第15話 新たな大陸へ
闇の大陸にあるバルト王国。
ガウディアは、兵士志願者として初の戦いに参加するが敗北。
バルト王国は滅ぼされ、仲間は皆死んでしまった。
辛い過去を語り終えた翌日、気持ちを切り替え目指すは夢の大陸。
彼らは炎の大陸を経由するため、まずはライトーンという街を目指すことになった。
***********
ライトーンはヨウタイ王国から2時間ほどでたどり着く、街だ。
「そぉーれっ!」
新しく斧を使い始めたガウディアは、依頼関係なく魔物と戦っている。
剣と違い素早く動けず、なかなか当たらない。
「はあ、はあ」
「大丈夫ですか?」
扱いに慣れていないため、大きく体力を消耗し、短時間で疲れ果てる。
現在、彼らはヨウタイ街道を歩いている。
光の大陸全域に生息するシープホーンはいい相手だ。
「今度こそ...」
単純な動きしかせず、すれ違いで攻撃すればいいので一人でも安全だ。
アルヴァン達はもっと強い相手を探す。
「お、強そうなのがいるな」
3mほどのゴリラを見つける。
あれはエイプマンだ。
動きは遅いものの、自慢の筋肉を活かし放たれるパンチはかなりのもの。
「ランク3..じゃないな。4は絶対いってそうだな」
「戦ってみよっか」
「そうですね」
近づくと、エイプマンは雄たけびを上げ、こちらに向かってきた。
力任せにタックルやパンチなどを繰り出す。
動きは遅いが、反応が早い。
後ろから攻撃しようとするも、足で蹴り飛ばされる。
スヤキが遠くから火の玉を放つ。
裸だからか、よく効いている。
時間はかかったものの、なんとか倒すことには成功した。
「ふう。2体で来たら大変だね」
ガウディアはまだ斧を振り回していた。
「そっちはまだ終わらないのか?」
「...もう少しだ」
シープホーンは少しダメージを受けている。
どうやらかすり傷は与えたようだ。
「終わりだ!」
勢いよく斧を振り下ろし、シープホーンを倒す。
1匹に時間をかけすぎだ。
「タイマンは厳しいな」
その後も、ガウディアは何度もシープホーンと戦いながらライトーンを目指し、無事到着した。
街の広さはぼちぼちと言ったところだろうか。
オウタイ王国よりは広くはないものの、港もあるので施設はそろっている。
「なんやだんかで光の大陸は短かったな。まだまだ行ってないところもあるけど」
「苦労は多かったよな。炎の大陸も苦労しそうだ」
四人は船に乗り込み、炎の大陸へと出発した。
着くまでは6時間はかかる。
「スヤキって魔法なに使えるの?」
「火の玉と氷の刃を作り出すことでしょうか」
「おー、見せてくれ」
スヤキは誰もいないところへ移動する。
「アイスエッジ」
そう唱えると、スヤキの手から氷の刃が生み出され、海の向こうまで飛んで行った。
「物理に近い技だな。回復魔法とかないのか?」
「回復?できません」
「そっか~。スヤキが回復魔法使えたら、回復薬買う量も減るのにね」
回復薬には種類があり、それぞれ効き目が違う。
一番安いのだと、少ししか回復せずたくさん使うことになる。
半面効果が高いものは性能はいい物の、値段が高い。
冒険者にとって食料と回復薬はなかなか苦しい出費だ。
スヤキは少し申し訳ない顔をしている。
「やっぱり、必要ですね」
「あればいいくらいだな」
その後も、ガウディアとアルヴァンが腕相撲をしたり、他の冒険者との交流など時間をつぶす。
「おい、見えてきたぞ!」
遠くに炎の大陸が見えてきた。
炎と言われ、マグマに囲まれているかと思ったがそうでもない。
大きな街が見える。
「地味だね。火山ないのかな」
「火山周辺に街作るバカがいるかよ。奥に行かないとないんだって」
「じゃあなんで炎の大陸って言われてるの」
「....知らね。でも、火山が多かったりと危険地帯は多いぞ」
船を降り最初に訪れる街、フレファ。
全体的に活気で溢れている。
港には初めて訪れる者のために施設の場所などが書かれた大きな看板が立ってある。
まずは恒例のギルド探しから始まる。
街の中を歩いていると、大きな広場の中心に石像が立っていた。
下半身がない男が両手に剣を持っており、空を見上げている石像だ。
「なんで下半身ないんだ」
「全身つくらなかった...いや、それにしても変だよな」
そう考えながら、石像を眺めていると一人の老人が話しかけてきた。
「石像が気になるかい?それはこの炎の大陸の守護神、アグニス様じゃ」
「アグニス?」
「下半身がなく、浮いておると言われてのー。大昔に大陸を炎で包み、災いから守ったと言われておる」
「神だけど、人なんだな」
「アグニス様は優しい神さまだったそうじゃ。人々と触れ合うために、自ら人の姿に近づけたそうじゃ。もっとも、あくまで言い伝えじゃが...」
石像に触れてみると、どこか温かみを感じる。
国ではないため、街の中は広くなく、ギルドは見つけやすい。
依頼は国と比べて少なめではあるものの、しっかり揃っている。
このまま夢の大陸を目指すのも悪くはないが、炎の大陸で実力を上げながら進むのもいいかもしれない。
「ランク4やってみるか。レッドリザードにマグマイマイだな」
当たり前だが、魔物はどれも聞いたことのないものばかりだ。
街の外、フレファ草原には大きなカエルやイモムシと弱そうな魔物が生息している。
「確か...ランク2に名前書いてたよな。オオガエルにグリーンワームか」
「む、虫...!」
アルヴァンが試しにグリーンワームに挑んでみる。
相手はクネクネと逃げようとしている。
斬りつけると中から緑色の液体が噴射される。
ネバネバとした体液が周辺に飛び散る。
「き、汚ったね...!」
「メンタルがやられるな。ランク2なのも納得だ。よし、俺はカエル倒すか」
オオガエルは1mほどとそこまで大きくはない。
好戦的ではないのか、ガウディアと目が合ってもケロッとしている。
大きく斧を振り上げ、逃げないことを確認すると力いっぱい振り下ろし、カエルを切断した。
「シープホーンより楽だな。魔物かほんとに...」
「グリーンワームは植物を食い荒らすと書いてました。オオガエルは子供の被害が。それよりもさっさと行きましょう。日が暮れますよ?」
討伐依頼の魔物の生息地はフレファ草原を進んだ先にある、バーン火山地帯だ。
草原とは大きく変わり、植物がほとんど生えておらず、地面から熱風が噴いている。
そんな環境で生息する魔物レッドリザード。
硬い鱗で覆われ、鋭い爪を持つトカゲの魔物だ。
他にも真っ赤な色のカタツムリと炎の大陸に相応しい見た目をした魔物が生息している。
「スヤキ、お前の出番だぞ」
「お任せください。アイスエッジ!」
手から氷の刃を生み出し、マグマイマイに投げつける。
マグマイマイを一撃で倒した。
「魔法ってすごいな」
周辺にはマグマイマイが集まっている。
これならすぐに達成できそうだ。
ガウディアが斧を持って接近すると、マグマイマイが火を噴いた。
「うわ、危な!威力はなかなかありそうだな」
動きは遅いものの、集団で火を噴く戦法のようだ。
「火を噴くのに予備動作で大きく吸い込んでる。その間に回り込むぞ」
スヤキが魔法で戦い、三人は分散して攻撃する。
攻撃しようとするとマグマイマイは殻に籠った。
背中の殻はなかなかの強度で、オノで少しダメージを与えることができる。
「剣はきついな。だが、殻にいる間は火を噴けないみたいだな」
背後に静かに立ち尽くし、殻から出てきたところを斬りつける。
一撃では仕留めきれなかった。
「動きは単調。集団を同時に相手しなければ...」
撃破に時間がかかっている中、スヤキが着実に仕留めていく。
数が2匹にまで減ると、スヤキは息を切らし、その場で座り込みんだ。
「ご、ごめんさい。連続で魔法使って体が...」
魔法は使うたびに体に疲れがたまる。
さすがに2匹なら苦戦はしない。
ガウディアの斧が炸裂し、殻ごとマグマイマイを倒した。
「よし、良い一撃が入った!」
負けじとアルヴァン達もマグマイマイを倒す。
三人もその場で休もうとしたが、レッドリザード1匹がこちらに襲い掛かってきた。
するどいツメでひっかいたり、硬い尻尾で薙ぎ払ったりと物理に特化している。
「いってえ...なかなかめんどくさいな」
硬い鱗は攻撃にも防御にもなる。
しかし、腹は柔らかく剣で爪の攻撃を防ぎ、薙ぎ払いひっくり返す。
「ぜい!」
1匹とはいえ、なかなかの相手だった。
「群れに襲われる前に逃げたほうがいいな」
そう言って草原へと歩き始めようとした時、四人の前に大きな何かが上から現れた。
4mはある巨体に、背中から翼を生やし、レッドリザードのようにするどい爪を持った大きなトカゲだ。
「な、なんだ」
魔物はスヤキに向かって大きく口を開いた。
噛みつきか...いや違う。
「スヤキ、逃げろ!」
アルヴァンがスヤキを突き飛ばす。
魔物は大きく息を吸い込んだかと思うと、口から火炎を放った。
アルヴァンは火炎を全身に浴びる。
マグマイマイとは威力が桁違いだ。
全身にやけどを負い、辛うじて生きてはいるものの、かなりのダメージを受けた。
魔物がもう一度大きく息を吸い込む。
ガウディアが斧で攻撃するも、怯みもしない。
「アイスエッジ!」
スヤキが口めがけて氷の刃を打ち込むと、魔物は口を閉じスヤキに接近する。
もう一度、スヤキがアイスエッジと呟こうとした時、魔物は尻尾で薙ぎ払う。
魔物はレッドリザードを食べると、空を飛び山の向こうに消えて行った。
幸いスヤキは傷は浅いが、問題はアルヴァンだ。
急いで回復薬を使用する。
「ま、まだ体がヒリヒリする。回復薬じゃ治らないのか」
傷は消えたものの、全身を襲うやどけは完治できなかったようだ。
日も暮れてきたので、急いで街の戻る。
あの時襲ってきた魔物の正体を確かめるため、ギルドのボードを眺めているとランク7の依頼で正体がわかった。
「ドラゴン...」
敵わないのが身に占めてわかった。
ランク7の依頼は数件しかなく、ランク8以降は何もない。
「ランク4の俺らが敵うわけなかったんだよな。生きててよかった」
受付嬢が言うにはどうやらドラゴンは餌のレッドリザードを狙っていたらしく、餌を奪うために自分たちを攻撃したらしい。目的がレッドリザードだったために助かったが、最初から人間ならばあっという間に全滅だそうだ。
とりあえず、レッドリザードとマグマイマイの依頼を達成し、4人は報酬を得る。
ランク4になってくると報酬も豪華に思えてくる。
「この大陸では炎を使う魔物が多いので、やけど治しを買うのがおすすめですよ。後は火炎布で作られた防具もおすすめです」
思えば自分たちはまともな防具を身に着けていない。
防具屋に行くと、受付嬢の言っていた通り火炎布という炎を軽減する素材で作られた服が売ってある。
だが、高い。
「銀貨5枚だと!?」
銀貨は銅貨5000枚分になる。
自分たちではとてもじゃないが買えない。
「高すぎだろ!」
ガウディアが店主にそう言った。
「お兄さん、冒険者だね。この大陸には炎に関する魔物が多いことは知ってるよね」
「ああ、さっき聞いた」
「道具屋にはやけど治しっていう薬が売ってるけど、この服買ったらやけど治し買う頻度減るよね。そうなると道具屋の商売が赤字になるんだよ。だから防具もそれ相応に高くなる。わかったら金用意してきな!」
「ぐ...ぬぬぬぬ」
仕方なく防具屋を後にする。
宿に泊まり、明日からの行動を考えることにした。
「まったく、銀貨5枚とか舐めてんのかよ。何日かかるんだよ。あの店主に向かって銀貨ぶん投げてやりてええええ!」
「しばらくは我慢だな。マグマイマイ程度の相手なら問題はないし。ただ、ドラゴンに次襲われたらやばいよな。常に警戒必須か」
「でもレッドリザード10匹で銅貨300枚だよ。その気でいけば」
「飯と宿や薬で一気に消えるから利益あんまりないんだよな~」
複数依頼を受けてもその日にやれる数には限界がある。
明日からはもっと依頼を受けるということで話は終わった。
「少し散歩してきますね」
そう言ってスヤキは外に出た。
夜の街は静かで人通りも少ない。
「...はあ」
炎の大陸に着く前に、船で言われたことについて悩んでいた。
『スヤキが回復魔法使えたら、回復薬買う量も減るのにね』
幼いころから使えていた二つの魔法以外に新しく覚えようとしなかったことを初めて後悔する。
「節約のため、回復...覚えたいですね」
そうは言っても、魔法をどうやって習得するかをスヤキは知らない。
いきなり偶然覚えるものなのか、初めから使える者とそうでない者が分かれているのか。
昔、父親が言っていた言葉を思い出す。
「確か..魔法の名前はヒールでしたっけ」
地面に落ちている小枝で自身の腕に小さな傷をつけ、そう呟いてみる。
しかし、何も起こらない。
その日、スヤキは何度もヒールと呟き続けたが、何も進展しないまま時間が過ぎて行った。宿に戻ると、三人は既に眠っている。
「(もっと頼られる人間になりたいですね)」
そう言ってベッドに入った。
***************
同時刻、光の大陸ライウン城にて。
王は研究者のレオンを王座の間に呼び出す。
「レオンよ、合成兵の調子はどうだ」
「はい。先日、レイアをオウタイ王国に送り、テストしたところ強さは本物です。オウタイ王国の兵を集団で相手にしても問題はありませんでした」
「ほほう。何人殺した」
「本人が言うには10人までは覚えていると...」
そう報告すると、王様は大きな声で笑った。
「これはオウタイ王国を我が物にするときも近いな。....合成兵の量産は順調だろうな」
「はい。既に新たに二人成功しました」
「愉快愉快。さっそく、見せろ」
レオンは王の前に、灰色の髪をした少年と赤色の髪をした少女の二人を連れてきた。
どちらも目元は暗く、冷酷な目をしている。
「どちらも必死に暴れていましたが、合成兵になると感情が消えたように大人しくなり、命令に従うようになりました。名前は...」
「名前なんてどうでもいい。実力はどうだ?」
「ま、まだ試しては」
「丁度いい。二人にオウタイ王国を襲撃させろ」
王は悪魔のような笑い声をあげた。
仮に合成兵が負けたとしても、自分達の仕業と思われることもない。
二人の実力がはっきりし、使えるとわかればオウタイ王国に戦争をしかけるつもりだ。
「オウタイ王国だけじゃない...光の大陸全てを支配しよう。そして、そのうち他の大陸にも戦争を仕掛けようと思う。ふっふっふっふ、ふはははは」
静かな王座の間に、王の笑い声が響き渡った。
その頃、レイアはヒカリ山で多数の魔物の死体の山を作り上げていた。
レイアはあの時殺し損ねたアルヴァン達のことを考えていた。
「あの時は疲れたから帰ったけど、見つけたら殺したいな。どこにいるのかな~」
小さく笑いながら、再び魔物達へと向かっていった。
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