第17話 そして下駄箱にはラブレターが

 今朝は少し寝坊をして、アオは一人で登校していた。

「ふわわ…あー眠みー」

 予告されていた小テストも、点数は絶望的だったけど乗り切った。

 そんな解放感で、夜中過ぎまでゲームを楽しんでいたから、まだ眠い。

「一時限目、数学だもんなー。ウッカリ寝たら、ゲンコツだよなー」

 昨夜から危惧していた事態を心配しつつ、自分の下駄箱を開けたアオは、一発で目が覚めた。

「ん…んんんんんっ!?」

 見ると、上履きの上に、白い封筒が乗せてある。

 シールで封をしてあって、裏とかに差出人の名前は無し。

 しかし表には「赤居アオくんへ」と、可愛らしい字で宛名書きされていた。

「こっ–こっこっこっこっこっこっこっこっ…!」

(これはっっっ! ぅうう噂に聞くっ、マンガとかでしか見ないようなっ、ララララブレターっ!?)

 目の前が唐突に、バラ色でキラキラ輝き始める。

「ぅうっ–」

ひゃーーーーーーーっと歓喜で叫び出しそうになって、ハっと気づく。

(待て待て待てっ! 今まで女子からまともに話かけられた事すらない俺にっ、ラブレターなんてっ、来るワケないだろっ!)

「フ…俺を騙すには 少し知恵が無かったようだな…四五六めっ!」

 と推理したアオは、罠を見破った勝者の気分と「こんなイタズラしやがってちょっとワクワクしちゃったじゃないか」という怒りで、封筒を手に教室へと向かった。

 教室に入ると、既に登校していた四五六が挨拶をくれる。

「よー」

 確信を得たり。

(やはりな…既に登校している事が、お前が犯人だという何よりの証拠さ…!)

 自分の寝坊をすっかり忘れ、アオは不適な笑みで、自分の席に腰かける。

「ふ…四五六よ。この程度のイタズラ…レベルが低すぎて 俺には通用しないぜ」

「ん? あーそれかー。まーそーだよなー」

 アッサリと告げる四五六に、アオは名探偵の気分だ。

「フフン。ま、冗談にしても、ありきたりだしな」

「え? でも中身は冗談じゃないぞ?」

「え…えええええええええええっ!?」

 幼馴染(男子)からの、突然の告白。

 アオは、心底からゾっとした。

「おおおっ、お前っ–」

「冗談だよバカ。そんな手紙、オレは知らんぞ」

「え…はあぁ…脅かすなよー」

 心の底から安堵して、胸を撫で下すアオ。

「考えなくても解るだろフツー」

 言いながら笑ってる四五六は、一本取った笑顔だ。

「くそー…じゃあ誰が、こんなイタズラを…?」

「ってかそれ、マジなラブレターなんじゃね?」

「…え?」

 幼馴染の言葉に、心から動揺する。

「ママママジレターとか…? ハ、ハハハそそんな…いや、でも…でもさ」

「まー違うって思うんなら 違うんじゃねー?」

 隠しきれない激しい動揺に、言った四五六も大して興味がなさそうだ。

(マ、マジラブレター…だったら…つ、遂に…俺にも、彼女が…!?)

 封筒を持つ手が震え、ついジっと凝視してしまう。

 次の瞬間。

「おはよー。あれ、アオくんラブレターなんて貰ったの?」

 言いながら、登校してきたイ子の手で、サっと封筒を奪われた。

「あっ–か、返せよっ!」

「えーっ、アオくん ラブレター貰ったのっ!?」

「わ~ 見せて見せて~」

 ハ子とロ子も乗って来て、ワイワイと騒ぎ始める。

「か、返せってば!」

 アオの奪還をヒラりとかわして、イ子は封筒を頭上に掲げ、中身を透かし見た。

「………ほほう」

「読むなってばー! 俺だって まだ読んでないんだぞーっ!」

 アオが封筒を奪い返すと、イ子は突然、両腕を広げて神託のようなポーズ。

「私はこれから、預言者となります。アオくんはこれから、その封筒を お母さんに見せるでしょう」

「…は?」

 ラブレターを母親に見せるヤツが、どこにいるのか。

「それじゃ」

 ニヤニヤしながら、イ子たちは自分の席へと向かった。


 そして放課後。

 アオは掃除当番の組で、イ子とロ子とハ子はいつも通り、駄菓子屋さんにでも寄って帰るのだろう。

「くそー、早く 掃除なんて終わらせて…」

 家でラブレターを読みたい。

 そう思うと、活力も湧いてくる。

「うおおっ! 掃除っ、とっとと終わらせるぞーっ!」


 その頃、駄菓子屋さんに寄ったイ子たちは、商店街で、アオの母親とバッタリ。

「「「あ、こんにちはー」」」

「あらこんにちは。みんな今帰り?」

「この時間なら、おばさん 商店街にいるかと思いまして」

「?」

「おばさん、昨日 返された小テスト、知ってますか?」

「あら そんなのがあったの? アオからは聞いてないわ」

 アオの母親は、またテストを隠したらしい息子に、ご立腹だ。


 掃除が終わって、下駄箱で履き替えたアオは、家まで待てずに空き地の土管の裏で、コッソリと封筒を開けて、愕然としていた。

 封筒の中身は。

 ①女子からの手紙。

『赤居アオくんへ

  解答用紙を拾いました。内緒で返しておきます』

 ②小テストの解答用紙

  十九点

「……こ、こんな恥ずかしい点数が…女子に、バレた、だと…っ!?」

 どんな女子かわからないけど、思春期の男子にとっては、身悶えするほど恥ずかしい。

「っうわああああああああっ! ヤバイぞっ! この用紙っ、カバンの奥に入れて安心してたのにっ! ちゃんと入ってなかったのかああああああああああああっ!」

 秘めてくれた見知らぬ女子の優しさと、テスト返却が母親に知られている事実を、まだアオは気づいていない。

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