第18話 欲しがりな女の子達:その2
恋人計画が失敗したガウディア。
夢の大陸へと向かうため、新しい目的地モクエンの街を目指すアルヴァン達はゴクエン森林を通り、ロブロブの森に足を踏み入れる。
どこかから声が聞こえ、アルヴァンがゆっくりと近づくとそこのは一人の少女がいた。
アルヴァンは突然右目を奪われ、さらに現れた少女に腕を奪われるも取り返しその場を逃げ出した。
三人目の少女も現れ、ロブロブの森の脅威を目の当たりにした。
************
ガウディア達と合流しようとするアルヴァンだったが、いくら前に進んでも誰とも会わない。
「どうなってる。離れてそんなに時間は経過してないはずだぞ!」
『みーつけた』
そこへ耳のない緑髪の少女が襲いかかる。
「お前たち何人いるんだ」
『....?』
「(そうか、こいつ耳聞こえないのか。だったら)」
アルヴァンは足元の砂を蹴り上げ、少女の視界を奪いその場から離れる。
同じ景色が続き、自分がどの道を通ったか忘れてしまいそうだ。
役に立つかはわからないが、木に数か所切込みを入れ目印を作る。
「まさか、ガウディア達も襲われてるのか。今までに腕、目、耳、足のやつがいたな。...鼻や口もいると考えるとかなりいるな」
『お兄ちゃんみっけ』
そこに目のない少女が襲いかかる。
先ほど耳のない少女は見た目の通り耳は聞こえてなかったはずだが、こいつはなぜ自分を確認できる。
「お前、目は見えないんじゃないのか」
『見えてるよ。目が無くても、耳もあるし目の前に何があるかはちゃーんとわかるよ。心の目って知ってる?アハハハ』
『足ほしいのー歩きたいよ』
少女たちが発光し、こちらに突進してきたがすれ違いざまに目のない少女を切断した。人間相手は斬れないが、目がなかったり見方によっては魔物に見えるため、少し躊躇する気持ちはあるもこのままではやられてしまう。
『痛いよー』
「(さすがに簡単には死なないな)」
少女たちはアルヴァンの周囲を飛び回り、隙を見つけては死角から攻撃する。
『耳ちょ~だーいよ』
『腕がほしいなー』
気づけば四人に囲まれてしまった。
少女たちはクスクスと笑いながら、周囲をゆっくりと飛んでいる。
アルヴァンが警戒しながらゆっくりと移動していると、何かに躓き地面に転ぶ。
「なんか、硬いものが...なんだこれ...」
落ちていたものを確認すると、それは手足のない骸骨だった。
『その人昔に遊びに来た人~』
『私たちいっぱいもらったの』
『でも、大きすぎて合わなかったのー』
骸骨を見て、アルヴァンの脳内に一つの結末が思い浮かぶ。
手足をとられ動けなくなれば、餓死という苦しい運命。
周辺には手足の骨も転がってる。
『その人酷いんだよ。ちょうだいって言ってるのにくれないの』
『そうそう、酷いよね~』
『悪い人悪い人!』
『お兄ちゃんはくれるよねー?』
少女たちはキラキラした瞳でアルヴァンを見つめている。
この少女たちは異常だ。
次取られれば助かる可能性はない。
しばらく黙っていると瞳から光が消える
『くれないんだね』
『だったら』
『無理やりもらっちゃおー!』
『アハハハハハ』
少女たちは一斉にアルヴァンに飛び掛かる。
その時、後ろからガウディア達が現れ少女たちを攻撃した。
『きゃああ』
『怖い怖いよー』
『あ、待って~』
少女たちは森の奥へと消えた。
間一髪でガウディア達に助けられ、ようやく合流することができた。
「やっと見つけたぞ」
「いきなりいなくなるからびっくりしたよ。...ってそんなこと言ってる場合じゃないよ!後ろから口のない女の子と鼻のない女の子が襲ってくるの!」
そう言うナズナの後ろから口のない少女と鼻のない少女がこちらに向かってくる。
『あれー?もう一人いるねー!遊ぼ遊ぼ~』
『...』
アルヴァンと離れている間にガウディア達も襲撃に合い、一度は口をとられたもののすぐに反撃したため取り返すことができたらしい。
「彼女たちには私たちの攻撃があまり効きません。急いでこの森を出ますよ」
「出るって、出口はどこだよ」
この森は自分たちが思っていたよりも危険だ。
森のあちこちから少女の笑い声が聞こえる。
その笑い声はまるで遊ばれているかのように感じる。
「ふざけやがって」
突如木の陰から腕のない少女がガウディアに襲い掛かり、右腕を奪って森の中に消えた。更に目のない少女にスヤキの右目が奪われる。
「し、しま」
二人に気をとられていたナズナの両足が、足のない少女に奪われナズナはその場に倒れてしまった。
『もーらい。返してほしかったらこっこまでおいでー』
『次は私がもらいに行こうかな』
『ずるーい、私が先だよー』
このままでは森を出られない。
今もどこかで少女たちが隙を狙っている。
「まずいな。この森かなり広いぞ...。見つけるなんて」
「私の..私の足が」
ナズナは気を失う。
そんな姿を見て、少女たちは大きな声で笑った。
『足が無くても死なないからこの森でちゃえばー?』
『腕もなくたって生きられるよー』
ブファロと言う強敵のことを思い出すが、あちらとは別の意味で厄介な相手だ。
このまま奪われ続ければ四人の未来はもう見えている。
「攻撃は効くみたいだが、一撃で大きなダメージ与えないと厳しいぞ」
動き回る彼女らに対してはかすり傷がやっとと言うところだろうか。
長期戦に持ち込まれると勝ち目は薄い。
「....私に考えがあります。腕や足を取り返して、彼女たちを倒せるかもしれません」
「考えだと?どうするんだ」
「彼女らは自分の欲しいもの以外は奪ってこないようです。もし奪えるなら私たちは先ほどバラバラにされています。腕のない子なら腕のみと考えればそれ以外の部分に当たっても無害かと」
少女たちの体当たりは欠けた部分以外を奪うことはできないようだ。
それが本当なら接近されても欠けた部分をしっかり確認すれば受け止めることができる。
木の陰から現れた鼻のない少女がスヤキに飛び掛かる。
そんな少女をスヤキが両手で捕まえ、地面に押さえつけた。
「やはり...鼻以外の部分に触れられても大丈夫のようですね」
「今なら倒せるか」
アルヴァンは目を閉じて剣を少女の胸に突き刺した。
『ぎゃあああああ』
少女は奇声を上げ、もがき苦しむ。
だが力は弱く、女のスヤキでも容易に押さえつけられる。
すると、少女は全身が小さな光の粒となって消えていった。
「...倒したのか?」
「押さえつけて逃げられなくすれば力を込めた攻撃ができるな」
手ごたえはあまりなかったが、周辺から漂う少女の気配が一つ消えた。
自分たちは倒したのだ。
「この方法で個別に倒していけば、きっと全滅させられるはずです。耐久力も人間の子供と変わりません。躊躇なくやってください」
「そう言われても...やっぱり心が痛むな」
押さえつけているスヤキも辛いが、ここで躊躇してしまえば自分たちが負ける。
ここは容赦なく戦わなければならない。
「よし、覚悟を決めたぞ。どこからでもこい!」
『あれー、一人足りない...。どこ行っちゃったのかな~。まーいいや、お目目ちょうだい』
『....』
襲いかかってきた目のない少女の首元をアルヴァンが掴み、地面に押し付け足で押さえる。スヤキは口のない少女を両手で捕まえ、ガウディアに足で押さえてもらう。
『離して!』
少女の声に聞く耳を持たず、アルヴァンはめった刺しにする。
『いたあああああい!』
スヤキも魔法で少女を倒し、合計3体倒した。
「スヤキ、目だ。空洞にはめ込むように入れろ」
「は、はあ。....あ..戻った。見えます、見えるようになりました」
危険視し、逃げてばかりであったがいざ捕まえようと思うと動きが単純で簡単に捕まえられる。
「こいつら反撃されるだなんて考えてないみたいだな」
そこへ耳のない少女が襲いかかるも、同じように撃破した。
確認しただけでも残りは2体だ。
これ以上新しい相手が現れても困るので、急いで残りの二人を探す。
「ガウディア、腕がないのってどういった気分ですか?」
「違和感がすげえよ。涙が出てきそうだ。片手でナズナ抱きかかえるの結構大変だぞ。ていうか、いつまで気絶してるんだよ」
『こっちこっち~』
『足ほしくないの?アハハハ』
目の前から二人の少女が現れ、三人を挑発すると再び森の奥へと逃げる。
アルヴァン達は必死に追いかけ少女たちに追いつく。
すると、大きな広場へと出た。
『ここまで追いかけてくるなんてすごいすごいー』
『でももう鬼ごっこ終わりだよ。みんな、集まってー!....あれ?』
少女が他の仲間を呼び集めようとするも、既に撃破されており誰も現れない。
どうやら6人で終わりのようだ。
『どうして来てくれないの~?おーい、おーい』
「お前たちの仲間はもう倒した」
周囲の木が大きく揺れ始め、少女の怒りを感じた。
『許さない。みんな殺したなんて、許せない』
『お兄ちゃん達嫌い嫌い嫌い』
歯をむき出しにし、周囲をぐるぐると高速で飛び回る。
狙われる部位は手足と少し厄介だが、こちらには戦える者が二人いる。
「スヤキは腕の子を頼む。俺は足を倒す」
「お任せください」
『もう、遊ばないよ?』
少女二人が口から火の玉を吐いた。
二手に分かれて戦うも、少女たちは奪いに来ず火の玉を連発する。
顔は笑っていない。
『お兄ちゃんの足なんかほしくないよ!』
『お姉ちゃんの腕なんていらない!』
アルヴァンの攻撃が届かないほどの距離を常に保ち、火の玉を吐き続ける。
『死んじゃえ死んじゃえー!アハハハハハ』
更に少女たちは奪ったナズナの足やガウディアの腕を装着し武器のように扱う。
蹴ったり殴ったりと速い移動速度を大きく活かし、二人を苦戦させる。
『弱っちいね。お姉ちゃんの体ぐちゃぐちゃにしてもいい?』
「そう簡単にはいきませんよ」
スヤキは魔法で戦っているが、見切られてしまい避けた所に背中を殴られ笑われる。
火の玉と仲間の部位を利用しての攻撃で状況はかなりまずい方向へと進む。
「......俺も戦わなきゃな。ナズナ、借りるぞ」
ガウディアはナズナの剣を取り、スヤキに加勢する。
吐いてくる火の玉を剣で弾き、スヤキが魔法で少女を誘導しガウディアが斬りつける。これでは倒せないが、ダメージを与えたことにより怯み、動きが止まったところに剣を投げつけ突き刺しそのまま木に打ち付ける。
「やれスヤキ!」
「わかってます、アイスエッジ!」
スヤキは動けない少女の顔に氷の刃を突き刺し、火の玉を放ちとどめを刺した。
『アギャアアア』
ついでガウディアの腕はいい色に焼けた。
「やっと腕が戻...あっちぃ、スヤキの少しは手加減しろよー。あちちちち。でも、やっぱり自分の腕はいいな」
「あとはアルヴァンだけ...加勢しますよ」
「ちょっと待て、今腕冷ましてるんだよ」
「アイスエッジ!」
「わかった!わーかったから、落ち着け!やめろやめろ!」
その頃、アルヴァンは。
『ねえ、近づいてこないのー?』
足を上手に活かし、近づいて思いきり蹴り飛ばす。
距離を取れば火の玉、近づこうものなら足とどの距離でも厄介だ。
「(ナズナに蹴られてる気分だ。すごい痛いな)」
仲間の足なので足を攻撃することもできず、足は盾としても使われてしまっている。
アルヴァンが苦戦をしてると、ガウディアとスヤキが加勢にやってきた。
『もう私だけなの...絶対に許さないから!』
少女は足を外し、両手に持ちコマのように回転し、振り回す。
これでは攻撃ができない。
『仲間の足がボロボロになってもいいなら攻撃してみたら?そうしないとみんな死んじゃうよー!』
近づくアルヴァンを弾き飛ばし、魔法は足の盾で打てなくさせている。
三人で戦っているいうのに状況は変わっていない。
少女は回転をやめず、ずっと回っている。
『アハハハハハハ』
「もうあなたの負けですよ。ナズナ、後で薬使うので許してくださいね。ファイアーボール」
スヤキは回転する少女の足元付近に火の玉を放った。
地面に衝突し大きな衝撃波が生まれ、少女を怯ませ、回転を止める。
『しま..』
「終わりだ!」
再び回転しようとしていたが、その前にガウディアにナズナの片足を掴まれ、振り回される。とっさに足から手を放し、飛ばされるも態勢を整えようとするも、走ってきたアルヴァンに剣を突き刺された。
『あ...ああああああ。い、痛い..痛いよー!』
少女は小さな無数の光の粒となって目の前から消えた。
少女が消えたと同時に、森の中が明るくなった。
暗かった頭上も空が見え、夕焼け色に染まっており、もうすっかり夕方になっている。
ガウディアは気絶しているナズナに両足を戻した。
「終わりだよな」
「森が明るくなったってことは脅威は去ったんだろ...はあ、今までで一番厄介だったな。場合によったら一瞬で詰んでた。スヤキ、ありがとう」
「お疲れ様です。もうすぐ夜になりますし、ここで休みましょう」
それから10分ほど経過して、ナズナがようやく目を覚ました。
「あれ...ここどこ。夢見てた?」
「たくっ...お前は幸せな頭しやがって。羨ましいな」
その場で火を起こし、ようやくしっかりとした休息の時間がやってきた。
ロブロブの森を抜けるとモクエンの街まではあと少しと言ったところか。
ただ、問題として少女たちに襲われて森の中をあちこち移動したためか、今自分たちはロブロブの森のどの辺りにいるかがわからないという。
幸いロブロブの森はそこまで大きいとは言えないので、振出しに戻ってもダメージは少ない。
「スヤキ、魔法ってどうやって強くなるの?」
「瞑想です」
スヤキは静かに瞑想を始める。
「こうして心を落ち着かせることによって精神力を高め、魔法の威力が上がります....と小さい頃教わりました」
人間には魔力という魔法を使う際に消費される力がある。
走るとスタミナがなくなり疲れるように、魔法を唱えると魔力が消費され疲れる。
スタミナは少しの時間で回復するが、魔力は完全に回復するのに数時間はかかってしまう。
また、人によってそれぞれ魔力の量は違いこの魔力の量によって魔法使いの才能があるかどうかがわかる。
「俺も魔法使いたいな」
スヤキがアルヴァンの手を取った。
「そうですね。一般人よりは高い方だと思います。一般人が10だとするとアルヴァンは15ですね」
「それって才能」
「ないです。私は80程でしょうか」
スヤキはガウディアとナズナの手も取り、ついでに調べてみる。
どちらも10と、一般人と変わらない。
「50辺りから才能があると思います。もっとも、そこから本当に習得できるかは努力次第ですが。その辺散歩してきます」
スヤキは三人から離れると自分の手に傷をつけ、こっそり回復魔法の習得に励んだ。
ロブロブの森、この森に足を踏み入れる者は体を奪われるという。
しかし、この森に潜む脅威はアルヴァン達の手によって倒され、森には光が宿った。
もっとも、この森を通る者などほとんどおらず、彼らの活躍に気づく者は今後現れることはないだろう。
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