第125話ウェンの目覚め

「あー。居るな。」

ラズがボソッと呟いた。


「アジトでは無いね。廃屋っぽい。」

街の大通りから横道へ入った。

アト・ランティスには警察も居ない変わりにマフィアも居ない。


お陰で仕事はし易いが。


「マフィアがこの街に居るって島の奴らは知らないのかねえ?」

ラズがそう言うのも解る。


生きるだけならこの島で平和にってのもアリだろうな。

こんな島を征服しても価値は無い。取り敢えず逃げ込んだだけ?


「この島には依頼主以外に異能者が居ないのかもね。危険察知しても何も感じなかったし。」

「なるほどな。」

ラズと話しながら廃屋らしき建物へ。


隣は民家か・・。

「隣に人、住んでる。」

巻き込んだら面倒な事になりそうだ。

「炙り出すか?」

ラズの提案に乗ろう。


2人で微々たる殺気を放つ。


「良し、気づいた!」

「裏へ回る!」


廃屋の2階から2人飛び降りて来た。


「誰だ?お前ら?」

そう聞いてきたのはツェレって奴。


無言で睨みつけてるのがナクサ。


「殺ろうか?ダークネスの残党さん。」

ラズがそう言った瞬間に奴らは別々の方向へ走りだした。


「じゃ、また!」

ラズとまた別行動か。

俺はナクサって奴を追い掛けた。


街から遠ざかり戦闘向きな平原に辿り着いた。こいつも解っていて此処に誘導したのかもしれない。


「誰に雇われたんだ?」

ナクサは剣を抜き構えて俺に尋ねた。


「さあ?良く知らない。お前らも何故この島に来た?」

俺も剣を抜く。


「この島は何も無いが警察も居ないからな。」

そう言いながらナクサは剣を奮ってきた。

剣を受け止める。


んー?無計画なのかもね。


さて、体術でレベルを計らないと。


スピード互角。パワーも互角。


剣を受け止め蹴りを入れるが特に効いて無い。

俺も攻撃を受けるが大丈夫。


これは決定打に欠ける戦いになりそうだ。


「やれやれ。同レベルか。面倒な相手だ。良い夢でも見せてやるよ。」

ナクサはニヤっと笑い剣を仕舞った。


何か仕掛けてくるな。そう思った時だった。



急に目の前が真っ暗になった。

「なっ・・・・・・。」


異能の気配しなかった・・・。


ゾクゾクッと悪寒が走る。

目に映る光景は・・地下牢・・・・・。


「此処は・・。」


俺が飼われていた場所だ。薄暗い。

汚い・・地下牢。


いつの間にか俺の首には首輪が付いていた。


深く深く記憶の奥底に眠っていた記憶の扉が開いた。


忘れたくて忘れた過去。


「良い夢見てるかー?この世の悪夢を見てお前は死ぬんだよ。」


耳に微かにナクサの声が聞こえた気がした。


でも、俺の目の前にある光景はあの時のものでガクガクと足が震える。


抵抗出来ない。


首輪を引っ張られ苦しくて咳き込む。


まだ異能に目覚めて居なかった俺に与えられるのは体罰と強姦。


逆らえ無い。


身体に強烈な痛みが走る。殴られ蹴られ俺は気を失う。

目覚めると犯されていた痕跡があった。


気が狂いそうになる。


何時まで続くんだ。辛い。苦しい。


誰も助けてくれない。



あぁ。何日経った?何ヶ月経った?

同じ事の繰り返し。


もう、ダメかもしれない。


『君!大丈夫か!?』


牢の外でガヤガヤと聞いた事が無い声がした。

薄暗い地下牢に光がさした。


俺が異能に目覚めた瞬間。


『カプリスにようこそ。』


俺の居場所。俺の生きる場所。



「ははっ。あはははは!」

ゆっくりと目を開けた。


「お前!何故死ななかった?!」

ナクサは驚愕の顔で俺を見て後ずさりした。


「これ?何の異能?精神壊す奴?」

いや、本当に壊れそうだったけど。


無言だからそうなんだろう。


残念だけど。俺の精神って相当強いんだよね。

まあ、嫌な事をモロに思い出したけど。


でも、この記憶のお陰で・・・。


ナクサは更に後ずさりし逃げの体制に入った。

逃がすかよ!!


駆け寄り、飛び上がった。


――光の爆破ライトエクスプロージョン――


ナクサに向けて撃ち付けた!


溜め無し。予告無し。


それは今までのソニックバレットの2倍はある威力だった。


「おお。黒焦げ。」

ボスの異能の後みたいな黒焦げ遺体が残った。


我ながら凄いの放ったな。


「人生で1番辛かった後に俺には最高の出会いがあったからね?」

って死んでて聞けないか。残念。


カプリスに入った。ミナキに出会えた。


あれ程落ちた時代を俺は乗り越えてきたんだ。


フフっと自然と笑みが溢れる。


ボス達に助け出された後に俺は目覚めたばかりの不安定な異能で飼われていた家を光の爆破で完全に消去した。


そうだった。

強烈過ぎて皆にその後、止められたの思い出した。


「そうだった。もう、懐かしいと思える。」

あれがあったから今がある。


早く、ミナキの元へ戻ろう。

ミッションコンプリート。


俺は漁港へ向けて走り出した。



・・・・・・・・・・・・


ツェレ?だっけな。

足速ぇー!!


こりゃ強敵か?


暫く追いかけっこの後に海の見える崖に追い詰めた。


随分、山登りをさせられたな。


「さあ、そろそろ殺ろうぜ。」


「全く、ウザい。この島に異能者は居ないから征服して新しいアジトを作るには絶好の場所なのに。」

ツェレは睨みつけながら俺に殺気を放ち威嚇してた。


「やっぱり。まだ他の国に残党が居るって事か?」

そう聞くといきなりツェレは剣を抜き襲いかかって来た。


俺も剣を抜き止める。


全く、血の気の多い連中だよ。


さあ俺はどうレベルアップしようかね?

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