第22話 そして四五六は発掘と探求
月曜日の放課後。
アオと四五六はいつも通り、通学路から少し外れた駄菓子屋さんへと、向かっていた。
「ちょっと寄っていーかー?」
「あー」
小学校の頃からの、いつもどおりのヤリトリだ。
駄菓子屋さんで、アオはオレンジジュースを買って、四五六はグレープジュースとカップタイプのスナックポテトを購入。
そしてナゼか、割り箸も二人分、貰っている。
「おじさーん、お湯 貰うねー」
四五六が買ったカップ菓子を開封したかと思うと、なんとカップに、お店のポットからなみなみと、湯を注ぎ始めた。
「え…えっ?」
何気なく見ていたアオは、幼馴染みの奇っ怪な行動に、遅れて驚かされる。
「し、四五六 お前…それって、フライドポテト系のお菓子だぞ?」
「あー」
どうやら若年性の認知症などではなく、わかってて湯を入れている様子だ。
カップの縁あたりまでお湯を注ぐと、二人でそのまま、いつもの空き地へ。
「四五六よ…そのお菓子 どうすんの? まさか、すするの?」
油で揚げた、サクサクが売りのポテトスティック菓子である。
今頃はもう、湯を吸ってふやけて味も薄まって、絶対に美味しくなんて、ないだろう。
「実は昨日さー、ネットで知ったんだけどさー」
ネットを漁っていて「懐かしのジャンクフードアレンジ」なるページを、たまたま見つけたらしい。
そのページには、様々な食材を手軽にアレンジした食べ方が多数、紹介されていたのだとか。
「へー」
物は試しとばかりに、四五六は、湯を注いだカップを差し出す。
「このお菓子にさー、こんな風にお湯を注ぐと…お、見ろよー」
覗き込むと、カリカリだったスナック菓子はすっかりふやけて湯も無くなり、みんな揃って膨らんで、ベッタリと寄り添ってくっついている。
「うわ…こんなふうにして、どうすんだよ」
どう見たって美味しそうではないし、むしろ折角のお菓子をゴミにした感じだ。
しかし四五六的には、ここからが本番らしい。
「これをなー」
割り箸を突っ込んで、グルグルとかき回す。
「おいおい四五六よ…ん?」
ボテトスティックの原型が完全になくなると、カップの中には、ポテトスナックから姿を変えた、ゲル状の物体が。
(食べて戻した みたいな…あれ、でも…?)
「んー、これで完成だなー」
原型を知っているからエンガチョ系に見えたけど、よくよく見れば、おなじみのアレである。
「ポテトサラダ…?」
「って事に なるらしいぜー」
割り箸に付いた暖かいボテサラを、製作者の四五六が、一口ぱくり。
「んむ…んん」
「ど、どう…?」
なんだかんだで、興味を引かれるアオ。
「ごくん…なるほどなー。これはこれで 美味いぞ。なんか、フツーにポテトサラダだなー」
嬉しそうな四五六に勧められて、もう一膳の割り箸で、アオも一口食べてみる。
「んむ…ん、美味いな」
総菜屋さんとかのポテトサラダよりは、味的に強めだけど、味わいとしては悪くない。
むしろ、キュウリなどの野菜が入っていないぶん、特にアオにとっては好きな感じだ。
「へ~、お菓子からおかずが出来た感じだなー。ナンチャッテポテサラか?」
二人で暖かいポテサラもどきを食べながら、アオは問う。
「そのページって、他にはどんなの 載ってたん?」
「んー、実は昨日、一個試してみたんだけどさー」
チョコレートでコートされた、ピーナッツ入りの小さなクッキー菓子を、十粒くらいカップに入れて牛乳をたっぷりと注いで、レンジで温める。
ホットミルクになって、コーティングされたチョコレートが溶けて、サクサク菓子の浮かんだホットココアの出来上がり。
「っての作ったんだけどさー。そっちはゲキ不味」
四五六曰く、溶けたチョコレートは生チョコでもないから牛乳とうまく混ざらず、ココアというより、チョコの香りだけがして見た目も綺麗とは言えない、パサパサしたホットミルクだったのだとか。
「浮かんだお菓子も ふやけてムチャムチャするしさー。ピーナッツも、逆に味が邪魔しちゃっててなー」
「へー…」
ドリンクなのにパサパサした飲み口とは、どんな感じなのだろうか。
「なーオススメはしないけどなー。あの感触は、口では言い表せないなー」
「へー…」
アオが昔のゲームを探索するように、四五六も、色々な食の情報を探求しているらしい。
「あー、そういえばさー」
二人はいつものくだらない会話で、ナンチャッテポテサラを完食した。
その夜。
「四五六っ、あんた炊飯ジャーに何してるのっ!?」
四五六はキッチンで、母に叱られていた。
件のページで見た「簡易ポテトご飯」を試そうとしていたのだ。
「ちがうよかーちゃん、これはポテトご飯を–」
炊飯器でご飯を炊くときに、ポテトチップスをそのまま一袋開けて、ご飯と一緒に炊き上げると、味の付いたポテトご飯になる。
というレシピだ。
しかし母の答えは。
「食べ物でイタズラするんじゃありませんっ!」
食の求道は厳しいと実感する四五六だった。
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