第14話 バルト王国の崩壊

仲間と合流するまで時間をつぶそうと休憩していたアルヴァンは目を覚ますと、一人の少女が複数の兵士を殺していた。


人間とは思えぬ、恐ろしい実力を持ち、アルヴァンも襲われるが助かった。


その後、ガウディアも少女に襲われるも仲間が駆けつけ、少女はその場から立ち去る。


一人悩んでいたガウディアだったが、アルヴァン達に自信の過去を打ち明けた。


それは、闇の大陸に存在していたバルト王国の話だった。




************




戦いが始まったようだ。

遠くでは戦っている声が聞こえる。

「(こっちまで来てくれよ、魔物ども。このリューゼ様が退治してくれる)」

志願者の中には、こっそりと前線に出ようとする者もいた。

「ついに始まったな」

空を見上げると、綺麗な青空ではなく暗く、濁った雲が覆いつくしている。

それが志願者達の緊張感を煽る。

遠くから兵士の雄たけびが聞こえてくる。

雄たけびだけでもその強さは十分伝わってきた。

「ガウディア、前に行ってみようぜ」

「勝手に動いたら怒られるんじゃないのか?指示があるまで待つべきだ」

リューゼは不満そうな顔をしている。

気持ちはわからなくもないが、ここで勝手な行動をするわけにもいかない。

志願者達は大人しく待機していた。


しばらく時が経ち、1時間は経過しただろうか。

兵士達の雄たけびが少しずつ小さくなってきている。

「前に行きたいな~」

やがて、兵士たちの声は聞こえなくなってしまった。

リューゼは今すぐにでも前に行きたいようだ。

このままここにいたって魔物とは戦えない。

「前に行こうぜ」

「だめだ。大人しくしてろ」

「耳をすませ。戦いの音が聞こえないだろ!?兵士たちはみんな前に進んでるんだよ。このままじゃ俺たちがここにきた意味ないよな!?俺達を連れてきたのは戦力として使うためだろ!」

「はあ。そのうち指示がくるから待ってればいいだろうに」

「そう思ってるのは少ないみたいだぜ。見ろよ」

志願者達は次々と前に向かって歩き出している。

さすがにじっとはしてられないようだ。

ガウディアのように律義に待っているのは2割もいない。

「このままじゃ手柄横取りだぞ。お前が行かないなら俺一人で行く」

「わーかったよ。俺も行くから、そう焦るなって」

リューゼとガウディアは他の志願者達と共に、前へと歩き始めた。

皆、口々に先の光景を想像しあっている。

「魔物の首持ち帰って妹に自慢するんだ」

「『汚い』って言われて捨てられるぞ?ははは」

「パパが必死に止めてたけど、楽に決まってるでしょ」

「兵士は給料がいいからな。仕送りもできるといいな」

「さっさと片付けて帰りますか~」

不安を持つ者もいたが、多くは明るい希望を秘めていた。

ここで活躍し、兵士になる。

前に進み続けていると、大きな森に出た。

一体兵士たちはどこで戦っているのだろうか。

「地図ではこの森を抜けたら広い平原がありますネ~。戦争するならそこしかないですネ~」

前にはたくさんの志願者達が歩いている。

「くそ、一番に動いた奴が有利じゃないか。ガウディア、俺達結構後ろの方だぞ」

「そう文句言うなよ。志願者って言っても実力は一般人と変わらないんだから、魔物もすぐにはやられないだろ。むしろ、遅く行って弱った魔物を倒そうぜ。まー、魔物みたことないけどな!」

ふと、ガウディアは木に付着している血に気が付いた。

「おい、なんだこれ。血...魔物の...だよな」

「おいおい、先行くぞ」

「あ、ああ」


それから20分は歩いただろうか。

ガウディアはふと違和感に気づく。

「おい、おかしいぞ」

「なんだよ」

「少ないんだ。前を歩いてる連中の数が...減ってるんだ」

「...え?」

森の中で木があるせいではあるものの、それでも数分前に前を歩いていた人間の数が明らかに減っている。歩く速度に多用の差はあるが、見えなくなるまで差が開くだろうか。

二人はその場に立ち止まる。

ふと、木を見ると、明らかに真新しい血が付着していた。

「おいおいおいおい!」

地面は血が点々とどこかに続いている。

二人は血の跡を辿って行った。

ガウディア達が進む向きを変えたため、後続の志願者も歩くのやめる。

「そっちじゃないぞ。このまままっすぐに。おい、どこにい」

男の近くの草むらが揺れる。

小動物にしては大きく揺れている。

「な、何かいるのか...?」

男が確認しようと顔を近づけたとき、草むらから顔に向かって槍が飛んできた。


************


血の跡を辿っていると、小さな音が聞こえる。

クチャ...クチャ。

「なんの音だ?」

「しー。静かに」

ゆっくりと進むと、音は大きくなっている。

「ゲゲ。ゲゲゲゲ」

聞いたこともない声が聞こえた。

進んだ先には、人間らしき生き物を食べている、緑色の肌をした小人たちがいた。

「....え?」

周辺には、槍で串刺しにされた志願者達が転がっている。

二人は状況を理解できない。

その時、後ろから声が聞こえた。

「ぎゃああああああああああ」

「うぎぇええ」

「うわあ」

複数人の声が聞こえた。

その声に反応し、小人たちは槍を持って声のする方向へと向かった。

「ま、魔物だああ!」

「い、いや...やめてえ!」

「助け...」

森のあちこちから悲鳴が飛び交っている。

聞こえるのは人間の声だけじゃない。

「ンゲガー!」

先ほどの小人の声があちこちから聞こえる。

「ま、まさかあれが魔物...」

硬直していた二人の元に一人の志願者が走ってきた。

目からは涙を浮かべ、必死に何かから逃げているようだ。

「だ、誰か助けてく」

突如木の上から大きな蜘蛛が現れ、志願者を捕まえる。

志願者は必死に蜘蛛の顔を殴り続ける。

「やめて!やめろ!」

志願者の腕が食いちぎられた。

森の中を奇声が響き渡る。

「に、逃げよ..逃げようぜ」

そう言い、リューゼは逃げ出した。

後を追うように、ガウディアも逃げ出す。

恐ろしい何かをみた。

恐怖で走ることしかできない。

必死で走っていると、多くの志願者達と出会う。

皆も同じく、逃げているようだ。

ここは地獄だ。

目の前から明かりが飛び込んでくる。

「も、森を抜けるぞ!」

その先には兵士がいるはずだ。

助かったと、そう思った。





しかし、現実は甘くなかった。

平原に広がる光景は、多数の兵士の死体で埋め尽くされていた。

「....そんな」

魔物の死体も数多く広がっている。

遠くにはまだ生きている兵士がいるが、次々と殺されているのがわかる。

「おい、なんだありゃ」

10mはある巨人が20体は見えた。

次々と踏みつぶされたり、殴り飛ばされたりと、虫のごとくやられている。

「.....」

森を抜けた志願者達はその光景を見て、次々と絶望していく。

中には嘔吐する者もいた。

「負けて...るのか?」

誰しもがそう思った。

「嘘だ。俺達、負けたのか...ガウディア、何か言ってくれ」

この状況下で何を言えと言うのだ。

皆、絶望し立ち尽くしていた。

だが、そんな時間はなかった。

「ギャッギャッギャー!」

森の中から小人たちが隙だらけの志願者達の背中に次々と槍を刺している。

恐怖のあまり動けず、命乞いをしたまま死んでいく者、抵抗しようとするも数の暴力により、あっさり死ぬ者。

そして、悲鳴を上げながら逃げる者。大多数がこれだった。

「ガウディア、逃げるぞ!」

その場から皆は逃げ出す。

後ろでは恐ろしい行為が行われている。

「だ、だれかー!」

志願者の中には女も混じっている。

実力は男とほとんど変わらない。

足を槍で刺され、動けなくなったところを生きたまま食われていく。

聞きたくもない苦しむ声が志願者達の心を殺した。

「いやだー、死にたくない!」

命がけで走っていると、馬に乗った多数の兵士を見つける。

救世主だ。皆、兵士たちに群がった。

「助けてください!」

しかし、兵士たちは相手にしてくれず、馬を走らせる。

こちらに憐れむ表情を浮かべて...。

後ろから大きな怪物が現れる。

数名が希望を失い、立ち止まる。

気づいてしまった。

自分たちは囮にされたのだと。

森であった小人でも自分たちが勝てる相手とは思えない。

そんな志願者達をどうやって戦力として使うのだろうか。

ガウディア達はバルト王国を目指し、森の中に入る。

ここはもはや地獄なのだから。

「あんなにいっぱいいた志願者が...なんてことだ」

絶望から抜け出すには、森を通らなければいけない。

「....ひでえよ」

後ろからは怪物が迫ってきている。



森を抜けきったガウディア達はバルト王国を目指した。

あれだけたくさんいた志願者も300人程度に減っていた。

皆、恐怖で顔が歪んでいる。

「ガウディア、夢なのかな」

「....」

戦う前の希望はどこに行ってしまったのか。

頭の中では、今でも仲間の苦しむ声が聞こえる。

「おい、あれマレンじゃないか...?」

少し先にマレンが見えた。

服のあちこちが破れている。

「おい、マレン」

肩に手を置くと、ひどく怯え始めた。

「い、いやっ!」

「落ち着けって、俺達だよ」

「....」

誰も話す者はいなかった。

皆、ゆっくりとバルト王国に逃げ帰っていた。

家に帰りたいと...。

そんな思いをへし折るかのように彼らに待ち受けていたのは崩壊したバルト王国の姿だった。

あれだけ立派だった王国も、大爆発でも起きたかのようにボロボロになっていた。

あるはずの家、家族の姿がない。

家族の名を叫ぶ者、ただただ地面に泣き崩れる者。

もし魔物がいたらという考え彼らにはなかった。

ガウディアもまた、全てを失った。

「....誰でもいい。誰か...いないのかよ」

その時だ、あちこちから悲鳴が聞こえた。

この国を滅ぼした魔物達がまだいたようだ

ガウディアは動こうとしなかった。

「もう、死にたい」

しかし、そんなガウディアの背中を誰かが押した。

振り返っても誰もいない。

「生きろって言ってんのか」

絶望していた心は救われた。

生き残ってやると、そう誓った。

家の前で涙を流すリューゼを見つけ、逃げるように促す。

「ふざけんなよ。もう生きたいなんて思えるかよ。お前も、失ったんだぜ。なんでそんな平気なんだよ!」

そんな二人のもとに一体の巨人がやってきた。

手には、首がありえない方向に曲がっているマレンの姿があった。

リューゼは歯をむき出しにし、巨人へと立ち向かった。

「この....やろおおおおおおお!」

勢いを込めた突撃も、巨人の前では意味を成さず、リューゼは叩き潰された。

「ぎゃ..が..ああああ!」

「リューゼ!!」

「来...じゃねえ!....ガウディア..逃げて..くれ。いつか...仇...とってくれよ」

リューゼは目から涙を流した。

ガウディアは無言でその場から走り去る。

リューゼは最後までガウディアの背中を見届け、死んでいった。

バルト王国から出た者は10名ほどだった。

「あいつらが追いかけてくる!」

バルト王国の近くには港があり、この地獄から脱出する方法は海に逃げる。

それしかなかった。

皆は小舟に逃げ込み、急いで闇の大陸から離れた。

「助かったのか...」

一人の男がそう言った。

自分たちは助かったのだ。

遠くなるバルト王国を見て、大勢が涙を流した。

バルト王国は滅んでしまった。

だが、まだ彼らに災難は襲い掛かる。

嵐だ。

小舟は大破し、海に投げ出される。

ガウディアは、偶然近くを通りかかった船によって助けられる。

近くに他の仲間の姿はなかった。

「....」

ガウディアは大声で泣いた。

大勢の人間に心配されながら。

そしてガウディアは復讐を誓った。

船は風の大陸へとたどり着き、ガウディアは降ろされた。


********


「ってことだ。そこで俺は魔物と戦うことを決めて冒険者になったんだ」

話し終えたガウディアは顔がやつれている。

「想像以上に重たい話ですね」

「まーな。話して楽にはなったな」

「行かなくちゃな。強くなって、皆の仇のためにな。俺も協力する」

アルヴァンの発言に、ガウディアは嬉しそうに笑った。

悩みは解決はしていないが、心の重みが少し消えた。

「でも、まずはアルヴァンの目的が先だぜ。俺のは後回しだ。もっともっと強くなってやるぜ」

疲れがたまっているのか、ガウディアは床で寝てしまった。

「それにしても、あの少女が気になるな。今もどこかで犠牲者が出てるかもしれない」

「そうですね。いつか、戦うことになりそうですし、用心しなければなりませんね」

明日のことも考え、三人も寝ることにした。

翌日、朝食を食べていると、ガウディアが話し始めた。

「お前たち、今後のことも考えてそろそろ自分たちの役割を作ろうと思っている」

「役割?掃除当番とか?」

「なわけねーだろ。どこ掃除する気だ。戦い方ってやつだよ。アルヴァンと俺とナズナは剣で戦ってるだろ?スヤキは魔法でいいとして、さすがに三人剣はまずいだろ...」

他の冒険者のパーティには弓にハンマーやオノなど多彩な武器で戦っている。

それだというのに、自分たちは三人剣だ。

「でも、俺他に武器扱えないぞ」

「私もー」

「てことでだ、俺は新しく斧を使おうと思っる」

ガウディアは大きな斧を見せた。

斧は重たい分、一撃が大きい

剣よりも素早く動けないが、硬い相手でもしっかりとダメージを与えることができる。

扱いは少し難しい。

「朝早起きして、こっそり買っておいた。俺は剣の腕だって大してないだろ?なら、実力が付く前に自分の武器を決めようと思ってなー。アルヴァンとナズナに剣を任せる」

「斧扱えるのか?」

「まー、厳しいところだな。早朝に外で振り回したが結構体力使う。でも、ストーンクラブのように物理が効きにくい相手だってこの先たくさん現れるだろう。スヤキに頼り続けるのもよくない

「私は別に構いませんが」

「それじゃあ成長しない。俺達は強くならないといけないんだ!」

世界中にはまだまだ自分たちの実力を超える魔物がたくさんいる。

昨日であった少女のように、命の危険が伴うこともあるだろう。

「夢の大陸の進路だが、闇の大陸を避けて進むとして、炎の大陸を経由しようと思ってる。だが、炎の大陸は危険らしくてな...」

炎の大陸はその名の通り、火山地帯が多く、いたるところにマグマが流れていたり、過酷な大陸と言われている。

だが、全てが火山地帯と言われるとそうでもない。

草木に豊かな地形も数多く存在する。

「火山地帯が多いってだけだな。後は炎に包まれた場所も存在するらしい。意外と大げさに言われている」

「いいね!私見てみたい」

「おいおい、そんな観光気分で...。でも、決まりだな。行くか」

「炎の大陸はライトーンって街で船に乗ればいけるらしい。出発するぞ」

「わかりました」

四人は新たな目的地、ライトーンを目指し、ヨウタイ王国を旅立った。

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