第20話 天舞う白竜
無事ロブロブの森を抜け、四人はモクエンの街へと到着した。
船に乗り、夢の大陸へとやってきた彼らだったが、そこは大陸と言うよりも小島と言った方がいいほど寂しい場所だった。
その時、砂浜に一つの石板を見つけ、書かれている通りに名前を叫ぶと別世界のような場所にいた。
目の前にそびえ立つ塔を上ると、そこは依然夢の中で見た世界が広がっていたのだった。
************
黒く、足元まで届くほどの長い髪の少女はアルヴァンをじっと見つめていた。
『あ~誰じゃったかのー。わし最近物忘れ酷くてなー』
突如現れた少女にロブロブの森のこともあってか、アルヴァンを除く三人は身構えていた。
『なんじゃなんじゃ。わしに対する警戒心を強く感じるんじゃが。わしは敵じゃないぞ』
「そう言われて信じられるわけないでしょ」
そんな三人を気にも留めず、アルヴァンに近づく。
アルヴァンがじっと立っていると、スヤキが前に立ち、アルヴァンを守る。
「アルヴァン、しっかりしてください」
『お主に用なんてない。どけ』
少女が指を鳴らすと、スヤキが突然横に吹っ飛ばされる。
素早く態勢を立て直し、少女に向かって火の玉を放つ。
だが、少女に到達する前に火の玉は消滅してしまった。
『失礼な奴らじゃの~。わしを誰だと思っとる。わしはブゲアアアアア!』
少女の死角からスヤキが火の玉を誘導し、背中に当てた。
少女は少し吹っ飛び、起き上がると指を鳴らす。
『ええい、じっとしとれ!』
すると、スヤキの足元から無数の光る植物のツルのようなものが飛び出し、縛りあげる。しっかりと拘束され、動こうものなら強く締め付けられる。
「く、苦し...」
そこへナズナとガウディアが攻撃しようとすると、二人は急に強い力で地面に押し付けられた。
「な、なんだこれ」
「体が...重い」
『安心せい。じっとしておればわしもそれ以上何もしない。さて.....アルヴァンじゃったかな。久しぶりじゃのう』
アルヴァン同様、少女もまたアルヴァンのことを知っていたようだ。
間違いない、この少女は夢で出会ったことがある。
「アルヴァン、そいつがお前が言ってた少女か!?」
「あぁ。話し方で確信した」
『おいおい、話し方って。まーいい』
少女が指を鳴らすと、ガウディアとナズナの地面に落ち着けられる力が消えた。
魔物というよりも、もっと上の何かを感じる。
薄々とスヤキは少女の正体に気づいていた。
「あ...私も開放してく...ださい」
『お主は解放したらまた攻撃してきそうじゃからな。しばらくそのままじゃ。なーに、死にはせんよ。.....久しぶりじゃのう、アルヴァン。また会えると信じておったぞ』
「やっぱり...あの夢は...」
アルヴァンが見た夢。
アルヴァンが目覚めると、この大空に浮かぶ大陸にいた。
そこで出会った少女に自分は異世界から来た人間だと言われる。
混乱している中、少女に記憶を消された後、アルヴァンと名付けられ風の大陸に落とされた。
始めは単なる夢だと思っていたが、徐々に本当のように感じここまでやってきた。
僅かだが強い力を放つ少女。
『お主と少し話がしたい。今から話すことで三人が混乱しても悪いからしばらく気絶してもらおうか』
少女が指を鳴らすとアルヴァンを除く三人は気を失った。
アルヴァンの体をじろじろ見ながら、腕や足を触ったり、アルヴァンの額に触れ、記憶を探る。
『お主強くなったのー。あの時とはまるで違う、さすがじゃな。ここまでたどり着くのに随分といろんなこともあったようじゃし』
「おかげさまでな」
『完全に過去の記憶は消したはずじゃが、かすかに残ってた記憶が夢を見せたようじゃの。おかげで予想よりも早く会えた。....とりあえず、消した記憶を変えそうか?』
少女は手から光り輝く球体を生み出す。これがアルヴァンの消された記憶だ。
球体をアルヴァンに差し出すが、アルヴァンはなかなか受け取ろうとしない。
「....もし、この記憶を受け取ったらどうなる?」
『そうじゃな、本来のお主に戻り今のお主の記憶は薄れていくじゃろ。数分もしないうちに、あやつらのことも忘れる。お主の世界を探すと約束したじゃろ?見つけておいたぞ』
アルヴァンのすぐ横に大きな扉が出現する。
扉が自動で開くと、どこか別の世界へとつながっている。
『その先が本来お主がいた世界じゃ』
「俺は帰れるのか?」
『それはまだできんな。あくまでお主のいた世界を見つけただけであって、その世界のどの時間軸にいたかまでは特定しておらん。時間はかなりかかりそうじゃ』
扉が消滅し、少女はもう一度球体を差し出す。
だが、アルヴァンは受け取ろうとはせずに背を向けた。
『おいおい、いらんのか?』
「....そうじゃないんだ」
『仲間のことか...。だが、別れは早い方がいい。時間が経つにつれ苦しくなるだけじゃぞ』
「まだ帰れないなら記憶を貰っても仕方がないだろ。それに...俺はみんなと...」
ガウディア、ナズナ、スヤキとは短い間ではあったが苦楽を共にした仲間だ。
この記憶を受け取ってしまえば、彼らのことは忘れてしまう。
忘れたくはなかった。
『お主はそういう人間になったか。わかった、しばらくこの件は保留にしておいてやろう。さて、この話はやめてあやつらを起こすか』
少女は光り輝く球体を消し、指を鳴らした。
すると、気を失っていた三人が目を覚ます。
「き、気絶してたのか..俺達」
「なんだか、頭が痛い」
「一体何が...あがっ..痛い..かはっ」
植物のツルがスヤキの体を締め付ける。
アルヴァンが急いで植物のツルを斬り落とす、スヤキはようやく拘束から解放された。
全員から少女に対する敵意が消た。
『自己紹介がまだじゃったのー。わしはこの大空の大陸の守護神、リセフテューネじゃ。まー、昔は夢の大陸の守護神じゃったがな』
「やはり守護神でしたか」
『そうじゃそうじゃ。わしは神様ちゃんじゃぞ、ムハハハハハ!』
しかし、アグニスと違い体からは力を感じられない。
どこにでもいる髪の長い少女と変わりはしない。
威厳のかけらもない。
「アグニス同様、神って言われても信用できねーな。力はあるみたいだけれどよ」
見た目による影響が大きく、威厳がまるで感じられないためか迫力に欠ける。
『ほっほー。これならどうじゃ』
突如リセフテューネから眩しい光が放たれる。
光が消えると、そこには巨大な白竜が空中に浮いている。
少女の姿とは違い、威厳だけでなく力も伝わってくる。
白竜は大陸の周りを飛び回ると、再び元の場所に戻って少女の姿へ変わった。
『やはり竜の姿は疲れるの~。腹減ったわい。おい、そこの女』
リセフテューネがナズナを指さした。
ナズナは怯むも、目当てはナズナの荷物だ。
『食い物持っとるじゃろ?わしに少し寄越せ』
ゆっくりと食料が入った荷物を持ってリセフテューネに近づく。
荷物が近づくにつれ、口からよだれを垂らし赤子のような顔をしている。
ナズナが肉を差し出すと、素早く取りむしゃむしゃと食べている。
『うっめ、うっめぇ。久しぶりにいいもの食った。まだあるじゃろ、くれ!』
荷物を奪い取ると中に顔を突っ込み、クチャクチャと音を立てて貪り食う。
食べ終わると、満足したのかその場に横になり腹を二回叩いた。
『うまかったぞ。わしは満足じゃ』
「わ..わ...私のご飯が..」
食べ散らかされ、汚くなってしまった自分の荷物を見てナズナが小さく涙を浮かべた。
やっぱり、この神からは威厳なんて感じられない。
リセフテューネはその場に浮き、空中をゆっくりと漂っている。
「どうして、大陸が空に浮いたんだ。夢の大陸で何かあったのか?」
『まーいろいろとな。わしは人間からは願いを叶える神さまとして知られておってな』
大昔、夢の大陸が存在していた時の話だ。
夢の大陸にはリセフテューネという神がおり、その大陸に住む者たちの願いを叶えてきた。
叶える願いは小さなものだけで、不老不死や力がほしいという願いは断っていた。
多くの民がリセフテューネの前に現れ、次々と願いを叶えていき、その噂は各地に広がり外部から大勢の人間がやってきた。
昔は1日数人程度であったため、リセフテューネはのんびりと過ごしていたが1日に100人を超えることもあり、疲れ果てリセフテューネは願いを叶えることをやめた。
それでも、願いを叶えてほしいと言う者は現れ続け、嫌になったリセフテューネは大陸の一部ごと空へと浮かび上がらせた。
残された部分に住む者はやがて他の大陸に移り住む、誰も住まなくなった夢の大陸は少しずつ小さくなっていった。
『わしはあくまで守護神じゃ。人間の欲望のために生まれてきたわけじゃない。民には悪いことはしたと認めるがな』
「その守護神ってなに?」
「名前の通り守護するんだろ」
ガウディアの顔が突然強張る。
「.........でも、この魔物で溢れかえる世界を守ってるとは言えないがな。話で聞いたが、守護神は各大陸に一人ずついるんだろ?どうして人間を助けれくれない!?」
ガウディアの言葉にリセフテューネは反論しなかった。
「俺の王国は魔物に滅ぼされたんだ。どうして助けてくれなかった」
嫌な記憶が蘇り、リセフテューネに怒りをぶつける。
あの時共に戦ってくれれば、皆は死なずにすんでいたかもしれない。
『....』
「ガウディア、落ち着いてください。闇の大陸の守護神は...」
「なんだよ。いないとでも言いたいのか」
『ほう、お主は闇の大陸の者か。.....悪かったな。あいつに代わり、わしが謝る』
リセフテューネは地面に戻り、ガウディアの前に立ち深く頭を下げた。
そんな姿を見せつけられると、ガウディアはどこに怒りをぶつけていいかわからなくなる。
『お主が怒るのは当然じゃ。わしは...いや、わしらは使命を果たしておらんからな』
「どうしてですか。私は既に守護神はいないと思っていました。でも、実際に存在するならどうして人間を魔物から...」
『....わしは最後まで反対したんじゃ。永遠に人を守り続けようとな』
***************
遥か昔、この世界は大きな二つの大陸しかなかった。
この世に魔物はおらず、大勢の人間が平和に暮らしていた。
しかし、その平和もある出来事によって崩壊した。
二つの大陸が大きな戦争を起こしたのだ。
海を渡り、相手の大陸へ侵入し村や町などを滅ぼしていった。
大陸中の国、街、ましてや村までもが戦争に参加し多くの死人が出た。
一度は戦争が終わったものの、両者の中は悪くなる一方で小さな問題が怒るとすぐに攻めあっていた。
そんなこの世界には一人の神がいた。
神は人間が戦争を起こすたびに人間界に現れ、説得し戦争を止めていた。
だが、終わることのない戦争についに人間たちは神の怒りを受け、大きな二つの大陸は9つに分けられた。
同時に神はそれぞれの大陸に守護神という小さな光の姿をした生物を生み出し、地震や津波などあらゆる災いから人間を守り、再び戦争が起きたときは戦争を止めるようにと使命を与えた。
守護神は人間より強く、人々の崇める心によってより強い存在となっていく。
反対に人々からの信仰が無ければ力を失っていく。
時が経つにつれ、守護神たち小さな光の姿からそれぞれ別の姿へと変えていった。
また、同時にそれぞれ感情という物が芽生え、争いの沈め方を変えていた。
ある者は人々の心を癒し武器を落とさせ、ある者は戦地に現れ人々を滅ぼし恐怖に陥れ止めていた。
長い年月が経過し、ある出来事が起こった。
異世界から魔物と呼ばれる者たちが攻め込んできた。
圧倒的な力で人々を恐怖に陥れていた魔物達は守護神によって滅ぼされた。
幾度となく攻め込まれ、その度に守護神は戦ってきた。
ある日のこと、一人の守護神が他の守護神を集めある提案をした。
今後、人を守るのはやめようと。
『私たちが守り続けていては人間は成長しない』
『確かにな。あいつらは感謝どころ俺達を魔物と同じような目で見ている』
『考えすぎじゃろ。使命を忘れるな』
『俺様は人間の下で生きるつもりはない。本来力のあるものが上に立つべきだ。あいつら喰らってやろうか』
『貴様ら、そんなことをしてみろ。私が直接ここで滅ぼすぞ』
『ふぁ~こわいな。お前も力で戦争止めてたんだろ。知ってるんだぜ、お前が破壊神として恐れられてるのがよ』
『やめんか!わしらはなぜ生み出されたか忘れたのか』
『うるさい。俺様達は好きにやらせてもらう』
その日を境に数人の守護神たちは守るのをやめた。
戦争が起こっても、災いが起きても、魔物が攻め込んできても何もしなかった。
そして魔王と呼ばれる者が誕生し、世界は魔物で溢れかえった。
*************
『守護神は今でも生きておるよ。守護神の考え方は3つのタイプにわけられておってな。人を愛し人のために活動する者、人を嫌い人に手を出す者、どちらの考えでもない中立な者。まあ、神は人じゃないがな』
「だから守ってくれなかったのかよ....」
『闇の大陸の守護神はイギョウといってな。2つめのタイプの考えた方をする守護神じゃ。....だから、すまなかった。元は人を愛する優しいやつじゃったんだよ...。ある出来事を境に変わっちまった』
ガウディアは涙を流し、地面に拳を打ち付ける。
リセフテューネはそんなガウディアの頭を優しく撫でた。
『恨まれても文句は言わん。わしを殴りたければ殴っていい。わしもまた民を見捨てたようなものじゃ...じゃが、わしは人間が好きじゃ。できることなら他の大陸に赴き魔物と戦いたい。じゃが...わしら守護神は大陸に縛られてな』
使命を忘れ、人に危害を与えた守護神は神によって滅ぼされる。
しかし、守護神は神の予想以上に強くなっていた。
そのため、滅ぼすことができず大陸に縛り付けることしかできなかった。
その神は既にこの世界に存在していない。
「俺、ちょっと向こういってくる」
ガウディアは過去の記憶が蘇り、気持ちが落ち着かずその場を離れる。
リセフテューネを恨む気持ちなどない。
戦いに死はつきものだと。人生なんて都合のいいようにいかないと。
そう自分に言い聞かせた。
『さーて、話すこともなくなったし飯のお礼としてお主らの願いを叶えてやろう』
「願いか...俺を不老不死にしてくれ」
リセフテューネはめんどくさそうな顔をし、アルヴァンに言った。
『死ないって孤独じゃぞ?』
アルヴァンの目が点になった。
「私を強くして」
『偽りの力を手に入れて嬉しいか?』
ナズナの目が点になる。
「私は...あ、回復の魔」
『努力しろ』
「ちょっと!願い叶えてくれるって言ったじゃないですか!」
『お主らの願いは欲だらけじゃ。もっと小さな願いにしろ』
そう言われて考え込むアルヴァン達の前に、気持ちを切り替えたガウディアが戻ってきた。
「俺をイケメンにしてくれ」
『中身綺麗にしてからじゃな』
「ぐ..俺の心が死んだ気がする」
心は既に致命傷で過去を思い出したとき以上に落ち込んでしまった。
先ほどまで真面目な話をしていたというのに、この神やはり威厳を感じない。
「だ、だったら金持ちにしてくれ」
『楽して稼いだ金に価値などない』
「私のご飯返して」
『お前、わしにゲロを吐けと?』
次々と願いを言ってみるが、どれもリセフテューネに断られてしまう。
小さな願い事と言われてもなかなか思いつかず、どれもこれも大きな欲望が混ざる。
「すべて努力ってことか」
「ありゃ新手の詐欺だぜ。恨んでるって言って数回殴りてえ」
「神殴るなんて生きていてそうないよな。俺もやってみたい」
その後も願いを片っ端から言い続けるも、どれもこれも聞いてはくれなかった。
気づけばすっかり夜になっている。
「そういえば、この大陸ってどうなってるんだ。真下は海のはずだが」
『移動してるんじゃよ。今は丁度光の大陸の上辺りを飛んでおる。お主らが登った塔は玄関みたいなもんじゃ。さて、わしはひと眠りするかの~。あの石板の前で話した言葉はわしに直接聞こえるんじゃよ。おかげさまで起こされたからな、おやすみ』
リセフテューネはその場で横になり、眠り始めた。
これからどうしようかと考えたとき、ナズナがふと言った。
「私たちどうやって降りるの.....」
「そういやそうだな。おい、リセフテューネ。俺達を降ろしてくれ」
『わかった』
リセフテューネが指を鳴らすと、四人の体が浮き上がる。
アグニスと似たようなことをされるのかと思ったが、次の瞬間四人はゆっくりと大陸の外へ移動させられる。
嫌な予感がした。
「ま、まさか...」
「え、嘘ですよね?」
『さいならじゃ』
四人は大空の大陸から落とされた。
「うわあああああ!」
「やだやだややだやだやだ、やだー!」
「あのくそ神覚えてろー!」
「私たち死ぬんですかー!?」
四人が落とされて数秒後、リセフテューネは勢いよく起き上がり、その場に鏡を出現させた。
『しまった、またやってしまった。え~とあいつらは生きておるな。光の大陸のどこへ落そうかの~。よし、広い草原を見つけた!』
四人の周囲を無数の小さな光が包み込んだかと思うと、彼らは消えた。
『次会う時が楽しみじゃ』
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