第98話俺の愛するシアン

ウェン達がミナキを駆除屋に連れて行った。

流石に限界突破させてしまったか。

「ボス、早く行きなよ。」

アルージャがシアンの元へ行ってこいと揶揄う様に言った。


「う・・うん。ミナキを心配してたんだよ。無理させ過ぎたって。」

つくづく思う。俺がもっと強かったらって。

「限界突破は栄養点滴したら1週間くらいで治るで。」

リョウが大丈夫だと言ってくれる。


「ほら、シアン待ってるぞ。1発やるならご自由に。」

ヴェガのアホ。

「やらないし!!」

全く。先ずは鎖を解かないと。


「半分は嘘やなあ。やりたいけどやれない?」

リョウがニヤニヤと笑う。嘘を見破る異能者。クソー!


「もう!行ってくるよ!」

はあ。

本当に疲れた。俺の我儘で皆に苦労かけ過ぎたし。

張さんの家は一戸建て。家を建てた時に来た以来かな。

奥の部屋。リビングルームから離れた寝室の横の客間から気配。


寝てる?

ドアをそっと開けた。


部屋の中は暴れ回った痕跡が・・・。見事に棚とか倒れているし。

鎖で巻かれているのに転がり回ったんだろう。


「シアン。」

そっと頬に触れた。

「ごめん。痛かったよな。」


シアンがゆっくりと目を開けた。ああ・・。俺の好きな目だ。


「ランジャン。」

そう言われただけで涙が溢れ出た。


「シアン・・ご・・ごめ・・んな。」

泣きながら鎖も手錠も解除した。


手首もすっかり赤く跡が残っていた。恐らく身体もアザだらけかもしれない。


「ランジャン。良かった。無事で。」

シアンが起き上がってそっと俺の頬の涙を拭う。

そんな事されたら益々涙が溢れる。


会いたかった。ずっと会いたかった。


やっと会えた。


好きだ。シアンが好きだ。


大好きだ。


愛してる。


そう言いたいのに嗚咽で言葉が出てこない。


「愛してるよ。」

シアンは俺をギュッと抱き締めてきて涙を伝う頬にキスをした。


「俺・・も・・・。あ・・いしてる。」

ズルズルと鼻水を啜りながら。全然カッコよく無い自分。

シアンは俺が泣き止むまで俺をあやす様に背中をポンポンと優しく叩く。


「ランジャン。操られている間の記憶もちゃんとあるよ。君が俺を縛りたいくらい愛してる事も解った。」

クスっと耳元で笑う。


あーもう。

「馬鹿。心配したんだぞ。」


やっと顔をまともに見られた。

綺麗な瞳だ。


「イケメンが台無しなくらい鼻が真っ赤だよ。」

シアンは俺の鼻にチュッとキスをしてきた。

「誰のせいだよ。本当に良かった。」


シアンの唇に優しく触れた。


「ん・・・。もっと。」

そう言われ貪る様に唇重ねて舌を絡ませた。


したい。シアンと繋がりたい。


でも、脳裏にヴェガの言葉が過ぎる・・・。


「シアン。皆がリビングルームに居るんだ。」


「うーん?戻りが遅いと怪しまれるかなあ?」

シアンが苦笑した。


「もう。俺がお前を好きだって事は話した。」

シアンはまじまじと俺の顔を見た。

「それは驚いた。」

そう言いつつも微笑んで嬉しそうに笑う。


「クソ可愛い。」

その笑顔。本当に見たかった。また抱き締めてしまう自分が居る。

離したくない。


離したくない。もう二度と離したくない。


「ランジャン?誰か新入りが居るね。後、ウェンやミナキにラズは?元締めも居ない。」

シアンがそう言った。


「そうだった・・。」

ミナキが倒れた時に俺だけこんな事しているのは違うな。

一旦冷静になろう。


「お前がヴァルヴァラに操られている間に本当に計画して計画しまくって政府本拠地に侵入したんだよ。」

シアンは黙って聞いてくれた。リョウ・キタタツミの事。

ミナキが結界でSランク異能者から護ったこと。


「ありがとう。全員にお礼を言わなきゃね。」

シアンと立ち上がりリビングルームに向かう。

「あー。リョウは嘘を見破る。気をつけろ。」

そう言うとシアンはクスクスと笑った。


「俺の嘘はランジャンがセフレだと言ってた事くらいかな?」

それには俺も同感だと笑えた。


お互い、気持ちに気付くのが遅すぎた。

だけど。

これからはもう大丈夫だ。


リビングルームのドアを開けた。


「お帰り。シアン。」

アルージャがニヤニヤと笑う。こいつまじで揶揄う気満々だな。


「やってきたのか?」

「ちょっと遅かったが早かった気もするな。」

ディードとジハードまでもが!!


「まだやってない!!」

全く。困った奴らだよ。


「皆、ありがとう。迷惑かけた。そして、初めまして。ボスから話は聞いた。リョウとヴェガの部下達だね。」

シアンは紳士的に頭を下げる。


「初めまして。リョウ・キタタツミや。元政府異世界異能者。今は脳内チップも抜けてスッキリ爽快しとる。」

リョウもニヤっと笑った。


何かもう皆が揶揄っている様な顔に見えて仕方ない。


リビングルームの床が光って張さんとラズが戻って来た。

「お帰り!ミナキは?」

聞くと医療班に入院していると言う。


「異能借金か。」

リョウが大きく溜息をついた。

「あれ、脳内チップが入っていたらやりがちやねん。ほんでバタバタ倒れる。政府はランクの高い異能者は助けるけど弱い奴はそのまま放置。」

嫌な事思い出したわ。と嫌そうな顔をした。

「政府は本間に腐れや。」


リョウは本当に特殊異能者。だからそんな政府に気付けた。


「さてと。今夜は?家に戻るなら転移させるが?此処に泊まるのか?」

そうだった。この多人数を張さん家に泊まらせるのは迷惑かける。


「マーシェルファミリーは報告があるから帰る。カプリスは?」

「そうだな。明日、ミナキに会いたいんだが。」

それなら泊まりなと張さんは言ってくれた。


「俺の部屋、リビングに客間と適当に分かれて寝てくれ。俺ももう眠い。」

時刻は午前3時過ぎ。


「張さん。すまない。感謝するよ。」


ラズは・・・。流石に張さんと寝るとは言えないか。なかなかウブなんだな。


カプリス全員でリビングルームで今日は寝る事にした。

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