第137話その夜

あー。びっくりした!

って!!

「ウェン?!」

ハーミット様達が部屋を出た瞬間から号泣。


「おっ・・俺。ミナ・・キになんて事を・・・、うっ。うう・・ごめ。」

またその場にヘタり込んでしまった。


「ウェン。大丈夫だよ。」

俺も床に座りウェンを抱き締めた。


「だっって。お・・れ。・・・。」

ウェンの背中をポンポンとあやす様に叩いた。

「ウェン、気付いて無かったと思うけど。全く!!殺気出てなかったよ?」

本当に出てなかった。だからハーミット様が部屋に入った時は助け求めたけれど。話し合いで何とかなるかと思ってた。


「へ?本当に?」

ウェンがやっと顔を上げた。


「本当に。だから結界張って無かったし。流石に殺気出てたら他の皆も気が付くよ。」

自然と笑顔が出て、ウェンの涙を拭った。


「俺、本当に記憶が無い。」

大きな溜息を付いてまた項垂れた。


「記憶が無くなるの?どの辺から?」

洗脳って怖すぎるだろ!


「昼寝あたりからずっとモヤモヤ。自分が話している意識はあるんだけど。心が支配されてる感じ。剣を抜いた記憶は全く無くて・・。」

ウェンは思い出す様な表情でそう口にした。


「それ重症じゃん!!」

「だよね?」

うんうん。

会議から帰ったら突然、ウェンが病んだ様に元の世界に帰さないと呟く様に言い出した。

そこからはキレて、剣抜いて俺に突きつけて直ぐにハーミット様が来た。


「はぁー。」

ウェンはまた溜息を付いた。

「そんなに落ち込まないでよ。もし、俺がそのまま行ってたらさ。俺が洗脳食らってた訳だし。ウェンは俺を守ってくれたんだよ。」

俺が洗脳されてたら何したんだろ。


「ポジティブに守れたって考えようかな。良かったと思う事にする。」

「本当にそう。」


ハーミット様はミスリードしたかもって言ってた。

俺だったらミスリードどころか変な提案したりそれよりもアインシュタインに情報もらしてそう・・・。

有り得る!ウェンは無口だけど、俺なら絶対詳しくペラペラ話したかも。

本当にハーミット様とウェンで良かった。


「ウェン!もう落ち込まないで!お風呂入ろ!」

「ミナキ・・。」


本当に病むくらい俺が好きなんだなぁ何て思ってしまったりして。

大好き過ぎて俺も離れたくないって思ったんだ。



・・・・・・・・・・・・


アルージャです。

本日、初恋相手で現在も大好きなゼットに首にキスされまくりました。

最終的に噛まれたけれど・・。


お陰でムラムラしている。


何とか抑えないと。無になれ俺!!

ゼットはソファに座ったけれど俺は椅子に座ってちょっと距離を取った。


「ゼットが居てくれて本当に助かった。」


部屋に戻ってもう一度、お礼を言った。

「いやいや。知ってて良かったよ。昔、聞いたんだ。洗脳って言うよりマインドコントロールだったのかもね?」

ゼットはニッコリと可愛い笑顔を見せる。


「そもそも、総帥なのかエメリヒなのか。」

もしかして?

あの部屋自体がトラップ?


全然、解らない。

「もうハッキングはしない方が良いのかなあ。」

悔しい。

全てバレてたのが悔しい。


俺の異能は完璧な筈だったのに・・・。


「アルージャ?どうしたの?」

顔に出ていたのかゼットが心配そうに聞いてきた。


「うん。俺のハッキングが初めてバレたのがショックでさ。」

しかも、洗脳されて戻って来るとか。

不覚にも程がある。

本当に最悪だ!!


「アルージャ。おいで!」

ゼットが両手を広げて微笑む。


「は?」

何だよ。その両手は!!


「アルージャ!」

もう一度声を掛けられて・・。

どうにでもなれ!と思えてしまった。


ゼットの元に1歩また1歩と近付く。


「ほら。アルージャ。」

ゼットの胸に顔を埋める様に抱きついた。


温かい・・・。


「アルージャって凄いと思うよ。ハッキングや潜入とかさ。」

ゼットはただ慰めようとしているだけ。


そう慰めようとしているだけー。


「俺は昔から・・。上手く言えないけど尊敬してる。本当にカッコイイと思っているよ。」

その言葉・・五臓六腑に染み渡るよぉ。

ゼットにそう言われると本当に嬉しい。


「ありがとう!うん!ありがとう!もう離せ。」

これ以上抱き締められたらドキドキして倒れそうだ。


「あの・・さ。アルージャって昔、何て言おうとしたの?」

ってゼットは離してくれないし。

「昔?何の話だ?」

そのままゼットは黙ってしまった。


「もう。大丈夫だ。落ち着いたし。ハッキングの異能強化するから。離して・・・欲しい。」

ドキドキし過ぎ。顔が赤面して早く離れないとヤバい。


「うちの獣人のアジトを出る時だよ。俺に聞いてきたよね?」

ゼットに言われて出会った頃の事を考えた。


それはアジトで暫く居候させて貰って翌日出発して新天地に行こうとした日の話?


俺が告白した時だ。


「アルージャは獣人はそのー。同性を好きになったりしないの?って聞いたよね?」

「うん。」

聞いた。見事にゼットは獣人達の出生率の話や母親は異能者を産んでも死なない話とかして。

獣人はノーマルだと言った。

あー。これは無理だと思って・・?


あれ?待てよ。俺はそれで話を笑って誤魔化した。

失恋した。

獣人は無理だと解ってしまったから。

俺!!

こ・・・告白してない?!!


「アルージャはさ。昔からプライド高いよね。それで、失敗するのが嫌い。」

「う・・うん。」

ゼットが抱き締めていた腕を緩めて俺の顔を見た。


「じゃあ。俺が言うね。好きだよ。」

「・・・へ?」

顔が益々赤くなるのが解る。


「あっ。あの。ゼット?」

俺は?何を言われた?

からかわれてる?


「俺は男が好きって訳では無いけれど。アルージャが好きだよ。ずっと昔から。だから結婚しなかったんだ。」

時が止まった気がした。


時が巻き戻る様にあの日のゼットの顔が思い浮かんだ。


俺からの告白をずっと待ってた?

話を誤魔化した時にした悲しそうな顔は?

そういう事?


「俺も・・ゼットが好き。」

必死で声を絞り出した。


ゼットがニッコリと笑って俺をギュッと抱き締める。

「知ってた。」


知ってたって・・。


「狡い。もっと早く・・言ってくれても・・・ごにょごにょ。」

もう何と言っているのやら自分でも舞い上がって解らなくなっている。


「確かめてた。まだアルージャが俺を好きかどうか。今日、噛んで解った!」

ゼットはフフっと意地悪そうな微笑みをする。


「ゼットは俺の初恋。今も昔も。」

「俺も。」


想いが漸く通じた。

まだキスも何もしてないけれど。


ただ嬉しくて抱き締められる温かさと癒しや心地良さ。


洗脳されたのは不覚だったし悔しい思いをした。


でも・・・。


俺の初恋は・・実った!!

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