座り、優しく触れて何度もヒールと唱える。
「ヒール...ヒール!ヒーール!!」
唱え続けるがアルヴァンの傷は回復しない。
時間が過ぎると共に、スヤキは涙を流し手も震えている。
「(お願いします。どうか、一度だけでも奇跡を...)」
回復薬は宿において来てしまい、買いに行く時間や誰かを呼ぶ時間すら惜しい。
このままではアルヴァンが出血で死んでしまう。
スヤキはひたすらヒールと唱え続けた。
「(どうして、どうして回復しないんですか!こんなにも必死で...必死で)」
「....もういい..」
微かなアルヴァンの声がスヤキの心に刺さる。
「スヤキ...もういい」
「黙っててください!!」
涙を流しながらアルヴァンの傷を睨みつけるも状況は変わらない。
それでも何度も何度も唱え続けた。
「ヒールヒールヒールヒール!」
次第に涙声になりながらも唱え続けた。
「(お願いお願いお願いお願いお願い...します..神様...リセフテューネ様...エスノワール様...たった1回..どうか、お願いします。もう二度と魔法を使えなくなっても構いません。だから、だから...)」
そんな神頼みもなんの意味もなく時間だけが過ぎていく。
アルヴァンの顔がスヤキの涙で濡れる。
静かな町にスヤキの泣く声が響き渡る。
「(どうして!!必死で頑張っているのに!どうして使えないんですか!!この...この...私の...役立たず...)」
『スヤキ、力を入れすぎだよ。ほら、父さんを見ててごらん』
頭の中に懐かしき父親の声が聞こえた。
「お父様...」
********************
スヤキがとても幼い頃、父親と森でおにごっこをして遊んでいた時、父親が転んで足をすりむいてしまった。
「お父様大丈夫!?ヒール!...あれ..ヒール!ヒール!」
必死で父親を治そうと使えない魔法を唱え続ける。
しかし、傷は治らない。
「スヤキ、力を入れすぎだよ。ほら、父さんを見ててごらん」
父親はそっと傷口に手置き、優しい声でヒールと唱えた。
するとゆっくりと傷が塞がっていく。
「わあ!」
「ヒールってのはね、人の傷を治す魔法だよ。スヤキは力を入れすぎたり、気持ちが高まりすぎて集中できてないんだよ。もっと落ち着いて、傷を治したいって思いをそっと込めてやってごらん?」
父親は足に向かって小さな火の玉を放ち、足に怪我を負う。
スヤキはそっと傷に触れ、父親のアドバイス通りにヒールと唱えた。
だが、傷は治らない。
何度も唱え続けるもまるで治りはしない。
「どうしてなの...」
「コツってのがあるけど、スヤキは自分の力をコントロールできてないんだろーね。10歳になったらコントロールできるようになるよ。大事なのは落ち着くことと、治したいって思う気持ちだよ」
「わかった!でも、怪我をしたときは落ち着けないよ...」
「一度コツさえ掴めば集中だけでできるようになるよ。頑張りなさい」
「はーい!」
********************
「(落ち着くこと...治したいって思う気持ち...既にやってますよ)」
必死な思いで努力するスヤキだったが、アルヴァンは静かに目を閉じた。
アルヴァンを揺するも声どころか、反応もない。
地面がアルヴァンの血で染まっている。
「やめてください...これからも皆さんと一緒に居たいです。...だから..起きてくださいよ..アルヴァン..。起きてくださいよ」
そう言っても、状況は変わらない。
「.....死なせません。絶対に...絶対に!」
スヤキはもう一度優しく傷口に触れる。
しっかりと気持ちを落ち着かせ、治したい...その一心でヒールと呟いた。
「ヒール」
すると、突如スヤキの手とアルヴァンの傷口が白く光り始める。
同時にアルヴァンの傷がゆっくりと塞がっていく。
アルヴァンは目を開けた。
「な、なにが起こって...ゆっくりと痛みが...消えてく」
「静かに。少し黙っててください」
回復薬と比べるとかなり遅いものの、着実にアルヴァンの傷は消えていく。
そして5分後、アルヴァンの傷は消えてなくなった。
傷が回復したのだ。
アルヴァンはゆっくりと体を起こす。
痛みを感じず、まるで始めから傷がなかったかのようだ。
「....アルヴァン。よかった...アルヴァンー!」
思わずスヤキはアルヴァンに抱き着く。
全身が震え、嬉し涙を流した。
「スヤキ、苦しいって」
「我慢してください。私を心配させた罰です」
「えええ」
「よかった。本当によかった」
アルヴァンを力いっぱい締め付け、10分は続いただろうか。
満足したのか、ようやくスヤキは離れた。
「スヤキ、使えるようになったな。ありがとう」
「はい!」
頭の中でヒールと言う魔法のコツと言えるものを感じる。
試しに氷の刃を作り、指を斬りヒールと唱える。
1回では成功しなかったが、3回目で傷口が白く光り治った。
スヤキはヒールを習得した。
「(お父様、落ち着くよりも...治したいって気持ちが9割を超えましたよ。でも、おかげでアルヴァンを救えました。ありがとうございます)」
アルヴァンは少しよろめきながらも立ち上がる。
「傷は治ったが、うまく動けないな...。あれだけ出血したらそりゃそうか」
アルヴァンはゆっくりと少女が去った方向へと足を進める。
「まさか追う気ですか!?せめてガウディア達を呼んでから」
「そんな時間ない。一刻も早く止めないと...よし、なんとか走れそうだ」
「わ、わかりました。無理はしないでくださいね」
あれから10分近くは経過している。
死体を辿っていくと街の入口に戻ってきてしまった。
「....逃げられたか。いや、まだそう遠くには行ってないだろう」
その時、街から一台の馬車が出ようとしている。
少女を追うために馬車に乗り込もうと御者に話しかけようとすると。
「あれ?アルヴァンじゃないか」
「シェザル!」
「おー、スヤキもいるじゃん。なんだか、あちこちに死体が転がっててね。襲われたら怖いから今のうちに街から出ようと思ってたんだよ」
「その原因が街を出たんだ。追いかけたいから乗せてくれ」
「え、本当に?わかった、乗りなよ」
「理解が早くて助かる。スヤキも来てくれ」
二人が馬車に乗り込むと、シェザルは馬車を走らせる。
周辺を見回すも少女の姿は見えない。
「一体どんな魔物なんだい?それらしきは見ないけど」
「15か16歳くらいの少女だ」
「なんだって!?」
驚き、シェザルは馬車を止める。
「待ってよ、嘘でしょ。本気で言ってるの」
そう言っていると馬車の正面から一人の少女がこちらに向かって突進してくる。
シェザルは背を向けて気づいていない。
「シェザル後ろ見てください!」
「ん?....あー、お客さん?悪いけど牛乳はもう」
少女は馬を飛び越えシェザルを斬りかかる。
「うおおおおお!?」
驚き後ろに倒れたため助かった。
アルヴァンはこれで少女に遭遇するのは3回目だ。
アルヴァンの姿を見ると、不思議そうな目で少女はこちらを見つめる。
「あれ、生きてるの?」
「お客さん。もう牛乳はないよー」
「....そんなのいらない」
アルヴァンが斬りかかり、少女をシェザルから引き離す。
少女とアルヴァン達が睨み合っている中、シェザルは固まっている。
「シェザル、あれがそうですよ」
「どうみても、少しやんちゃな女の子にしか見えないけどな~」
少女は冷酷な瞳でアルヴァンを威圧する。
しかし、3度目となるとそれは効かず、アルヴァンは剣先を少女に向けている。
「一体どうしてこんなことをするんだ!」
「ふーん....知りたいんだ。でも、教えない。やっぱり、今日はもう帰ろっかな」
こちらに攻撃する素振りもなく少女は背を向けどこかへと歩き始める。
一見隙だらけに見えるようだが、仕掛ければすぐに反撃できるよう少女は警戒している。
「待て、逃がさないぞ」
そのアルヴァンの言葉に少女は歩くのをやめた。
「私、レイアって言うの」
レイアと名乗る少女からは殺意が消え、普通の女の子のように感じる。
振り返り見せた顔は本当にどこかの村に住んでいそうな優しい目をした一人の女の子の顔をしている。
「止めるなら、ここで殺すよ」
三人の様子を遠くから伺い、剣を構える。
「....人を殺す理由はなんだ」
「教えない」
「そうか...。スヤキ」
「わかってます。レイアでしたっけ。話さないのなら、私たちもそれ相応のことをしますよ。罪のない人を散々殺し続けて楽しいですか?」
レイアはニッコリと笑い、大声で言った。
「うん、楽しいよ!」
その発言と同時に戦いが始まる。
少女を睨みつけ、アルヴァンが剣を構え突撃し、スヤキは後方から氷の刃を準備する。
「シェザル、ここは危険です。遠くへ行ってください」
「だけど、どう見ても普通じゃないよ!」
「いいから逃げてください!」
言われるがまま、シェザルは馬車を走らせ遠くへと逃げる。
三度目の戦いとなると、レイアの威圧は慣れているのか怯まずに斬りかかる。
「絶対に許さないからな!」
「....どうでもいい」
剣でガードし、あっさりと薙ぎ払いアルヴァンに仕掛ける。
素早い連続攻撃を繰り出し、街の中とは少し戦い方が違う。
「(速い!街中と違って広い場所だと全力で殺しに来るな...攻撃する余裕がない!)」
少しでも気を抜けば、一撃で葬り去られてしまう。
スヤキは援護したいものの、アルヴァンを真ん中に挟み盾して利用されている。
横に動きたくとも、防御に集中してそれどころではない。
「どうしたの?守ってばっかりじゃ勝てないよ」
レイアが力を込め、横に大きく剣を振りアルヴァンを怯ませる。
「(やっぱり力任せな戦法で来たな。威力は大きいが、お前は怯んだ後絶対に正面から突撃してくるのは知ってる)」
予想通り、正面から突きを放った少女の攻撃を避け、横から攻撃する。
同時にスヤキが火の玉を放った。
レイアは大きく飛び跳ね同時にかわし、そのまま空中からアルヴァンに向かって剣を振り下ろす。
「空中なら逃げ場はない!」
アルヴァンは地面を蹴り上げ、砂を巻き上げレイアの視界を奪う。
攻撃を避け、無防備はレイアにアルヴァンは攻撃をせず立ち止まりスヤキが氷の刃を周辺を走り回り投げつける。
「安易に飛び込めば返り討ち。ここは俺の位置を探らせないように....」
ほとんど無音で飛んでくる氷の刃を少女はぎりぎりのタイミングでかわしていく。
驚き、大きく態勢が崩れたのを見逃さずにアルヴァンが少女に斬りかかった。
アルヴァンは反応が遅れたレイアの左肩を斬りつける。
一撃当てるとすぐに飛び退き、反撃をかわした。
「経験なら俺達だって負けてないぞ」
「....痛い。許さない」
「私たちも許しはしませんよ」
同時にレイアの視界が戻り、自身の傷を優しく撫でる。
同年代の人間なら痛みで涙を流すほどだが、レイアはこちらをただただ睨みつけている。
「長期戦は厄介だな」
突如、少女はアルヴァンに向かって剣を投げつける。
予想外の行動に反応が遅れ、避けるも大きく態勢が崩れる。
しかし、レイアの狙いはアルヴァンじゃない。
迷うことなくスヤキに向かって襲い掛かる。
服の中から冒険者から盗んだものと思われる短剣を取り出し、スヤキに仕掛ける。
高い身体能力から繰り出される素早い攻撃は剣の時とは比べものにならない。
「ファイ」
「遅いよ」
レイアがスヤキの胸元を数回連続で斬りつける。
「あが.....なんて、嘘ですがね。ファイアーボール!」
油断した少女の顔に火の玉をお見舞いし、スヤキは後ろに下がった。
服の下に氷の刃を隠し、いざ狙われれば胸に攻撃が来るようにあえて防御を弱めていた。
「ああああああああ!熱い...顔が熱いよ」
誰だろうと顔を焼かれれば大きな叫びをあげてしまうだろう。
レイアに大きなダメージを与えたと同時に、やけどを負わてこれで大きく動きが鈍っただろう。
「殺す...殺す...絶対に殺してやる!」
レイアの体から凄まじいほどの殺意があふれ出す。
大きな雄たけびを上げ、少女とは思えないほどの鋭い目つきでスヤキを睨みつけた。
「絶対に...ぐちゃぐちゃにしてやる」
アルヴァンが駆けつけようとするも、間に合わず少女は先ほどとは思えない速度でスヤキに接近し、短剣ではなく顔に向かって拳を叩き込んだ。
男性に匹敵するほど重たい一撃を放ち、更に数回連続で殴りつける。
アルヴァンが近くまで接近すると飛び跳ね後ろ向きに一回転しアルヴァンの背後に移動する。
「その動きはもう読めてる!」
振り向きと同時に剣を横に振り、向かってくるレイアの左腕に大きなダメージを負わせた。
「いっ...ぐ」
「お前は初めて戦った時にその強さを発揮できる。外見からは想像つかない身体能力。そして、威圧で相手の動き鈍らせる。だが、お前の動きは単純で見切りやすい。三度目ともなると、落ち着いて対抗すれば苦戦はしない」
スヤキは顔の傷を治し、氷の刃を準備する。
左腕が損傷し、これで大きく戦いにくくなったことはレイア自身も理解している。
「....」
逃げようとしたレイアの右足にスヤキが氷の刃を突き刺した。
少女は小さく悲鳴を上げる。
「逃がしはしない。ここで終わらせる」
本来、レイアはアルヴァンよりも身体能力は上回っていた。
だが、戦い方をあまり経験しておらず拮抗どころか劣勢に持ち込まれてしまう。
「や...やめて」
片足ではスヤキの魔法は逃げられそうにないと判断し、レイアは涙を浮かべる。
「お願い。やめて」
そんなレイアの左足にも氷の刃を突き刺し立てなくした。
「都合のいいこと言わないでください。貴方がこれまで殺した人たちのことを忘れましたか?」
レイアは這いつくばってどこかへ逃げようとしている。
アルヴァンはレイアの前に立ち、顔に剣先を向ける。
この少女が今までに何人も殺してきた殺人鬼だ。
「お前をこのまま逃がすわけにはいかない。どこへ行こうとしているのかは知らないが、その状態じゃ魔物に生きたまま食われるだけだ」
レイアは泣くことしかできない。
そんな相手に剣を向けることは心苦しいが、アルヴァンはぐっと堪える。
「....助けて」
「アルヴァン、容赦なくやってください。貴方ができないなら私が」
アルヴァンから剣を奪い、スヤキはレイアの心臓を狙う。
「....悪いこと...したもんね。いっぱい酷いこと..したから....こうなるんだよね。知ってたよ、悪いことしてるって」
「だったら、どうして」
「....言えない。言いたくない」
「わかりました。貴方が天国に行けるように祈ったあげます。どうか、安らかに!」
剣を突き刺そうとしたその時、前から3台の馬車がこちらにやってくる。
馬車はこちらの前で止まると、中からは一人の男が複数の兵士を連れやってきた。
「お前たち、でかしたぞ」
男はレイアの前に歩いてくる。
「私はレオンって言います。この怪物を捕まえようと日々追っていました」
「え...何言ってるの、私は」
レオンと名乗る男はレイアの顔を思いきり蹴った。
大きな痣ができ、痛がるレイアを無視しレオンはアルヴァンとスヤキの所へやってくると袋から銀貨2枚を手に握らせる。
「少ないですが、これはお礼です。この怪物は大勢の人間を殺しまわって私たちも手を焼いていたんです。この怪物は私たちが処分します」
「おい、ちょっとまて。何者だ!」
「語る必要のないことです。皆さん、この怪物を城に連れて帰りますよ!」
小さく暴れまわるレイアだったが、兵士数人に拘束され馬車に乗せられどこかへと連れて行かれる。
「....なんだあいつら」
「城と言ってましたから、どこかの王国の人たちでしょうか。とにかく、終わりましたね」
連続で魔法を使ったせいか、全身に疲れがたまりスヤキはその場で倒れる。
「この銀貨1枚で新しい武器が買える!」
「私は新しい服を買わないといけませんね。胸元がボロボロです。こんな服装で街中歩きたくありませんね」
アルヴァン達は倒すことはできなかったものの、レイアという謎の少女に勝利する。
その場で数分休憩し、二人は静かに街へと戻った。
「アルヴァン、あの時私が泣いたこと二人には黙っていてくださいね」
「了解。じゃあ、俺が死にかけたことも内緒でな。回復魔法使えるようになったって報告したら二人はどんな報告するかな」
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