第104話俺とリョウと海誠先生

海誠先生にはメールして電話してアポ取り完了。


念の為の海誠先生の部屋の盗聴もハーミット様がしてくれていた。

あれから勿論ジ・パングには行って居ない。


アマル・フィやジ・パングの様子は元締めから時々、連絡が来ている。


今回はリョウと2人でジ・パングへは行く事になった。

外の見張りさえも危険と言う元締めの判断からだ。


「アマル・フィのエンバスター家に関わったマフィアは殆ど壊滅した。駆除屋の仕事でジ・パングに行ったヤツらがかなり今、政府はピリピリしていて仕事がやりにくいって文句言ってたぞ。」

全く、お前らは何時も気紛れだからなあと元締めは豪快に笑った。


「ミナキ、何かあれば直ぐに連絡して。」

「大丈夫。」

ウェンは見張りに行きたそうだが仕方ない。


「じゃ、行ってらっしゃい!」


――転移――


「大丈夫やな。」

海誠先生の部屋の前でリョウはそう言った。

リョウの偵察異能は俺の朱雀とはちょっと違う。意識を飛ばす感じらしくハーミット様の潜入と似ている。


インターホンを鳴らすと海誠先生が出てきた。

「あっ・・・。」

とリョウの顔を見てそう言ったかと思うと慌てて部屋に入れてくれた。


「びっくりした!指名手配犯連れて来るとは・・・。そうだね。カプリスと一緒に脱走したって言われてたね。」

顔を引き攣らせて座ってと案内された。


「俺、指名手配犯なんや。うけるわー。初めまして。リョウ・キタタツミです。」


「えっと。日本では漫画家でこの世界では警官やってます。マコト・ソトメです。」

海誠先生はまだ顔が引き攣り気味でちょっとビビり気味。


「えっと。海誠先生。リョウは脳内チップは抜けてます。だから日本人としての記憶もあって。ファンだそうです。」

Sランク異能者って怖い存在だろうし。そうアピールしてみた。


「はい!ビーストバスター!むっちゃ懐かしいわー。あれ結局、途中でこの世界来たから最後!どないなるんですか?!」

リョウにそう言われて海誠先生もホッとした顔になった。


「7巻まで出たんだけど何処まで読んだ?」

暫く2人は漫画の話で盛り上がる。


「いやぁ。はよ帰って読みたいわ。なあ?先生。今日はな、俺も元の世界に帰還したいっちゅう話をしに来たんよ。」

リョウは取り敢えず自分の願望を素直に告げた。


「そうだよね。どうしよう。榎津さんの事は知ってるよね?」

海誠先生は溜息を付いてリョウの顔を見た。

リョウは勿論と頷いた。


「脳内チップ抜けてたらもう解るよね?元の世界に戻れない事が嘘だって。現に俺は契約で戻る事になっている。」


海誠先生が言うには脳内チップを入れる前は元の世界に戻れないと異世界転移者には告げて絶望させるらしいんだよね。と少し申し訳なさそうな顔をした。


「せやね。俺はそう言われたわ。でも、その後の術後は海誠先生の話を聞いても何の疑問も抱かなくなってんよね。本間に怖いもんやわ。」

リョウは苦笑い。


試したいのかリョウは自分の異能の話はしていない。

もう、指名手配犯として触れ回っているのか海誠先生も聞かないな。


「先生?1つ聞いてええ?」

リョウに言われて海誠先生は頷いた。


「この世界の漫画を書くって交渉は先生が提案したの?」


「そうだよ。召喚された異世界人が少しでも政府に協力的になる様な漫画を書くって言った。」

海誠先生は俺に話した事と同じ話をし始めた。


リョウは軽く首を傾げる。嘘なのか?


「海誠先生が召喚された瞬間。この世界に来た時!!榎津だけなん?最初に出会ったんわ。」

海誠先生は首を横に振った。


「榎津さんと御厨さんの2人だよ。・・・?あれ?ちょっと待って!!」

海誠先生は自分おでこをペシペシっと叩いた。


「俺は完全記憶の異能者なんだよ。なのに何故だ?何か不確かな気がしてきた。」


海誠先生は顔を曇らせている。

一点を見つめて考えている様な感じがした。


「先生。エメリヒ大元帥と初めて会ったのは何時ですか?」

もしかして本当に洗脳?


「カペルさん?カペルさん。」

今まで見た事無い海誠先生の表情。


「先生。ゆっくり思い出したらええよ。」

リョウは優しく海誠先生にそう言う。


「一瞬でも見たら俺は記憶出来るんだ。この世界に来てからの出来事も全て覚えているし。それくらいしか取り柄の無い異能なのに。」

海誠先生は苦笑いしてちょっと何か飲みたいと冷蔵庫に向かった。


俺とリョウは顔を見合わせた。

間違い無いかも。


「ごめんね。お茶も出さずに。これどうぞ。」

海誠先生はペットボトルのお茶と珈琲と炭酸飲料を持ってきた。


「はぁー。プパー。あー。まじで?召喚された日に何があった?俺。」

炭酸飲料をがぶ飲みして海誠先生は項垂れた。


「エメリヒ大元帥の異能は何か知らないんですよね?」

そう聞くと海誠先生は頷いた。


「これは俺の勘やねんけど。洗脳やないですか?」

リョウのその言葉を聞いた瞬間に海誠先生の顔色が青ざめた。


「あっ・・・。あっ・・。会った。カペルさんが居た。俺の召喚は意図的に選ばれたんだ・・・。」

先生は恐怖が蘇ったかの様にガタガタと震えて鳥肌まで立っている。


「海誠先生。落ち着いて!大丈夫。大丈夫です。ゆっくり、深呼吸しましょう。」

先生の肩を掴んでポンポンと叩いた。


先生は何度か深呼吸をして漸く落ち着いた。


「俺は榎津さんの能力で意図的に召喚された。この世界の漫画を描くため。」


「3年経って俺が日本に戻って連載、開始後から異世界人の大量転移が始まる・・・。」


海誠先生はそう言ってまたブルっと震えた。


「嘘やない。本間の事やで。」

リョウは苦虫を噛み潰したような顔で大きな溜息を付いた。


「俺は・・・。あの日、カペルさんの目を見てそれから自分でそうしたいかの様な記憶を植え付けられていたみたいだね。」

海誠先生は残りの炭酸飲料も飲み干して目を閉じた。


「なあなあ。3年契約満了は何時なん?」

リョウがそう聞くと


「今年いっぱいだよ。12月25日の寒い冬の日だった。」

後、半年か。


「先生。俺の異能は何か知ってるん?」

リョウの質問は続いた。


「見た事無いからなあ。解らないよ。政府も異能の件は警官にまでは伝えて無いよ。」

リョウの反応を見るとOKと言う顔をした。


「俺は嘘を見破る異能者や。先生、試させて貰ったんよ?」

リョウはニヤっと笑う。


「先生も正直もんやなあ!!漫画を自分で描くと決めたって所だけ何や変やったわ。それ以外は問題無しや!」

満足そうにリョウは笑顔を見せた。


「そっか。嘘が解るのか。別に嘘つく理由無いしね。日本人同士。脳内チップ入って無い同士仲良くしたいと思っているよ。」

そう言いつつも海誠先生はエメリヒ大元帥にされた事が余程ショックだったのだろう。

最初の時のテンションの高さは無かった。


「さあ。本間にこれは何とかせなあかんやん。」

リョウは俺の顔を見た。

「うん。本当に何とかしないと。この世界が征服されるんだよね。」

俺の顔も引き攣った。



俺は本当にこの世界を護るために来たのかもしれない・・・。

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