第8話 夢に見た大陸

ブファロに再び挑んだアルヴァン。

厳しい状況の中、ブファロに異変が起こる。

ブファロが酒を飲んだことにより強い酔いに襲われる。

状況はひっくり返り、ブファロは敗北し、捕らえられた。

アルヴァン達は村人を救い、英雄視される。

報酬の銅貨を多めに貰い、3人は宿に泊まり、眠りについた。


**********

時は大きく遡り、ある日のこと。

緑溢れる草原の真ん中に男は倒れていた。

「ここは...」

美しく広がる草原。

何故ここにいるのか、自分では思い出せない。

男は立ち上がり、辺りを探索していると、草原には似合わない扉が1つ、草原の上にあった。

何の変哲もないどこにでもあるような扉だった。

裏に回って見るも、どこにも繋がっていない。

本当にただの扉だ。

男は不思議に思い扉を開ける。

その先には、草原ではない不思議な空間に繋がっていた。

青く、夜空のように綺麗な空間に、上に向かって30段ほどの光り輝く階段がある。

その先には同じような扉があった。

足元を確認すると、扉も階段も宙に浮いている。

また、空間上のあちこちに扉が浮いており、扉2つを階段が繋いでいる。

落ちればどうなるのだろう。

階段はどこか懐かしく思えてくる。

男が一歩踏み出そうとすると、後ろから声が聞こえる。

「それ以上進んではだめじゃ」

振り返ると、地面につく程長い黒髪の少女が立っていた。

「お主、こちらへ戻るんじゃ」

言われるがまま戻ると、少女は扉を閉める。

「誰かが入ったらやばいの〜。消すか」

扉がいきなり目の前から消えた。

呆気にとられていると、少女は男に聞く。

「お主何者じゃ」

「俺は...」

俺は誰だ。名前が分からない。

男が困っていると、少女は不思議そうに男の顔をのぞき込む。

「ふむ。理由は知らんが、お主この世界に迷い込んでしまったようじゃの。記憶が無いのは、記憶世界を抜けたからじゃ」

少女の言っていることが理解できない。男は意味もなく草原を歩き回る。

見覚えがない。どうやってここに来た。世界に迷い込む?

わけが分からない。

「歩くのはいいが落ちても知らんぞ?」

「落ちる...?」

歩いていると、先の地面がなくなっている。崖か?

男は下を見た。

緑の大きな何かが見える。

しかし、大きな雲が邪魔をし見えなくなった。

「雲...?」

男は理解した。

ここは雲と同じくらい高い場所にいることを。そして、今立っているのは崖の上じゃない。端だ。

「ひああああ!!」

下に見えるのは大陸だ。

男はすぐに内側に戻る。

「一体ここはどこなんだ!!」

大空に浮かぶ島にいるようだ。

「うるさいやつじゃの〜」

「ここはどこだ、教えてくれ!」

「ここは大陸じゃよ。お主もわかっているように天高く浮かぶ大陸じゃ」

男の顔色が青くなる。

また、時折吹く風が男の恐怖心を煽る。

「な、なんで俺はこんなところに」

「知るかそんなもの。わしだって知りたい。...なんて言ったら冷たいな。よし、わしが説明してやろう。お主は記憶世界を通ってきた。だから、記憶がほとんどないのじゃ。多少の知識はあるようじゃし、本来の通り方では来てないな」

「記憶世界?...そう、これは夢か」

「夢ではないな。ここは...なんて言ったらいいんじゃろーな。...ふむ、ここはお主にとって異世界と言える場所じゃ。わしは神とでも思ってくれていいぞ」

神と名乗る少女はどこか人間とは違う何かを感じる。

「夢じゃないって...なら、元の世界に返してくれ!神ならできるだろ!」

「おいおい、無茶を言うな。わしはお主がどこの世界から来たか知らんのじゃぞ。じゃが安心しろ。お主がどこの世界から来たか今から調べる....それがわかるまで...人間で言うと5年はかかるかの~。の~んびり探すつもりじゃしな~」

「5年!?」

「おー、だいたいの知識は残っててくれて助かったわい。最低でもそれくらいはかかる。それまでここにいろ」

「冗談じゃない、こんなおかしな所いられるか!」

その時、非常に強い風が吹いた。

男は地面の草を掴み、震えている。

少女はため息をついた。

「情けないの〜」

この大陸から落ちれば死ぬ。

そう考えると、体が固まって動かない。

「こ、こここここで死んだら...どうなる」

「元の世界には帰れん。何当たり前なことを聞いておる」

「こんな所に...5年も...」

男は涙を流した。

そんな男を見て、少女はまたため息をつく。

「何かほしいもんはあるか?5年も暇じゃしな。ほしいもんがあるなら用意はするが?」

こんな状況で欲しいものなんて頭に思いつくはずもない。

頭の中は帰りたい気持ちでいっぱいだ。

「どうしたものかの〜。なら話でもするか?」

「嫌だ!」

「おい、少しは悩んでから拒否せい。....そうじゃ、お主下に降りろ。ちょうど下は風の大陸じゃ。そこで暮らせばいい。うむ、それなら5年という長い時間も潰せる。決定じゃ決定」

少女は浮き上がり、男を掴むと大陸の外へと移動する。

真下を見ると男は恐怖で包まれる。

「やめろ!!離してくれ!!死にたくない!!」

「うるさいぞ!」

少女が指を鳴らすと男は眠りについた。

「第2の人生じゃと思え。再びここに戻ってくることがあったらお主を元の世界に帰そう。この世界も悪くは無いし、ここで暮らすのもありじゃ。名前もわからぬのじゃろ?だったら0から生きてみればいいじゃろ。...よし決めた、お主は『アルヴァン』じゃ。適当に決めてやったぞ」

少女は男の頭に触れる。

「今、お主の記憶を完全に消した。ここでのやり取りも消しておいた。名前と...わしが知ってる限りのこの世界の知識をほんの少し入れて置いた。今の性格も消したぞ」

アルヴァンと名付けられた男は目を覚ます。

「なんだ...ここは」

「起きるのが早いの〜。今日からお主の名前はアルヴァンじゃ!そら、行ってこい!!」

少女は手を離す。

「う、うわあああああああああ!!」

アルヴァンは大声を上げながら落下していった。

「どんな人間になるか楽しみじゃの〜。性格も大きく変わるじゃろうしな~。また会えたらよろしくな。さて、わしはあやつの世界を探しに....あ、しまった!!このままじゃ、あやつは落下死じゃ!」

少女はその場に大きな鏡を出現させる。鏡には気絶しながら落下するアルヴァンが映っている。

「よし、まだ生きておるな。適当な場所に移動させてやろう。わしからのサービスじゃ」

少女が鏡を優しくなぞると、アルヴァンは光に包まれる。

「さらばじゃ、アルヴァン」


********


「うわあああああ!!」

大声を上げ、アルヴァンは起き上がる。

そこは宿の中だった。

「うるせえな!」

ガウディアに枕を投げつけられる。

「んんー。どうしたの?大声出して」

「....夢か..よかった」

なんだか、不思議な夢を見た。

心配そうに見るガウディアとナズナの顔を見て、アルヴァンはほっとひと息つく。

「二人ともごめん。俺は大丈夫。起こして悪かったな」

「びっくりしたぞ。まったく。初の宿のベッドで悪夢とか笑わせるな」

「大丈夫ならよかった。はあ、また寝よ」

2人は再び眠りにつく。

まだ夜中のようだ。

アルヴァンはベットから出て、窓を開け空を見た。

「ゆ、夢だよな」

空には何も浮かんでいない。

しかし、どうにも夢ではないようなそんな気がする。

「なんてリアルな夢なんだ。旅の疲れか」

そう言い、ベッドに戻りアルヴァンは寝た。


そして翌日、アルヴァンは2人に夢の内容を話した。

「空に浮かぶ大陸だと?」

「面白い夢だね。おとぎ話みたいで素敵。いいなー」

「あんまり覚えてないけどね」

「それならお前が空からやってきたことも納得できるな。記憶もほとんどなかったことも理解できる。目的、決まったな。その大陸探しにいこーぜ!」

「探しにって、あるとは決まってないだろ。そんな簡単に決めるなって」

「ないかどうか調べに行くんだよ。ナズナも文句はないな。俺達、やること終わったし、いい機会だ。世界中を見て回ろうぜ」

言われるがままだが、これで彼らの新しい目的が決まる。

「その前にだ。もう少し金が欲しい。依頼見に行くぞ」

依頼を見に行き、手頃な依頼書を選びに受付に行く。

「貴方たちの活躍は聞いてますよ。そろそろランクアップ試験と言いたいところですが、ハイオークを倒したのなら試験なんて必要ありませんね。ランク3に昇格です」

呆気にとられるている間にプレートが3に変わる。

実力で倒したわけじゃないがいいのだろうか。

「こちら、銅貨300枚です。今後のご活躍期待してます」

「質問いいか?」

「はい」

「この町を出ようと思うんだが、ギルドなどは変わってくるのか?」

「これと言って町によって変わったりはしませんよ。そのプレートを見せればどのギルドでも依頼は受けれます。変わると言えば、依頼内容くらいですね。魔物も違ってきますし」

三人はボードの戻り、ランク3を探す。

今まで行ったことない地域の討伐がある。

「次の目的地を決めなくちゃな」

「どこか大きな街を目指したいな。そういえば、俺達ってどこの大陸にいるんだ」

「知らないのか」

ガウディアはギルドにある、大きな大陸地図を見せる。

「俺たちは今、風の大陸だ」

「風か....」

「子供の頃に聞いた話だけどね、各大陸には大陸に住む人たちを守る、守護神って言われる神さまがいるんだって」

「神か...あの夢の少女も」

「楽しみだな!俺も他の大陸には行ったことがないからな。よーし、まずは港に行って船に乗るぞ!目的地はここから一番近い港、フネガーン港だ。近辺のリーフ街道を進めばすぐだ」

周辺の魔物の討伐の依頼を何件か達成してから、三人は町を出る。

リーフ街道に行くと出迎えるかのように新しい魔物を見つける。

全長3mの巨大なたまねぎの魔物、マッドオニオーン。

人間を丸呑みできるほどの大きな口。

また、たいあたりの一撃も高くいが、なによりもこいつはたまねぎ。

斬ると思わず涙が出てしまい、戦いに支障をきたす。

三人は1匹でもかなり苦戦した。

「あー目が!」

「ガウディア油断するな」

戦いが終わってもまだ泣いている。

リーフ街道の魔物はサドン砂漠にいるサンドワームよりも明らかに強い。

口から火を吐く蝙蝠、リザードバッド。

「くそ、飛んでいると戦いにくいな」

相手は高く飛び、火の玉で攻撃してくる。

距離があるため、攻撃は避けられるがこちらは攻撃できない。

ナズナが我慢できず、剣を投げる。

しかし、全く飛ばずアルヴァンに当たりそうになる。

「危ないから投げるなって」

このままでは戦いが終わらない。

三人は急いで逃げた。

その後、偶然通りかかった弓を持つ冒険者がリザードバットを倒している。

全員剣だと、今後は大変そうだ。

「誰か弓とか遠距離系の武器使えたらな」

とガウディアは呟いてみるも、自分を含めてこの中では誰も扱えそうにない。

「剣投げる練習はどうだ?」

「投げたあとどうやって戦うの...」

すれ違う冒険者のパーティは最低1人は弓を持っていた。

「新しく仲間がほしいな」

「気が早いぞ。俺達だけでもなんとかなるって」

歩き始めて2時間ほどすると、ようやくリーフ街道を抜け、フネガーン港に到着した。

大きな船がいくつもあり、町とは違ったワクワク感があった。

町と比べ規模は小さいものの、人は多く、賑わいは負けていない。

「港はな、他の大陸からの品をいち早く手に入れたりできるんだよ。他にも珍しい物が並んでたりする」

「まずは船の手配だな」

「いーや、酒場に行くのが先だ」

港など、町よりも小さな所ではギルドはないことが多い。

そのため依頼は酒場にある。

しかし、酒場もない所もあり、その時は住民から直接依頼を受けることになる。

酒場には筋肉の塊と言えるほどのムキムキな男性たちが集まっている。

「今回は依頼が目的じゃない。情報収集だ」

酒場は多くの人間が集う。そのため、情報収集にはうってつけの場所だ。

中でも、情報屋と言われる情報を売る仕事をしている者は、代金と引き換えに一般ではあまり知られていない情報を得ることも可能だ。

酒場に入るもそれらしき人はいない。

3人はその場にいる人たちに聞くことにした。

しかし、誰も知らないと言うばかりだ。大空に浮かぶ大陸なんて、知るはずもないだろう。

「空に浮かぶ大陸だと?知らねーな。聞いたこともねえ」

「そうですか...はあ」

その後も多くの人に聞いてみたが誰も知ってそうにはない。

「そっちはどうだ?」

「だめだな。みんな知らない」

「私もだめだった」

「...仕方ない、別の大陸に行くか」

「何も情報もないのに行くのか?」

「他の大陸に手がかりがあるかも知れないだろ!迷ってても無駄だろうし、行くぞ」

ガウディアはアルヴァンとナズナの手を引っ張り、酒場から出と、まっすぐ進み船着場にたどり着く。

乗る場所によってどの大陸に行くかが変わる。

また、大陸によって行ける大陸は変わってくる。

「氷の大陸と光の大陸だな」

船に乗るには乗船料としてお金が必要だ。どちらの大陸も安い。

「光の大陸ってなんか名前神秘的だよね。私光がいい」

「魔物も変わってくるんだよな?」

「あんまり俺に聞くなって。よしっ!光の大陸に行くか!」

数時間後、船が着き、3人は乗り込む。船には大勢の人間が乗っている。

光の大陸には5時間ほどで辿り着くそうだ。船の中を探索するも、酒場以外に店はなく、食事をすればほとんど暇になる。自分たちと同じランクだと思われる冒険者達も何人か見かける。

遠くなっていく風の大陸。

待ち受ける光の大陸。

「見知らぬ大地に魔物...楽しみだな」

「アルヴァン子供みたい。あはは」

「無茶して死ぬなよ?」

「わかってるって!」

「ほんとかー?...よし、時間あるしこれ飲もうぜ!」

ガウディアは袋から小さな瓶を取り出す。中には酒が入っている。

「港の酒場でついでに買ったんだよ」

「....」

「....」

「なんだよその反応!大丈夫、これは大丈夫だから」

それから30分ほど、2人を説得するガウディアだった。

「(高かったのに)」

結局、ら誰も飲んでくれず、1人海を眺めながらガウディアは酒を飲むのだった。


********


同時刻、光の大陸にて。

どこかの街のとある大きな民家の中。

暗く、散らかった部屋の中に1人の男がいた。

「ついに...ついに見つけたぞ。対魔物兵器が...。これさえあれば、もう人間は魔物に脅えて暮らすこともなくなる。私は...私は...大勢の人間に認められる...妻と子も...また...」

男は家を出ると、まっすぐに大きな城に向かって歩き出す。

「名付けて、【合成兵】とでも呼ぼう!」

この先、彼らには何が待ち受けているのか。

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