第9話 ライウン王国

宿に泊まったアルヴァンは不思議な夢を見る。

大空に浮かぶ大陸でアルヴァンはある少女に出会う。

アルヴァンは別の世界からやってきたと言われ、記憶を消されて大空から落とされるという内容だった。

夢の内容を話し、その大空に浮かぶ大陸を探そうという新たな目的が決まる。

港へとやってきたアルヴァン達は光の大陸へと向かったのだった。


***********************


光の大陸へとやってきた彼らが船を降りると、大きな街に出た。

大きな建物が数多く並び、人もフネガーン港と比べると5倍はいるだろうか。

前に進むだけでも油断すれば、はぐれてしまいそうなほどに混んでいた。

市場に行くと、そこも大勢の人で賑わっている。

「お前たち他の大陸から来たようだな」

街の大きさに呆気とられていると、武装した男に話しかけられる。

「俺はこの国の兵士だ。ここはライウン王国。光の大陸でも五本の指に入るほどの大きさを持つ国だ。あちこちに兵士が立っているから、問題起こしたら牢屋行きだぞ」

兵士は自分たちよりもかなり強さそうだ。

言っている通り、街のあちこちに兵士が立っている。

「あれを見てみろ」

兵士が指さす先には、大きな城が建っている。

「あれがライウン城だ」

「ほんとでかいな」

「騒ぎは起こすなよ」

街の中を歩き回ると、見たこともない武器や防具、食べ物など、想像をはるかに超えていた。

「武器高いな。ぎ、銀貨10枚!?」

「酒も豊富だ~!」

「あれ美味しそうだなー」

少しでも気を抜いたら迷子になってしまいそうだ。

三人はギルドを探すため、あちこち回る。

見つけるのに1時間はかかってしまった。

「でっけえ...」

「あそこより3倍はあるね」

中に入ると、ここも大勢の人で賑わっており、さすが王国と言える。

ボードには溢れんばかりの依頼書が貼ってある。

「気合い入れていくぞ!」

「どれもこれも聞いたこともない魔物ばかりだね」

採取依頼すら聞いたことのない植物を集めるものだった。

ランク3を受けようとしたものの、警戒からかランク2にとどめておく。

「トレントにシープホーンか。よし、これでいこう」

その他にも採取など手当たり次第に受けていく。

最初の難関、街を出るところだ。

「ライウン草原はどう行くんだ~よ~」

「この道さっき通ったよね」

この広さで適当に進めば初心者は迷子になってしまう。

自分たちがどの道を通って来たのか忘れてしまい、帰ることすらできなくなった。

「仕方ない。聞くか」

ガウディアはプライドなのか自力でなんとかしてかったが、このまま迷って一日使うのはもったいない。

諦め、近くに立っていた兵士に門はどこかと聞いた。

兵士は少し笑い、案内した。

どうやらこの街は門は3つあるらしく、それぞれ違うところに繋がっているらしい。

「この門を通れば、ライウン草原に出る。だが、気をつけろよ。夜になれば強い魔物が出る。また、深夜は門を閉じるからそれまでに戻って来いよ」

「ありがとうございます」

三人はライウン草原に出た。

広々とした草原に街の近くだというのにあちこちに魔物が歩き回っている。

見たことのない魔物だ。

額に一本のするどいツノを持ち、羊のように白い体毛で覆われている。

シープホーンだ。

「強いのかな...」

「街の近くだと弱いと思うんだがな」

「ならやってみるか」

相手の実力次第で今後の方向性が変わる。

光の大陸での最初の相手はシープホーンに決まる。

「一度実力を試したい。俺一人でいいかな?」

「気をつけてね」

アルヴァンは一人でそっと近づく。

相手と目が合うも攻撃はしてこない。

「(おとなしい魔物だな。攻撃すれば反撃するタイプか。もしそうならなら、先手で一気に!)」

3mまで近づいただろうか。

元気に草を食べている。

「生け捕りの依頼じゃなくて討伐なんだよな」

「依頼書には貴重な薬草を食べてしまうって書いてあるよ。見た目に反してよく食べるんだって」

目の前まで近づき、剣を構えた。

すると、様子が激変し、こちらを睨みつける。

「敵意に反応したか」

「メェェェェ!」

大きなツノを武器に突進してくる。

動きもグレーウルフより速い。

アルヴァンはすれ違いざまに斬りつける。

手ごたえはあったがさすがランク2の魔物、一撃では倒せないか。

「攻撃手段は突進だけか。なら無傷でいける!」

予想通り、シープホーンは突進してきた。

頭は悪いようで避けられてもすぐには止まらない。

隙だらけの体に2回攻撃を入れるとシープホーンは倒れた。

「ふう、弱いな」

「一撃で倒せない分ランク2なんだろうな。よし、ナズナも一人で倒せるよな」

「任せて!」

周辺には何匹かシープホーンが見える。

三人は手分けして討伐を開始する。

ナズナは少し苦戦したものの、無傷だ。

アルヴァンは試しに2匹同時に相手をしてみる。

少し苦しくはなったが、動きは単調なため倒すことは容易だ。

「納品はツノって書いてたな」

ツノを20本集め袋に入れる。

次の魔物はトレントだ。

「ここから少し進んだ先に陽光の森がある。トレントはそこで出るらしい」

「じゃあトレントを終わらせて帰るか。夜までには帰りたいしな」

陽光の森についた3人はなるべく入口周辺でトレントを探す。

初めてくるエリアでは迷子は危険だ。

トレントとは枯れ木に命が宿った魔物だ。

森で遊ぶ子供がたまにトレントに襲われ、食べられる被害がある。

森にしか生息しないため、商人たちは森を避けて通っている。

「木のくせに肉食かよ!」

枯れ木に注目して探してみるも、見つからない。

このまま探し続けても夜になってしまいそうだ。

「あーもう、めんどいな!!」

ガウディアは近くの枯れ木を斬った。

「イッテェ!」

偶然斬りつけた木が突然声を上げ、動き出した。

トレントだ!

木に小さい穴が3つ空いている。

目と口か。

「これがトレントか....」

「イテェ..イテェ」

「....喋った。」

「痛がるってなんか斬りにくいな」

「私も...」

「すげーわかる。でも生活のためだ。行くぞ!」

トレンオは根っこを地上に出し、足のように動かし移動する。

だが、動きが遅い。

トレントに生えている枝が鞭のようにガウディアに襲いかかる。

威力は低いものの、ガウディアの顔に切り傷をつけた。

ガウディアを先頭に3人は攻撃を始める。

無数の枝による鞭のような攻撃は体は問題ないが、顔を狙われたりすると少し危険だ。

「木なら斬るのに弱いよね!」

ナズナがトレントの枝をまとめて斬り落とす。

トレントは悲鳴を上げた。

「イッテェェェェ!」

「おりゃあ!」

体は少し硬いが、剣は十分通る。

枝を失ったトレントの残された攻撃手段は噛みつくだけだ。

しかし、もともと動きが遅いため問題ではない。

「せやぁ!」

数発入れたところでトレントの体を切断することに成功する。

トレントの顔はこの世の終わりのような顔をしている。

帰り道、採取の依頼もついでにやった。

そこそこの報酬を貰える。

三人は市場で食べ物を探しているが、大きな国とあってか物価が高い。

食べ物を買えば報酬の銅貨の半分は消えてしまう。

明日からはもっと依頼を増やそう。


翌日、ガウディアは目を光らせランク3の依頼を持ってきた。

「見ろよこれ!」

「何々...ネズミ討伐?」

内容は街の地下水道に生息するネズミの討伐だ。

「それ魔物なの?」

ネズミなんて一般人でも倒せる。

なんでネズミがランク3なんかに。

「魔物らしいぞ。受付が言うには....人を食べるらしい」

アルヴァンは3mのネズミを想像する。

これならランク3に相応しい。

ナズナは少し緊張する。

「あまりやるやつがいないから報酬は多めだそうだ。今日はこれやるぞ!トレントの3倍だぞ3倍。やるしかねえだろ!!」

「おおおお!ネズミ倒すだけでそんなにか!やるかー!」

ナズナは嫌な予感がした。

勢いよくギルドを飛び出したがアルヴァンとガウディア。

ため息をつきながらも、ナズナは後を追いかける。

街の中を進み、人気のないところに地下水道の入口はあった。側には兵士が立っていた。

依頼のことを話し、開けてもらう。

「ここ最近地下水道でネズミが繁殖している。尻尾は俺に提出してくれ。無理はするなよ。あと、これを渡そう」

兵士はランタンをアルヴァンに渡す。

「中はいくつか明かりがあるものの、所々暗いからな。持ってけ。帰るときに返却してくれたらいい」

階段を降りると、中は薄暗い通路が広がっている。

小さいが、水の流れる音も聞こえる。

「なんか、地下水道って言うか...その...」

「やめて、言わないで」

「下水」

「やめてえ!」

鼻に時々襲いかかる臭い。

誰もやらないのがよくわかる。

「騙されたな俺ら」

「....」

ナズナは最低限の呼吸で我慢している。

帰りたいと言わないのはランタンを持っていないからだろうか。

「(ランタン持たせたら速攻で逃げるだろうな....絶対渡すなよ)」

「ネズミのしっぽ30本だってさ。すぐ終わるって」

ナズナの気持ちは沈むばかりだ。

10分は歩いたが、ネズミは見つからない。

「ほんとにいるのか....ん?」

暗闇の奥で二つの小さな光が見える。

気になって照らしてみると小さな黒いネズミがいた。

思ってたよりも小さい。

「ほんとにネズミだ」

ネズミは明かりに反応し、逃げ出した。

どこにでもいるようなネズミだが、さっさと依頼を終わらせたい。

「見つけたあ!!」

「よしアルヴァン、捕まえろ!」

アルヴァンとガウディアはネズミを追いかける。

「待って、一人にしないでよ!」

そう言って追いかけようとしたが、後ろからいくつも小さな鳴き声が聞こえる。

その音はやがて大きくなり、暗闇で目も慣れて、全貌が明らかになる。

ネズミの大群だ。

流れるようにナズナに向かって一直線に向かってきている。

「い....い....嫌」

ネズミの口元には僅かだが、赤い液体らしきものが付着している。

「い...い..い、嫌あああああ!!」

猛スピードで迫りくるネズミの群れ。

ナズナは泣き叫びながら、アルヴァン達の方へと走り出した。

「やだやだやだ!!二人とも助けてえ!」

そう言って、アルヴァン達に追いつくと、ランタンを奪い取り奥へと進んだ。

「おい、ランタン持ってくなって!」

「まったく。あいつ、怖がりだな。...お、おいアルヴァン」

後ろを見て、ガウディアがいきなり黙り込んだ。

アルヴァンが振り返ると、雪崩のように押し寄せるネズミたちがこちらに向かってきている。

二人は言葉失う。

反射的に剣を構えるも、終わりが見えない群れにアルヴァン達はナズナを追いかけるため走り出した。

「おいおいおいおいおい、なんだあれ!繁殖しすぎだって!」

「足を止めるなよ!止まったら終わりだぞ!」

「ナズナ、ランタン返して!」

「....」

もはや目的を忘れ、三人は地下水道を走り回る。

「お前、村の英雄だよな!戦えよ!」

「無茶言うなって!」

「いやー!どっちかなんとかしてよ!....あ」

適当に走り回ったせいか、行き止まりにたどり着く。

追いつめられた。

「やるしかねえ...」

「無理無理、私戦いたくない!」

「はあ。なら、ナズナは俺たちの後ろに隠れてて。やるぞ、ガウディア!」

「人間なめんなよ!」

二人はネズミの群れに立ち向かった。

そして、二時間後。

三人は地下水道から戻ってきた。

ボロボロになった防具。

死闘を繰り広げたであろうアルヴァンとガウディアの疲労した姿。

ナズナは顔が死んでいる

「兵士さん...俺達、やったよ」

今にも倒れそうな声で、アルヴァンはネズミのしっぽ70本を見せた。

「わ、わお。お疲れさん、報酬は受付に渡してあるからね。はい、これ達成証明書。お、お疲れ様。よく頑張ったし、報酬上乗せしとくね。この街に温泉宿あるから体綺麗にするといい」

追加で兵士は銅貨を渡す。

ギルドに戻り、三人は多額の銅貨を得た。

報酬を貰った三人の考えは一つだった。

体を洗いたい。

「確かここ温泉合ったよな」

街の中を少し移動したところに大きな温泉宿があった。

「...温泉だけ入ろう」

誰も文句なんて言わない。


ガウディアとアルヴァンは湯に浸かる。

体が癒されていく。

「体の臭いとれたかな...?最悪だった」

「俺ら死ぬ気で剣振り回してたもんな。後ろでナズナは泣いてたしよ」

「噛まれたら変な病気にかかりそうだったし、防具あってよかった。でももう使えないな」

「あとで買うか」

もし、防具がなかったら本当に食べられていたかもしれない。

仮に生き残っても、臭いがとれなくなるだろう。

「この後は地道にランク2にしようか」

「ああ。...でも、いい経験だったよ。地下水道はしばらくはいいけどさ」

「しばらくどころか一生やらねえわ」

今はゆっくりと体を休める。

数十分後、ナズナと合流した。

その後はランク2の依頼を次々と達成していくことにした。


翌日、三人はもう少し実力を上げてからランク3に挑戦することにしようと決める。

それから2日ほど、トレントやシープホーンと戦い実力を高めていった。

「ナズナ、地下水」

「却下!!」

「ネズ」

「やめてったら!」

「ははははははっ!!」

笑っているガウディアの頬をナズナがビンタした。

アルヴァンはランク3の依頼を物色していた。

「弱そうな魔物はっと...どれもやばそうな連中ばかりだな。二人とも、ビックスコーピオンやってみないか?」

「ネズミじゃなければ...私なんだっていいよ...ネズミじゃなければね」

「そろそろランク3の依頼をやらなきゃな。俺も問題ないぜ」

「よし、やるか」

ビックスコーピオンはライウン草原に数匹にいるらしい。

ライウン草原に出て、あちこち歩き回る。

「あれか」

シープホーンの他に灰色の巨大なサソリが歩いている。

高さは1mはあるだろうか。

「でかいな」

「毒ないって書いてあるな。被害は、商人がよく襲われるらしい。気を抜くなよ!」

「任せろ!」

「う、うん」

相手はこちらに気づくと戦闘態勢に入る。

かなり堅そうだ。

ガウディアとナズナが相手の左右に回り、アルヴァンは相手の注意を引きつける。

ビックスコーピオンは大きなハサミでアルヴァンに襲い掛かり、尻尾で左右の二人に攻撃する。ハサミは遅いものの、威力はかなりのものだ。

体を斬りつけるも、なかなかダメージが入らない。

ナズナは先に尻尾を斬り落とすことにした。

尻尾の動きは単純で隙は多く、体と違い細く2回攻撃すると落とすことができた。。

ガウディアは背中に乗り、剣を突き刺す。

非常に硬い体も、勢いを付けてからの一撃はかなりのダメージになった。

攻撃がかなり効いたのか、ビックスコーピオンは動きが悪くなった。

「もう一発!」

ガウディアの一撃とともにビックスコーピオンは動かなくなった。

少し苦戦はしたが、ランク3の魔物を討伐することができた。

「いい調子だ!」

遠くにもう1匹ビックスコーピオンが見える。

迷うことなく三人はビックスコーピオンに挑んだ。


そして、1時間後。

「いやー、5匹連続はきつかったぜ」

2匹目までは苦戦はしなかったが、3匹目からは疲れからか動きが悪くなり、時間もかかり、少しダメージも負った。

「2匹同時はかなり苦労したね。」

まだ時間はあるので、ランク2の依頼もやった。

翌日からは積極的にランク3の依頼も受けていく。

稀に現れる、シープホーンに更に2本のツノが生えたエルダーホーン。

動きが早くなっており、大きく跳び上り、踏みつけてくるなどシープホーンよりも厄介な強さを持っていた。

「とどめだ!」

ビックスコーピオンとはまた違った強さをもっていた。

毎日、ボロボロでギルドに戻ることが増えたが、ランク2の依頼を受けていた時よりも報酬は圧倒的に上だ。

「足が痛いな。まさか尻尾でぶん殴られるとは思ってなかった」

「回復薬もっと買えば長時間戦えるな」

「じゃあ、私買ってくるね」

ナズナはギルドを出た。

「アルヴァン、今の俺達ならもしオークに出会っても楽に戦えるよな」

「数日とはいえ、十分強くなってる。できるさ!」

銅貨も少しずつ貯まっていく。

もう少しで、毎日宿に泊まれるほど安定するだろう。

「毎日強敵と戦えば強くなれる。頑張ろう」

「だな!」

三人は確実に強くなっていった。

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