第16話 ガウディアは恋人が欲しい
新たな大陸、炎の大陸へとやってきたアルヴァン達。
ランク4の依頼で新たな魔物と戦っていると、ドラゴンというランク7の魔物に襲撃され、ランクの違いの格を見せつけられた。
その頃、光の大陸ライウン王国では新たな合成兵が生まれるのだった。
***************
ある日のこと、四人はバーン火山の内部を歩いていた。
あちこちからマグマが流れており、過酷なこの環境で生きる魔物達は強敵ばかりだ。
内部は暑く、壁や地面を素手で触れれば火傷してしまいそうなほどで、休む余裕はない。
「暑いよ~。最深部まだー?」
体から流れる汗を拭いても拭いても収まらない。
服は汗を吸ってびしょ濡れになっている。
スヤキはアイスエッジと唱えるが、生み出した瞬間溶けてなくなってしまう。
そんなところになぜ彼らがやってきたか、その理由はガウディアにあった。
「耐えろ...耐えるんだ」
話は数時間前に遡る。
炎の大陸へやってきた彼らは日々ランク4の魔物達と戦い実力をつけつつ、過ごしていた。
そんなある日、早朝にアルヴァンはガウディアに起こされる。
「アルヴァン、話がある」
ガウディアはいつにもなく、真剣な顔をしていた。
「どうした、改まって」
アルヴァンをボードの前に連れて行き、ランク5のある依頼を見せた。
依頼にはアイシマウスという魔物の尻尾、アイシテールを納品と書かれていた。
「気でも狂ったか?これはラン」
「そうじゃない。昨日ランク5の冒険者と話してたんだが、このアイシテールって幸運アイテムなんだよ」
幸運アイテムとはおまじないという意味で古くから人々に言い伝えられている物のことだ。
金運、恋愛運などいくつか存在しており、効果は気持ち程度と言ったところ。
「このアイシテールを小指に結び合った男女は二人はいずれ恋人になれるって話なんだ!」
「ふ~ん」
「おいおい、興味なさすぎだろ。俺は恋人がほしいんだよ!」
ガウディアの目に闘志の炎が宿る。
朝からテンションが高いこと。
「で、俺を呼びだした理由は...。おやす」
「起きろ!!!」
「わーかったよ!朝から大声出すなって」
「聞いた話じゃ、アイシマウスは弱いそうだ。やるしかないよな、俺達仲間だろ」
「なのにランク5なのか」
「それが滅多に姿を現さないそうでな....本当に稀らしい。だから、手伝ってくれ!」
「そういうことか。了解」
「この話は女二人には内緒だぞ」
数時間後、起きてきた二人にはアイシマウスの討伐依頼を受けたと言い、アイシテールのことは隠す。
スヤキは少し怪しんでいたものの、ナズナがすぐに了承した。
「アイシマウスはゴクエン森林にいるらしい」
ゴクエン森林はバーン火山地帯を通り抜けた先にある。
四人はすぐに街を出発した。
フレファ草原を歩いている最中、アルヴァンとガウディアは少し前を歩く。
「絶対にアイシマウスを捕まえなきゃな」
「ちなみにどっちと恋人になりたいんだ?」
「うーん」
ガウディアは振り返り、ナズナとスヤキを見る。
「アイシマウスって面白い名前してるね」
「そうですね」
「かわいいネズミだといいね」
「討伐依頼の出てる魔物ですよ?かわいいかはどうかは知りませんが、危険なことは確かです」
二人は会話をしており、こちらの視線に気づいていないようだ。
「ナズナを狙おうと思ってるんだ。スヤキも悪くはないけど....なんだか固い印象がな~」
「まあ仲間になって数日だしな。応援するよ。でもよ」
「ん?」
「小指を尻尾で結び合える仲なら既に恋人になれそうな関係だと思うんだが」
「お前、夢がねえな!」
その後も淡々とガウディアはアルヴァンにとって幸運アイテムのこと、それで結ばれる恋の素晴らしさを語っていた。
始めはしっかり聞いていたアルヴァンも、時間と共に聞き流していた。
道中、レッドリザードの群れに襲撃を受けるも激戦の末に勝利することができた。
しかし、回復薬をたくさん使ってしまい、残り少なくなった。
「一度帰りませんか?」
「大丈夫だって、もうすぐゴクエン森林だ」
バーン火山地帯とは大きく変わり、神秘的な赤い木の生い茂る大きな森に出た。
この広い森の中のどこかにアイシマウスがいる。
だが、アルヴァン達はアイシマウスがどんな見た目をしているのかわからない。
情報によれば、臆病な性格で人前には滅多に姿を現さないだとか。
「(絶対見つけてやる)」
それから二時間、まるで手がかりも掴めぬまま時間だけが過ぎていく。
必死に探すガウディアに反し、三人は疲れ果てていた。
疲れたなんて言えるわけもなく、適度に休憩しては探すのを繰り返す。
そんな時、遠くに小さな村が見えた。
「村なら何か情報知ってるんじゃない?」
地図には載っていないほどの影の薄い村のようだ。
店らしき建物はなく、家も非常に少ない。
「おおお、旅の方とは珍しい」
村の中へ入ると、さっそく長老らしき老人が出迎えてくれる。
その老人の肩には背中にハート形の模様のある、尻尾の長いとても小さなネズミが乗っている。
「おや、気になりますか?これはアイシマウスと言って滅多に」
「爺さんそいつくれ!」
「な、なんじゃ!?」
ガウディアは村長の家の中で、事情を話し、残りの三人は外で待つ。
「アイシマウス討伐じゃなかったんですか?」
「いや、その....尻尾納品でいいんだよ」
「討伐じゃなくて尻尾納品?それでもなんかかわいそう。見た目はすごく無害に見えたけど...」
数分後、ガウディアが村長の家から出てきたが、手には白い皿を持っている。
「条件付きでアイシマウスくれるってよ。ただ...その条件が」
**********
ガウディアが村長に事情を話すと、村長は少し悩みつつ口を開く。
「アイシマウスは滅多にお目にかかれん生き物じゃ。それをやすやすと渡すわけにもいかん。そこでじゃ、条件があるんじゃが」
老人は平たい白い皿を持ってきた。
「これをバーン火山にあるアグニス様の祭壇において来てほしいのじゃ。昔は自分たちで通っていたが、魔物が火山に現れて以来危険でのー」
バーン火山はあちこちからマグマが溢れ、一般人は自殺行為とも呼ばれるほど危険な場所だ。昔は自分たちで通、捧げていたのだが、火山内部に魔物が現れるようになってからというもの祭壇に捧げることができず、困っていたそうだ。
この村は地図にも載っておらず、人もほとんど訪れずれていなかった。
そのため、旅人に頼む機会がなかった。
「もし、わしらの頼みを解決してくれたらアイシマウスをやろう。どうするかね」
悩みに悩んだ結果、ガウディアは引き受けることになった。
***********
灼熱地獄のバーン火山内部。
内部に大量に湧くレッドスライムと言う魔物。
石のような丸い核をゼリー状で覆われた魔物。
「弱点は中心の格だ。ゼリーは何度斬っても再生するからな」
主な攻撃方法は体当たりと驚異的な攻撃ではない。
だが、スライムの恐ろしい攻撃はもうひとつある。
顔に張り付き、窒息しさせるという油断すれば強い冒険者だろうと簡単に死んでしまうというものだ。
また、単体では脅威にならないが、集団で襲われると死の確立が高まる。
だが耐久力はほとんどなく、核に攻撃さえ当ててしまえば一瞬にして消えてしまう。
足場が悪く、落ちればすぐにマグマの餌食になるこの場所は大きく動き回わりにくい。
「くそ、俺の斧じゃ戦いにくいな」
中心の核に攻撃当てなければ、威力が大きかろうと倒すことはできない。
アルヴァンは突きを放ち、核へと攻撃を命中させる。
「レッドスライムは俺とナズナでやる」
入り組んだ地形により、天井や壁の隙間などどこからでもスライムは襲ってくる。
幸い、危険な攻撃手段を持っていないためダメージを受けることはほとんどない。
この暑い環境の中、普段なら素早く動ける体も体力の消耗が激しく、長くは動けない。
「祭壇はどこだよ」
「一本道って言ってましたが、まだまだ道は続きそうですね」
バーン火山内部にやってきてから1時間経過しただろうか。
「スライムって、どうやって繫殖してるの?」
皆暑さでイライラしている中、気を紛らわそうとナズナがそう言い始めた。
「基本分裂するそうだ。あとは他の生物の内部に入り込んで大繁殖するらしい」
「か、体の内部に...」
スライムは男女関係なく、体内に侵入し大繁殖する。
侵入されると、もはやどうしようもなくスライムが体外に出ることを祈るしかない。
「スライムに殺されたら未練だらけで成仏できそうにないな...」
「アルヴァンよりも、スヤキが心配だな。俺達は接近されてもなんとかできるが、力の弱いスヤキは張り付かれたら終わりだし」
「やめてください!」
イライラは消えたが、複雑な空気になってしまった。
スヤキはアルヴァンのすぐ近くまで移動し、天井や壁などを誰よりも念入りに確認している。
「お、なんか見えてきたな」
奥に鉄製の扉が見えてくる。
あの奥に祭壇があるに違いないと、四人は嬉しそうに早歩きで扉に向かう。
「熱い!!」
「素手で開けようとするからだよ。まったく」
中に入ると、小さな小部屋にでた。
部屋の中心に大きなが穴が開いており、覗き込むとマグマが見える。
「祭壇...祭壇」
見回すも、祭壇らしきものはどこにも見えない。
「穴の中に皿を放り込むってことかな?」
不自然なほどに綺麗な丸い穴は人工的に作られたようにしか見えない。
ナズナが、皿を穴の前に置いた瞬間どこからか声が聞こえた。
『久しぶりにきたな。今回は知らない人間が来たな』
「え」
地面が大きく揺れる。
穴の中のマグマが大きく吹き出し、中から炎で包まれた下半身のない真っ赤な皮膚をした男が現れる。
「ま、魔物か!?」
四人はは武器を構えた。
『失礼な人間だ。.....確かに、お前たちからしたら私は魔物になるかもしれないな。だが、私はお前たちを襲う気はない。お前たちの持っているその皿がほしいだけだ。お前たちはここに捧げに来たんだろ?』
全身から強い力を放ち、腕を組みながらこちらをじっと見つめている男はどこかフレファの街の石像に見ている。
自分たちが黙っていると、男はナズナの置いた皿を手に取り嬉しそうに笑った。
『大昔、人間が捧げものとして食べ物をよく捧げてくれた。だが、食べ物だと人間が苦しむ。そこで入手しやすすく、苦しむこともない皿にしたんだ』
「待てよ、お前だよ」
『私はこの大陸の守護神アグニスだ』
体から溢れる強い力、ただの魔物ではない神々しい何か。
守護神と言われても疑う気になれない。
「しゅ........守護神」
アルヴァンは思わず、頭を下げる。
『硬い態度をとらなくていい。とにかく、ここまで運んでくれてご苦労だった。帰りは大変だろう。礼として入口まで送ってやろう』
話について行けず、無言になる四人の体を無数の小さな光が包み込んだ。
「ちょっと待って!」
四人はアグニスの目の前から消え、バーン火山の入口に戻される。
それから約五分間、唖然としていた四人だったが、最初にアルヴァンが正気に戻る。
「あれが...守護神..」
数分にも満たないやり取りの中、まるで夢でも見ていたかのような気分だった。
その後、三人も正気に戻り村へと戻った。
「おおおお、そうですか。アグニス様に会われましたか」
長老は四人を見て大きな声で笑った。
長老は昔から何度もアグニスと会ったことがあり、若いころはよく遊びに行っていたそうだ。
「いやはや、ありがとうございました。魔物が火山に住み着いて以来、アグニス様に会いに行けなくなり困っていましたので。約束それでは、約束通りこのアイシマウスを差し上げます」
優しくアイシマウスをガウディアの手の上にのせる。
「いや、俺は尻尾だけでいい」
「おお、そうですか」
長老はアイシマウスの尻尾を斬り落とし、ガウディアに渡した。
これで念願のアイシテールを手に入れることに成功した。
「よかったな、ガウディア!」
「ああ!よし、フレファに戻るぞ!」
四人はフレファの街へと戻り、ギルドへと向かった。
「さっそく納品しようよ」
ナズナが受付に向かおうとすると、ガウディアは必至で押さえる。
「いや、俺が行くから!スヤキと一緒に宿とっててくれ」
怪しむナズナだったが、スヤキを連れ宿に向かった。
ガウディアはドキドキしながら、どうやってナズナの小指に結ぼうかと考えていた。
「ど、どうすればいいんだ」
「単純に言ってみれば?」
「バカ!それじゃあだめだ。もっとこう、ロマンチックな空気がほしい」
「うーん。金運って言ってみたら?」
「いや...それじゃあ。ナズナって歳いくつだ」
「そういえば聞いてないな。.....まさか、お前酒場で」
好きと言う気持ちを悟られずにどうやって結び付けようかと考え、酒場で酒を飲ませ酔った時に話を切り出せば、結ばせてくれるだろう。
「よし、夜に誘うぜ」
「頑張れ」
その日の夜、宿でのんびりと休憩している中、ガウディアは作戦を決行するため、アルヴァンにアイコンタクトを送る。
「(アルヴァン、スヤキをどこかに連れてってくれ)」
「(了解、頑張れよ)」
「(任せろ、絶対成功させる)」
「スヤキ、明日の準備したいから買い物手伝って」
「わかりました」
スヤキを連れ出し、部屋にはナズナと二人きりになった。
ナズナは武器を磨いている。
「ナズナ、お前歳いくつだ」
「急にどうしたの?22だよ」
心の中で喜びの大爆発が起こる。
今にも飛び跳ねたい気持ちだが、必死に抑え平静を装う。
「酒場行こうぜ。美味しい酒あるんだよ」
「私お酒苦手だよ。アルヴァン誘えば」
「男女で行くと半額になるんだよ。行ってみようぜ」
「う、うーん」
少し強引気味にナズナを酒場へと連れて行く。
酒場に店主とは既に打ち合わせ済みで、口裏を合わせてもらっている。
「へい、お待ち」
半透明で臭いがきつくないお酒を出される。
味についても既に調べ済みだ。
「なんだか緊張するなー。私たちだけでいいの?二人が聞いたら怒りそうだけど」
「大丈夫だって、気にすんな気にすんな」
「.....わかった」
「(落ち着け。焦ったら何もかも終わりだ。しっかり酔った後に結んだらいい。慎重に...慎重に)」
*************
一方その頃、アルヴァンはスヤキと道具屋に来て旅の準備をしていた。
同じ商品を見て、どれくらい買うかの相談をしている。
「さすがに回復薬はこんなにいらないよな...。やけど治しもあったほうがいいよな」
「そうですね。ところでアルヴァン、私に何か隠してます?」
「え」
唐突に放たれた発言に思わず、アルヴァンは硬直してしまう。
「やっぱり、何か隠してますね。朝から気づいていましたよ」
「ぐっ。どこまで知ってます?」
「全部です。あえて言いませんでしたが」
朝からの不審な二人の行動や依頼についての疑問など、最初からバレていたみたいだ。邪魔するわけにもいかないのであえて黙っていたそうで、スヤキの優しさが窺える。
「成功するといいですね」
「そうだな」
今頃、ガウディアは結ぶことに成功し、ナズナといい雰囲気を楽しんでいるのだろうか。想像するとなんだか微笑ましくなり、ついつい余分に物を買ってしまう。
「お祝いに何か買うか」
「この花いいと思いますよ。でも、この花もいいですね」
「迷うな....」
20分後、山積みになった荷物を抱え道具屋を後にし、宿へと戻っている最中たわいもない会話をする。
「そういえば、スヤキのいた村って結婚はどうしてるの?」
「親が決めます。結婚したら妻は男女一人ずつ子供を産んで、その子供の結婚相手を他の家庭から決める。私は恋愛なんて考えたことがありませんね」
「それって寂しくない?好きでもない相手と結婚って」
「もともとそういう環境で育つとそれが当たり前になりますよ。男性が少なく、女性が多い時は夫1人に対し妻5人なんてこともよくあります」
「ガウディアが喜びそう...。よし、帰ってきたな。楽しみだ」
「ただいま帰りました」
部屋に入ると、恐ろしいほどに負の空気で埋め尽くされており、新品の防具を2つ
もって涙を流すガウディアが床で正座していた。
その光景にアルヴァンとスヤキが同じタイミングでこう言った。
「....え?」
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