アオと四五六

八乃前 陣

第1話 そして二人は勝負する

 里山の中学校の良いところは、ほとんどのクラスメイトが幼稚園からの幼馴染だから気楽、という点と、景色だ。

 県立△中学校(みかどちゅうがっこう)も、広い校庭や裏の林、更に離れた北には山や、遠く南には港が、町からでも見える。

 言い換えれば、ほぼみんな幼馴染だから顔ぶれや付き合いに新鮮味は乏しく、景色も都会の映像を見た直後あたりだと「うちって田舎たな」と認識するくらい、特に面白味も無かったり。

 そんな田舎町の中学でも、時間割はほぼ全国と共通。

 金曜日の放課後は、等しく生徒たちにとって解放感でいっぱいだ。

 一年二組の教室から、掃除当番でもない二人の男子が、ノタノタと歩いて帰路につく。

 痩せてて退屈そうな表情がデフォな男子「赤居アオ(あかい あお)」と、恰幅の良い恵比須顔な男子「一二三四五六(ひふみ しごろく)」の二人。

 共に平均的な身長で、女子受けする特徴もこれといってない。

 身長と同じく、学業も運動も平均的で、特別に目立つワケでもなく、地味なワケでもなく。

 女子からすれば「特に意識する事のないクラスメイト」に過ぎない二人。

 当人同士は幼馴染で、一緒に帰る事はごく自然な、当たり前になっていた。

 夏も近づく今日は天気もよく、雲はあるものの、山の遠くを流れている。

 二人の少年が、最近になって知った、友達の噂をネタに、歩きながら会話を交わす。

「でさ四五六、結局 勝負って亨(とおる)が負けたんだろ?」

「そりゃーそうだろ。だってアオさ そもそも運動神経ならともかく、今日なんて家庭科のクッキー作りで勝負とかしてたんだぜ? 趣味がお菓子作りな貴雪(たかゆき)さんに 勝てるワケねっての」

 二人が話しているのは、クラスメイトの話だ。

 学校でも成績優秀なメガネ男子の「東村亨(ひがしむら とおる)」と、やはり成績優秀で黒髪ロングな女子の「貴雪真子(たかゆき まこ)」は、小テストの成績などで、常にトップ争いをしている。

 どちらもなかなかに整った面立ちで、亨は二人と小学校からの友達だし、真子は中学で初めて会った新顔。

 身長的にも亨は平均より少し高く、二人が並んでいると、それなりに微笑ましい感じ。

 運動では亨が一歩優れているものの、家庭科では真子に軍配が上がった。という事が、今日の授業であった。

「亨って勉強できるのに 余計な処でバカだよな」

 呆れる四五六は、見えて来た駄菓子屋さんへと、自然に吸い寄せられてゆく。

 対してアオは、ちょっと空を見上げつつ、考える。

「…でもアレだよな。男女なのに『負けた方が何でも一つ言うことを聞く』って…やっぱ つきあってないとやらない感じしない?」

 二人で駄菓子屋さんに入って、お菓子を選びながら、四五六はあまり興味がなさそうに答えた。

「でもあの二人、付き合ってる感じでも なくね?」

 アオも言われて思い返すと、二人は何だか、いつも何かで勝負してる気がする。小テストしかり、百メートル走しかり、作文の枚数しかり。

 どんな勝負でも、勝った方がドヤ顔してて、負けた方が悔しそう。

 ただ、その表情がなんだか楽し気にも見えるのは、アオに彼女がいないからだろうか。

「うーん…」

「オレ肉まん買お。あ、レタス太郎も買お」

「お前 よくそんなに食えるよな…ん?」

 肥えた幼馴染の食欲に呆れていると、棚のお菓子の様子に気が付いた。

 あんこ玉的なお菓子で、箱には小さい球が二つと、景品としての大きな球が一つ。

 つまり、箱の中の二つのうち、一つが当たり。という事だ。

 アオは、フと思いつく。

「なあ四五六、俺たちも勝負 してみね?」

「勝負?」

「ほら このあんこ球、残り二つのどっちかが当たりだろ? 当たりを引いた方が勝ちって事で」

「で、負けた方がなんでも言うこと聞くの?」

「ん? ああ」

「ふぅん…まぁいいや。やってみようぜ」

 興味なさそうなまま、四五六は勝負を受けた。

「決まりだな。おじさーん、あんこ球ぁ、これ箱ごとで くださーい」


 四五六はお菓子の袋を下げて、アオはあんこ球の箱を抱えて、近くの公園で勝負開始。

 ベンチに腰かけ、ジャンケンした結果、チョキで四五六の勝ち。

「ぐぐ…」

 我が指をジっと見つめて、悔しそうなアオだ。

 対してワクワク顔な四五六は、ジャンケンに勝った事よりも、あんこ球を選べる選択権が嬉しいようだ。

「んー じゃあオレはこっちで」

「俺はこっちか」

 四五六が一つを選ぶと、アオは残された球を選ぶ。

 付属するつまようじを刺して、いざ勝負。

「「あ~ん」」

 一緒にあんこ球を口に入れる事、数秒。

「お、オレが当たったぞ」

 四五六が嬉しそうに、舌に残された小さな砂糖の丸い粒を摘まんで、見せる。

「なんだよー、俺の負けかよー」

 ガッカリするアオを余所に、四五六は嬉しそうに、大粒のあんこ球を手にした。

「じゃ、これはオレのものだ~」

 満面の笑みで頬張る四五六は、心の底から幸せそうだ。

 その笑顔は赤ちゃんのように丸くて純粋だけど、残念な事に、女子は教室でも、誰も気付いたためし無し。

「………」

「………」

 勝負を終えて、意味もなく空を見上げる二人。

 暫しの沈黙の後、四五六が告げる。

「で…いう事を聞く だけどさ」

「うん…」

「………なんか 別にいいや」

 幼馴染の決定を、なんとなく予想していて、ついでに「そりゃあそうだよな」的な感想しかないアオ。

「うん…っていうかさ…」

 二人は、空を眺める。

「男同士でやっても、別に面白くないなぁ…」

「なんかな」

 アオの言葉を特別な同意も感じず返す四五六が、買ったお菓子の袋を開ける。

「アオも食べる?」

「サンキュ」


                         ~終わり~

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