第17話 欲しがりな女の子達:その1
ナズナを恋人にしようと計画するガウディアは小指に結び合った者同士が結ばれるというアイシテールを手に入れようと努力した。
努力の末、アイシテールを手に入れたガウディアはナズナに仕掛ける。
その頃、アルヴァンとスヤキが二人の結果を想像し、宿に戻ると暗い顔しつつ涙を流したガウディアが一人で床に正座していた。
************
二つの新品の装備は、以前防具屋で高いと思った炎を軽減する防具だった。
銀貨5枚、二つで10枚と恐ろしい値段だった。
「ど、どうしたんだよ」
ガウディアの姿を見ると失敗ということはわかったが、なぜ防具があるのか。
涙を拭うガウディアは弱弱しい声で言った。
「ナズナが...アイシテールを売りやがったんだ」
ガウディアは酒をがぶ飲みし、叫びをあげる。
*********
アルヴァン達が買い物に行っている間に、ガウディアはナズナを酒場に連れて行った。
緊張しつつもせっかくだからと酒を飲み、計画は成功したと思っていた。
だが、甘かった。
確かにナズナは酔っ払い、判断力が鈍くはなっていた。
「(よし、今なら)」
ガウディアがアイシテールを取り出す。
「あれぇ、それどしたのー」
ガウディアの予想以上にナズナは酒に弱く、酷く酔っていた。
「え?...あ、ああ...実は依頼主が依頼を取り消したらしくて返されたんだ」
「ふ~ん」
ナズナは顔を真っ赤に染め、今にも寝そうな勢いだ。
もう少し時間を置き、眠ったタイミングで結んでやろうと考えていた時だった。
「あ、あんたそれ...まさかアイシテールか?」
後ろから一人の男が話しかけてきた。
服装から見るにこの街の住民だろうか。
「どうか、そのアイシテールを俺に譲ってくれ!金ならたくさんある!」
男はいきなり頭を下げると、袋から6枚の銀貨を取り出した。
酒場が静まり、皆は三人に注目する。
「実は、俺の好きな人がもうすぐ旅立っちまうんだ。ギルドに依頼を出しても滅多に手に入らないせいか誰もやってくれなくて。だから、旅立つ前にそれをプレゼントしたいんだ。頼む、売ってくれ!なんなら銀貨10枚やる!」
なんだか嫌な予感がしてきたので、男を放ってナズナの小指に結ぼうと思った時、ナズナがガウディアからアイシテールを奪い、男に渡した。
「ちょうどよかった~、はいどうぞ~」
「おい、待て...」
「あ、ありがとうございます!」
「おい、待て!」
男は銀貨を10枚残して酒場を飛び出していった。
笑顔で男の背中を見るナズナに反し、ガウディアは焦って男を追いかけた。
しかし、男を見つけたときには時すでに遅く、男は女とアイシテールを結び合っており、返せと言えるような状況ではなかった。
だが、解いた後ならば返してもらうことも可能なはずだ。
ガウディアは影からこっそり様子をうかがっていると、女は小指にアイシテールを付けたまま馬車に乗り込み、街を出てしまった。
「......」
ガウディアは離れていく馬車を静かに見守った。
そして、十分離れた距離まで馬車が移動したのを確認すると、大きな声を上げた。
「ふざけんなーー!」
周りの視線も気にせず、今までで一番かもしれないほどの大きな声で叫んだ。
酒場に戻ると、既にナズナは眠っており、酒場の店主は憐れむ目でこちらを見ている。
「代金はいらないよ」
「...くそ..くそ」
固く握りしめられた銀貨10枚。
酔ったナズナに罪はなく、なんなら騙したこちらの自業自得とも言える。
「店主、こいつ見ててくれ...」
「あいよ」
悲壮感漂うガウディアは涙を流しながら防具屋に向かった。
**********
「で、2つ買ったのか」
「なんでこんな目に...」
「ナズナを連れ帰ってきますね」
必死な努力も、恋人ではなく防具へと変わってしまった。
形になって帰ってきただけでもまだよかったと思ったほうがいいのだろうか。
「落ち込むなよ。一着はナズナに上げて、もう一着はガウディアが着たらお揃いだぞ」
「そうだな。ありがとよ。でも、でもおおおお!」
「どんまい」
そして翌日
「本当にごめんなさい!」
「いや、もういいって」
酔っていてほとんど記憶はないものの売ったという部分は覚えているらしく、新しい防具を貰って慌てて謝っている。
幸いにもガウディアの計画のことはばれていなかったので安心はしたが...。
「そろそろ新しい街を目指そう。夢の大陸にも早く行きたいからな」
話を変えるためにアルヴァンは大陸地図を見せる。
フレファの港からでは夢の大陸へは行けず、大陸の正反対のモクエンと呼ばれる街まで行かなければならないそうだ。
「モクエンまで最短ルートで行くとどこにも街はないな。道中戦うことになるとしても...2日はかかるな」
「2日も野宿になるの?うそでしょ...」
大量の食糧を買い込み、長旅の覚悟を決める。
モクエンの街を目指してフレファを旅立つアルヴァン達。
「危険地帯に住む奴はいないからな。村なら1つや2つありそうだが...怪しいな」
バーン火山地帯を通り、ゴクエン森林へとやってくる。
昨日の村に立ち寄り、一休みをしながらも村人に周囲のことを聞きまわる。
「あんたたちこのルートを通るのか...」
「そうだが、何か問題でも?」
自分たちはゴクエン森林を抜けて、ロブロブの森を通る。
「ロブロブの森はな、危険だからやめたほうがいい」
「危険って、魔物がか?」
「そうだ。ロブロブの森は別名略奪の森とも言われていてな、入った者は体を奪われるって言われている」
ロブロブの森を避けて進むと、モクエンまではかなり長い距離を通ることになる。
なんとしてでも、ロブロブの森を通らなければならない。
「最後はあんたらに任せるよ。でも、もし通るなら絶対に自分たち以外は信じるなよ...絶対にだ!」
村人は話すだけでも怯え、家の中に入ってしまった。
それほど恐ろしい森なのか。
「体を奪われるか。どうする?」
「避けたらかなりの距離歩くことになるぞ。あの話方的に言い伝えって感じだし、大丈夫だろ」
「行くしかありませんね」
ロブロブの森を通ることになり、少し怯えているナズナだが三人は怯えることもなくゴクエンの森を歩き始めた。
「警戒しとけば大丈夫だろ。問題ない」
ゴクエンの森に出現する魔物は今のアルヴァン達にとって容易に倒せる相手だった。
これならば予想よりも早く抜けられそうだ。
「馬車がほしいよー」
大荷物を背負いながら歩くことは体にはかなり負担がかかるようで30分も歩いていると足が棒にようになってしまう。
幸い魔物は弱いので休憩する分には助かるものの、荷物をもう一度背負うのに大きく力を使う。
「馬車ほしいぞ」
「いりません」
スヤキはせっせと歩き続け、三人に距離を付ける。
同じ量を背負っているはずなのに、一番力の弱いはずのスヤキが誰よりも長く歩いている。
「お前、辛くないのかよ」
「疲れてはいますが、何度も休憩はしてられません」
「休憩しようよ~。もう歩きたくない!」
「5分前にしました。甘えないでください」
「じゃあ、スヤキ半分持って」
ナズナの荷物が軽くなり、軽快に歩き始める。
「スヤキ、手伝」
「いりません!」
プライドなのか文句を言わず、足は遅くなったがそのまま歩き続ける。
先ほどまで先頭を歩いていたというのに、今は最後尾となり頭から汗を流し今にも倒れそうだ。
そしてそのまま30分が経過した。
スヤキの声が震えている。
「ゴクエン森林まだ抜けませんか...」
「あともう少しだな。抜けたら大きな湖に出るからそこで休憩だ。やっぱり手伝おうか?」
「だ、大丈夫です」
スヤキはナズナから100mは離れている。
こちらを待つ素振りもなく、ただただ前を歩くナズナに追いつこうと必死に歩くも、とうとう限界が来たのかその場で倒れてしまい荷物に埋もれた。
「スヤキ、大丈夫か」
「もう...だめで...」
「ガウディア、スヤキが倒れた。ここで休憩にしないか?...って聞こえてないな」
前を歩く二人には聞こえておらず、そのまま歩き続け見えなくなってしまった。
スヤキの荷物を全て受け取り、二人はゆっくりと前へと歩き出す。
「無理したら体壊すだろ。苦しいなら言えって」
「わかってますが...偉そうに言った手前言いにくいんです」
「誰も気にしないって」
3分経過し、ようやく大きな湖が見えてきた。
ガウディア達とも合流し、しばらくここで休むことになった。
湖の先にはゴクエン森林とは違う、暗い色の木が生い茂る森が見える。
恐らくあれがロブロブの森だ。
「自分たち以外は信じるなって言ってたよな。てことは、敵は喋るのか?」
「踏み入った人間を騙し、体を奪うか。全員近くにいれば大丈夫だろ」
10分ほど休憩し、四人はロブロブと森へと足を踏み入れる。
日の光がまるで届かず、夜のように暗い森の中を警戒しつつ歩く。
『うふふ、いらっしゃーい』
どこからか幼い少女の聞こえる。
「お、おい今声が...」
「き、気のせいだよ。は、はは早く抜けようよ」
四人が奥へ進むと、先ほど四人がいた近くの木の陰から幼い少女二人が姿を現す。
『新しい人たちだ』
『腕あるね。足あるね』
『ほしい。ほしい』
『もらお!もらっちゃお!』
『そうしよそうしよ!アハハハハ』
小さな少女たちはこっそりとアルヴァン達を追いかけた。
そのうちの一人には腕が無く、もう一人には足が無かった。
ロブロブの森に入って10分は経過しただろうか。
同じような景色がずっと続き、本当に進んでいるのかと不安に思っていると...。
『う..ぐす...寂しいよ』
森のどこからか幼い少女の声が聞こえる。
「こんな森の中で...」
「気にするな。行くぞ」
「....」
アルヴァンは誰にも気づかれることなく、一人で声の聞こえる方へと歩き出した。
苦しむ者の声を放っておくことはアルヴァンにはできなかった。
声の聞こえる方へと進んで行くと、切り株の上で座り、一人で泣いている白い髪の幼い少女がいた。
『痛いよ~痛いよ~』
アルヴァンはそっと少女に近寄る。
少女は目を合わせてくれない。
「どうした?迷子か?」
『寂しいよ、寂しいよ』
「寂しいって、どうしてこんな森に」
『お兄ちゃん....一人?』
少女は泣き止み、目は合わせてはくれないものの話しかけてくれた。
「いや、仲間と...あ、しまった。ついつい一人で来ちゃったな」
『...だい』
「ん?」
『ちょうだい』
少女が落ち着いた声でそう言っている。
今の自分に少女が欲しがりそうなものはない。
「何がほしいの?」
そう優しく声をかけると、少女は顔を上げた。
『お兄ちゃんの目がほしいの!!』
少女には両目がなく、目のある部分は真っ黒に染まっている。
「な、なんだこいつ」
『ねえ、ちょうだい。お目目ちょうだい』
アルヴァンは腰を抜かし、その場にしりもちをつく。
少女はニタニタと笑いながらこちらに近づいてくる。
「(まさか村人が言っていたのって)」
少女の体が突然発行し、アルヴァンの顔に体当たりをした。
すると、突然右の視界が暗くなり、何も見えなくなってしまった。
少女の手には右目が四角いブロックとなったものが握られている。
『お兄ちゃんの右目もらったよ』
アルヴァンは恐る恐る右目があるはずの部分に触れてみる。
ない。
あるはずだった右目はなく、四角い空洞になっている。
「あ...あああああああ!」
『アハハハハハ』
すると木の陰から青い髪の少女が姿を現す。
その少女には腕が無かった。
『ちょうだい、お兄ちゃんの腕ちょうだい』
青髪の少女がこちらに接近すると、アルヴァンは剣を振り遠ざける。
『お兄ちゃんくれないの....?』
「俺の目を返せ!」
アルヴァンは今の状況についていけず、足が震えている。
一体どうやって目を...。
「ま...まるでくりぬいたように...」
青髪の少女が発光し始め、勢いよくアルヴァンに突進し、左腕にぶつかると左腕があっさりと外れる。
『左腕もーらいっ』
血は一滴も出ておらず、痛みも感じない。
アルヴァンの腕を青髪の少女は左にくっつけると、動き出した。
『ちょっと大きいけど悪くなーい。右腕もほしいな』
『左目ちょうだい』
二人の少女は発光し、アルヴァンに接近する。
よくはわからないが、ぶつけられた部分がブロックのように外されるみたいだ。
体を奪われるとはこういうことか。
「こっちにくるな!」
二人を剣で斬りつけると、少女達の持っていた目と腕が地面に落ちた。
もしかしたらと腕をはめ込むと、元通りに動かせるようになった。
「(理由を考えている暇はない。この場を離れないと!)」
右目も戻し、アルヴァンはその場を走り去った。
『どこにいくの』
『逃げないでよ...待って~』
その顔は何も変ではないかわいい笑顔だが、その笑顔が恐怖に感じる。
先ほど通った道に戻ると、三人が通ったであろう方向に走った。
「ガウディア、ナズナ、スヤキ、どこだ!」
『逃げちゃダメだよー?』
『どこ行くのー?』
少女たちが襲ってくるも剣を振り回し、遠ざける。
すると、真上から足のない金髪の少女が現れる。
「一体何人いるんだ!」
『足ちょうだい!』
その場を飛びのき少女を避けると、そのまま走り出す。
少女はアルヴァンを追わず、その場で立ち止まる。
『あの人ケチ~』
『冷た~い』
『みんな呼んじゃお。みんなで捕まえよ』
『賛成賛成!アハハハハ』
ロブロブの森、大昔ここである一人強力な魔法使いが魔物に対抗するため自分の分身を召還した。
しかし、召喚された分身は幼い頃の姿で目がない子や足、耳とどの子もどこか体の部分が欠けていた。しかし、強い力を持っていることに変わりはなく、成功したかに思えた。
だが、少女たちはその魔法使いに襲いかかり、体をバラバラにした。
欠けた部分に入れようとしたものの、大きさが合わず少女たちは自分の体に合う者を探し求めて森を訪れる者を襲い続けた。
だが、人々を襲い続けた彼らはこの森に封印されでることができなくなった。
しかし、少女の自分たちに合う体のパーツを探す思いは消えることもなく、封印された森の中を彷徨い続ける。
それは今になっても変わらず、少女は人々を襲い、森に足を踏み入れる者はバラバラにされ二度と森から出ることはできなかった。
そんな森に足を踏み入れたアルヴァン達に脅威が襲い掛かってきた。
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