第113話 闇

――四神結界――

ミナキの傍には全員集合している。


「目が慣れたら手伝いに来てね?」

暫くしたらボスやシアンは大丈夫だろう。


「外へ行くぞ!」

アジトは壊したくない。


「お前?見えているのか?」

スティーブンがそう聞いてきた。


「さあ?どうだろうね?」

クスっと笑う。

まあ、この動きでバレバレだろうけれど。


外は月明かりも無い夜中の様だった。

清々しい!本当に暗闇!


これは本当に快適空間。

山の立地がちょっと平地に比べると戦闘がしにくいが。そこは仕方無い。


剣を抜く。


スティーブンも剣を抜いた。


じゃあ、お手並み拝見。

さっと近寄り剣を振るう。ガチッと受け止められた。

そこから攻防戦。


1歩も引かないね。

まあ、Sランクになるだけあって強い。


体力面ではやっぱり俺はダメだな。

1人で勝てる?


早めに仕掛けるか。


スピードを上げて更に向かう。

ザシュッ!!

軽くだが斬りつけた。


「クソ!カプリスめ!!喰らえ!!」

スティーブンが何か叫んだが避ける。


俺はイラついてるんだよ。喰らうか!


――完全なる闇パーフェクトブラインドネス――


「え?」


・・・見えない。


「見えないだろ?」

スティーブンがそう言った。


目を開けているのに。


この異能は盲目か!?


移動した気配。


気配を研ぎ澄ませ・・・。音・・・。何処だ?


来る!!

ザシュッ!!!

「クッソ!」

痛てぇ。左手からポタリと血が流れる。


いたぶる様にスティーブンは剣を振るう。


その時アジトの扉が開く音がした。


「来るな!!コイツの異能は盲目にする!」

どう言う風に発動してかけられたかも解らなかった。


触れられた訳でも無いし。


ガチッ!そう言っている間もスティーブンの攻撃は止まない。


見えないバトルは厳しい。

普段の闇で慣れているとは言えそれは闇でも見えるからだ。


見えないと言うのは恐怖が伴う。


バシュッ!

今度は背中を斬られた。


クソ痛てぇ!


――異能初期化デフォルト――


自分にかけるのは初めてだが目にデフォルトをかけてみた。

少し薄らと・・・。


グルルル・・・。グルルルル!


「え?!来るな!!」


気配と音とほんの少しだけ見える目に映る。

獣人化したゼットの姿・・・。


美しい銀に青の混ざった毛並みの狼の顔がみえた。


「クソ!獣人がぁ!!」

獣人化したゼットの動きは速く剣をもろともしない。


タッ!

地面を蹴る足音と影と影がぶつかり合う音と。

しかし、お互いに決定打に欠ける。互角・・・。

また盲目にされたら終わるぞ。


俺も戦闘に参加しなきゃ。


その時、フッと背後に気配を感じた。

優しく暖かい。

「ハーミット様。治療します。」

これはミナキの神人だ。リョウの手術の時に見たやつ。


――再生医療リジェネレイティブ――


「見えた!」

傷も治ってる。

「ミナキ!ありがとう!」

ミナキの神人はスっと消えた。


ああ。ゼットかっこいいよ。お前って奴は。

「全く!何!助けに来てるんだよ!お前には嫁や子供や護る奴がいるだろ!」

キレながら戦闘に参戦した。


「は?!」

ゼットはキレ気味に此方を睨む。


この発言は失敗した様だ。嫉妬丸出し!

恥ずかし過ぎる。


「すまん。殺るぞ。忘れてくれ。」


俺が剣を振るう。ゼットが襲いかかる。

上手いコンビネーションで相手を追い詰めて行く。


――完全なる闇パーフェクトブラインドネス――

スティーブンの盲目の異能が発動した。


どう言う仕組みか今度は見極める。


「影か!」

闇に乗じて更に濃い闇が此方に迫るのが解った。


さっきは解らなかった。ほんの僅かの闇の濃さの違い。


解れば避ける。


1人でバトルだったら見極めは厳しかったろうな。助かった。


「ゼット!!盲目の正体は更に濃い闇だ!」


「了解!狩るぞ!」


ゼットの動きに合わせて攻撃を加える。


タッ!と後方に下がったゼットが構えた。


獲物を次の攻撃で仕留める気だ。

俺も剣を構え直す。


ゼットがスティーブンに向けて飛び掛った瞬間に俺も動く。


喉は躱されたが右肩にゼットが食い付いた。


背後に回って刺す・・。ザシュッ!!


剣が背中を貫く手応えと共に・・。


「眩しっ!!!」

電気が付くかの様に辺りは明るくなった。

陽の光が眩しいー。


「アルージャ。ありがとう。」

獣人化したゼットは元の人型に戻る。

「いやいや。こちらこそ。助かった。獣人は暗闇に強かったな。」


そうだ。俺はあの日から。


「闇の中の方が居心地良いからね。」

ゼットはそう言って笑う。


うん。獣人との生活。夜は真っ暗だった。明かりを付けなくても見える彼等の生活に合わせた。

最初は苦労したが。慣れると見える様になる。


それからだ。


普段でも俺は夜、明かりは付けない。


俺は獣人といや、お前との暮らしを何処かで夢見て?


叶わぬ夢を・・・アホだな。


「戻るか。アジトに。ユウエンにまた来て貰わないとなあ。」

ゼットに笑いかける。


「なあ?アルージャ?何か勘違いしてるよね?」

ゼットは先に歩く俺を呼び止めた。


「ん?なんだ?」


やれやれ今度はなんだ?と振り返った。


「俺、独身なんだけど。」


・・・・・・?ん?


何故!?え?待て?


「じゃ、戻ろう。アルージャ。」

今度はスタスタと俺の前を歩くゼットを追い掛ける。


え?なんで?


脳内は混乱して俺の心はまた乱される。


本当に勘弁して欲しい。

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