アルヴァン英雄伝

@pukurun21

第1話 大空より来たる者


ここはとある世界。

この世界には9つの大陸が存在している。

各大陸にはそれぞれ神さまがいると噂されていた。

それぞれの大陸にはその地に住む神によって特徴があった。


地面から炎が噴き出し、炎に囲まれた大陸

広範囲に渡って氷の大地がある大陸

暴風に包まれた大陸など。


ここは不思議な世界。

そんな世界に一人の男が現れた。


*********


はるか上空。

雲よりも高き、大空より男はやってきた。

「うわあああ!!」

凄まじい勢いで落下し、近づいてくる地面を見て男は死を悟り、やがて気を失った。

そんな男の周囲を不思議な光が包み込んだと思うと、光とともに男は消えた。


目を覚ますと、どこか知らない木製の民家のベッドで寝ていた。

「ここは...」

警戒しつつ、周囲を見回してみる。

机や窓が見える。部屋は明るく少し肌寒い。

男はベッドから降り、立ち上がり窓に向かって歩き出す。

「あ、目を覚ましたんだ」

声のする方向を向くと、優しい顔をした女の子が部屋の入口に立っていた。

「お父さーん、目を覚ましたよ」

そう言うと数分後、少女の後ろから男が現れた。

「おおっ、気が付いたか。よかったよかった」

男は笑顔でそう言いい、少女も笑った。

二人からはとても暖かい何かを感じた。

「一時はどうなるかと思ったよ。森で狩りをしている時に、上から降ってきたんだからな。はっはっは!いやーよかった」

「森・・・?」

第一声がそれだった。

「あーそうさ。本当に上から降ってきたんだぞ。近くに崖もなければ、高い木もない。驚きのあまり寿命が5年は縮んだな。はっはっは!」

思い出そうにも、どうも記憶が曖昧だ。

覚えているのは大空から落下していたくらいだ。

「もう、お父さん。この人が困っているでしょ」

「おっとすまんすまん。いやはや、あまりに不思議なことでな。それにしても運がいいな、あんたは。怪我も軽く、体も健康的。・・・あんた、旅の者だよな?」

「わからない。覚えているのは・・・確か、空から落ちてきて」

「空から?」

「空ねえ・・・鳥の魔物に襲われ、捕まったが途中で落っこちたか。いや、ここらで人間運べる力のある鳥なんていなかったような。でもあんたは旅人だろ?」

そう言い男は大きな袋を見せた。

動物の皮で作られた、色々と物などを入れる袋だ。

「あんたのそばに落ちてたんだよ。中身は銅貨が2枚、これじゃあ一日生きることすらできねえな。・・・あ、盗ってないからな!?」

袋を手渡され、中身を確認してみるが男の言う通り、しっかり2枚入っている。

硬貨はわかるかと聞かれたが、さすがにそれくらいわかっている。

「察するに旅の途中で金も食料も底をつき、森を彷徨っていたところ魔物に襲われ、あの場所にいたんだろうな」

「誰かに発見されてよかったね。飢え死にしちゃうところだったよ」

相変わらず記憶が戻ってこないが、助けてもらったことには感謝しなくては。

「助けてくれてありがとうございます。何かお礼を」

「いいってことさ。この村はあまり客が来なくてな。誰かがやってきたことだけでも嬉しいさ。腹減っただろ?エナガ、何か食べるものを持ってきてくれ」

「はーい」

エナガという少女はパンと水を持ってきてくれた。

「ありがとう」

腹も減っていたので、口いっぱいにパンを詰め込む。

あまりにがっつきすぎたため喉に詰まり、水で流し込んだ。

「いい食べっぷりだ。そういや、あんた名前は?」

不思議だが、名前は覚えている。

「アルヴァン」

「アルヴァンか。俺はオウルだ。怪我か治るまでゆっくりしていくといい」

「安静にしててね」

オウルとエナガは部屋を出た。

ここはどこだろうか。

アルヴァンが部屋を出ると、心配そうな顔をしてオウルが近づいてきた。

「おいおい、まだ休んでたほうが」

「大丈夫。もう十分歩ける」

「そうか、ならいいんだが無理はするなよ」

アルヴァンは外に出てみた。

森に囲まれた緑溢れる村だ。

村の中を散歩していると一人の男が話しかけてきた。

「おー、あんたオウルが言ってた人か。エナガが『旅人さんが目を覚ました』って喜んでたぞ。俺は近くで武器屋をやってるイグルだ...そうか、アルヴァンっていうのか。よろしくな」

イグルもオウル達と同じく優しい顔をしている。

「おう、オウルが言っておった旅人はあんたか」

「まあ、素敵な男だこと。ゆっくりしていくんだよ」

「どうじゃ、わしの娘と結婚せんかのー?」

気づけばすっかり村人たちに囲まれていた。この村では旅人はそんなに珍しいことなのだろうか。皆とてもやさしい顔をした人たちばかりだ。

「いたいた、アルヴァンさん!だめでしょ、まだ寝てなきゃ」

「大丈夫。もう歩けるから」

「だーめ。まだ手足だって痛むでしょ」

エナガはアルヴァンの腕を優しく突いた。

確かにまだ痛むがこのくらいどうってことない。

「しっかり治るまで家で寝てて」

「おうおう、昼間っからイチャイチャしてくれるねー」

「そ、そんなんじゃないから!」

村人達は笑った。

イグルはアルヴァンの肩をポンポン叩き言った。

「アルヴァン、エナガはいい子だよ。きっといいお嫁になっ・・・」

笑顔だったイグルや村人たちが一方向を見るとたちまち笑顔が消えた。

「みんなどうしたの?」

エナガが振り返ると、エナガからも笑顔が消えた。

「ブッヒョッヒョ。楽しそうに会話してるねー」

アルヴァンの背中を大きな影が包み込んだ。

思わず、アルヴァンも振り返ってみるとそこには、大きな豚の魔物が立っていた。

「な、なにしにここに!」

「ブッヒョッヒョ。何しにって、約束の品を貰いに来たにきまってるだろ」

二足歩行の巨大な豚。2m・・・いや、2m50cmはあるだろうと言わんばかりの巨体。手には大きな棍棒を持っている。

村の人達と違い、この豚の顔は恐ろしい顔をしている。

「それはもう3日前に渡しただろ!10日に1回のはずじゃ」

「あぁん?」

豚は村人に近づき胸ぐらを掴み持ち上げる。

「この俺様にたてつく気か?」

「す、すみま...」

豚は村人をほおり投げた。

投げられた先には2mほどの豚の魔物が5匹いる所だった。

「村の連中にわからせてやれ」

「ヘイ!」

魔物たちは村人を何度も踏みつけた。

その光景は見せしめ。先程まで笑顔で満ち溢れていた村とはうって変わり、悲惨な光景が目に映る。

アルヴァンは驚きその場にただ立っていた。

「アルヴァン、隠れろ」

イグルがアルヴァンの腕を引っ張る。

村人達も急いで家の中に入っていった。

アルヴァンはイグルが営む武器屋に連れられた。

「なんだあれは」

「見ての通りだ。魔物だよ」

「魔物?」

「2ヶ月ほど前にこの村にいきなりやって来てな。食料を渡さなければ村を壊すって言われたんだ。その時立ち向かった村の住民をボコボコにして...。要求される食料もなかなかの量でな。とにかく、見つかるとやばい。あんたはここに隠れてろ。..たくっ、なんでこんなに早く」

外からは村人の悲鳴が聞こえてくる。

窓からそっと覗き込むと地面にうずくまっている人とそれを指さして笑う魔物の姿が見える。

「...」

「反抗したらあーなる。俺たちは従うしか」

アルヴァンは店を飛び出した。

「おい、やめろ!戻れアルヴァン!」

イグルが呼び止めるもアルヴァンは聞く耳を持たない。

アルヴァンは迷うことなく豚の魔物に向かっていった。

「やめろ!!」

「ん?なんだお前」

アルヴァンは倒れている村人の前に立ち、豚の魔物を睨みつけた。

「初めて見るなお前。俺様を誰だと思ってる?ブファロ様の前に立つとはいい度胸してんな」

倒れた村人がアルヴァンの足を掴む。

「や...め..はや..逃..ろ」

「村の皆を傷つけるな。帰れ」

「『帰れ?』...ちっ、イライラするぜ」

アルヴァンはブファロの腹を殴った。

しかし、ブフォロの体はビクともしない。直後、凄まじい衝撃が横腹を襲った。

「ぐあっ!」

ブフォロは素手でアルヴァンを殴り飛ばす。

「ブッヒョヒョー!弱いじゃねえかよ」

強い。なんだこの力は。

ブフォロは大きな声で笑い、アルヴァンの頭を踏み付ける。

「ブッヒョヒョー!おいおい、もうおしまいか」

更にアルヴァンの頭を掴み、持ち上げた。

「お前、ここの村のやつじゃないよな。ブッヒョッヒョ。いいこと思いついた」

抵抗するがあまりに力の差がありすぎる。まるで通用しない。

ブフォロはアルヴァンを掴んだままどこかに運んでいく。

「おい、アルヴァンをどこに連れてく気だ!」

後ろからオウルが言ったがブフォロの睨みに黙り込んでしまった。

ブフォロはそのままアルヴァンを森の奥まで運んだ。

「は、放せ」

「ブッヒョヒョ。放してほしいか?じゃあそうしてやる」

ブフォロはアルヴァンをロープで木に縛り付けた。

「村人じゃなきゃ、殺しても問題ないよな」

力を振り絞るも頑丈に固定されており、身動きがとれない。

「手は汚したくなくてよぉ。この森には凶暴な狼がいるんだよ。そいつらに喰われろ」

「狼!?」

「ボコボコにしたほうが快感はあるけどよー。生きながら喰われていくのを想像するとそれもまた面白いだろ?」

そう言ってブフォロは去っていった。

「くそっ、手だけでも動かせたら」

そう言っていると、周辺から獣の気配を感じた。草むらから音が聞こえ、やがて唸り声も聞こえてきた。

「...くそ」

もうどうしようもなかった。

草むらから狼が3匹現れ、アルヴァンに近づく。

その時だった。狼達はなにかに反応し、逃げていった。

助かったのか?

森の奥から何かが近づいてくる。

「なんだ...?」

「まったく、馬鹿だなお前は」

奥から現れたのは人間だった。

それも、アルヴァンと歳も似たような男だった。

村の中にはいなかった怪しい男はロープをナイフで切り木から下ろした。

「助けてくれてありがとう」

一礼をし、アルヴァンは歩き出した。

「おいおい、まさか村に戻る気か?」

「当たり前だ。次は負けない」

「やめておけ」

アルヴァンは男の話を聞かずに歩き続ける。

「村人が死ぬぜ」

その言葉に足を止めた。

「死ぬだと?」

「やっと止まったな。そうだ。死ぬぜ。お前じゃなく、村人がな」

「どういうことだ」

「さっきのやつは馬鹿だな。お前を直接殺さなかった。変な楽しみ方をしてるぜ。戻ったら今度こそ殺されるぜ。邪魔されてイラついて村人も1人くらい死ぬだろう」

「見てたのか」

「あー。村にあいつらが行くところもな」

アルヴァンは男に駆け寄る。

「なんで助けなかった!」

「俺が助けても同じ結果になってたさ。仮に2人で立ち向かっても何も変わりはしない。死にたくないからな」

アルヴァンは木を殴った。

男にそう言われると、もうどうしようもない。

何も出来ない自分に腹がたった。

「そう怒るなって。お前を木に縛ってなんだか楽しそうだったからな。一旦村を襲うのはやめるだろうよ。変に刺激しない方がいいぜ」

「どうしてそんなことが分かる」

「なんなら見に行くか?村には入るなよ」

2人は道を戻り始める。村から少し離れた所までやってくると、姿勢を低くし様子を伺った。

男の言う通り、確かにブフォロはいない。怪我をした村人を運んでいる村人達が見える。

「何も出来なかった...」

「そうだな。気にするな。お前が立ち向かわなかったら村が酷い目にあってたかもしれない。正解かは知らないが、良いほうだろ」

男は地面に座った。

この男も自分となにか似たようなものを感じる。

「もう少し待ってから村に入ろう。まだ近くにいるかもしれないからな。お前、名前は?」

「アルヴァンだ」

「アルヴァンか。俺はガウディアだ」




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