第2話 冒険者になろう
大空からやってきた男アルヴァン。
森でオウルという男に発見され、助けてもらい村に連れられた。
村はとても穏やかで平和で村人たちも優しい人ばかりであったが、その平和も長く続かず突如現れたブフォロ。
村人が苦しんでいるのを見たアルヴァンはブファロに立ち向かうも、まるで相手にならず敗北した。
木に縛られ、狼に襲われそうになっているところをガウディアと名乗る男に助けられた。
**************
村を遠目から見始め30分は経過しただろうか。
周辺にブファロたちの気配はなく、村も少し落ち着いた様子だ。
「もうそろそろ行っていいな」
二人は村の中に入る。
外には誰もおらず、皆家の中だろうか。
アルヴァンはオウルの家の前に立ち、ドアをノックする。
反応はないが、ドアの向こうに人の気配がある。
「アルヴァンだ」
そう言うと少し間をおいてドアがゆっくりと開き、警戒したオウルが顔を出した。
アルヴァンの顔を見ると警戒を解き、嬉しそうにドアを勢いよく開けた。
「アルヴァン、生きてたのか!ん?横の人は誰だ」
「森で狼に襲われそうになった時、助けてくれた人だよ」
「ガウディアだ。怪しいものじゃない」
「そうか、よかった。ささ、はやく中に入れ」
オウルは二人を中に入れ、ドアを閉める。
二人を椅子に座らせ、水を出した。
「あの時はすまなかった。あの後、ブファロが嬉しそうに一人で戻ってきたから死んだと思っていた。本当にすまなかった」
「何も謝らなくても...。あいつは強い。仕方がないことだよ。そのあと何があった?」
「『今日は機嫌がいいから』って何もせず帰っていったよ」
「やっぱりな」
ガウディアの言う通りだった。
あの後、ブファロは上機嫌で村を襲うのをやめ、部下を引き連れかえっていったそうだ。幸い死人はでておらず、怪我も大きくはなく数日で治るそうだ。
「アルヴァン、ありがとう」
「ありがとうって、礼なんて言われる覚えは」
「いや、あんたがあの時立ち向かわなければ村はめちゃくちゃにされてたかもしれない。村が無事だったのはあんたのおかげだ。ありがとう」
「そ、そうか」
アルヴァンは立ち上がった。
「でも、また来るんだろ。なんかとしないと」
「今のお前じゃ無理だな」
ガウディアの発言には何も反論できない。
圧倒的な力の差は誰もが見てわかっていることだ。
オウルも悔しい顔をしている。
「強くなる」
アルヴァンの発言にオウルが顔を上げた。
「強くなるって・・・何を急に」
「俺は旅に出る。そしてまたここに戻って村を救うさ」
アルヴァンの目は本気だ。
しかし、オウルはため息をついた。
「無理だ。村を救うって、あいつを倒す気か?死ぬのが目に見えてる。考え直せアルヴァン。ここに住んで平和に暮らそうじゃないか」
ガウディアは静かに家から出た。
「平和じゃないだろ。あんな光景を見せられて、暮らそうだなんて思えない。...なんでみんなで村を出ない?」
こんな恐ろしいところ皆で逃げれば解決できそうなものなのだが。
常に見張られているわけでもない。逃げるチャンスはいつだって...。
「...だめなんだ。外には魔物が出る。仮に村から逃げたってどこで暮らすんだ?この村には20人近くは住んでいるだぞ。この近くに町はない。それに食料を渡せば無害な連中なんだ。だから...な?わかってくれ」
オウルは悲しい目をしている。
出迎えたときとは大きく変わり、アルヴァンに対する視線は冷たくなった。
「どうしてもか?」
「村のみんなは優しい人ばかりだ。そんな人たちを苦しめるやつは許せないんだ。信じてくれ。俺は絶対に強くなって帰ってくる」
オウルは震えている。
何か言いそうになるも必死に我慢していた。
数分沈黙は続き、やがて口を開いた。
「わかった。ついてこい」
真剣な目をしていた。
ゆっくりと立ち上がり、外に出た。
オウルは森の奥を指さし、こう言った。
「このまま進めば大きな道に出る。その道を辿ればやがて町に着く。だが遠いぞ」
「ありがとう」
アルヴァンは走り出した。
引き留めるなと背中で語り、森の中に消えた。
「...まるで英雄だ。どうかこの村を救ってくれ」
**************
森の中をひたすら走り、疲れ果てその場に座り込む。
「どういうことだ。道なんてまるで見えないぞ」
確かに指さした方向を走ったが、道といえるものはどこにもない。
あたりはすっかり夜になっていた。
「お腹すいた...」
せめて休んでから行けばよかったと後悔していたアルヴァンの周囲から獣の気配を感じる。
振り返ると、一匹の狼がこちらを睨みつけていた。
「グルルル」
「そういえば、外には魔物が出るって。魔物ってこいつか!」
落ち着け相手は一体だ。勝てない相手じゃない。
身構えたアルヴァンだったが、空腹の影響で力が出ない。
相手は元気そのもの。どちらが有利かは一目瞭然。
「(まずい、これじゃあ負けそうだ)」
アルヴァンが気が緩んだと同時に狼が飛び掛かった。
「やめろ!」
突如狼の後ろからガウディアが現れ、剣で切りかかった。
「ガウディア!?」
狼は剣を避け、ガウディアを睨んだ。
しかし、狼は森の中に逃げていった。
「まったく、大丈夫かよ」
「ありがとう」
これで助けられるのは二度目だ。
「武器屋で剣を見てたらお前が村を出ていくのを見てな。慌てて追いかけたんだぞ。何度も名前を呼んだのによー」
無我夢中で走っていたので呼ばれているのに気付かなかったのだろう。
ガウディアはその場で寝ころんだ。
「久しぶりに走って疲れたー。ここで休もうぜ」
「なんでついてきたんだ」
「そんなの決まってるだろ。お前が心配だからだよ」
ガウディアは起き上がり、近くの倒木に座った。
「道に出るにはもう少しかかるぜ。休んだほうがいい。飯食えよ」
ガウディアは袋から木の実取り出し、アルヴァンに手渡す。
見た目は緑色で表面が固い。ありがたく食べてみた。まずくはない。
ガウディアは近くの小枝を集め、雑にまとめた。
「お前、火起こせるか?」
「いや、できない」
「そんなんで旅なんてできないぞ。まあ、俺も火は起こせないんだよな...ははっ」
勢いよく小枝を蹴り飛ばし、再び地面に寝転がる。
ガウディアも旅人のようだ。
「お前が相手にしようとしているのはハイオークだ」
「ハイオーク?」
ハイオーク。
いくつもの戦いをこなし、実力をつけ、大きくなったオークをそう呼ぶ。
実力もオークの数倍もあり、並大抵の実力者でも苦労するほどの魔物だ。
「オークってのはな、豚の見た目をした魔物でな。見た目通りの力自慢のモンスターだ。他の生物を狩り、人間と似た暮らしをしている。俺でもオークは倒せないな」
「そんなに強よいのか」
「俺が弱いのもあるけどな。まあ、一般人が立ち向かってもダメだな。俺たち二人でもだめだ」
自分の実力のなさがよくわかる話だ。
アルヴァンはため息をついた。
「勢いよく出てきたものの、これからどうしようか」
このまま町にたどり着いたところで何をすればいいかもわからず、今後の自分について不安が見え始めた。
このままじゃ強くなるどころか生きてくことすら怪しい。
「冒険者になれよ」
「え?」
「冒険者さ。といってもお前冒険者だと思うけどよ」
「いや、俺は別に...なんていうか、あまり覚えてなくて」
アルヴァンはことの経緯を話した。
空からやってきたと話すと、当たり前だが驚かれた。
しかし、真剣に話を聞いてくれアルヴァンも安心した。
「行く当てないんならさ、尚更冒険者になれよ。俺も冒険者だぜ」
「冒険者か...それしか道はないのか」
「おいおい、悪いものじゃないぞ。強くなって帰りたいんだろ?冒険者になって同時に強くなればいい」
名前だけ聞くと行き当たりばったりな生き方をしてそうなイメージが頭に思い浮かぶ。だが、今の自分の目標は強くなって帰ること。冒険者としての道が近づいてくる。
「まあ、どうするかは町について考えようぜ。ここ冷えるわ。魔物に襲われたらやばいしな。町に行こう」
「そうだな」
二人は立ち上がり、歩き始めた。
右も左もわからないアルヴァンだったが、ガウディアに会ったことにより少しずつだが自分の未来が見えてきた。
森の中はとても静かで、たまに風の音が聞こえるほどだ。
「この森にはどんな魔物が出るんだ?」
「そうだな。俺が知っている限りじゃ3種類かな。まず、お前が2回襲われた狼。グレーウルフだ。主に森に生息している狼でな。ネズミやトカゲなどの小動物を食べるが、人間の子供も襲われた例があるそうだ。もっとも、自分より大きな相手には滅多に襲わないから怯まずに相手に向かっていけば自然と逃げてくさ。...お前を襲ったのは弱そうと思ってるからだろうな」
「ぐっ...」
「グレーウルフは弱っているなら大きい相手でも襲う。次にマッドラビット。
これは草食だが畑を荒らすということで農家は苦しめられている。逃げ足も速く捕まえるのは困難だ。あと一種類は...なんだたっけな。悪い忘れた」
マッドラビット。
アルヴァンは一度見てみたくなった。
魔物はどれも恐ろしいものだと思っていたので、マッドラビットの話を聞いてとても興味深い気持ちになった。
「マッドラビット見てみたいな...」
「夜は巣穴で寝てるよ。見るなら朝だな。マッドラビットはうまいぞ」
「食べるのかよ...」
そんな話をしていると、広い道に出た。
オウルが言っていた道はこれか。
綺麗に手入れされた道。地面には車輪の跡が見える。
すると、ガウディアは歩くのをやめその場に座った。
「疲れたのか?」
「いやいや、そうじゃない。馬車を待ってるんだ。車輪の跡があるだろ?この道は商人などの馬車がよく通るんだよ。ここから町まで歩くのはかなり大変だしな。乗せてもらおう」
道で待ってること10分。カパカパと音が消えてきた。
「お、きたきた」
一台の馬車が道を通ってきた。ガウディアは馬車に手を振り叫んだ。
すると馬車は止まり、ガウディアは町に行きたいと商人と交渉をしていた。
「マルコーネットまでかい?いいよ、ちょうどそこに荷物を運んでるからね。乗りなよ」
商人は馬車を止め、人二人が入れる空間を作り二人を乗せた。
「ありがとうございます」
「いいんだよ。その代わり、町に着いたら荷下ろし手伝ってくれるかい?」
「もちろんだ」
そんなやり取りをして馬車は動き出した。
「はあ、やっぱり馬車はいいなー」
ガウディアは荷物を下ろす。
剣と袋の二つ。剣は少しぼろく見える。
「武器屋で買い物したんじゃ」
「いや...金が足りなかった」
そう言うと、顔が少し暗くなった。
ガウディアが袋を逆さまにすると中から銅貨が5枚出てきた。
銅貨5枚。
そう、中はこれしか入っていない。
「....」
自分が言えたことじゃないが、なんだが悲しい気持ちになる。
「実は俺、冒険者になってまだ二日目なんだ。金もなくて防具も変えず、食料と剣を買ったらこれだけしか残らなくてな。小さな村などに行ったら安く買えると思ったんだよ。あの村にたどり着く前に木の実を少し採取して、人生について絶望してたらあの村が襲われててな。それでお前と出会った。...それに、高くて剣買えなかった。ははは...」
ガウディアの目が笑っていない。それが余計に場の空気を沈めた。
「そういや、俺も銅貨が...」
「あんたたちの将来が心配になってきたよ」
そんな悲しい気持ちになっている3人だったが、町が見え始め、アルヴァンの顔色が変わった。遠目から見てもあの村より遥かに大きいのがよくわかる。
これが町か。
近づくにつれ、人も見かけるようになってきた。
「あれがマルコーネットって町だぜ」
町の入口に着くと、約束通り商人の荷下ろしを手伝う。
「ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
町に入ると、村とは違い大勢の人々がいた。
全身を鎧で包んでいる人や、大きな武器を持った人、大勢で団らんしている人など。
建物も大きいものばかりで、賑わいがまるで違う。
「見たところお前町は初めてみたいだな。よし、俺が案内してやるよ!」
「案内って。それよりも金はどうするんだよ。俺たち金ないんじゃ」
「そう思うだろ?いいところ連れてってやるからよ!」
言われるままガウディアについて行くと、少しずつ剣などの武器を持った人たちとすれ違うことが多くなっていく。そのまま歩き続けると一つの大きな建物にたどり着いた。
先ほどの武具をまとった人たちが出入りしている。
「ここはギルドだ」
「ギルド?」
「冒険者たちが募る場所だ」
ガウディアはアルヴァンの手を引っ張り中に入る。
中は大勢の人々で溢れかえっていた。
「この依頼行きます」
「いやー今回きつかったね」
「くそ、また失敗だ」
「新しい武器ほしいなー」
「お願いしまーす」
多くの会話が聞こえる。
この中だけでも50人以上はいる。
ガウディアは唖然としているアルヴァンの肩を叩いた。
「こっちだ」
ガウディアに案内されたのはカウンターだった。
カウンターには女性が立っている。
「ようこそ、冒険者ギルドへ」
「新しく冒険者に登録したいんだ」
「冒険者の登録ですね。少々お待ちを」
「ちょっと待ってガウディア、まだ俺は」
ガウディアは近くのテーブルにいた。声が届かず、こちらをみてニコニコしている
「こちらの書類を確認お願いします」
「は、はあ」
仕方なく受け取り、ガウディアのところへ行き内容を確認する。
禁止事項や冒険者というものの説明が書かれている。
「緊張する」
「そう難しく考えるなよ。いいもんだぞ。冒険者は」
「よ、よし。覚悟を決めた!」
アルヴァンは書類を持ってカウンターに戻った。
「確認しました。それではここを...ここに....はい..はい...」
そして10分後
「はい!冒険者登録完了いたしました。アルヴァンさんご活躍期待しています。こちら、冒険者証明票です。なくさないでくださいね」
女性からは名前が彫られた薄く小さな鉄のプレートをもらった。
名前の他にランク1と書かれている。
「ランクはあなたの実力を示すものです。たくさんの依頼こなすとランクがあがります。依頼について説明しましょうか?」
「お願いします」
「依頼というのは主にあそこのボードに書いてある紙をカウンターに持ってこられましたら受注の手続きをします。内容は魔物の討伐に採取など数多くあります。また一定の以上のランクでないと受注できない依頼もあります。始めは依頼の数も少ないですが、たくさんこなしランクを上げると増えていきますよ。依頼内容を達成しますと報酬をお渡しします。説明は以上です。ご活躍期待しています」
話を聞いていただけで緊張する。
説明が終わり、ガウディアのところに戻る。
「ぼ、冒険者になってきた」
「見てたぜ。すごい緊張してたよな。俺も同じくランク1だ。...アルヴァン、話がある。その...なんだ...俺とパーティを組まないか?」
「パーティ?」
「いわゆる一緒に冒険する仲間だ。依頼によっては一人じゃ難しいこともある。だが、複数人いればできることも増えていく。...だめか?」
アルヴァンは迷わず答えた。
「もちろん、いいに決まってるだろ。むしろこちらからお願いしたいさ」
「そうか、ありがとう!よろしくな、アルヴァン!」
「よろしく!!」
アルヴァンは冒険者になった。
同じく冒険者のガウディアとパーティを組むことになった。
これからこの先何が起こるのか。
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