第21話 殺意の襲撃
大空の大陸へとたどり着いたアルヴァン達は夢の大陸の守護神リセフテューネと出会う。記憶を返そうとするが、アルヴァンは拒否し断った。
守護神や過去の話を聞き、大空の大陸から降りようとした時四人は大陸から落とされるのだった。
**********
「...ここはどこだ」
謎の揺れにより目を覚ますと、アルヴァン達は馬車に乗せられていた。
額に布を被され、仲間たちは皆気絶している。
「(確か大空の大陸から...落ちてきたのか?)」
一度味わった経験だが、慣れるということはないようだ。
少し頭が痛く、混乱していると若い男の御者が話かけてきた。
「あ、目が覚めた?」
「だ、誰だ!」
「あー、ごめん。びっくりしたよね。近くの街まで荷物を運ぶ道中に君たちが草原のど真ん中で倒れていたからこのまま街まで送ったあげようかなと思ってね」
馬車の中にはいくつか荷物が乗せられており、片隅には綺麗な槍が置かれている。
「別に怪しいものじゃないよ。僕は近くの牧場で住んでいてね。ヒカイトって街まで牛乳を届けにね」
「そ、そうか。見たところ一人のようだけど魔物とか大丈夫か?」
「あはは、心配ないよ」
その時、馬車の前に5匹の黒い毛皮で覆われ、鋭い牙を持った狼の魔物が現れた。
「言ってる側から!助けてくれた恩返しだ、俺に任せ」
「大丈夫。サーベルウルフはよく見てるから」
馬車から飛び出そうとするアルヴァンを止め、男は馬車の片隅に置かれた槍を持ち飛び出す。
「こう見えても僕は小さいころから槍使いに憧れててね。仕事の合間に日々魔物と戦っているのさ!」
一斉に飛び掛かるサーベルウルフを薙ぎ払い、男は次々と撃破していく。
その実力はアルヴァンと互角と言える。
男は5匹の群れを簡単に倒し、馬車に戻った。
「この近辺は人間を襲う魔物が増えててね。馬車がよく襲われるから護衛などを雇ってたりするんだ。その分お金がかかるけど、僕は戦えるから一人でできるんだ」
「...すごいな」
「ずっと練習してたからね。...あ、自己紹介してないや。僕の名前はシェザルだよ」
「アルヴァンだ。シェザル、よく俺達を馬車に乗せたな。悪人だったらどうする」
「その時は刺し殺すかな」
「.....」
「あはは、冗談だよ。君が起きたときはしっかり警戒してた。それよりも」
シェザルは馬車を止め、アルヴァンの冒険者プレート手に取り、目を光らせる。
「君たち冒険者なんだろ!いいな~。僕も冒険者になりたいって言っても父さんは反対ばっかりでね。でも、魔物と戦えてるから文句はないけどさ」
馬車はゆっくりと動き出す。その衝撃で気絶していたガウディア達も起きる。
アルヴァンは事情を話し、シェザルは怪しいものではないことを伝える。
皆からお礼を言われると、シェザルはニコニコと笑っていた。
「そうえいば、君たちどうしてあんなところに倒れていたの?」
「空からき」
「バカ、変人って思われるぞ」
大空の大陸の話は隠しておいた方がいいだろう。
困ることではないが、とてもじゃないが信じてもらえそうになく変人として見られたくない。ガウディアは野宿していたとごまかす。
すると、シェザルの顔つきが変わった。
「....野宿はあまりおすすめしないよ。最近、光の大陸がおかしなことになっていてね」
「(そういえば、リセフテューネ言ってたな。光の大陸の上を飛んでるって...。そうか、ここは光の大陸か)」
「オウタイ王国って知ってるかな?そのオウタイ王国がね、魔物に襲撃されたらしいんだよ。大多数の死者が出てね」
四人の頭の中でオウタイ王国で出会った謎の少女のことがよぎる。
「あくまで噂だけどさ、その魔物の中に人間がいたんだって。.....あれ、みんな顔暗いよ?物騒な世の中だよね。死者の中には強い冒険者もいたらしいよ、怖いなー」
「その後どうなったかわかりますか?オウタイ王国は滅んだんですか?」
「うーん、聞いた話じゃ滅んだわけじゃないね。でも、オウタイ城は半壊らしいよ」
シェザルが話すにはオウタイ王国は厳重警戒がされており、入国するには厳しい審査を通らなければいけないらしい。商人たちの馬車なども念入りに警戒、または取引中止となり、嘆いている声を聞くのだとか。
兵士や冒険者だけでなく、市民にも死者が出ているため心は沈んでいるらしい。
「遠いけど、おいしいからって理由でよく酒場の店主さんと取引できてたんだけどね。おかげで売り上げが減っちゃって父さんも泣いてるよ。あ、ヒカイトの街が見えてきた」
街に着くと、四人は馬車から降りシェザルに改めてお礼を言ってから別れる。
食事をするため酒場に入ると、あちこちからオウタイ王国の話が聞こえる。
「王国襲撃か...。魔物があちこちにいる時代別に珍しい話じゃないんだがな」
「あの女の子のこと考えると、気になるよね」
地図を確認すると、ここからオウタイ王国まではかなりの距離がある。
ライウン王国から行くのと同じ程度か。
「この街は大丈夫でしょうか」
城と違い兵士は数人しかおらず、その兵士もあまり強そうとは言えなく、攻め込まれれば大変なことになる。
幸いギルドがあり、冒険者は多いため多少なら大丈夫かとは思うが。
気になるのは国が襲われたことだ。
「町や村じゃなく、国だもんな。守りも桁違いなのに、なんで襲撃された」
あの時襲ってきた謎の少女もなぜオウタイ王国に現れたのかわからない。
偶然か...それとも。
「もう、ご飯まずくなるからさっさと食べようよ」
「お前、よく食欲湧くよな....はあ、そういえば俺ら依頼全然やってないからこのままじゃ無一文だな...ランク1の頃を思い出だした」
ギルドに行くと、ボードにはたくさんの依頼書が貼られている。
この近辺だけでなく遠いところからの依頼があり、ほとんどが魔物の討伐依頼だ。
受付嬢に聞くと、オウタイ王国が襲撃されて以降、ギルドが機能しなくなったために、あちこちに依頼が流れて受ける側も依頼する側も苦労しているらしい。
「なるほど、依頼書を見るかぎりじゃ外へ出かけた人間が襲われたりしてるな。村の中にまで攻められたってケースはないようだな。適当にランク3や4やるか」
四人は夜まで魔物と戦い続けて、そこそこの報酬を貰う。
似た依頼をやっている冒険者と出会い共闘や奪い合いにもなったりした。
「アルヴァンの目標も達成できたし、今後俺たちはどうする?ここで長時間滞在して生きてくか?」
「何言ってるの。次は闇の大陸に行くんでしょ。仲間の仇を討ちたいって言ってたでしょ」
数十日前にガウディアは闇の大陸で起きたことを話した。
確かに闇の大陸に行き仲間の仇を討ちたいが、どうも実力に不安を感じていた。
「俺たちは弱い強いかで聞かれたら微妙なところだよな。まだ弱いと言える。バルト王国は本当に強い国なんだ。そんな王国が滅ぼされるくらい強い魔物がたくさんいる。だから、世界中を回ってもっと強くなってからにしないか?」
「ガウディアがそう言うなら....私はいいけど」
「でも、いいのか?」
「いいんだよ。中途半端な状態で行って、お前たちを危険な目にあわしたくない。俺達は風、光、炎、夢しか行ってないだろ?闇を除く残り4つを回ろうぜ。....そこでだ、今日出会った冒険者と話して思ったんだが、これからは報酬を四等分にしないか?他のパーティはみんなそうしているらしい。それぞれで武器や防具を買ったりしてるんだ。いいと思わないか!?」
ガウディアは袋からたくさんの銅貨を出し、綺麗に四等分する。
「なるほど...全員がやりくりする技術を身につけられるってわけか...。いいな」
「反対はしませんが、道具や食事も各自ですか?」
「道具はそうだな...皆で出し合う。食事は各自。明日からそうしよう」
翌日、新しい決まり通り報酬は4等分になり各自が管理することになった。
いつもはガウディアが管理していたため、硬貨を貰うことに慣れなかったりと小さな苦労もあった。
それから5日は経ったある日、アルヴァンは新しい武器を買うためにスヤキと武器屋にきていた。
「ランク5にはなかなかなれないな」
ランクアップ試験は依頼達成数が一定に達すると実施されるが、ギルドによって目標達成数は違ったりする。
「私は昨日やっとランク2です。何が悲しくてシープホーンの群れと激闘を...」
「寝る間を惜しんでたんだっけか。言ったら手伝ったのに....それよりも」
「わかってます。ガウディアとナズナですね」
二人はガウディアにアイコンタクトを送られ再び別行動をしている。
光の大陸が変な騒ぎに合っている中でも、ガウディアの恋人計画は止まらない。
「そういえば、ランク9の冒険者がいたんだよ。少し話したんだが、ランクの高い冒険者は国から依頼を受けたりするらしい。この街ではランクに合う依頼がないって嘆いてた。お、この剣いいな。朝食我慢なんとか買える...今使ってる剣も悪くなってきてるしな」
「無理はやめてくださいね。そろそろ戻りますか」
「ちょっと待ってくれ。くそ...ほしい、この剣ほしい。店主さん、1割値下げしてくれ!」
「バーカ言ってんじゃないよ。うちは値下げなんて絶対にしないね。諦めて金用意しな」
「そこをなんとか!」
「だめだめだめ。絶対値下げしないよ。諦めな!」
その後も必死に交渉を仕掛けるも失敗し、諦めて武器屋を後にする。
それと同時刻、ヒカイトの街に剣を持った黒髪の小柄な一人の少女がやってくる。
「おいおい、お嬢ちゃん冒険者かい?こんな時間一人で外出は危な」
少女は話しかけてきた男の胸を斬りつけた。
「え...え?」
冷酷な目でこちらを睨みつける少女。
男は思わず無言になり、そのまま頭に剣を振り下ろされる。
「......確か襲えって言ってたのはここだったかな。人少ないや...」
真夜中は人通りも少なく、現場を目撃した人間はいない。
少女は街の中に入り、外を歩いていた人間に襲いかかった。
皆、いきなり襲われ声を上げる前に死んでいく。
「.....ふふっ」
そんなとき、冒険者らしき男が少女の前に立ちふさがる。
「お前、こんな時間に何やってる。....なっ、人が死んでる!?お前...まさか」
「.....そうだよ。貴方も殺すね」
***********
武器屋を後にし、アルヴァンとスヤキは宿に向かっていた。
「そんなにほしいなら私も出しますよ」
「ダメだって。こういうのは自分でなんとかしないと」
「私武器は魔法なのでお金に余裕はあります。杖も滅多に変えることもないので」
「杖って持ってていいことあるのか?」
「硬いので近づかれたときの反撃用としてなら...。聞いた話では魔法の力を上げる杖もあるそうですよ」
二人が歩いていると、前からゆっくりと一人の少女が歩いてくる。
始めは気にも留めなかった二人だが、すれ違いざまに少女の持っていた剣に真新しい血がついていた。
「アルヴァン、今の子なんだか怪しいです」
「ああ。血がついてたな」
角を曲がるとすぐに、首から血を流し倒れている冒険者の男がいた。
「し、死んでる」
「やっぱりさっきの少女は」
二人の背後から恐ろしい殺気を感じた。
先ほどすれ違った少女が遠くからこちらを睨みつけている。
この感触、オウタイ王国で味わったものと似ている。
間違いない、あの時の少女だ。
「スヤキ」
「わかってます」
ここは町中、オウタイ王国同様既に何人かの死人が出ているに違いない。
アルヴァンは相手の実力をよく知っているからこそ、下手に動けない。
「アルヴァン、逃げますか?」
「....」
スヤキは戦ったことはないものの、相手の実力はわかっているようだ。
ここは裏路地、戦いやすい場所とは言えない。
「逃げてもまた被害が出る...だけど戦える相手じゃ」
「せめてガウディアとナズナを」
「......こないならこっちから行くよ」
少女が走ってこちらに襲い掛かる。
迷わず二人はその場から走り去る。
「スヤキ、ギルドに逃げるぞ。そこなら戦える人間が多い。絶対に野放しにだけはしちゃいけない!」
だが少女の足は速く、ギルドにたどり着く前にこれでは追いつかれてしまう。
このまま背中を見せ続けてはあっさりとやられてしまう。
「仕方ない、俺が戦うか」
「俺がじゃなく、俺達と言ってください。私も援護します。いいですか、攻撃を防ぐことを最優先で」
「了解!」
アルヴァンはスヤキの前に壁になるように立ち武器を構えた。
少女はこちらに近づくと大きく剣を振りかぶり強烈な一撃を放つ。
あの時は相手の威圧に負けたが、二度目ということもあり動きはわかるためアルヴァンは剣で防ぐ。
「ファイアーボール!」
火の玉で攻撃すると少女は大きく飛び退き避ける。
大きな音が鳴り、攻撃と同時に人を集めることができる。
少女は逃げる様子もなくもう一度アルヴァンに仕掛ける。
「(さっきと同じ攻撃か..!?)」
しっかり注意すれば重たい一撃でも防ぐことはできると考えていた。
しかし、少女は大きく飛び跳び、アルヴァンの上を飛び越え二人の背後に移動する。
二人が後ろを振り向いたときには既に少女の姿はなかった。
「き、消えた!?確かに後ろにいたはずだが」
背後から音が聞こえる。
「(しまった、振り向く前にまた飛び越えて前に移動したのか!まずい、間に合わない)」
急いで振り向くも既に少女は剣を振りかぶり、アルヴァンを斬りつけた。
「ぐあっ」
怯んだアルヴァンに追い打ちをかけるように少女は腹に突き刺す。
無防備なアルヴァンにとって大きなダメージとなりその場に倒れた。
「アルヴァン!ファイ」
「.....次はあなた」
魔法を唱える時間もくれず、少女はスヤキの懐に移動した。
「させるかあ!」
突如アルヴァンが起き上がり剣を振った。
避けられてしまったが、引き離すことには成功した。
標的はアルヴァンに変わったが、とてもじゃないが戦える状態じゃない。
「スヤキ、俺を置いて逃げてくれ...悪いが今の俺じゃお前の盾になることすら怪しい...数秒程度なら時間を稼げる」
「それ以上動くと傷が酷くなりますよ!!...アイスエッジ。さっきは油断していただけです。もう二度目ありません」
反対にスヤキがアルヴァンの前に立ち、氷の刃を構え少女を睨みつける。
少女は警戒し仕掛けてこない。
「(はやくアルヴァンの傷を治さないと...でも薬は宿に。音を鳴らしても人はまるで来ませんし、このままじゃアルヴァンが....)」
数秒睨み合いが続き、少女はこちらに向かってくる。
氷の刃を投げ、少女が横に避けるとすぐに火の玉を打ち命中させる。
ダメージはあまり入らなかったようだが、衝撃により動きは止まる。
「....熱い」
「二度目は熱いで済みませんよ。アイスエッジ」
スヤキは氷の刃を3つ作り出し、反撃に備える。
魔法を連続で使うと体に疲労は溜まるが相手に悟られないようにしている。
「....」
未知の攻撃に危険と判断したのか、少女はその場から立ち去る。
立ち去った先からは女性の悲鳴が聞こえた。
「(一難は去りましたか...。でも、更なる犠牲者が...でもそれよりもアルヴァンです。道具屋まで走ってる時間はありません。人を呼んでも...だめ、そんな時間も!)」
「...悪い。俺...ここまで..かもな。回復...ないと...こん...なに苦し..」
「静かにしてください。大丈夫、私が治します(神様お願いします、奇跡を起こしてください)」
スヤキはアルヴァンの体にそっと手を振れ、ヒールと呟いた。
しかし、傷は治らなかった。
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