第138話閑話 ゼット・トワイライト
12年前。
獣人達はひっそりと他のマフィアの様に表立った行動はせずに暮らしていた。
しかし、生活の為。年1~2回、デカい仕事をする。
マフィア同士の取引現場を襲って金を奪う。所謂、強盗みたいな行為。
やる事は悪事だが・・。
薬の密売や銃器売買を襲うので結果的に完全なる悪事では無いと言う事である意味仕方なくそういう事を行って居た。
俺達はこの世界の住人として認められて居ない存在だから。
普通の職に就けない。
口座も作れなければ携帯1つ買えない。
携帯はプリペイドタイプ。
いつか・・。政府に反旗するその日まで。
こうやって生きていくしかない。
で・・・。俺は今、牢屋に捕まって居た。
密売現場を襲撃の際に思ったよりマフィアが強かった。獣人化出来ないから仕方ない。
俺はこの時、初仕事だったが比較的強かった俺は仲間を逃がす為に
情けない事に薬を打たれた俺は倒れて・・。
今に至る。
さて、どうやって逃げよう。問題は数が多すぎるのと獣人化出来ない点だ。存在はバレてはいけない。
その時、サイレントにしてた携帯が光った。
また仲間からの連絡かな。
何度かやり取りしたが踏み込むのは待てと伝えている。
メール・・。隣の牢屋から?!
驚いて声が出そうなのを抑えた。
凄い異能者だ。メールアドレスが解るなんて信じられないが。
でも、2人なら逃げられそう。
俺は扉の鍵を力任せに壊して隣の牢屋に。
どんな異能者かと思ったら・・・。
俺より子供で小さくてそれは可愛い少年だった。
それがアルージャとの出会い。
足を引っ張るかと思ったがその可愛い少年はその見た目とは裏腹に強く、時折残忍で容赦ない。
それなのに体力が無かった。
密売組織の連中を殺りまくって逃げる最中だった。
「もう無理だ。ちょっと休ませてくれ。」
「うーん。もう少しでうちのアジトなんだけど。」
でも、子供だしなあ。戦闘のし過ぎかな。
「ほら!乗れ!」
背中におぶって走ろう。
「おー!助かる!遠慮はしないぞ。」
軽いな。
無邪気で楽観的で。それでいて妙にプライドの高い人間。
俺はもうその時から惚れてしまって居たんだと思う。
行く所が無いアルージャを獣人のアジトである『トワイライト』に暫く置く事した。
大人の獣人達は身バレを恐れて彼を脅したがそれにも動じない性格。
獣人の生活に順応しようとする態度やハッキングの異能力が好感を持たれて獣人達もすっかりアルージャを受け入れていった。
「国民カード?獣人は無いのか。作ろうか?」
アルージャは任せろと言って獣人全員分の偽造国民カードを作成。
獣人全員の苗字は勝手にトワイライトになっていたけれど。
それは皆に感謝されていた。アルージャが褒められて俺も鼻が高かったのを覚えている。
毎日の生活は楽しかった。
1ヶ月程経った頃だろうか。
俺はアルージャの匂いに気付いてしまった。
フェロモンだ・・。獣人は匂いで解る。
自分が好きと言う想いが漏れでる匂いは好きな対象の獣人にだけ解る。
アルージャは俺の事が好きだと解った。
それは俺も同じ。
だが。俺達は男性同士だ。そして、獣人と人間だ。
獣人は同性を好きになる事は殆ど無い。自分が仲間から異質な扱いをされる可能性。
何よりもアルージャはまだ少年・・。大人になると3~4歳の年の差は小さい。でもこの時の年齢差は大きかった。
ダメだろ。流石に。
そう言い聞かせ、もし!アルージャが告白してきたらあと数年待てと答えようと決めた。
自分から少年に手出しはダメだって。
本当にモヤモヤした。
そうこうしているうちにアルージャは新天地に旅立つと言う。
獣人達も短期間ならと滞在して良いと言っていた訳で。
出て行く事は仕方がない。
アルージャは旅立つ前の日に
「獣人の恋愛対象は異性か?同性とはあるのか?」
と聞いてきた。
後々思うとその時の対応がミスだった。
正直に答えた後。明らかに彼は落ち込んで居たし。
本当は告白したかったんじゃないか?
彼が旅立った後も後悔だけが残って数年。
連絡したがアルージャの携帯番号は変わっていた。
俺の初恋はそこで終わった・・・。
だからと言って結婚する気にもなれず。他の男性を好きになる事も無く。
11年経過。
そして、やっと出逢えた。
あの頃より大人になったアルージャ。
身長はあの頃より少し伸びてそれでも小さいままで。
相変わらず口が悪くてプライドが高くて可愛い。
初めて出逢ってから12年経過。
しかし、あの頃よりフェロモンが少ない。好きなんだと思うんだけどなあ。
でも、もう少し確認してからにしよう。一緒に住んでいるし。確証が欲しいし。
もっと俺を好きになってくれるかもしれない。
昨夜、潜入から戻ったアルージャの匂いの変化に気付いた。
目を見ると瞳孔の大きさも少し違う。
昔、聞いた話と一致する。
これは洗脳だ。
アジトで会議中に話を始めると益々匂いが変わる。こりゃ、ヤバい。
部屋に戻って思い切って実行に移す事にした。
洗脳の初期対応。
急激な刺激や痛みを味合わせる。それもかなり驚かせないといけない。
抱き締めて先に謝った。
痛いだろうな・・。
でも、抱き締めると別の意味でドキドキする。
襲いたい衝動。
首筋にキス。舐める。
それを我慢して思いっ切り噛んだ。
「いってぇぇぇぇー!!」
めちゃくちゃ叫ばれた瞬間にブワッと物凄く良い香りのフェロモンが。俺が好きって叫んだ様に香った。
アルージャ。俺も同じだよ。大好きだ。
朝、目覚めると隣のベッドにアルージャが居る。
この部屋に一緒に暮らす様になって毎日幸せな光景。
昨日、告白した。
やっと俺から言えた。俺も大概、奥手だったと思う。
ここまで確証するまで言えないなんて。
言い訳するなら獣人って人間より慎重なんだよね。
獣人同士はお互い好きと言うフェロモンを解った上でしか交際しないし。
人間からしたらちょっと回りくどいかもしれない。
さて、ここで問題です。
アルージャだけでなくこの世界産まれの異能者は無理矢理とは言えエッチ経験者らしいのだ。
どうやってどのタイミングで襲うんだ?
「はぁ。」
声に出る程の溜息。
でも、本能に任せると・・・。
今、アルージャにキスしたい。
アルージャのベッドにそっと腰を下ろした。
可愛い寝顔。
優しく頬を撫でる。
「ん?ゼット?」
ゆっくりとアルージャが目を開けた。
「おはよう。アルージャ。」
可愛い。
キスする事さえもドキドキする。アルージャは初めてじゃないんだろうけれど。
もう一度頬を撫でた。
アルージャの顔がポッと赤くなる。益々可愛い。
顔を近づけて・・。
唇にそっと触れた。柔らかい唇。
想像以上に幸せな気持ちにさせてくれた。
「アルージャ。大好きだ。」
見詰めるとドキドキするしアルージャの鼓動も伝わる様だった。
これから俺達の逢えなかった年月を埋めて行こう。
政府を倒しそして俺はアルージャと結婚する!
「ゼット。幸せ過ぎ。」
起き上がったアルージャが抱きついてきたのをギュッと抱き締める。
「俺も幸せ。」
そして、もっと幸せになると心に決めた。
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