第4話 来たるランクアップ試験

冒険者になったアルヴァン。

ガウディアとパーティを組み、冒険者としての生活を始めるが武器もないアルヴァンは戦えないため、地道な生き方を余儀なくされる。

お金を稼ぎ、剣を手に入れようやく戦うことができ、グレーウルフを相手にするが

まだ、躊躇してしまい斬ることはできなかった。

翌日、再び挑み、躊躇をしてしまうが、自身の目的のため迷いを振り切りグレーウルフを討伐することに成功した。

魔物討伐の依頼も視野にいれ、ここからが冒険者と思える生活を始めるのだった。



***************

アルヴァンとガウディアは魔物討伐の依頼を受け、討伐し、報酬として銅貨をもらい、食事をする。

このサイクルを繰り返し毎日を過ごしていた。

「少しずつだが俺たち強くなってるよな」

何度もグレーウルフと戦ってきた自分たちは経験を積み、実力を上げていた。

事実、グレーウルフを2体同時に一人で相手をしてもなんとか勝てるようになってきた。

「もう少しで2体同時でも楽になれるような気がする」

「だな!」

そして、そんな二人のもとにひとつの試練が舞い降りた。

二人はいつものように依頼を受注しようとすると、受付嬢が呼び止めた。

「ランクアップ試験?」

「はい。お二人の頑張りはいつも見ています。依頼の成功数も高いです。そこで、ランクアップの試験を実施しようと思っています」

「へー。ランクアップか」

「ランクアップすれば、これまで受注できなかった依頼も受けれますよ。もちろん、ランク2の依頼はランク1より報酬は上です!」

二人は目を輝かせる。報酬の上り幅を想像し、何を食べようかと頭に思い浮かべていた。

「受ける!その試験を受ける!アルヴァン、お前もそう思うよな!!」

その発言に先にアルヴァンが現実に戻された。

「待て。試験ってことは何かしなくちゃいけなんだよな?」

「はい。内容はランクによって違いますが、こちらが指定したことをこなせば合格ですよ」

「なんか不安だな」

「簡単だよ。ランク2だろ?グレーウルフか?」

受付嬢は真剣な顔をしている。

「油断は禁物ですよ。最悪....死にます」

「死ぬだと!?」

「まじか...」

自分に自信があったガウディアはその発言に驚かされた。

脅しではなく、本当に死ぬかもしれないという顔をしている。

ガウディアは言葉を失った。

アルヴァンは覚悟をしつつ、口を開いた。

「今まで死んだ奴はいるのか?」

「....」

その沈黙がアルヴァンを黙らせた。

そんな二人を気遣ってか、受付嬢はにっこり笑った。

「大丈夫ですよ。気を引き締め、油断しなければ大丈夫です」

「...そ、そうか。で、な...内容は?」

「サンドワームの討伐です」

二人ににとって聞いたことがない名前だった。

受付嬢は内容を説明した。

「ここから少し離れたサドン砂漠に生息している大きなミミズです。体長は4mほどになるそうです。そのサンドワームの牙を5本採取し、持ってきてください。」

「このギルドは魔物関連は5という数字が好きだな」

「牙くらいなら、市場で見つかりそうなものなんだが」

「入手経路は問いません。また、何人で挑んでも問題ありませんが、一人につきサンドワームの牙を5本持ってくれば、試験合格とみなします。それでは、頑張ってきてくださいね」

二人はギルドを出た。

「なんで5本なんだろうな。牙が一つしか取れないとか?」

「さーな。一人5本ってことは俺達で10本だろ?戦ったことない相手だぞ?仮に1本しか手に入らなかったらと思うとゾッとするわ。それよりもどうやって行くんだよ」

まずはサドン砂漠への行き方だ。

どこにあるのか、どうやって行くのかを知らない。

聞き込みをするため、日々外を歩いているであろう商人たちが集う町の外へと向かった。

「サドン砂漠?あー、知ってるよ。この町を出てひたすら東に向かって歩けばいずれたどり着くよ」

東を向いてみるも、草原が広がっているだけだ。

「(こりゃすごい時間かかるな)」

二人は食料を買い込み、東へむかって歩き始めた。

「そういや、町の周辺は魔物でないよな」

「冒険者や商人など多くの人間が出入りしているからな。魔物も地獄には飛び込んでこないだろ」

2時間は歩いただろうか。振り返ると町はとても小さく見える。

それと同時に見たことのない魔物も見かける。

背中に棘の生えた大きな蛇。

「あれは、ニードルナーガだ」

ニードルナーガはこちらに気づくと、襲い掛かってきた。

「好戦的だな!」

「噛まれても痛いが、背中の棘も気をつけろよ!」

大きく口を開いたときに見えた鋭い牙。

噛まれれば今着ている服もとろも一撃でやられてしまう。

「毒はあるのか!?」

「いや、ない」

「なら安心だ」

アルヴァンは剣を構え、ニードルナーガの右に移動し剣を横に振った。

命中はしたが、倒れる気配はない。

「シャアアアア」

反撃とばかりに尻尾で薙ぎ払う。

二人で左右で挟み撃ちにし、個別に攻撃をしかける。

少してこずったが、ガウディアが相手の首を斬り落とした。

「ふう、強かったな」

「結構手ごたえあるな。グレーウルフとはまるで違うな」

二人は再び歩き出した。

その後もニードルナーガと遭遇し、戦い、時には逃げたりを繰り返し、ようやくサドン砂漠にたどり着いた。

「だいたい3時間20分だな」

「あとはサンドワームか」

あたりは砂の大地が広がっている。

近くに魔物は見えない。

「ワームって名前だし、砂に潜っているのかもな。アルヴァン、しっかり警戒しろよ」

「わかってる」

砂漠の大地を歩き、辺りを探して回る。

砂漠は静かで自分たちの足音と風に舞いあげられる砂の音だけだ。

「休憩するか」

アルヴァンは荷物を下ろした。

こちらから探さなくても、やがて顔を出すだろう。

二人は食事をとり、体を休める。

その時だった。

突如、アルヴァンたちの足元の砂が盛り上がった。

「サンドワームか!?」

二人が飛びのくと、砂の中から勢いよく真っ赤で巨大なミミズが姿を現す。

ミミズは上にあった食料を丸呑みし、砂の中に潜った。

体長は3mほどか

「でかいな...」

「あれがサンドワームみたいだな」

まだ足りないのかサンドワームはアルヴァンたちの足元に移動を始める。

砂が盛り上がるのでよくわかる。

「動きは遅い。砂から顔を出したところを仕留めるぞ!」

サンドワームが砂から顔を出すと、そこに二人で剣を突き刺す。

ニードルナーガより柔らかい。

「こいつ、そこまで強くないな」

剣を引き抜くと、サンドワームはそのまま奇声をあげて倒れた。

まるで、手ごたえがない。

これが本当に試験なのだろうか。

「さっさと牙を抜いて帰るか」

ガウディアが牙を抜こうとしたとき、とっさにアルヴァンが止めた。

「あれ...みろよ」

そこには、こちらに一直線でゆっくりと向かってくるサンドワームの姿があった。

しかしも、一匹だけではない。気づけば20体に囲まれている。

「おいおい、やばいぞこれ」

これが試験か。

先ほどの奇声は仲間を呼ぶ合図だったようだ。

「牙の入手は後だな」

足元に警戒した二人だったが、サンドワームは少し距離を置いたところで移動をやめ、砂から飛び出してきた。

鋭くはないにせよ、あの牙は噛まれるとかなり痛手になりそうだ。

あちこちから飛び出すサンドワーム。

幸い1匹当たりの強さはそうでもない。

大きく距離を取り、飛び掛かってきたところを斬り裂く。

次から次へと奇声を上げ、仲間が集めってくる。

「きりがないな...」

「仕方ない。アルヴァン、牙を抜いて逃げるぞ!」

ガウディアはサンドワームの頭を切り落とし、抱きかかえる。

「ガウディアは先に行ってくれ、俺が食い止めとく」

群がるサンドワームを次々と斬っていく。

一体どこからやってきているのだろうか。ガウディアが少し遠くに行ったのを確認すると自分も離脱した。

砂漠から離れるとサンドワームは追ってはこなかった。

「あれはさすがにやばいな」

「アルヴァンありがとよ。さっきそこで頭から牙を抜いて10個手に入れた。帰ろうか」

二人は急いで町に向かって走った。

行きはのんびり歩いてきたからか、わずか1時間半で帰ることができた。

もうすっかり夜になっている。

二人はギルドに向かい、納品した。

「確認しますね。...2...5...9.10。はい!確かにサンドワームの牙10個確認しました。おめでとうございます!ランク2に昇格です!プレートは持ってますか?」

二人はプレートを渡す。数分後、ランク2と書かれ戻ってきた。

「こちら、ランクアップ報酬の銅貨100枚です。今後のご活躍期待しています!」

報酬を受け取り、テーブルに行き、プレートを眺める。

「とうとうランク2だな俺たち!」

「そうだな。なんだかうれしいな」

「お祝いとしてこの銅貨100枚でうまいもの食べるぞ!」

「その前に武器だな」

何度も使ったりしているせいか、ボロボロになっている。

また、そろそろ防具も欲しい。

「防具か~。それもそうだな。その前に依頼も見てみたいぜ!」

「だな!」

二人は目を輝かせ、ボードの前に向かう。

ランク2の依頼は新しくサドン砂漠や町の周辺とずらりと並んでいる。

「しっかり見てなかったから気づかなかったが、こんなにあったんだな。報酬も少し多いな」

「そうだな。いっぱい稼いでうまい飯を食べまくって...まだ先の話か」

依頼を受ける前に武器や防具を探しに市場に出る。

武器はいつものを買うとして、防具はどうしようか。

「革...石...」

石の防具は全身そろえるのには予算が足りない。

「やはり手足や頭に体も全部ほしいよな」

かと言って革を全身買ってもかなりの値段が...。

「店主、もっと安いのはないのか?」

そう言って出されたのは少し傷がある革装備。

傷がある分大幅に安くなっている。

耐久力に不安を思いつつも2セット買い、ギルドに戻り依頼を見に行った。

ランク2の依頼をランク1の依頼を受け、外に出る。

防具の影響で動きにくいが、安心感はほんの少しはあった。

その日は夜までほとんど時間がなく、ランク2の依頼はまた明日にすることになった。

その夜、二人はギルドで市場で買った物をたべていた。

二人が食事していると、見知らぬ女性がこちらに歩いてくる。

黒色の髪で、見た目年齢は自分たちと近い。

今は人は少なく、自分たちの他に近くに人はいない。

「あ...あの。わ、私とパーティを組んでくくくれませんか?」

どうも落ち着きが感じられない。

「どうして俺たちなんかと」

「すみません。私ランク2の冒険者で、同じランクの人と組みたくて探してたんです。私魔物と戦うのが苦手で採取のクエストばっかりやって、ランク2になったはいいんですが、一日生きるのが大変で...1人ではだめだと思い一緒にパーティ組む人を探してたんです。でも、剣など重たい物を持てなくて、誰にも相手をされずに途方に暮れていた時に、ちょうどランク2になったあなた達をみつけてタイミングを狙ってたんです」

確かに武器らしき物はもっていない。防具もきておらず、一般市民が着ているのと変わらない服装をしている。確かにこれではだめだ。

「なんで冒険者になったんだよ。それなら一般的な仕事のほうが」

「憧れているんです!!」

黒髪の女性は目を輝かせて言った。

「私ここから遠くの村に住んでいたのですが、ある日そこが魔物に襲われて、その時、偶然通りかかった冒険者に助けてもらったんです」

なるほど、実にありがちな展開だ。

「冒険者に憧れて、両親の反対を押し切りこの町にやってきたんです!私の名前はナズナです。お願いします!組んでください!」

ナズナは頭を下げた。

「言い方悪いが、お前、お荷物だぞ」

「そこを何とか....お願いします」

アルヴァンとガウディアは無言になるしかなかった。

5分間もの沈黙が続くも、頭を上げようとしない。

「ちょっと考える時間をくれ、アルヴァンちょっとこい」

「了解」

二人はギルドの隅に移動し、小声で話す。

「どうするアルヴァン...引き下がる気がないな、ありゃ」

「戦闘はできないみたいだしね」

「戦闘どころか採取も怪しいな。まあ、体は健康的だから最低限の食事はしてるんだろうけど...でもなあ」

振り返るとまだ頭を下げている。これは難しい戦いになりそうだ。

「思えば、ランク1の俺たちと似たような生き方してたのかな。そう思うと、なんか悲しく...いい女性が..うぅ」

「おいおい、アルヴァン何泣いてるんだよ。同情してる場合じゃない。俺達も安定はしていないんだぞ!そこにお荷物はやばいって!」

荷物持ちとして。いや、それもまた悲しい。

「俺たちも弱いから偉そうに言えないしな...」

二人は席に戻る。一回顔を上げさせ、話をすることにした。

「魔物と一回でもやりあったことは?」

「一回グレーウルフ一匹と....でも、でも...」

目を見れば結果は察した。武器も持たずに挑めばそりゃそうなるだろう。

むしろ、よく生きてたな。というよりもなぜ挑んだ。

「どうやってこの町に?」

「村にやってきた商人さんに馬車に乗せてもらいました。冒険者になって、明るい生活がスタートすると思ったんです。でも、魔物も倒せず採取ばかりで一週間。サンドワームの牙は優しい冒険者がタダでくれたんです」

いくつか自分たちと似ているところがあるため、何も言えない。

「ガウディア、ちょっと」

二人はまた退席した。

「村に帰らせたほうがいいって」

「だけど、あの目はだめだな。帰る気なんてない....俺の予想だが、あいつの末路は...飢え死にだな」

稼げず、住む家もない人間はその未来しかない。アルヴァンたちもそうなりかけた。

もし、他の人たちと組めたとしてもいずれ捨てられるだろう。

「待てよアルヴァン、やっぱり...あいつと組むか」

「は!?お前正気」

「シィー!イズナって可愛いよな?男二人今後むさ苦しいだろ。女がいれば雰囲気も出る、いい考えだろ?」

「おいおい、それって」

どうみても下心しか見えない。冷たい目でガウディアを見る。

だが、このまま放っておくわけにもいかない。

このまま断った今後のことを考えると涙が出そうだ。

「今は実力がなくても、修行すれば武器を持てるさ。戦力にもなる!恋人になり楽しい冒険だぞ」

「.....確かにいいなそれ」

「じゃあ決まりだな」

意見は固まった。

二人はナズナのところに戻った。

ナズナは緊張している。

「意見が固まった」

「はい....」

「組もう」

「やっぱりだめですか....え、今なんて」

「俺たちと組もう」

沈んでいたナズナの気持ちが大きく膨れ上がった。

「本当にいいんですか!?」

アルヴァンたちは頷いた。

ナズナはとても喜んでいた。

二人で始まった冒険者生活に一輪の花が咲いた。

「ただし、しっかり努力して戦力になれよ!」

「はい!」

冒険者になって何日経過しただろうか。

わずか数日のうちにもう3人のパーティになった。

これから先、どうなるのやら。

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