第134話総帥

右手に剣を構え左手は扉へ。


知りたい。

ウェンの顔を見ると目線で頷いた。良く状況を理解してくれている。


光る玉以外は何も無い空間。

今まで色々なコンピューターに潜入したがこんな異質な雰囲気の空間は初めて見た。


『その異能は?私が最後に召喚した異能者の能力だね?』

光る玉はそう言った。


「最後に召喚した?」

誰を?

何の異能?

何の話だ?


疑問は沢山あったがこちらの情報は話さない。光る玉とも沢山話す気は無いしまだ警戒している。


『君と君の仲間が政府異能コンピューターをハッキングしシャットダウンしたお陰で私は自分の意思で召喚する事が出来た。この姿になってそれが出来たのはあの1回だけ。』


クルクルと光る玉は回る。

それは嬉しそうな様子にも見えた。


『エメリヒやトールに対抗する力。倒す力を持つ者達を護る能力を持つ異世界人。』


護る能力者って・・?


ミナキ?


でも、俺達が政府を脱出したのはミナキに会った時で10年立って居た。

今はもう11年前になるぞ?



『少し。シャットダウン直前だったから。召喚が狂ったか。時間軸がズレた様だ。』


『本来はあの時点に召喚したかったのだが。適応者を見つけ上手く召喚したつもりだったが。あれから10年後になったのか。』


心読まれてる?!

そう思えるくらい疑問に正確に答えられて少し警戒を強めた。

やはりヤバい奴かも。


時間軸のズレか。

ミナキは召喚エラーだと言っていた。

有り得なく無い。



ミナキは俺達の手でこの世界に招いたって事?



『君達には感謝している。同時に期待している。政府に捕まり脱出した子供達よ。そして今も私にハッキングする君に。』


期待か・・・。

ウェンは心得ているのか無言のまま警戒を解かない。

勿論、俺も。


『エメリヒを倒して欲しい。そして・・召喚された異世界人達を出来る限り元の世界へ帰してくれ。』


「随分と調子の良い話だ。最初に召喚を始めたのはお前だろう?」

軽い挑発。


そして逃げる体制。


『後悔している。』


本当に調子の良い話だ。浅はかな行動でこの世界は狂っていったのに。


『だから。この異能コンピューター。私の事も破壊して欲しい。そうすれば、もう異世界人が召喚される事は無くなるだろう。』


・・・。なるほど。

切り上げ時だろう。

そろそろ出るか。


『ここまで辿り着いた御褒美だ。見せてやろう!』


光る玉が更に回転を速めた。

シュルルと高速回転を始め・・・空間が歪む。


「何かヤバそうだ!ウェン!逃げるぞ!」

「OK。」

光る玉を見たまま扉に手をかけていた左手に力を込めた。


は?!嘘?

仕舞った・・扉が無い?

「扉は?!」

扉は消えそこは壁。


そして振り返ると光る玉も無く・・・。



何も無かった空間に映し出されていたのは?

此処は何処だ?部屋?

雰囲気的には社長室みたいな所。


誰かいる。


そこには窓の外を見る1人の男性の後ろ姿があった。顔は良く見えないが背が高い。

茶にブロンドが混ざった毛色の若い男性に見える。


「殺す・・・。この世界の全てを壊す。この世界生まれの異能者全て・・殺す。」

ブツブツとその男性はそう言っていた。


俺とウェンは剣を構えた。

誰?何?


「また。病んでいるんですか?エメリヒ。」

背後から男性の声がして振り返った。

男性は俺達をすり抜けて窓の外を見ていた男性の元へ。


俺達が見えて居ない?すり抜けたぞ?

ホログラム?


「エメリヒ。お母様が亡くなられたのは貴方の責任では無いですよ。」

その黒髪の男はその男の事をエメリヒと呼んだ。

大元帥なのか?


じゃあ、この黒髪の男は?トール元帥か?


「トール。アインシュタインの調子はどうだ?」

エメリヒが振り返ってそう尋ねた。

やはり見た目が若い。


「良いですよ。きちんと異能コンピューターとして働いてくれています。まだ少し抵抗しているけれど。そのうち本当にただの機械になります。」


過去?


キョロキョロと部屋を見回した。


監視カメラ!あった!じゃあ記録映像?!

アインシュタインの記憶と言うか記録だ。


「結局、総帥を倒して元の世界に戻っても私には居場所は無かった・・・。」

エメリヒの頬には涙が流れていた。


「私もですよ。愛した人は結婚していましたし。年月が経過し過ぎていましたね。」


エメリヒとトールはそう言っていた。


「元の世界へ戻る意味が無いならやる事は1つだ。なあ?トール。」

「そうですね?滅ぼしましょう。」


2人はそう言って再び窓の外を見た・・。



グニャリ・・・。空間が歪む・・。


やはり記録映像だったか。少しずつ部屋の様子は元に戻り元の何も無い明るい部屋に戻った。


光る玉はゆっくりと回転している。


「エメリヒとトールの過去か?」

そう聞いた。


『私がコンピューターになった直後の映像。2人は1度、元の世界へ戻って行った。だが・・。辛いだけの現実だった。』


そうさせたのは総帥。

自業自得だ。


「本当に憎むべきなのは総帥、あんたなのかもな?」

また煽ってしまった。


『世界統治と言うのは私には荷が重過ぎた。異世界人達が居なくなればまた世界は荒れるかもしれない。だが自由は生まれる。』


確かに。そうなるだろう。総帥にもエメリヒ達にも同情の余地は無い。


『さあ、もう帰りなさい。』

光る玉は優しくそう言った。


「そうだな。」

ウェンは静かに頷いた。



『もし・・可能なら・・・。私の息子が1人生きている筈だ。』


扉に手を掛け開いた時にそう聞こえた。


『名前は・・・・・・・。』


俺もウェンも光る玉の話には返事はせずに扉を閉めた。


また独裁政治の総帥を作るって言うのは反対だし。見つけ出す暇も余裕も無い。

そもそも全ての諸悪の根源の息子って言うのがな。


「ウェン、帰りは戻りたいと言う意識を集中させて。」

「了解。」



ゆっくり目を開けた。

身体が重い。異能の使い過ぎ。

「ウェン!ハーミット様!」


ミナキが嬉しそうな顔で俺達の顔を見た。

「凄い消費・・。腹減った。」

ウェンも疲労困憊といったところだ。


ミナキが用意してくれたラーメンを無言でズルズル。ズルズル。


凄く聞きたそうな顔をしているミナキ。

今は腹を満たす!!


「おかわり!!」

「俺も。」

まだ食える。食ったら軽く昼寝しよう。


「簡単に言うと最奥まで行けた。」

ミナキにそう言うと嬉しそうな顔をした。


「最奥に居たのは光る玉。総帥って言ってた。」

それから2杯目のラーメンを啜りながら召喚エラーの話をした。時間軸にズレがある事。


「俺はボス達に呼ばれたんだね?」

ミナキはちょっと興奮気味。


「まー。俺達の責任だな。総帥が俺達の味方を召喚したってニュアンスで俺は解釈した。」

「俺もそうかな?と思った。」

ウェンも同じ意見か。

多分、エメリヒを倒す力か。倒す力を持つ者を護る力。


「嬉しい!!何かめちゃくちゃ嬉しい!俺、やっぱりカプリスに入る為にこの世界に来たんだ!」

ミナキは満面の笑みでテンションが高い。


エメリヒとトールの話は夜にアジトで皆に報告するとしよう。


「ウェン。昼寝して夜集合しようか。メールはしておくから。」

「同感。思ったより消費してる。」


疲れた。ウェンとミナキが部屋に戻って行った後で一斉メールを打ち。

ベッドへダイブ!!


寝る!まじで眠い・・・。

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