第3話 冒険者としての幕開け
ブファロに敗北したアルヴァンは今は敵わぬ相手と知り、強くなり戻ってきて村救うことを決意する。
町へと旅立ったものの空腹の影響で力が出ず、道中魔物に襲われるアルヴァンだったが、そこに後ろをついてきたガウディアによって助けられた。
町へと同行してもらい、その途中提案される。
『冒険者になれよ』
その言葉を聞き、アルヴァンは冒険者になることを考え始める。
町に着き、ガウディアに連れられたのは冒険者ギルドだった。
アルヴァンはガウディアと同じく冒険者となり、二人でパーティを組むのだった。
**********
冒険者になったアルヴァンはギルドの依頼ボードを眺めていた。
「すごい数だな...」
受付の女性が言っていた通り、数えきれないほどの依頼書が貼ってある。
「まあ、俺たちが受注できるのは1割もないがな」
試しにランク1で受注できる依頼書を手に取る。
キノコ採取・薬草採取・壁の掃除
どれも地味なものばかりだ。
「報酬は銅貨15枚か...銅貨の価値っていくらだ」
「硬貨は知ってるのに価値までは知らないんだな。世界に流通しているのは金貨銀貨銅貨の3種類だ。金が一番価値が高く、銅貨が一番価値が低い。銀貨は銅貨1000枚分。金貨は銀貨1000枚分になる」
「ランクの高い冒険者は金貨たくさんもってそうだな」
「そうかもな。金貨なんて大富豪が使うイメージだしな。あ、その薬草採取受注しておいてくれ。まじで金がない」
言われた通りに薬草採取の依頼を受注した。
「はい。では、薬草30個お願いしますね」
二人は町を出て、森で薬草採取に励む。
酷く地味な作業で冒険者がやることとはとてもじゃないが思えない。
「思ってのと違う」
「そういうもんだよ。昨日は俺が似たようなことった言ったわ」
二人は金がないので宿に泊まれない。暗い中、ひたすら薬草採取だ
「銅貨15枚で何ができる?」
「案外何もできないぞ。町にもよるが、マルコーネットじゃ宿にも泊まれない。宿が1日最低でも銅貨40枚だったかな。食料もいるし、ときには武具も必要だ。怪我したときのための薬もな。ランクの低い冒険者はな、本来実家から通うんだよ。宿を使うのはランクが上がり、旅に出始めた者だ。俺たちは家がない」
なんとか薬草を集め終え、ギルドに向かう。
初めての依頼達成と同時に手に入れた銅貨15枚。
これでもまだ宿には泊まれない。
だが、宿に泊まれないのは二人だけじゃなかった。
周囲を見ると机で寝ている冒険者がちらほら見かける。
「一応ここでも寝れる。快適じゃないし、健康的じゃない」
選択肢なんてない。二人はここで寝ることを余儀なくされる。
「依頼見てくるよ」
早く安定した生活をしたい。
ランク1で受けられる依頼はどれも地味な仕事ばかりだ。
「(壁の清掃か...。楽ではあるが、報酬がなあ)」
贅沢は言ってられない。しかし、もう少しなんというか...。
アルヴァンはガウディアのところへ戻る。
「依頼以外に金は稼げないのか?」
「ん、あるぞ?冒険者で有名なのは冒険で手に入れたものを売ることだ。だがな、1つ2つじ物によっちゃ値段がつけられなかったりする。さっきの薬草のようにまとめて売るのが基本だ。俺も人から聞いた話だけどよ」
冒険者には稼ぎ方がいくつかある。
大きく分けて3つ。
1つは依頼の報酬だ。これが一般的な稼ぎだ。
2つめは冒険で手に入れたものを店で買い取ってもらうこと。
依頼の途中で手に入れたものを持ち替えり、金に換えることで稼げる。
3つ目は冒険者同士の売り買いだ。2つめと似ているが冒険者同士で必要なものを交換したりしている。採取が難しく、店でもなかなか見つからないものを金、または物々で手に入れることもよくある。
「ざっとこんなもんだな」
「やはり地道に稼ぐしかないか」
「それが一番だ。なんて言ってるけどよ...俺も冒険者になったばりだ。詳しくはわからない」
ギルドの中は明るいが、今は夜なので人も少なく静かだ。
今日は疲れたので、ここで寝ることにしよう。
次の日の朝、空腹に襲われた二人はギルドを出て、食料を手に入れることにした。
「あの時の木の実以降何も食べてないな...」
「銅貨15枚もあれば何か買えるだろう。この際なんでもいい」
そう言い、二人が向かったのは市場だ。
武器に防具、道具や食べ物など、なんでも揃っている。
「へい、らっしゃい」
店の前に立ち、商品を見て回る。
どれもこれも高いものばかりだ。
パンがひとつ銅貨10枚。これが一番安い品物だ。
迷うこともなく、パンを買い二人で分けた。
「よし、今日はたくさん依頼をこなすぞ!アルヴァンが武器を持てば魔物討伐の依頼も行ける!」
「朝からたくさん依頼をこなすか」
ギルドに戻り、手当たり次第採取のクエストを受注し町を出た。
「薬草が80。キノコが20。全部達成で銅貨が30枚」
薬草はなかなか手に入らず、5時間ほどで集め終えギルドに戻った。
30枚手渡され、喜ぶ二人。
アルヴァンはボードの前に向かった。
「(俺も戦えるようになりたいな)」
そんな思いを秘め、依頼を見て回っているが今は依頼が少ない。
採取などは他の冒険者にとられたようだ。
アルヴァンはため息をついた。
横を見ると、大きな槍を持ち、鎧を着た見るからにランクの高そうな冒険者がいた。
「(俺もいつかはあの人みたいに)」
アルヴァンは再び、ガウディアのところに戻る
「今は依頼はないな」
「冒険者は山ほどいるからな。ランクの低い依頼だが少しでも稼ぐために受注してたりするんだよ。山で食料でも探すか」
依頼がでるまで二人は山で食料を探すことにした。
町に出る前にすれ違ったランクの低い冒険者たちも何人かはこんな生活をしているのだろうか。
再び町に戻ると、採取の依頼があったのでこなす。
採取中木の実を食べ、節約し銅貨は70枚になった。
「これだけあればアルヴァンの武器が買えるな」
「そんな、もう少しためて余裕ができたらでいいよ」
「何言ってる。採取だけじゃ稼ぎなんて悲しいだろ。魔物討伐もやれば稼ぎは増える。それに強くなるには武器がないとダメだろ?」
そう言われてしまうと何も言えず、二人は武器屋に向かう。
あの村で見た武器屋とは当たり前かもしれないが広く、種類も豊富だ。
「らっしゃい」
店に置かれている武器を見て回る。斧や槍など幅広い武器の数々。中には銀貨3枚の武器も置いてある。
「よし、これで良いだろ」
ガウディアが手に取ったのは銅貨60枚の鉄の剣だ。
「大丈夫なのか...銅貨60枚って高額だな」
「こんなもんだぞ。俺の持ってる剣も60枚で買ったぞ。店主、これくれ」
「まいどー」
アルヴァンはついに念願の武器を手に入れた。鉄の剣は見た目より重かった。自身の力の弱さもある。
「これで魔物討伐の依頼に行けるな」
「...魔物討伐」
ついに自身も戦うことになる。この剣で相手を斬るのだ。
「生き物を斬るんだよな...なんか緊張してきた。ガウディアは始めは緊張したか?」
「もちろん。だが、俺は魔物相手だと思うと斬れる」
アルヴァンの手は震ている。
ギルドに戻り、ボードの前に立つ。
あった。グレーウルフの討伐だ。
証明として、グレーウルフのしっぽを5つギルドに納品すれば達成だ。
「報酬は...銅貨20枚か」
アルヴァンは覚悟を決め、依頼を受注し、森に向かう。
採取の時は何も感じなかったが、今は緊張でいっぱいだ。
グレーウルフは奥に行かないと現れないようだ。
二人は恐る恐る奥へと進む。
「グレーウルフは大きな相手は基本襲わない。だがな、逆に襲われると逃げずに立ち向かってくる。油断して死ぬなよ」
そういった矢先。グレーウルフを見つける。まだこちらに気づいていない。
「準備はできたな?」
「ああ!」
二人は勢いよく飛び出した。
狼はすぐにこちらを向き、警戒している。
剣を構え、狼に向かっていった。
「グルァ!」
剣を避け、距離をとった。
逃げる様子はない。戦うようだ。
今度は狼から攻めてきた。素早く左右に移動しつつ、こちらに向かってするどい爪で襲い掛かる。
アルヴァンは剣で攻撃を防ぎ、横からガウディアは斬りつけた。
狼はその場に倒れた。
アルヴァンにとって初めての戦闘だった。
「はぁ、はぁ。緊張したー」
「怪我しなくてよかったな。さて、しっぽを切り落とすか」
「役にたてなくてすまない」
「何言ってる。お前が注意を引いたから勝てたんだよ。一人じゃ厳しいぜ」
ガウディアはこちらに向かって親指を立てた。
「よ、よし。次は俺が!」
森の中を歩いているとグレーウルフを二匹見つけた。
次は自分が倒す。
二人は狼に向かって走っていった。
********
その夜。
二人は傷だらけ服でギルドに戻ってきた。
「さすがに一人で相手は大変だったな。お疲れさん」
「結局全部ガウディアがやってくれたな...いざ斬ろうとすると躊躇というか...」
「明日頑張ろうぜ」
グレーウルフのしっぽを納品し、報酬を受け取る。
ついでに採取のクエストも達成し、合計40枚の銅貨を手に入れた。
「お疲れ様です。よろしければ、服を直しましょうか?」
「そんなサービスまであるのか。知らなかったな」
「お願いします」
「はい!これなら...二つで銅貨30枚ですね」
二人は沈黙した。
仕方なく直してもらい、結果銅貨は10枚になった。
「今日もパンか」
「明日から魔物討伐もメインに入れるぞ!」
「ああ、早く強くなってハイオークを倒そう!」
これぞ、冒険者って感じがした。
初めて武器を手にし、うまく扱えずガウディアに助けられた。
明日こそは、自分がガウディアを助けたい。そう思ったアルヴァンだった。
翌日、二人は森で木の実を集めつつグレーウルフの討伐に向かう。
「ガウディア、そこで見ててくれ」
「わかったよ。危なくなったら助けるぜ」
目の前にグレーウルフ一匹。
「いくぞ!」
剣を構え、向かっていく。
相手は昨日と同じく逃げずに攻撃をしてきた。
剣でガードするも、一人で戦うという緊張で思ったより力が出ない。
「(ガウディアばかりに頼ってられない)」
狼を振り払い、体勢が崩させ斬りかかるもやはり躊躇してしまう。
「(だめだ。やはり斬れない)」
そう思っていた時だ。頭の中でブファロのことが思い浮かんだ。
苦しめられている人々。あの時の悔しい気持ち。
強くならなくちゃいけないんだ。
「俺は...ここで迷っている時じゃ」
「グルルル。グルォラァ」
グレーウルフが飛び掛かってきた。
「うおおおおお」
アルヴァンは大きく振りかぶり剣を振り下ろした。
命中した。だが、まだ倒してはいない。
「はぁ、はぁ」
しばらく睨み合いが続いた。
だが、戦いは思わぬ形で終わった。
突然グレーウルフが倒れた。
「ど、どうしたんだ」
「さっきの一撃がじわじわ効いてきたんだろ。やるな」
「た、倒した」
凄まじい疲れが体を襲い、アルヴァンはその場に倒れた。
「よくやったな。これでお前も魔物とちゃんと戦える」
アルヴァンは木の隙間から見える空を見ていた。
この戦いがまるで世界を賭けた戦いに感じた。
ガウディアはグレーウルフのしっぽを回収し、アルヴァンの手の中に置いた。
「お前の手柄だ」
大きな達成感。アルヴァンは立ちあがり、土を払った。
「よし、続けよう」
「だな」
アルヴァンは少し強くなっていた。
昨日と同様に二匹と遭遇したが、一人でもなんとか倒すことができた。
自分でも成長したと感じた。
ギルドに戻り、服を直してもらう。
「討伐祝いだ。いい飯食おうぜ!!」
「ああ!!」
二人はパンだけでなく、暖かいシチューを食べた。持っている金すべてを使ってしまったが、後悔はしていない。
次はマッドラビットの討伐に変えた。
動きがはやく、逃げてばかりなので苦労はしたがなんとか達成できた。
「はい、マッドラビット5匹討伐、薬草40個納品確認しました!こちら報酬の銅貨40枚です。お疲れ様です」
採取だけをしていた時よりかは疲労が多く、報酬は薄く感じるがそれでも気にしない。
「今日は疲れたな。アルヴァン、宿に行こう」
二人は宿に向かった。安い宿を探し回り、雑魚寝で床で寝る部屋だったが今持っている金で足りる。
「贅沢だが、特別だ」
「そうだな。今日は特別だ」
中は非常に狭く、寝返りもうてないほどだった。
「ギルドで寝る奴の気持ちがやっとわかった...」
「俺も...は..はは」
「おい、おめーらうるせえぞ、おい!」
「すみませんでした!」
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