第5話 ナズナの修行
依頼を何度もこなし、実力もつけてきたアルヴァンとガウディア。
そんな二人のもとにランクアップ試験が舞い降りる。
初めて行くサドン砂漠でサンドワームと戦いなんとかランクアップし
ランク2の冒険者になった。
そんな二人のもとにナズナという女性がパーティを組みたいとやってきた。
始めは断ろうとしていた二人だったが、考えた末組むことに。
新しくナズナを加え3人パーティとなった。
*********************
「これからよろしく。俺はアルヴァンだ」
「ガウディアだ」
「ありがとうございます。アルヴァンさん、ガウディアさん」
ナズナにも食料を分け、3人で食事をする。
がっつくように食べるナズナを見て、昔を思い出す。
と言ってもほとんど日数は経過していないが。
食事が終わると、試しに剣を持たせてみる。
「む、むぅぅぅ」
持つことはできるも、動きがぎこちない。
数秒で剣を下ろしてしまった。
「厳しいな...」
落ち込むナズナに対し、アルヴァンは短剣を差し出す。
「これなら持てるんじゃないかな」
短剣は短いが軽い。力の弱い者でも扱える。
ナズナは手に取り振り回す。
扱えて当然だが、一つ問題があった。
「扱えるのはいいけどよ、剣よりも相手に接近しないといけないんだぞ。そういう武器使うやつって素早い動きができるイメージなんだけどな」
「む、無理・・・魔物に接近なんて!」
「(こりゃやべえ)」
「ま、まあその短剣護身用にあげるから」
まずはナズナに合う武器を探すため、武器屋に行った。
「女性が扱える武器?そうだねえ、女性客は少ないからね」
「どんな武器を買ってるんだ」
「やっぱり剣だよ。たまに槍が売れるけど、やっぱり男女剣が多いね。でも、見たところあまり力はなさそうだね。弓は扱いが大変らしいし、やっぱり剣だね」
このまま武器を買わせないわけにもいかない。
「私頑張る」
「そうだね。何回も使ったらうまく使えるかもしれないし、買うか」
「(全員剣かよ)」
剣を購入すると、慣れるために町の外で剣を振り回す練習をしてみた。
持ち上げ、構えるのに数秒、振り下ろすのには転びそうになっている。
「練習あるのみだ」
ナズナだけでなく、二人も運動のため素振りをした。
「ナズナって斬ることへの躊躇ってある?ほら、血とか」
「それは大丈夫。村の人が狩りをしてるのを何度か見てるから」
「なら後は魔物を前にしっかり動けるかだな」
一時間ほど経過すると、今日はもう遅いのでギルドで寝ることにした。
翌日、まずは魔物に慣れさせるために依頼を受け、森に行きグレーウルフと対峙する。
「ナズナ、見ててね」
「は、はい」
アルヴァンとガウディアがグレーウルフを捕まえる。
「よ、よし捕まえた」
「ナズナ、ゆっくりでいいからこっちにこい」
ナズナは恐る恐る足を一歩踏み出す。非常に怯えており、まるでボロボロの桟橋を渡るかのような足取りだ。
「大丈夫だってば。押さえてるって」
グレーウルフは暴れているが、二人で押さえているため動けない。
残り10mほどの距離でナズナは足を止める。
これ以上は限界か。
目には涙を浮かべている。
「グレーウルフに勝てないとこの先無理だぞ!」
その言葉を聞いてナズナは目の色を変えた。
「わ、わかった」
再び歩き出し、グレーウルフの前まで来た。
「ナズナ、グレーウルフ放し」
「だめ!」
足がぶるぶると震えている。
「...まあ、前に立てたし一旦休憩するか。...いや、待て。ナズナ、俺たちが押さえてるから斬れ」
震えながらも剣を構える。なんだか、自分たちが斬られそうで不安だ。
「いくよ。え、えい!」
そう言って剣を振り下ろしたとき、グレーウルフが大きく暴れだしアルヴァンたちから離れ、ナズナに飛び掛かった。
「きゃあああああああああ」
驚きのあまり、剣をその場に捨て、走って逃げてしまう。
だが、足が遅くグレーウルフに覆い被された。
ナズナは反射的に顔を掴み、なんとか食い止めている。
「た、助けてええええ!」
「今行く!」
二人は急いで向かうも、ナズナの力はあまり残っていない。
間に合わない。
「ナズナ!昨日渡した短剣を使え」
「そ、そうだった。確か、腰に...」
グレーウルフを片足で押さえ、片手でナイフを取り出し腹に刺した。
相手が怯んだので、足で蹴り飛ばした。
その後、助けに来たアルヴァン達によってグレーウルフは倒される。
「ナズナ、大丈夫!?」
「危なかったな」
ナズナは放心している。
これでは先が遠い。
「これから頑張るか。ナズナしっかりしろって」
「ご、ごめんなさい」
その後もグレーウルフを弱らせ、動きを鈍くし戦わせるが剣を振るのが遅くなかなか当たらない。
だが、20回と回数をこなしていくうちに弱らせたグレーウルフにようやく剣が当たった。
「やっと当たった」
一体に20分は時間をかけたが、初討伐だ。
すっかり疲れ果てている。
「お疲れさん。あとは見てて」
その後はナズナを休ませ、二人で次々と倒していく。
「これで15匹だな。飯にするか」
見通しのいい場所を見つけ、そこで食事をする。
食事が終わり、次はナズナをサポートする形で戦わせる。
まずはアルヴァンやガウディアが注意を引き、ナズナが攻撃する。
何度も何度も繰り返した。
ナズナが休んでいる間に二人は依頼を達成する。
その日の夜。
ガウディアが買い物に行っている間、二人はギルドで会話をしている。
「ふう、今日も疲れた」
「役に立たなくてごめんね」
「謝らなくていいって。俺も最初は同じだったから。明日も頑張ろ」
ナズナは、ふと他の冒険者を見てため息をつく。
「すごく強そうだね。私もあんな風になれたらなー。そういえば、アルヴァンはどうして冒険者になったの?」
「....とある村を助けるためかな」
アルヴァンは事情を話した。
「え、空から?」
「うん。どうして空から来たかはわからないけどね」
村のことや、ハイオークのブファロのことも話した。
冒険者になった時のことや、ナズナと出会うまでのことも。
「うぅ、ぐすん。いい話だね」
「そ、そうかな?」
「そのハイオーク討伐私も手伝う!今は弱いけど、強くなって二人のサポートをしたい。頑張るね」
「うん。ありがとう」
「ったく、お前らイチャイチャしやがって。燃やしてやろうか」
不満げな表情を浮かべ、ガウディアが戻ってきた。
「何話してたんだよ」
アルヴァンは先ほど話していた内容を説明した。
「あー、それか。そういえば、目的はそうだよな。せめてオークは倒したいよな。ハイオークはその後だ」
その日もギルドで寝た。
翌日もナズナの修行と依頼をこなし、ギルドで寝る。
そんな毎日が続いた。
アルヴァンとガウディアはグレーウルフ3匹相手でも一人で倒せるようになっている。
ギルド内にて。
「ナズナ、今日はよかったな」
一人ではないが、斬ることに躊躇はないおかげで弱らせたグレーウルフを倒すことに成功した。ぶっ続けで戦えば人も成長してくる。
「明日はニードルナーガやサンドワームに変えようと思う」
「サンドワームかー、試験以来だな。了解。あいつは動きが遅いからナズナでも一人で倒せるよ」
「う、うん。頑張る」
翌日、三人はサドン砂漠へ向かう。
その道中で見かけたニードルナーガと戦うが、実力を上げたアルヴァンとガウディアにはちょうどいい相手だ。ナズナは見てるしかなかった。
「とどめだ!」
アルヴァンがニードルナーガにとどめをさす。
「ふう、やはり強いな」
「でも初めてよりは倒しやすくなってる」
「(やっぱり、私足手まとい。でも、強くなる)」
三人はサドン砂漠へたどり着く。
あの時は逃げた二人だが、今は実力も上がっている。
「どこからでもこい!」
「いたぞ!アルヴァン、ナズナ、行くぞ」
「は、はい!」
サンドワームが奇声を上げ、仲間を呼び集める。
7匹の群れが現れ囲まれるも、逃げることなく倒していく。
「えい!」
1匹に向かって斬りつけ、逃げては斬りつけ、ようやくナズナは一人で魔物を討伐することができた。
「や、やった。倒した。倒したー!」
喜ぶもつかの間、すぐに別のサンドワームが飛び掛かってくる。
アルヴァン達も次々と倒しているが、なかなか終わらない。
「くそ、いつまで続くんだ。もう20はやったぞ」
あちこちから次々と現れてくる。終わりがまるで見えない。
「囲まれる前に逃げたほうがいい。うぐっ!」
始めは無傷だった二人も、疲れのせいか動きが悪くなり傷を負い始める。
「くそ、また。いってぇ...」
ナズナのほうを振り返ると、2匹と戦っている。
こちらが注意を引いているせいで群れには襲われていない。
「ナズナ、1匹倒したみたいだ。近くに1匹倒れてた」
「本当かよ。よかったぜ。あとで祝ってやろうぜ...おらぁ!」
合計30匹は倒したところでアルヴァンが撤退し始める。
「すまない、もう限界だ」
「そうか、わかった。おいナズナ、逃げるぞ!」
「わかった!」
三人はサドン砂漠から立ち去る。
ギルドに戻り、防具を直してもらった。
「くそ、まともにくらったな。いってぇ」
「二人とも大丈夫!?薬買ってこようか?」
「あぁ、頼む」
ガウディアがお金を渡すと、ナズナは走ってギルドを出た。
魔物との戦いで初めてたくさんの傷を負った二人。
ナズナは少し服に傷がついた程度だ。
「ガウディア...くす..薬ってなんだ」
「お前...知ら...知らねえのかよ。てっきり、知ってると思ったぜ」
十分後、ナズナが液体の入った小瓶を二つ持ってきた。
「それが薬か...」
ナズナは瓶の蓋を開け、液体を二人の傷口にかける。
「いってぇ!!!」
「いたたああ!」
「ご、ごめんね!」
すると不思議なことに傷口が塞がっていき、痛みも消えてくる。
「どうなってるんだこれ」
「お前が回復薬知らねえなんて思わなかったぞ。実感しての通り、傷を治す薬だよ。俺達が採取で集めた薬草はこれになるんだよ」
「へぇー」
「アルヴァン知らなかったんだ...」
また一つ恥をかいた気がする。
その日は、ナズナの初討伐のお祝いをしていた。
ありえないほどの食べ物を買い、遠慮するナズナの口にガウディアが次々と放り込む。
なんだか、とても明るい光景が見られていた。
翌日も、サドン砂漠に行き修行をしていく。
銅貨も貯まり、ナズナに防具を着せた。
これでマシになっただろう。
ある日、三人が森で魔物討伐と採取をやっていた。
「グレーウルフ一人で倒せるようになったな」
「うんうん。やっと役に立てる気がする」
そんな会話をしていた時だった。
茂みの奥から何か大きな生き物が見えた。
グレーウルフにしてはあまりに大きすぎる。
二足歩行の大きな豚のような魔物。
オークだ。
「まずい、お前ら隠れろ!」
ガウディアが小声でそう言った。
言われるがまま、二人は茂みの中に隠れる。
「ガウディア、どうしたんだよ」
「静かに」
ガウディアはオークを呼びさした。
「な、なにあれ...」
「あれは...オークか!」
オークはゆっくりとこちらに接近している。
見つかれば戦うしかない。
「つ、強いんだよね」
強さはアルヴァンやガウディアがよく知っていた。
二人は無言でその強さを語る。
「どどどうするの」
「やり過ごすしかないな。本来この森でオークは生息していない。となると....」
「ブファロの仲間か」
アルヴァンは今にも飛び出そうになるが、ナズナが必死で押さえる。
自分たちはあの時よりも強くなっている。
だが、ガウディアの行動を見るにまだ勝てないのだろうか。
オークはすぐ側までやって来たが隠れていることに気づいていないようだ。
「おっかしいな。確かに人間の気配がしたんだがな。ブヒヒ、まあいいや。そういえば、近くに村があったよな。人間捕まえて食ってみるか」
その言葉にアルヴァンはもう我慢はできなかった。
「待て!」
「おい、やめろアルヴァン」
勢いよく飛び出し、オークの背中を斬りつける。
「ブヒャア!いってぇな、なにすんだお前」
命中したが、あまり効いているようには見えない。
オークは背中をさすり傷を確かめる。
あまり大きな傷でないことを確認するとアルヴァンを睨みつけた。
「お前...」
まじかで見る大きな肉体。その威圧感は凄まじい。だが、アルヴァンは怯まない。
剣先をオークに向けている。
ガウディアとナズナはどうしようかと迷っている。
「今、人間を捕まえるといったな!」
「言ったぞ。人間はうまいらしいからな。それがどうし...ん?」
オークはまじまじとアルヴァンの顔を見ると、笑い声をあげる。
「ブヒヒヒ、お前ブファロ様にやられた奴か!生きてたのか。...それで、何のつもりだ?わざわざ戻って来たってことは俺に食われに来たか?...今日は大収穫だー!!!」
オークはアルヴァンに向かっていった。
腕を大きく振り、薙ぎ払う。
なんて重たい一撃だ。
動きは遅いが、当たれば大きなダメージになるだろう。
がら空きの肉体を剣で斬りつけ、すぐ離れる。
周囲は多くの木で囲まれている。木を盾にしたりして隙を見つけ斬りかかる。
「鬱陶しいな、おい!」
オークは落ちていた倒木を持ち上げ、薙ぎ払った。
予想外の攻撃に反応できず、アルヴァンはぶっ飛ばされてしまい、木に激突する。
「カハッ!」
激しい痛みが全身を襲う。
だが、そんなことを気にも留めず立ち上がろうとするアルヴァンをオークは大きな拳で殴りつける。
重たい一撃が入った。
「もう終わりか?」
「アルヴァン!」
茂みからナズナが現れオークの足に剣を刺した。
ナズナは目に涙を浮かべている。よっぽど怖かったのだろう。
オークは痛みにより大声を上げた。
そんなオークを木の上から現れたガウディアが追撃を狙う。
しかし、薙ぎ払われ失敗に終わる。
「ふざけやがってよ!お前ら二人とも今ここでぶっ殺してやる!」
オークは怒りに任せ、ガウディアとナズナに襲い掛かる。
二人に体当たりを仕掛け、避けたガウディアを蹴り飛ばし、怯んだナズナを踏みつける。
「う....かっ..あ」
「その顔ぐちゃぐちゃに」
「うおおおおおおおおおおおお」
大きな声を共にアルヴァンがオークの背中に剣を突き刺す。
「ンギュワァァ!」
更に、落ちているガウディアの剣を拾い足に刺した。
オークはその場に倒れる。
すぐに剣を抜き、倒れたオークの腹の上に乗り、喉元で剣を当てる。
「はあ、はあ、はあ」
「ま、待て!降参だ!殺さないでくれ」
「....」
その言葉に力を抜き、隙を見せた直後オークは両手でアルヴァンを掴んだ。
「バカが!誰が人間なんかに。このまま絞め殺ろ...」
オークの首元にナズナが短剣を突き刺す。
「グゴ」
そう言い、オークは動かなくなった。
ナズナの足はぶるぶると震えていたが、開放感からかその場に倒れる。
激戦が終わり、アルヴァンもその場に倒れこむ。
「お、おまえら大丈夫か」
重たい足取りでガウディアが二人のところに駆けつける。
三人とも、負傷している。
「アルヴァン大丈夫?」
「だ、大丈夫..ゴホッ」
ガウディアは二人を担ぎ、町へと戻る。
大勢の注目を集め、道具屋で回復薬を買い二人に掛けた。
アルヴァンの傷は大きく、回復薬を三つ使った。
「大丈夫かよ、お前ら」
「ありがとう助かった」
「...あれがオーク」
勝つには勝ったが、非常に苦戦いた。
もし1匹じゃなかったら、森ではなかったら、一人だったら。
そんなことを考えるとゾッとする。
「剣はだめになったし、いい機会だしもっといい物を買うか」
三人は武器屋へと向かい、少し高い剣を買う。
かなりの値段がしたが、今後のことも考えると必要な気がしてきた。
ギルドに向かい、依頼を見ていると一人の男が話しかけてきた。
「お前ら、さっきボロボロで帰ってきた奴らだろ」
「ああ、そうだが」
「ランク2か。何と戦ったんだ?」
アルヴァンはオークと戦ったことを言うと男は笑った。
「バカだなお前達。で、負けたのか」
「勝ったさ!」
「へーそうかい。運がいいね。薬で治せる傷でよ。お前ら知ってるか?薬で治せないくらい傷を負った冒険者がどうなるか。...ほら、いいとこに来た」
「な...なんだあれ」
全身から血を流した冒険者と思われる男性が男性二人に運ばれ入ってきた。
男性は降ろされるも、まともに歩けていない。
顔は酷く絶望しており、未来などないような顔だった。
「冒険者ってのはな、戦ったりして生きていくんだよ。当然戦いには傷が付きもの。一回の失敗で大きな傷を負い、戦えなくなった奴はもう同じ生き方ができないのさ。生きてても前より稼げず、一人なら飢えて死んでいくしかない。仲間がいたら最悪捨てられるぜ。お前たちのように、実力差のある相手と戦った初心者がよくあーなる」
ナズナは言葉を失っている。
「お前みたいな女もよく見るぜ。捨てられた奴が、どうなるか知りたいか?」
「や、やめて...」
「そうか、なら気を付けるんだな」
男は立ち去った。
「俺たちも一歩間違えれば同じことに...オークに勝てたのは奇跡か...」
「怖いよ」
アルヴァンとナズナがそんなことを言っている中、ガウディアだけはただじっと見ていた。
「ガウディア...おいガウディア!」
「はっ...悪い。嫌なことを思い出してな。気を引き締めたほうがいい、俺たちはあーなるわけにはいかないだろ」
冒険者は厳しい世界だ。
一歩の油断は一瞬にして死を招く。
ナズナは目に焼け付けた。
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