第2話 そして二人は道草をくう

 今日は金曜日。

 放課後の帰り道を、いつも通りにアオと四五六が二人で歩いている。

 特に部活とかに入っていない二人だから、放課後はノンビリだらだらと過ごしていた。

 いつもの分かれ道に差し掛かると、四五六がフと思う。

「アオー、ちょっと遠回りして帰ってみね?」

 地元だからどこでも知ってる。という事も、実際にはあまりない。

 探求心や冒険心が強ければともかく、地元だからこそ、特に用事の無い地域には行かないまま、過行く日々を過ごしてきていたりする。

 アオと四五六は、そっちの組だ。

 別の道とか、幼馴染にどんな心境変化があったのだろうか–

 とか特に興味もなく、アオも応じた。

「まぁ、明日は土曜日だしなー。いつもと違う何かとか あるかもなー」

 言いながら、もしかしたら知らない女子と運命的な出会い。とかを妄想して、一人ニヤニヤ。

 いつもは真っ直ぐ進む丁字路を、今日は山の方角な、右向きに曲がってみた。

 知っているいくつかの丁字路を通り過ぎて、更に少し長く歩くと、ほとんど知らない四つ角にあたる。

「こっちって、行った事あったっけ?」

「帰り道じゃないしなー。行ってみよーぜー」

 角を左に曲がって、遠回りな帰り道を歩く。横断歩道を渡ると、小さな公園があった。

 この地域の人たちだろう。学校帰りの女子たちがベンチに腰掛け、お菓子を食べながらオシャベリをしている。

 二人はなんとなく女子たちを見て、しかし歩は止めない。

「…………」

 気にしないそぶりながら、アオは密かに。

(…女の子 声かけてこないかな……)

 と、無茶な期待にドキドキ。

 心ここにあらずなアオに、四五六は探索の続行を要求してきた。

「あっちにお菓子屋さんとか あるかな?」

「…え、あ…さ、さーなー。行ってみようぜ」

 期待にそぐわず女の子たちが二人に全く興味を示さないので、アオは名残惜しそうに女子たちをチラと見て、四五六の後ろについて歩く。

 しばらく歩いてもお菓子屋さんはなく、右側に川が見えて来た。

「こんなところに川があったんだなー」

「な」

 アオの言葉に、特別に無感情というわけでもなくテキトーに応える四五六。

 田舎道をノタノタと歩き進むと、向こうから知らない女子の二人組が、自転車でやってきた。

 あまり広くない歩道で、左側は家屋が並び、右側は川。

 なので二人は、川沿いに下がって道を譲る。

 女子二人は極めて挨拶的な笑顔で会釈をしながら、二人の脇を通り過ぎた。

 平然と歩きだす四五六に比して、アオはなんとなく女子たちを見送る。

「行こうぜ」

「あ、あぁ…」

 また少し歩いたら、平屋造りの小さなスーパーを見つけた。

「あれ、この店 よくうちの母ちゃんが買い物してる店っぽいなー」

「へぇ。ちょっと入ってみようぜ。駄菓子とか売ってるかもしれないし」

「また何か食うのかよ」

 呆れながらも、四五六に付いて入店するアオだ。

 しばらくすると、二人はガッカリと肩を落として店から出てくる。

「なんだよー。野菜とか乾物しか ねーじゃねえか」

「肉まんも売ってねえのな」

 少年たちからすれば、特に面白くも無い店だった。

 再び歩くと、川に小さな橋が架かっている。

 あまり生活区域から離れるのも不安なアオは、四五六に提案。

「こっち渡ってみねー?」

「ん? ああ」

 特に異論もなく、アオに続いて橋を渡る四五六。橋は車一台が渡れる程度の広さで、川幅も狭いものの、二人は車とすれ違う事もなく渡れた。

 橋を過ぎると、また違う学校の、帰宅中らしい三人の女子たちとすれ違う。

「………」

 女子たちを意識するアオだけど、女子たちは二人を特に意識する様子もなく、楽しそうにオシャベリを続けながら、通り過ぎていった。

 なんとなく川べりに降りて見たくなって、二人は草が生える川辺へ。

 笹を見つけて葉っぱを一枚取った四五六が、唇にあてて草笛を吹く。

 やや高い、しかし澄んだ音色は、途中で掠れながらも、なかなかの味わいだ。

「へー、四五六、草笛 上手いんだなー」

「ふふ、男のたしなみってヤツさ」

 言いながら、幼顔に似合わずシブくキメる四五六だ。

 そんな特技が、ちょっと自慢げにも見えて、アオは軽く嫉妬する。

「そ、そうかー? 男ったら ギターだろ」

「アオ ギター持ってんの?」

 四五六の頭の中では、ギターを奏でるアオの絵が浮かんでいる。

「昔さー、従兄が使ってたヤツを、俺が貰ったんだ」

 ちょっと自慢げに「まあね」感を増して告げた。

「弾けんの?」

 ギクっとなる正直なアオ。

「ま、まぁなー…」

 この話題が続くのヤバイ。と、顔に出る。

「へえ」

 しかし四五六は、大して興味もなさそうな様子だった。

「…ホ…」

(殆ど弾けないけど…)

 安堵して、アオは四五六の後に続いて、歩道に戻った。

 生活地域に向かって歩き出すと、本屋さんを見つける。

「あ、古本屋だってよ」

「あー俺、探してる漫画 あったんだよなー」

 言いながら、ワクワク顔で入店した二人は、数分と待たずにガッカリしながら出てくる。

「真面目な本ばっかりだったな」

「外国の本だの マクラみたいな辞書しかなかったなー」

 トボトボと歩き続けていると、私服の女の子二人とすれ違った。

 学校が終わって、友達と待ち合わせをして出かけるのだろう。

 アオが意識してチラと見るも、女子たちは全く気にせず、楽しそうに通り過ぎる。

 アオは黙って、見送っていた。

 道なりに歩き続けていたら、知っている丁字路からあまり離れていない、いつもの通学路の近くに戻っていた二人。

 そのままいつもの分かれ道に戻ると、いつも通り。

「じゃな アオ」

「あー。じゃーなー」

 二人は家に帰った。


                      ~終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る