ある日の教室
松平真
ある日の教室
その日、天抜中学二年B組の教室は朝から異様な雰囲気に包まれていた。
行ったことはないが、ニュースで流れる紛争地帯とやらはこんな雰囲気なのかもしれない。唾を飲み込むことさえためらうようなピリピリと空気が張り詰めていた。
理由は単純で明快で陳腐ですらあった。
とあるカップルが喧嘩したのか、非常に険悪な空気を周囲に振りまいていたのだ。
もちろんただそれだけではクラスメイト達も気にしなかっただろう。
そのカップル…足立沙耶と別所真由が女同士であり、校内では図抜けた美少女であり、また二人が付き合っていることが教室内のほとんど全員が知るところであったことが大きかった。
実際のところは、沙耶も真由もにこにことほほ笑んでいるだけであった。
だが、互いにけして視線を合わせず、いる方を見ようともせず、それでいながら自分の方を見ないことを確認すると、そのたび、笑みから感情が失われていくのだった。
なにせ二人とも図抜けた美人であるものだから、それだけ凄味が違う。教室内のだれもが、休み時間に私語すら小声でするような有様だった。
昼休み、真由がスマホを操作すると沙耶が自分のスマホを開いた。
そして、そのまま二人でどこかに消えた。
教室内のだれもがほっとした。
あの雰囲気の中で昼飯を食べるのはごめんだったのだ。
そして、昼休みの終わり…もうほとんどいつもの教室の空気だった…にふたりが教室に戻ってきた。
だれもが、二人の様子を恐る恐る伺った。
二人は、しっかりと手を握りあっていた。
教室は安堵に包まれ、いつもの喧騒を本当に取り戻した。
ある日の教室 松平真 @mappei
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