第11話 ヒカリ山を抜けて

ライウン王国で実力をつけ、ランクアップ試験をかねてヨウタイ王国に出発するアルヴァン達。

ヒカリ山でドルイドと出会い、初めての魔法を体験する。

その後、強敵と遭遇し道を引き返すも迷ってしまった。

途方に暮れていたが、村を見つけた。

村でスヤキという女で出会い、泊めてもらうも、その村はよそ者を嫌っている村だった。

何か事情があるのかと思われていたが、突如スヤキは

「この村....魔法使いの村なんです」

と言ったのだった。


***************

スヤキはアルヴァンとナズナが吹き出したお茶を吹いている。

「やっぱり驚きますよね」

誰だってそうなるだろう。

魔法使いというだけでも驚くというのに、村という規模なのだから思わずお茶を吹きだしてしまった。

「魔法使いってほんとにいたんだ...」

「いや、お前信じるの早すぎだろ。何か証拠見せろよ」

「わかりました」

スヤキは部屋の窓を開け、空を見上げる。

「ファイアーボール」

そう呟くと、スヤキの指先から5cm程度の火の玉が放たれ、大空に消えた。

本当に魔法使いだ。

ガウディアは固まっている。

どうもスヤキの声に見覚えがある。

「あの時助けてくれたのはスヤキか?」

「はい。洗濯しに川まで行ってる時に見かけたので」

「やっぱりか!あの時は、助かった。ありがとう」

「いえいえ。...さて、この村について話します。絶対に他言禁止です。この村の存在も。この村は皆が魔法を使えます」


魔法使いは簡単になれるものではなく、厳しい修行を長年続けても、なれるかどうかすら怪しく、才能がなければ何十年と費やしてもなることのできないものであった。

しかし、この村は違った。


「この村は光の大陸の守護神、エスノワールと呼ばれる神様の加護が生まれてくる子に授けられるんです。神の加護を授かった人間は幼い時から微力な魔法を使えます」

「なんでこの村に加護が授けられたんだ」

「それはわかりません。あくまで言い伝えです。村の噂はあっという間に各地に知れ渡り、多くの人が訪れ、村人たちは仲間として勧誘されました」


魔物との戦いは命を落とすこともある。

そのため、強力な力を持っている魔法使いは冒険者だけでなく国からも必要とされていた。

始めは大勢の者が外の世界に出ることを止めた。

しかし、誰かのためになりたいと思う彼らの気持ちを止めることはできずに、外の世界に出ることを許した。


「しかし、そのほとんどが数日のうちに魔物との戦いで命を落とし、変わり果てた姿で帰って来たそうです。私の両親は近くの街が襲われたということで助けに行ったのですが....帰ってはきませんでした」


当時スヤキはまだまだ幼く、その時の衝撃は大きなものだった。

泣き叫ぶスヤキの声は村中に響き渡った。

その後、村は外部との接触を避けた。

訪れる者たちには罪はないが、この悲劇は繰り返すわけにはいかなかった。


「(一人で広い家に住んでるのはそのせいか....)」

「たまに助けを求めてやってくる人もいました。しかし、皆断ってきました。話は以上です。村から出て行ってください」

スヤキは三人を家から出すと、森の奥を指さす。

「このまま進めばライウン王国に戻れるはずです。くれぐれも他言はしないでください」

「わかった、ありがとう。二人とも行くぞ」

アルヴァンはガウディアとナズナを連れ、静かに村を出た。

「なんとも言えない気持ちになった。事情を聴かず村を出るべきだった。だげど....何か間違ってる気がするんだ。...なんて言ったらいいのかはわからないけど」

「なんだか、昔の俺を思い出すな」

「ガウディアも何かあったの?」

「あ...いや、なんでもない。今のは忘れてくれ」

指さされた方向をひたすら進むと、陽光の森を抜け、ライウン王国が見えた。

三人は約束通り、村の方角を綺麗さっぱり忘れることにした。

「よし、気持ち入れ替えるか!アカリ山が楽に突破できるようになるまで修行だ修行!」

「そうだな。やるか!」

「うん!」

近くにビックスコーピオンが見える。

三人は気持ちを入れ替え、挑むことにした。


それから数日間、何度も周辺の魔物と戦い続け、実力も上げたであろう三人は再びアカリ山に挑んだ。

「今度こそ抜けるぞ」

「ストーンクラブは逃げ優先だね」

「ドルイドとのタッグは突き抜けるしかないな」

3時間後、彼らはアカリ山で見つけた洞窟の中で暖をとっていた。

体はボロボロ、傷だらけだ。

「まさかストーンクラブ3体とドルイド10体に遭遇するとはな...」

「私たち、ずっと追いかけられたね。気づけば全く知らないところにきてたし」

「ほんとにランク4の試練なのか....。はあ...ナズナ、回復薬くれ」

「たくさん買ったのはいいけど、すぐ底ついちゃうね」

少しの物音でもビクビクしてしまう。

アカリ山はしばらくは抜けられそうにない。

「ここなら入口は一つ。後で岩をかき集めて塞いでおく。野宿決まりだ」

「明日には抜けないとまずいよな...」


翌日、アルヴァンは朝早くに洞窟の近くを流れている川へとやってきた。

「(今日でヨウタイ王国に着かないとな...)」

顔を洗い、川の水を飲む。

少し不味いが文句は言ってられない。

「あまり飲むとお腹壊しますよ」

アルヴァンが驚き、振り返ると、そこには服をたくさん抱えたスヤキが立っていた。

「スヤキ、どうしてここに」

「見ての通り洗濯です。村の近くに泉はありますが、飲み水として使ってます。なので少し遠いですが、ここで。あなたこそ、なぜここに」

アルヴァンはランクアップ試験のことを話すと、スヤキはため息をつきつつ、洗濯を始める。

「私はあなた達冒険者が理解できません。静かに生まれた場所で暮らせばいいのに。自ら死にに行くだなんて...。数日前に話しましたよね。てっきり国に帰ってひっそりと暮らすと思っていたのに」

「俺達はある目的のために旅をしているだけだ。そのためにも、今はヨウタイ王国を目指す」

「命を捨てる覚悟をするくらい大事な目的ですか?」

「俺は自分が何者か知りたいんだ。理解してくれとは思わない。じゃあな」

「.....そうですか」

アルヴァンはその場から去った。

「(外の世界...)」


洞窟に戻ると、二人は既に起きており、出発の準備をしていた。

「遅かったね」

「長いトイレだな」

「ち、違うって。ちょっと休憩してただけだ」

「ははははは。冗談だっつーの。よし、早いとこ行くか」

洞窟を出て、歩き始める。

ドルイド達が襲い掛かってくるも、蹴散らし山の中を進む。

しかし、再び厄介なストーンクラブとドルイドが待ち受けていた。

「またこの組み合わせか...くそっ」

幸い数はストーンクラブが2匹。ドルイドが1匹と逃げやすい。

だが、逃げ続ければいつまでも山を抜けられそうにない。

「お前ら、一度ストーンクラブと戦ってみるか?」

「ドルイドが1匹ならどうとでもなるな。やるか!」

「わかった。なら私がカニ1匹の注意を引くから、二人で残りをお願い」

「了解。最悪、ドルイドだけでも片付けて先に進むぞ」

二手に分かれ、ナズナはストーンクラブ1匹の注意を引きつけ、ドルイドから離す。

もう1匹のストーンクラブはドルイドを守るように立っている。

「隙を見つけて早々に終わらせきゃな」

ガウディアがストーンクラブの右を抜けようとし、アルヴァンは真上を狙う。

ハサミは上へ動かせない。

「よし、カニが反転するよりも先にドルイドを仕留められる」

「ケ、ケケ」

アルヴァンはドルイドを仕留めると、すぐにストーンクラブから離れる。

「二人とも!ドルイドをやったぞ」

「おっけい。離れるね」

「よくやったぜ」

全員ストーンクラブから離れる。

後は硬い相手だけだ。

動きが遅く、避けるのは容易だがこちらの攻撃はあまり効いていない。

「ファイアーボール!」

遠くからスヤキの声が聞こえると、火の玉がカニを吹っ飛ばした。

続けざまにもう一度火の玉が飛んできて、もう一匹も吹っ飛ばす。

ストーンクラブはどちらも動かず、倒したようだ。

「つ、つよい」

遠くからスヤキが走ってきた。

「ふう、やっと追いつきました。ここからヨウタイ王国はかなりの距離がありますよ。失礼ですが、今のあなた達ではこのアカリ山の魔物と戦うのは困難だと思います。よろしければ、力を貸しますよ」

いきなり現れ、力を貸してくれるというスヤキの発言に皆が驚いた。

「ほんとかよ!?」

「私の両親は人を助けに行って死にました。ですが、その行動が間違っているとは思っていません。私も誰かを助けたいです。むしろ、同行させてください」

スヤキは頭を下げる。

迷うことなどない。

三人はすぐに仲間に迎え入れる。

「本気なのか?村であんな話してたくせに」

「別にいいいだろ。スヤキが仲間になってくれるなら頼もしい。よろしくな、スヤキ」

「よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

かなり強力な戦力を仲間にしたアルヴァン達はストーンクラブが現れても、怯むことはなかった。

スヤキがストーンクラブを倒し、ドルイドは自分たちが倒す。

難しいとまで思っていたアカリ山も容易に抜けることができた。

そして....。

「見えたな。あれがヨウタイ王国だ!」

見事、目的地のヨウタイ王国へとたどり着いたのだ。

日も暮れ始めている。

ヨウタイ王国に入ると、中はライウン王国に負けないほどの人で賑わっている。

「さっそくギルドを探すか!」

ギルドは入口のすぐ近くにあった。

アルヴァン達はランク4へとランクアップし、報酬として銅貨1000枚が支払われる。

「そうだ、まだスヤキに自己紹介してなかったな。」

「そういえばそうだな。俺はガウディアだ」

「アルヴァンだ」

「私はナズナ。これからよろしくね」

「はい。皆さんよろしくお願いします」

「スヤキも冒険として登録しなきゃな」

アルヴァンはスヤキを受付に連れて行く。

「冒険者登録ならランク1になるよ。たとえ仲間がランク4でも、あんたをランク4で登録はできないねな」

実力がわからないままランク4の依頼を受け、死なれては困る。また、依頼主からも失敗しては苦情が来るので基本ランク1から始まる。

それがギルドのおきてだ。

「依頼同行ならランク1でもいいよ。でも、死んだら自己責任だ」

「仕方ありませんね。ランク1でゆっくり追いかけます」

「なんだか悪いな」

「いえいえ、お気になさらずに」

その日は日も暮れてきたので、宿に泊まることにした。

今回も男女同部屋だ。

「初めてですね。村からここまで出たのは」

「そういや、スヤキは外部との接触避けてるんだろ?どうやってきた」

「もちろん無言で出てきました」

「怒られないの!?」

「どうせ帰るつもりもありませんし。思い出したんです。昔、私も外の世界に憧れていたことを。川でアルヴァンに出会って、なんだかついて行きたくなりました」

「アルヴァン、よくやった」

ガウディアはアルヴァンの肩を叩く。

「痛いって。なんだよ」

「わかってるくせによ~。羨ましいぞ。このっ、このっ!」


*********

その頃、ライウン王国周辺の草原にて、夜遅く一人の黒髪の少女が歩いていた。

少女は背中に長い剣を背負っている。

そんな少女に一匹の大きな魔物が襲い掛かったが、一瞬にして斬り刻まれた。

「...遠くにたくさんいる。全部やらなきゃ」

この時間帯に出現する魔物は危険なものばかりだ。

しかし、少女は考えることもなく単騎で魔物に向かっていった。


「うわ~、門が閉まってるぜ」

強力な魔物が動き出すこの時間は危険も伴うため門は閉めてある。

そのせいで、閉まるまでに間に合わず野宿する冒険者がたまにいた。

「ん?おい、お前何してるんだ?」

門へと

歩き始める一人の少女がいた。

この時間帯に少女一人で外を歩いていては誰もが気になるだろう。

そんな少女に一人の優しい男の冒険者が話しかけた。

「一人かな?親とはぐれて迷子になったかな?でも、剣持ってるから冒険者かな...?」

男は剣に多くの血がついていることに違和感を覚える。

少女は足を止めた。

「...」

「どうしたの?今は門が閉まってるから朝になるまでは入れないよ」

次の瞬間、男の目に映った物は、冷酷な目をこちらに向け、剣を振りあげる少女の姿だった。

「...え?」

少女は剣を振り下ろし、男を斬った。

ためらいもなく、勢いよく振り下ろされた剣は一瞬にして男を殺した。

「....」

「ひっ!」

丁度、締め出され門の前で朝を待っていた女の冒険者と目が合う。

「....」

女は必死になって走り、逃げようとした。

相手は小柄な少女だ。足の速さなら負けない。

女は走り続け、体力も底を突き、疲れ果てその場で休む。

「はあ、はあ。一体なんなの...。も、もう大丈夫よね」

そう思っていた。

しかし、少女は既に女の背後に立っており、女は斬り殺される。

「....」

「あーあ。閉門まで間に合わなかったか...ん?な、なんだこれ!?」

門の近くで一人の男が死んでいる。

「ま、魔物か!?」

「私だよ」

冒険者の背後で声が聞こえる。

振り向こうとする前に、冒険者は剣で斬られた。

「あ、ぐが..」

「まだ生きてる...」

少女は冷酷な目で男に近づき、とどめを刺した。

「....もういいかな」

少女はそう言い、その場を去った。

数時間後、新たにやってきた冒険者がこのことを急いで報告したものの、魔物の仕業だろうということで大きな問題にはならなかった。


************

朝、目覚めたアルヴァン達はランク3の依頼をこなしつつ、情報収集に努めていた。

「アルヴァン、いい情報を聞いたぞ。この街には資料館という施設があるらしい。そこなら何かわかるかもな」

「そんなものがあったのか。よし、早速行ってくる。そうだな、みんなは依頼をやっててくれ。俺一人で十分だ」

「そうか?了解。じゃあ、夜に宿で集合だ」

アルヴァンは町を街の中を歩き回り、資料館へとたどり着く。

中は静かで、本棚に無数の本が並べてある。

「らっしゃい。銅貨10枚ね」

「金とるのか...!」

「当たり前だよ。維持費だと思ってくれ」

「そ、そうか。タダなわけないよな。わかった」

金を払い、中に入る。魔物や武器に防具と冒険に役立ちそうな本がある。

「大陸大陸...くそ、本が多くてどこに何があるのやら、さっぱりわからんな。一人で来るんじゃなかったな~」

10分ほど探していると、大陸に関する本が並ぶエリアを見つけた。

風の大陸や光の大陸など、ここで間違いないようだ。

しかし、大空と書かれた本はどこにもない。

「(水に氷、砂に夢か....。空はどこだ)」

どれだけ探しても、大空に関する本は見つからない。

アルヴァンは夢の大陸と書かれた本を手に取る。

「人の願いを叶える神さまが住んでいたと言われる大陸か...。神の名は...

リセフテューネ。願いを叶えるかー....」

そっと本を戻し、光の大陸についての本を読み始める。

「昔は魔物が消滅するほどの聖なる力が宿っていた大陸か...。幻想的だな。神の名前はエスノワール。そういえば、スヤキも言ってたな。いやいやいや、こんなことしてる場合じゃない。早く大空に関する本を見つけなきゃな」

そう言って本を戻したアルヴァンの目に、一冊の本が飛び込んできた。

勇者イレーネと書いてある。

大陸とは全く関係なさそうな本ではあったが、何か引き寄せられるものを感じ、不思議と手に取っていた。

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