第6話 小さな英雄:その1

ナズナを仲間に加えたアルヴァンとガウディア。

戦闘ができないナズナを戦力にするために、魔物と戦わせる。

数日間で魔物と戦えるようになり、戦力となった。

ある日、森の中でオークと遭遇し隠れてやり過ごそうとしたが、オークのある発言によりアルヴァンは飛び出し、戦いを挑む。

なんとかオークを討伐したが、全員負傷してしまう。

怪我を治し、ギルドで依頼を見ていると一人の男に話しかけられ、大きな傷を負った冒険者の末路について聞かされる。それと同時に入ってきた大きな傷を負った者の姿をアルヴァンとナズナは目に焼け付け、気を引き締める。

そんな中、ガウディアはその者を何かを思い出したかのようにずっと見ていた。


***************

あの光景から翌日、三人はギルドで談笑していた。

「アルヴァン、ナズナ。今日はいい物を手に入れたぞ」

そう言ってガウディアは机の上に大きな瓶を置いた。

中には液体が入っている。

「なんだこれ」

「回復...薬?」

しかし、回復薬にしては入れ物が大きすぎる。

「これはな、酒だ」

「酒!?」

「ぶらりと町を散歩してたらよ、足を怪我した商人がいてな。荷物運びをを手伝ったら貰ったんだ」

蓋を開けてみると何とも言えない匂いがする。

ナズナは思わず鼻をふさぐ。

「私お酒苦手なんだけど...」

「俺は飲んだことないな」

「商人が言うにはとても、美味しいらしいぞ!」

ガウディアは目を子供のようにキラキラ輝かせている。

味は気にはなるものの、匂いのせいかどうも飲む気にならない。

「私飲まないから二人でやって」

「釣れないな~。アルヴァン二人で飲むか」

「お、俺もやめておこうかなあ」

「なんだよそれ、俺一人じゃ楽しめないって!」

ため息をつき、不満げにガウディアは蓋を占め、袋に入れる。

そんな時だった。

ギルドの中に、勢いよく男性が駆け込んできた。

「はあ、はあ。受付はどこだ!!」

あまりの急ぎようと、大声を上げて入ってきたので、ギルド内にいる人間は皆男性に注目する。男性は受付嬢の所に走っていくと、袋からたくさんの銅貨を出した。

「緊急依頼の受付を!!」

緊急依頼。

通常、依頼は依頼人がギルドに依頼書を作成してもらい報酬を預ける。

緊急依頼も依頼書の作成は同じだが、非常事態などが起こり、急いで解決してほしい場合に作成してもらう。その分、報酬も高くなる。

非常事態は魔物による被害がほとんどだ。

「落ち着いてください。まずは事情を」

「村がオークの群れに襲われたんだ!」

その言葉にアルヴァンが立ち上がる。

「村人が何人も攫われて、早くしないと喰われちまう!!」

「銅貨800枚ですね。これだけあれば、すぐに冒険者が駆けつけますので、ご安心を」

「急いでくれよ。どうか....お願いします」

男性は涙を流しながら、ギルドを出た。

「確かあの人は...」

その直後、受付嬢が叫んだ。

「みなさん、聞きましたか!緊急依頼です!内容はオークの群れの討伐と攫われた人の救出。報酬は銅貨800枚です!」

あちこちから相談している声が聞こえる。

そこそこの実力者にとってオークの強さはどれほどだろうか。

「この近辺にオークは生息していない。...となると、ブファロの仲間だ!俺は行く!!」

「待って、昨日のこと忘れたの!?」

あの時、自分たちはオーク1匹に苦戦した。最悪大きな傷を負うところだった。

それは言われなくてもわかっている。

アルヴァンは両手でテーブルを叩く。

群れとなっては奇跡の勝利など起きない。

待っているのは死のみだ。

「二人はここにいてくれ!」

「アルヴァン待って!」

アルヴァンは一人でギルドを飛び出した。

「どうするのガウディア!このままじゃアルヴァンが」

「....」

後を追おうするナズナの腕をガウディアは掴んだ。

「何するの!助けに行かせてよ!!」

腕を振り払おうにも、しっかりと掴まれ離さない。

「どうして助けに行かないの!?」

「誰が助けないって言った。...俺に考えがある」



*********

一人で森までやってきたアルヴァン。

だが、村まではとてもじゃないが簡単に行ける距離じゃない。

「早く行かないと...」

頭によぎる嫌な考えを振り払い、再び走る。

しかし、あっという間に疲れ果ててしまう。

「もう、だめだ...」

足はもう限界だ。

アルヴァンは木にもたれかかり、体を休める。

「一人...だな」

勢いよく飛び出したことを後悔した。

オークとの勝利はガウディアやナズナがいたからだ。

たった一晩で一人で倒せるほど、成長なんてできやしない。

このまま他の誰かがやってくれるのを祈るのも...

三人で挑み大きな負傷を負うのも....

どちらも選択したくなかった。

「勢いで飛び出てきたがどうすればいいんだ。このまま挑めば...勝てる可能性なんて」

アルヴァンはため息をついた。

「だったらよ、一人で行かずに俺たちを頼れよな」

「私たちは仲間でしょ」

アルヴァンの背後からガウディアとナズナが姿を現す。

「落ち込むのは負けてからにしようぜ」

「何言ってるの。勝つんでしょ。ほら、これ見て」

ナズナは先ほどの緊急依頼書を見せる。

ランクは4と書いていた。

「大変だったんだよ。『あなた達ではまだ早い』って言う受付の人を説得するのにかなりかかったかな。他の冒険者も派遣するって形で私たちも来たわけ」

「二人とも...どうやって追いついたんだよ」

「お前馬車があること忘れたのか?全力で走ってもらったぜ。遠くからお前が見えたから馬車から降りて追いかけた。なんだか、これで二度目だな」

「...そうか。俺が悪かった」

アルヴァンは立ち上がる。

ガウディアとナズナはニッコリと笑った。

「俺たちは馬車から降りてきたから先輩の冒険者達が今も向かっている。このまま森の中を進んで少しでも早く村を目指す。行くぞ!」

「「了解!!」」

三人は村へと走り出した。

長い森の中を抜けて村へとたどり着くと、予想外の光景が広がっている。

いくつかの家は燃やされ、地面や壁には血と思われる真っ赤な跡があった。

燃やされてはいないが、大きく破壊された家。

記憶では、そこにはあったはずの家がなかったりと、あの時と比べれば酷い状況だ。

「誰か居ませんかー!!」

静かにこだまするナズナの叫び。

「くそ、誰もいないのかよ!」

あちこち家をしらみつぶしに探す。

アルヴァンが無事だった家のドアを開けるとそこにはひどく怯えた村人がいた。

「大丈夫か!」

「あ....あん...たアルヴァンか」

怯えながらもそう言った男はこの村で武器屋をやっていたイグルだった。

「イグルか」

「あ...あぁ。覚えてて...くれ...たんだな。それに..しても」

「何があった、教えてくれ!」

「いきなり..いきなりブファロが襲ってきたんだ!...いつもよりもやってくる日が速く、要求も多かった!俺達は用意できなかったんだ...それで、ブファロが怒って...村の何人かは攫われた...それで...」

イグルはそこから先、何も言わなかった。

その後は村を見ればわかる。

「どこに行ったかわかるか」

イグルは静かに顔を横に振った。

アルヴァンは家を出て手がかりを探す。

「ナズナ、そっちは何かわかったか」

「私は何も。ガウディアはどこ?」

二人で辺りを探すと、ガウディアは村の外にいた。

「お前ら来たか。これを見てみろ」

地面には複数の大きな足跡が残っている。

人にしてはあまりにも大きい。

間違いない、オークだ。

「よし、早速」

「いや、少し横ズレて進むぞ。鉢合わせは危険だ」

「先輩冒険者もこの先に」

「近くには馬車はなかった。村にたどり着く前に何か見つけたんだろ」

三人は横にずれつつ、足跡を辿っていくと、道中にオークの死体を見つける。

近くには馬車が止まっていた。

「先輩たちがやったのか?」

「受付の人は、彼らはランク5らしいぞ」

「強いらしいよ」

奥に進むたび、オークの死体が増えていく。

合計6匹見つけたと思うと、洞窟を見つける。

入口は大きく、オークが出入りできるのには十分な大きさだ。

足跡もここで終わっている。

「行くぞ!」

「はい!」

勢いよくナズナとガウディアは洞窟に入る

「いや、待て二人とも」

アルヴァンが呼び止めるも急には止まれず、二人はその場で転ぶ。

「なんだよ」

「調子狂っちゃうなーもう」

「落ち着いて考えたけど、どうやって俺たちは戦うんだ?」

ガウディアは起き上がり、再び走り出す。

「その時教えるさ!今は先輩の援護だ」

アルヴァンはナズナが起き上がるのを手助けし、後を追う。

奥に進むにつれて、人間の声が聞こえる。

「ぜやぁ!」

「ブギャア」

「人間のくせして俺たちに挑むとは失礼な奴らめ」

「誰かこっち援護して!」

そこにはオーク6体と戦う5人の男女の冒険者の姿があった。

その中の一人は、回復薬を持ち補助専門のようだ。

4人は、オークの攻撃を交わしつつ一撃を入れている。

「おー!お前たち来たのか。悪いな、俺たちが先にたくさんやったぞ」

装備は明らかに自分たちよりもいいものを使っている。

装備だけでなく、先輩たちは皆、動きも非常にいい。

これがランク5か。自分たちでは真似できない。

「ブゴー、また新しいのが来やがった」

一匹のオークがこちらにやって来た。

先輩たちは激戦でこちらに来れない。

「ガウディア、ナズナ、行くぞ!」

三人は武器を構え、オークに立ち向かう。

ここでは、木を盾にすることはできない。

相手の一撃を防ぐことはとてもじゃないが危険だ。

しかし、自分たちが一方的に不利ではない。

洞窟は狭く、戦うことを想定していない広さだ。

大きく振りかぶっての一撃はできない。

むしろ、体が小さく動き回りやすい自分たちが有利だ。

「くそ、ちょこまかと...捻りつぶしてやる」

その巨体は広いところでは脅威かもしれない。しかし、ここは洞窟だ。

オークも昨日のような強さを見せない。

「おりゃあ!」

アルヴァンの一撃がオークの横腹を斬りつける。

切れ味も昨日よりいい。買い換えて正解だ。

「ブ..ゴゴ、こんなはずじゃ...」

疲れ果てたオークの腹をナズナが斬った。

オークは声を上げる前にその場に倒れる。

「ふう、強いな」

「でも昨日よりは楽だったね。私たち強くなってる?」

「洞窟が味方をしてくれたな」

先輩達を見ると既に戦いが終わっていた。

「お前たち意外と戦えるんだな。ランク2って言うから足手まといかと思ったけど。いい腕だ」

さすがは先輩だ。

「俺たちは先に行ってるぞ」

これでは出る幕もなさそうだ。

先輩たちは洞窟の奥に進み、アルヴァンたちはその場で休む。

「どうやら、あの手は使わなくていいみたいだな?」

「あの手ってなんだ」

「そうだな。説明してやるよ」

ガウディアはアルヴァンに説明した。

ブファロを自分の手で倒すことはできなかったが村が助かるならそれでいい。

これで終わりかと思った、その時だった。

「ぐわああああ!」

一人の男性の声が聞こえてきた。

「ぎゃー!」

さらにもう一人の男性の声が。

「おいおい、何が起こってる」

「まさか...」

三人は急いで奥に進んだ。



**********

その奥では、血を流し倒れている冒険者の男性が二人。

今も戦っている冒険者の男女が三人。

その奥には、大きな斧を持ったハイオークのブファロがいた。

「まずは二人だ」

「くっ、こいつ強いわ。二人の傷は!?」

「だ、大丈夫。すぐ手当すれば助かるよ」

補助専門の女性の冒険者は傷の手当てを始める。

「そ、そう...ならここは私が」

「ブッヒャッヒャー!よそ見するなんて馬鹿か!」

ブファロは斧で女性の冒険者を切り裂く。

「きゃああ!!」

後ろに避けようとしたため、死にはしなかったが片腕は大きく負傷した。

更に地面に落ちている石を投げつけ、もう片方の腕も負傷させる。

「それじゃあ戦えないね~。ブフュフュ...後でおいしく食ってやるよ!」

「そうはさせるかあ!」

助けようと男の冒険者が加勢するも斧で薙ぎ払われる。

「ガバッ!」

「あと一人...」

ブファロは先にやられた冒険者の手当てをしていた女性に向かってニヤリと笑い近づく。

「ひっ...や、やめて」

「かわいいねえ~。いい味がしそうだ~。ブヒョヒョ」

ブファロが斧を大きく振りかぶった瞬間、入り口のほうから短剣が飛んできた。

斧で弾き飛ばし、飛んできた方向をみる。

そこからはアルヴァンたちがやってきた。

「先輩たちがやられてる!くそ、先輩達なら勝てると思ってたのに!」

「あれがハイオーク!?」

ブファロには傷一つない。

あの大きな斧で先輩達を倒したのか。

大きな肉体に大きな斧。恐ろしいほどの威圧感だ。

ガウディアとナズナは倒れた先輩に駆けつける中、アルヴァンはブファロを睨みつける。

「俺を覚えているか!」

「あぁん?...知らないな」

「俺はアルヴァンだ!お前を倒すために今まで努力してきた。覚悟しろ!」

アルヴァンは一人で突撃する。

だが、ブファロに蹴り飛ばされ、戻ってきた。

「ブッヒュウ~。お前さ、弱すぎねーか?」

再び立ち上がり、剣を構える。そう簡単にはいかないか。

「仲間の二人も弱いんだろうな。ブッフォオ!これじゃ斧はいらねえや」

ブファロを斧を捨て、素手でガウディアに近づく。

ガウディアは身構えるも、一瞬で殴り飛ばされ壁に激突する。

「ぐ...なんて力だ...お、おあ」

「ガウディア!」

「まじで弱いな。次は....」

ナズナと目が合った。

「....い、いや」

ナズナは体が動けない。

剣を構えることすらできず、膝蹴りを腹に叩きこまれその場に倒れこむ。

「女も平等だ!」

ナズナの髪を掴み上げ、もう一度膝蹴りを腹に入れる。

「やめろ...やめろ!」

アルヴァンは必死に走り出し、攻撃しようとするも回し蹴りで洞窟の壁に蹴り飛ばされた。

ブファロは楽しそうにしている。

「いきなり現れてよう、強いかと思ったらこんな程度かよ。さっきの人間のほうがまだ面白かったな。でも、いたぶるっていいな~!ブヒョヒョー」

ナズナを掴み、アルヴァンに向かって投げつける。

二人とも、起き上がることができない。

「だ、大丈夫か...お前...ら」

そんな中、ガウディアが起き上がり、ブファロを無視し二人に歩み寄る。

二人の前で、袋の中から瓶を取り出し、その場に倒れる。

「しっかり、しろよ。約束したよな...乾杯するんだろ...お前らは」

ブファロは瓶を拾い上げ、笑った。

「ブッヒョッヒョ!この匂いは酒か。残念だが、これは俺様が飲んでやるよ」

見せつけるように瓶の中の酒を全て飲み干す。

「ブッヒャー!美味いな!男は後で食うか。女は皆いい顔だ~ブヒョヒョヒョ...。あの村からたくさん人間捕まえたし、しばらくは食料に困りはしねえ!」

アルヴァンは力を振り絞り立ち上がろうとする。

剣を杖のように使い立ち上がる。

「俺は、負けられない...お前を...倒す」

よろめきながらも、アルヴァンはブファロに近づいた。

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