第13話 殺意の少女

大空に浮かぶ大陸の情報を探していると、夢の大陸が空に消えたという内容を見つける。アルヴァンは大空に浮かぶ大陸についての有力な情報を手に入れた。

それと同時刻、ライウン王国にて一人の研究者が現れる。

男の名はリシオス。

彼は合成兵を見せるため、王に会いに来たが、研究結果を盗まれる。

合成兵を量産するため、シャイン村に住む人々が狙われた。


*************

アルヴァンは大空に浮かぶ大陸の情報を掴み、三人が帰ってくるまでヨウタイ王国の中を観光していた。

「うおー、道具屋が3つもあるな。薬専門に...あっちは冒険道具か!」

夜までまだまだ時間がある。

町中を歩き回ってもまだ明るい。

仕方なく、近くにあったベンチで寝転がる。

そして1時間後、何やら騒がしく、目が覚めた。

多数の兵士が一人の黒髪の少女を囲んでいる。

その周囲には血を流し倒れている兵士が数人いた。

「(え、なんだ..?)」

少女は兵士の攻撃を軽々避け、手に持つ剣で次々を兵士を斬りつけていく。

8人はいた兵士は全滅した。

「つ、つよい...」

アルヴァンは少女と目が合った。

冷酷な目で、目元は暗い。

自分よりも小柄だが、強い威圧を感じる。

「....」

アルヴァンはそっと起き上がると、剣を構えた。

「.....敵...みつ...けた」

少女の話し方はどうも元気がないように思える。

アルヴァンが剣を構えたのを見ると、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

「お前、何してる!」

そう問いかけたが、答える気配はない。

あんな小さな少女が人を...いや、そこじゃない。

自分よりも実力が明らかに上だ。

「(人を殺すことに躊躇が感じられない...)」

周囲には偶然か、人がいない。

叫んで誰かを呼ぶか...。

少女はアルヴァンから10mほどの距離で足を止める。

「....敵なの?」

「敵?どういう意味だ!」

「いたぞ!」

そこへ、10人の兵士が駆けつけてきた。

先ほどの兵士よりも武装している。

「そこのお前、下がれ!」

アルヴァンを後ろに下がらせ、兵士たちは突撃した。

少女に攻撃を仕掛けるも、まるで命中しない。

少女の目つきが変わったかと思うと、次々と一撃でやられていく。

「ば、ばけものだ!」

そう言った兵士は頭に剣を突き刺された。

「(....逃げないと)」

すぐにわかった。

このままでは自分も殺されると。

アルヴァンは走り出した。

兵士たちには悪いが、自分ではどうすることもできない。

後ろを振り返らず、ひたすら前に進む。

背後からは悲鳴が聞こえる。

走っている最中、数人の冒険者に出会う。

「お前たち逃げろ!」

「ん、なんだお前」

「いいから早く逃げろ!」

そういった直後、背後から何も聞こえなくなった。

不安に思い振り返ると、兵士は全滅しており、少女はこちらにすごい速さで迫ってきている。

「おいおい、なんだありゃ」

反射的に冒険者達は武器を構えた。

戦う気だ。自分も加勢するか。

兵士よりも実力は下だが、戦いの経験なら十分冒険者も積んでいる。

アルヴァンを含め合計6人。

戦うしかない。

少女の威圧は全員の反応を鈍くした。

素早く懐に潜り込まれ、防御をする間もなく、次々と斬られていく。

「ぐわっ」

無関係の人間が次々と死んでいく。

なんとしてでも止めなくては。

「(人を斬るのは...)」

今回は魔物ではない。

人間だ。

人を斬ることを体が拒絶している。

「く、くそ」

アルヴァンは手を狙った。

だが、躊躇を含んだ一撃など何の意味もない。

あっさりと避けられた。

「....」

少女は無言でアルヴァンに襲いかかる。反射的に剣で防ぐも、とても人間とは思えない強い力だ。

「(ふ、振り払えない...)」

他の冒険者が少女の背後から攻撃した。反撃に出たため、注意はアルヴァンから外れる。

「ぎゃぁぁぁ」

また1人死んだ。

辺り一面血が広がっている。

「ば、ばけもんだー!」

一人の冒険者がその場から逃げ出そうとした。

「....違う。違う」

少女の様子が豹変し、逃げた者に一瞬で追いつくと首を切断した。

「(いきなり豹変した。さっきまでと殺し方が違う...怒りをぶつけてる)」

気づけばアルヴァン1人になった。

「....あなたで終わり」

圧倒的な実力と威圧に体は硬直してしまう。

これでは戦えない。

「目的はなんだ!」

「....」

「どうして人を殺す!」

体の硬直が治るまで必死に時間を稼ぐ。

近くに人はいない。

もう誰も助けには来ない。

「なんの罪もない人を...」

相手に対する怒りでアルヴァンの硬直が消える。

少女はふと、倒れている冒険者達を見た。

涙を流し、皆死んでいる。

すると、先程まで少女の全身から溢れ出ていた殺意が消えた。

「私が...私が...」

目にも光が戻り、優しい顔をしている。

どうなっているかはわからないが、逃げるなら今しかない。

アルヴァンは急いでその場を去った。

少女は死体の近くで頭を抱え、その場に座り込んでいる。

追いかけてはこないようだ。

アルヴァンが逃げた後、少女の元に数名の兵士が駆けつける。

「こ、こいつだ。この惨状...気をつけろ!」

「おい、そこのばけもの!」

「.....」

少女の目から光が消え、冷酷な目付きで兵士達を睨みつける。

「...」

少女は兵士たちを全滅させ、その場から立ち去る。

今回の一件はすぐに国中に広がり、大勢の人を騒がせた。

冒険者の死人も出たため、ギルドの中でも大きく話題になった。


アルヴァンは合流したガウディア達に今回の話をした。

「何、小柄な少女に殺されかけた?」

「そういえば、そんな話門の前で聞いたね。警戒しろって言われた。すごい数の兵士が徘徊してたよ」

「よく生きてましたね」

「あぁ...。あと少しで死ぬところだったよ。なんていうか、人間というよりも魔物って気配がしたんだ」

「魔物か...確かに大勢の人間を小柄な少女が殺せるとは思えない。犠牲者の中には冒険者もいたんだろ?相当強いな」

アルヴァンもそれなりの実力はあった。だが、それでもまるで歯が立たなかった。

昨日は夜でも多くの人間が出歩いていたが、今では冒険者数人と少ない。

たまに徘徊している兵士に『出歩くな』と言われる。

店はどこも閉まっていたので。仕方なく宿に戻ることになった。

「アルヴァン、資料館で何かいい情報は手に入ったか?」

「あ、忘れるところだった。手に入ったぞ。と言っても、そんなに有力かと言われたら自身はないけどな」

アルヴァンは資料館でのことを話す。

夢の大陸が空に浮かぶ大陸なのではないかと。

「夢ですか。なんだか信じ難い話ですね」

「仮に夢の大陸だとしてもよ。遠いってレベルじゃないぞ?光の大陸からじゃ行けないな。あちこち経由しなきゃな」

夢の大陸はここから非常に遠い位置にある。

風の大陸から光の大陸までの距離がかわいく見えるほどに、遠かった。

「でも、次の目的地が決まったね!」

「....そうだな」

地図を見るガウディアはどこか暗い顔をしていた。

闇の大陸を見つめたまま、じっとしている。

「どうやって行こうか...。闇の大陸経由で行くか」

「だめだ!!」

ガウディアの声が部屋の中に響き渡る。

部屋の空気が大きく変わった。

「闇の大陸だけはやめとけ」

「どうしたの?」

「....なんでもない。だけど、やめとけ。ちょっと散歩してくる」

外は危険だとナズナが止めたが、ガウディアは振り払い外に行ってしまった。

ガウディアの顔はどこか悲しみに溢れていた。

「どうしたんだろ...」

「嫌な思い出でもありそうですね。連れ戻しに行きます?例の少女と遭遇しては危険ですし」

「そうだな。よし、行くぞ」


**************

ガウディアは街の中を歩き回っていた。

「くそ、また思い出しちまった。はやく忘れてあいつらの所に...だめだよな、俺」

ぶつぶつと言いながら、歩いていると街の隅で何か声が聞こえる。

「よ、よせ...やめろ。ぐっ..」

何事かと不思議に思い、駆けつけると暗い顔をした少女の足元に血を流し倒れている兵士がいた。

「....」

少女の手には剣が握られている。

「な、何してるんだ」

少女がこちらを睨みつける。

ガウディアの全身を包み込むかのような強い威圧を感じた。

「....」

少女は無言でこちらに走ってきた。

「まさか、アルヴァンが言ってたやつか!?戦う気満々かよ!」

相手が小さな少女と油断していたため、武器を構えるのが遅れる。

勢いよく振られた剣をガウディアは後ろに飛び退き、なんとか避けた。

「(剣の扱いは下手だな。ただただ振り回すだけか...。だが、動きが速いし一撃でももらったら終わりだな)」

「.....あなたで終わり」

そう言ってこちらに素早い突きを放った。

日々魔物と戦ってきたが、それとはまるで格が違う。

「(この時間帯じゃ人なんていないようなもんか...くそ、戦うしかないよな。大勢犠牲が出てるんだろ..やばいよな)」

ガウディアは守りに集中する、素早い相手でも動きは読める。

一撃を剣で防ぎ、隙を狙う。

「そこだ!」

防いだと同時に腕を斬り付けた。

ダメージは低いが、これで剣の動きは弱くなっただろう。

「悪いが俺は人間だろうと容赦なく斬れるからな。状況見る限りお前だろ、昼間人間殺しまくってたのは」

少女は何も答えず、冷酷な眼差しを向ける。

「無視かよ。だったら、もう少し痛い目に合ってもらうぜ」

先ほどの攻撃で少女の攻撃が遅くなっている。

隙も大きくなり、まだ劣勢ではあるが十分戦える。

「平気で人殺しやがって。...それにその力、ばけもんだな」

「ばけもん...」

少女の目つきが鋭くなった。

同時に、ガウディアに対し強い殺意を感じた。

「なんだ...ち、力が増してる!?」

瞬間、目では捉えられない速度で接近してきたかと思うと、横腹を斬られた。

「な、なん...だ」

先ほどとは動きが大きく違う。

すぐに反撃するも避けられ、大きく離れられた。

ガウディアはその場に倒れこんだ。

「つ、つよい。アルヴァンが言ってた通りだ...いきなり豹変しやがった」

「...終わり」

剣を大きく振り上げる。

「ガウディア!」

そこにナズナが乱入し、少女に向かって短剣を投げた。

少女は剣で弾き、ガウディアから離れる。

「ガウディア、大丈夫!?」

そこに遅れてアルヴァンとスヤキもやってくる。

「気を付けろ。あいつが、俺が話した奴だ」

「武器を持ってる以外は無害そうですね。目つきが怖いですが」

こちらが3人に対し、少女はまるで怯む様子はない。

「....」

「兵士が複数人でも負けた相手だ。俺達が太刀打ちできる相手じゃ」

しばらく睨み合いが続いた。

さすがの少女もそうすぐには仕掛けてこない。

そのまま2分が経過しただろうか。

「....もういいや」

少女は別の方向に移動し、その場から消え去る。

すぐにガウディアに回復薬を使い、宿へと移動する。

「まったくもう!私たちがいなかったら死んでたんだよ!?」

ナズナがガウディアに向かってお説教をしている。

ガウディアは何も言えない。

「はあ。しっかりしてね。....生きててよかった」

「も、申し訳ない。助けてくれてたありがとう」

「ガウディア、お前何か悩んでただろ」

そう言うと、ガウディアの表情が大きく強張る。

よほど話したくないのだろうか。

「別に悩んでるわけじゃない。ただ...大した話でもないんだよ。(嫌なことばかり思い出しちまうな。こいつらに心配させるわけにはいかないのによ...)

わかった、話すよ。お前たちには俺が冒険者になった理由を話してなかったしな。バルト王国って知ってるか?」

「聞いたことありませんね」

「私も」

「なんか資料館で見たような...確か、闇の大陸にある大きな国だよな?」


闇の大陸。

光の大陸の隣にある大陸だ。

大昔、魔王が存在していたと言われており、その大陸には強力な魔物が多数住んでいると言われている。

そのため、もっとも魔物被害が多く、死者は数えきれなかった。

そんな闇の大陸に位置する大きな国、バルト王国。

強い武力を持ち、毎日のように魔物の軍勢と戦争をしていた。


「実はな、俺はその国の兵士なんだよ」

「兵士にしては初めて会ったとき弱かったな」

「....わかったよ、見栄張-りーまーしーた!兵士じゃなく魔物とも戦ったことのない、兵士志願者だよ。まあそこはどうでもいいだよ。そのバルト王国ってのはな....滅ぼされたんだよ」

「滅ぼされた?」


バルト王国は住民だけでなく、近隣の国や村などから英雄視されるほどで、毎年兵士志願者も多かった。

しかし、たとえ大人でも多くは魔物との戦闘経験がなく、実力も皆無に等しかったため、訓練をなかなか突破できず、なかなか兵士にはなれなかった。

ガウディアはバルト王国の兵士に憧れ、志願した。

強くなるために、大事な家族を守るために。

志願者なり、2日経ったある日、強力な魔物達で編成された大軍勢と戦争をするため、兵士志願者も戦地に赴くことになった。

少しでも多く戦力が必要としていた。

「ガウディアガウディア!俺達も戦地に行く時が来たな!魔物の首を3つ持って帰ったら兵士になれるって聞いたぜ!志願者になって10日もかからずに兵士になれるんだぜ!」

ガウディアにそう話しかけた男は同じく、兵士志願者のリュウゼだ。

ガウディアの幼馴染で一緒に兵士になろうと志願した者だ。

「俺も聞いたな。。3つじゃなく、9つは持って帰らなきゃいけねーな!」

バルト王国は大きな国で、兵士だけでも5万は超える。

志願者は2000人。

ほとんどが志願者となって5日も経過していないひよっこばかりだ。

「最速で兵士になれるって聞いてみんなわくわくしてる」

「私もね」

兵士志願者は男だけじゃない。

2割は女も混じっている。

「おー、ロインか。お前も頑張れよ」

「ふんっ、あなた達の5倍は魔物を倒すわ」

「ほ~、女は怖いな。まるで鬼だな」

「なんですって!?」

この戦いが自分の人生に大きく左右する。

志願する前でも、よく街の中でリューゼと一緒に木の枝で戦っていた。

バルト大国は今まで負けたことがないという、他の王国と戦力の格が違う。

「出世して、大勢から名前を覚えてもらうんだ。俺は頑張るぜ!」

リューゼは気合が入っている。

ガウディアも武器を磨き、気合を入れる。


そして、ついにその時がやって来た。

大勢の兵士がバルト王国を出発する。

兵士志願者達は最後尾だ。

魔物と戦うことなんてほとんどない。

「あーあー、思ってたのと違うし。馬に乗って剣を振り舞わし戦うと思ってたのによ。がっかりだぜ」

リューゼだけでなく、多くの兵士志願者が文句を言っている。

これでは、魔物を見ることなく終わってしまいそうだ。

自分たちは鎧を配布されておらず、槍か剣のどちらかを持たされている。

こんな装備で前線に配属されるわけがないと気づくべきだった。

「ロインも文句あるだろ?どうせ聞こえないし言っちゃえって」

「ふんっ、一緒にしないでくれる?嫌ならさっさと帰ったら?」

王国を出て3時間は歩いただろうか。

地面は荒れ始め、空気が明らかに違った。

「いよいよだな。こっそり前線にでてもいいかな?」

「死んでも知らねーぞ。俺たち志願者になったばっかりだぞ!?俺は大人しくしてる」

「ガウディアよ~そんなんだからいつまでも強くなれないんだよ」

「うるせーな。いいんだよ」

前列がいきなり泊まり始める。

それと同時に遠くから兵士の声が聞こえ始めた。

どうやら魔物と戦闘が始まったらしい。

「うおおおおおおお、楽しみだー!」

彼らにとって初めての魔物との戦争が始まる。

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