第19話 夢の大陸へと
ロブロブの森へとやってきたアルヴァン達は謎の少女たちに襲われる。
次々と現れ苦戦させられるアルヴァン達だったが、激闘の末に少女たちを倒し、ロブロブの森から脅威を開放した。
目的地モクエンを目指して、アルヴァン達は再び移動を再開する。
***********
夜が明け、朝を迎えるとモクエンの街を目指すために四人は再び歩き出した。
脅威の去ったロブロブの森は魔物の気配がなく、別世界にやってきたような感覚になっていく。
そんな時、ふとスヤキがため息をついた。
「どうしたの?」
「川はありませんか...」
「喉乾いたの?」
「違います」
少女たちの戦いで森の中を動き回り、服や体が汚れたりとスヤキにとっては落ち着けなく、一刻も早く体を洗いたい。
「軽めではありますが、不潔です」
「そんなに気にするほどかよ。街についたら温泉に行けばいいだろ」
「街中汚れた服装で歩きたくありません。水でいいですから体を洗わせてください!」
自分たちがどこにいるかわからない今は早いうちに森を抜けて現在地を確認したいところだ。
そう説明してもスヤキは嫌がり、人前には出たくないと言っている。
「冒険者なんて汚れは基本だぞ。贅沢言うな」
「ですが...せめて髪の毛だけでも。精神的に辛いです」
「俺の水使う?少量だけど髪ぐらいなら」
「基本ってことで納得しておかないと今後めんどくさいぞ」
「....」
同じ女同士のナズナに視線を送るも、本人は軽い汚れについてはまるで気にしておらず加勢はしてくれそうにない。
アルヴァンが水を差しだすも、さすがに受け取るわけにはいかない。
「男の人なんて女の子の小さな汚れ気にしないよー」
「いい年した女性が汚い服装で街を歩くのはいけません。しっかり清潔に....あっ!」
遠くから水の流れる音が聞こえる。
「行ってみましょう!」
「おいおい、勝手な行動は....」
「仕方ないな。俺達も行くか」
音の聞こえる方へと向かっていくと、大きな滝の前に出た。
水も綺麗で滝周辺は膝程度の深さと体を洗うには問題ない。
流れも速くなく、入っても問題ないだろう。
スヤキは三人に目で訴えた。
「しょうがねーな。わかったよ」
魔物気配はなく、見通しも悪くない。
何かあってもすぐに動けるだろう。
「私も体洗おうかな。二人どっか行ってて」
「はいはい、行くぞアルヴァン」
二人が遠くへ移動し、見えなくなるとナズナとスヤキは体を洗う。
その頃、遠くへと移動した男二人は地面で横になっていた。
「アルヴァン、俺が何考えてるかわかるか?」
「やめろ」
「おい、まだ何も言ってないだろ」
「容易に想像できる。覗くつもりだろ」
「ふっふっふ。男のロマンだ」
「やめとけ」
ここで覗きに行けば信頼関係が0になるどころかパーティが破滅してしまう。
しっかりと監視し、覗きに行こうとしようものなら全力で止める。
「せっかく女と一緒に冒険してるんだぜ。何か行動起こさないとお前も恋人できないぞ!....いいか、覗きは戦いと同じだ。挑まなければ負けはしないが勝てもしないんだ。それに、見つからなきゃ信頼関係も崩れない」
そう言っても、アルヴァンは考えを変えずにガウディアをじっと睨みつける。
速くしなければ二人が帰ってきてしまう。
「お前、恋人ほしくないのか?」
「....そ、そりゃあ。ほしいけど」
ガウディアが小さく笑った。
「だったら覗きは恋の始ま」
「やめろ」
「ちゃんと最後まで聞けよ!もし、覗きに行くとするだろ?」
もし、こっそりと覗きに行ったとしよう。
バレなければ美味しい思いができ、バレたとしても笑いに変えれば仲が深まる。
特にナズナの場合なら怒られはするが、関係はいい方向に進むこと間違いないだろう。
そんな話を聞いて、アルヴァンは大きなため息をつき目を閉じた。
「考え方がお前らしいな。それでも覗きは良くない」
「はぁ~。わかったよ。釣れないなお前は」
そんなやり取りをしていると、ナズナとスヤキが帰ってくる。
「お前ら早くないか(覗きに行かないでよかった)」
「こんなところで時間使ってられないでしょ。二人は行かないの?」
「俺ら街着くまでいいんだよ」
再び森の中を歩き回り、ようやくロブロブの森を抜け、広い平原にでた。
地図を広げ、現在地を確認すると少し道を間違えたようだが、目的地の方向へと進んではいた。
「あとはここから南に進めばモクエンの街だ。人もちらほら見かけるし、結構近いな」
南へと進む馬車を見つけ、ついて行くと遠くに大きな街が見える。
時間はかかったものの、やっとモクエンの街へとたどり着いた。
街へとたどり着くと、アルヴァンとガウディアは温泉へと向かい別行動となった。
ナズナとスヤキが宿を手配すると、あとは二人がやってくるのを待つだけだ。
「ナズナ、回復魔法の習得手伝ってください」
「魔法?いいよー」
自分の傷では何度やってもうまくいかなかったので、ここはやり方を変えてやってみることにした。ナズナはベッドに座り、短剣で手にちいさな傷をつけ、スヤキがヒールと唱える。
しかし、傷は回復しない。
「くぅ...」
「もっと落ち着いてやってみたら?」
心を落ち着かせ、何度も挑戦してみるもやはり回復はしなかった。
そんなスヤキの腕には10か所近くに小さな傷がある。
その傷がスヤキの苦労を物語り、同時に心配になってきた。
「(船でのあの発言気にしてるのかな)」
あの時の発言を後悔し、恐る恐るスヤキに聞いた。
「ね、ねえスヤキ」
「大丈夫です。私は気にしていません」
ナズナの申し訳ない表情と声を聴けば容易に察することができたので、優しく言葉をかける。そんな言葉がナズナの心をゆっくりと落ち着かせた。
その後、何度も試してみるが結局成功できずに時間だけが過ぎて行き一度やめ、宿の近くの施設を見て回ることにした。
「スヤキ、見て見て資料館あるよ」
これから自分たちの行く大陸について知るいい機会だからとスヤキの手を引っ張りる。
「一人につき銅貨10枚だよ」
「お金とるの!?」
「ただなわけないだろ。お嬢ちゃんたち村から来たのかい?」
高いわけじゃないが、自分たちにとって安いと言えるわけじゃない。
しぶしぶ払い中に入り夢の大陸についての本を探す。
スヤキが必死になって探している中、ナズナは世界の花と書かれた本を見ている。
「真面目に探してください」
「少しくらいいいでしょ。見てスヤキ、誘惑の花だって!!」
その花の香りを嗅ぐと興奮状態に陥るため、魔物に嗅がせて惑わすときによく使われるらしい。....て、そんなことはどうでもいい。
ナズナから本を取り上げて棚に戻した。
「二人はしばらく帰ってこないんだし、いいでしょ。ねえねえ世界のグルメだって」
「....もういいです」
一人で探し回っていると、一冊の本が目に飛び込んできた。
守護神の誕生と書かれている。
本を手に取り読んでみると守護神が誕生した経緯や、それぞれの大陸に住む守護神の名前や力などが書かれている。
「(光の大陸の守護神エスノワール。青色の右翼と赤色の左翼を背中に生やした美しい女性の姿をしており、苦しむ人々に空から祝福を与えていた。そんなエスノワールは人々から祝福の女神と言われている...ですか。えっと、夢の大陸は....夢の大陸の守護神リセフテューネ。小柄な少女の姿で、夢の大陸に訪れる者の願いを叶えて)」
「スーヤキ」
背後からナズナが抱き着き、驚いて本を落としどこまでよんだかわからなくなってしまった。
「なんですか」
「面白い本見つけたよ。勇者イレーネだって」
「今は夢の大陸について探してください」
「わかったー」
本を拾い上げ、先ほど見ていたであろうページを開こうとした時ある一文が目に飛び込みページをめくるのをやめた。
「(絶望に君臨する者...。闇の大陸の守護神イギョウ。人々が争いを始めると圧倒的な力で滅ぼし、恐怖で人々を止め争いを沈めた。見た目については書かれていませんね。守護神なのに滅ぼす....。い、いけません。私も探さないと!)」
本を戻し、夢の大陸について書かれている本を探す。
こうも本があると目当てどころか大陸について書かれている本を探すことすら困難かもしれない。ナズナに至ってはいい鍛冶屋になる方法という本を読んでいる。
ナズナを見ていると、なんだかやる気が抜けていく。
「宿に戻ります」
2人が宿に戻ったと同時にアルヴァン達と合流する。
宿をとらずに船に乗るのもいいが、しっかりと休息をとり、これから何が待ち受けているか分からない夢の大陸への準備をする。
食事と買い物を終え、早急に宿から出ると四人は港へと向かった。
「何?夢の大陸に行きたいだと?」
そう話すと港の者は不思議そうにこちらを見つめる。
「目的は知らんが夢の大陸にはなーんにもないぞ。小さな小島があるだけだ。大陸って呼べるものなんかじゃない。木と草が少し生えてるだけだ。それでも行くのか?」
距離はここからそう遠くなく、2時間もしないうちに行けるそうだ。
夢の大陸へ向かう人間は滅多におらず、小さな船で送るそうだ。
船に乗り込むと客は自分たちしかいないため、すぐに出発する。
この先にアルヴァンが夢で見た大陸に出会えるかもしれない。
「ようやくここまで来たな」
「少し時間かかったが、お前の目的は終わりそうだな」
「楽しみだね」
それから1時間後、遠くに本当に小さな小島が見える。
「....」
嘘だと思いたいほど小さく、直径50m弱の本当に小さな小島だった。
「ここが夢の大陸だぞ〜。帰る時教えてくれー」
夢の大陸には木が数本と寂しく、夢と言えるものが何も無い。
「確かに資料館では夢の大陸だって...」
辺りを散策してみるも、小さな島なのですぐに終わってしまう。
空を見上げるが青空が広がっているだけだ。
「....帰りましょうか」
「もう少し待ってくれ。何かあるはずなんだ」
「そうは言っても、どこにも何もありませんよ」
それから10分経過し、アルヴァンも諦めようかと思ったその時、砂浜に何か妙な石板が埋まっているのを見つける。
「あれ、こんなのあったか?」
砂を払い除けると、何やら文字が書いてある。三人を呼び集め、石版を見せる。
「なんて書いてるの?文字が所々消えたりして読みにくいよ」
「え、えーっと...欲..求め...よ..い..たく...自身の...叫び...示せ」
「欲望を求めよ。いいか、タクさんを自身の叫びで示せかな?」
「誰だよ、タクさんって。意味わからんこというな。....おい、タクさんが頭から離れなくなったちったじゃねえか」
所々消えた部分を考えて読んでみるが、どれもこれも微妙に違う気がする。
そんな時、アルヴァンの頭の中にある言葉が思い浮かぶ。
「自身の欲望を求める者よ。願い叶えたくば自身の名を叫び、その心を示せ」
「お前すごいな。しっくり...きたっちゃきた」
「自身の名を叫びですか。やってみてはどうです?」
もし間違っていたら恥ずかしいが、ここまで来たのなら試してみる価値はある。
アルヴァンは深く深呼吸し、叫んだ。
「俺の名はアルヴァンだ!」
すると、アルヴァンの周囲を小さな無数の光が包み込んだかと思うと、突然目の前から消えた。
「え、アルヴァンどこ行っちゃった?」
「め、目の前から消えたな...」
アルヴァンは先程と同じ夢の大陸にいた。しかし、不思議なことにすぐ近くにいた仲間や近くで止まっているはずの船が見当たらない。
「....どうなってる。みんなどこ行った」
ふと、アルヴァンは背後になにか大きなものを感じる。
振り返ると、天を貫くほど高い塔がそびえ立っていた。
塔の壁に無数の窓がついている。
まるで別世界にいるようだ。
塔には大きな扉があり、開けてみると内部は長い螺旋階段が上へと続いているだけだった。
「この上にまさか...」
「おーい、アルヴァン」
後ろからガウディア達がやってくる。
ガウディア達もまた、自身の名を叫びやってきたそうだ。
「なんだよ、この塔。さっきまで無かったぞ」
「船もありませんね」
三人も同じく長い螺旋階段を見て、口を開けたまま固まる。
内部は窓から光が差し込み明るいが、螺旋階段はどこまでも続いている。
「確証はないが、この上に空に浮かぶ大陸があると思うんだ」
「可能性は高いな。行くしかねえな」
「ですね」
「この上に...でも無限に続いてるように見えるよ」
「行くしかねえだろ。行くぞ!」
四人は階段をかけ登った。
ゆっくりとだが上に進んでいる。
しかし、いつまで経ってもゴールが見えない。
下を見ると、確かに上にはすすんでいる。
それから10分経過。
入口が見えなくなりそうな所までやってきた。相変わらずゴールは見えない。
「まじかよ...」
始めは勢いがあった4人だが、体力もなくなりその場に座り込む。
「これ何段あるんだよ...」
外から見た時は天を貫くほど高い塔だった。試しに窓から顔を出し、空を見上げるも塔はまだまだ上に続いている。
そして30分経過。
あれからどれだけ進んだだろうか。
窓から上を見てもまだ続いている。
足が棒になるほど歩き続け、ついに合計1時間は経過しただろうか。
「...おい、あれ!」
上を見上げると、階段が途中でなくなっている。
ゴールらしき物が見えた。
「やっと...やっと」
そして、四人は最後の一段を登り終えた。達成感とともに大きな疲労に襲われる。
先には1つの扉があった。
「この先に答えがある」
アルヴァンはゆっくりと扉を開けた。
すると眩しい光が四人を包み、気がつくと美しい草原のど真ん中に立っていた。
小鳥のさえずりが美しく、辺り一面に広がる草花はとても綺麗だ。
振り返ると扉が無くなっている。
「見覚えがある」
夢で見た光景と似ている。
「夢じゃないよね?」
ナズナが歩き回っていると、大陸の端らしき所にたどり着く。
「崖?」
覗き込むと、真下には緑の大地が見える。怪しんでいるとすぐ側を雲が通りかかる。
「雲...え、雲!?」
真下にあるのは大陸だ。
自分たちは天に届きそうなほど高い場所にいる。
「ナズナ、危ない!」
ガウディアが足が震え落ちそうになるナズナの手を引っ張り内側に戻す。
「覚えてる。夢で見た」
「てことは、ここが夢で見たっていう大空に浮かぶ大陸って事ですか」
ナズナのことはガウディアに任せ、アルヴァンは草原を歩き回る。
その時、強い風が四人を襲う。
「きゃー!!落とされちゃうよー!」
「つ、強い。皆さん飛ばされないよ...ひっ。と、飛ばされ」
体が軽いスヤキの体が浮く。
アルヴァンがスヤキの手を掴み、地面の草を掴み耐えている。
「アルヴァン!手を離さないでくださいね!絶対に離さないでくださいね!!」
そんなことをしていると、どこからか声が聞こえた。
『うるさいやつらじゃのー。少しは静かにせんか。せっかく寝ておったのに...まったく、風くらいで叫びおって』
そう言って、1人の黒く足まで届きそうなほど長い髪をした幼い少女がこちらに歩いてきた。
見た目だけはっきりと覚えている。
確かに夢の中でこの少女と会っていた。
『あ~眠いわ。わしもっと寝たいわ。.....ようこそ、大空の大陸へ』
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