第二百二十七歩


 「おかげさまで全員参加とあいなりまして」


 実行委員会の剛腕により、ここまで順調な今回のワイハー旅行計画。

 ホームルームの時間を拝借し、三河ツーリスト代表である三河君が教壇に立ち経緯を説明。しかしここで予期せぬ事態が!


 「期末試験で赤点取った生徒は今回の旅行見送りとなります」


 「!」


 そんな話、この僕ですら聞いてないぞ!

 つるりんは元より、マイハニーですら驚きの表情を隠せない。

 しかし今、問題はそこではない。

 このままだと旅行に行けない者が出るのは間違いない。

 しかもその筆頭にいるのはなんとこの僕で間違いないだろう。


 「ふふふふふふざけんなよ三河んっ!」


 おっと、あのお方を忘れていた。

 知力を筋力へほぼ全振り(残りは美貌)した残念なかわいこちゃん。


 「顔真っ赤になってなにを怒ってるのメー? 赤点取らなければいいだけのことじゃん」


 「むぎいぃぃぃぃっ!」


 隣で聞いていた中伝先生は何度も首を縦に振る。思うに今回の件について学校から許可を取る取引材料としたのではなかろうか。


 「メーとゴミッキーは頑張らないと一緒に行くことが出来ません。だから死に物狂いでね!」


 分かっている。このクラスには優秀な人物が揃っている。にもかかわらず、クラスの平均がそれ程高くないのも知っている。何故なら僕と治村さんで大幅に平均を下げているから!


 「俺からは何も言っていないぞ? あくまでも三河がどこからか情報を入手したんだろう」


 ニヤニヤ不気味に笑う中伝先生。どうやら三河悪魔と取引を交わしたようだ。僕と治村さんの魂(赤点回避)を贄に!


 「へー、そうなんだ。なぁゴミッキー。お前中間の平均点どんだけなの?」


 「え? い、いや、千賀君こそどれだけなのさ?」


 「俺? 俺は90点弱かなー。結構簡単だったよな」


 「!」


 侮っていた!

 見た目パーで忘れがちだけれど、実際バカなのは言動行動で思いのほか成績は優秀なのだった!

 

 「ぼ、僕は40点ぐらい……」


 「マジか!?」


 (ザワザワ)


 一斉にどよめき立つクラス。平均点を下げている原因が発覚したのだから当然だろう。


 「大丈夫よ久二君。私と一緒に勉強しましょう」


 天使が舞い降りた!

 不幸中の幸い、いや、棚からボタ餅か!?

 イヤッホウゥ!


 「ところで赤点はあったのか?」


 「う、うん。三教科ほど」


 「それならなんとかなりそうだ……」


 そんな僕の恥を晒す会話をぶった切って甲高い声が割り込んできた。


 「ちょっとまったあぁぁぁぁっ!」


 治村さんである。教室の端に座る彼女から対角線上の反対側へと座る僕達にも余裕で届くハイトーンな金切りボイスは最早うるさいだけ。


 「わ、私にも教えて!」


 勢いのまま僕達(笹島さん)の近くに来たかと思ったら涙ながらそう言った。

 そんな治村さんを見て、ニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべる中伝先生と三河君。まるでこの状況を狙っていたかのように。


 「なんだ治村、お前もヤバいの? まさかゴミッキーより下ってことはないだろう?」


 「……点」


 呟くようにボソッと話す治村さん。この点数は相当にヤバイ。


 「あぁ? もっとハッキリ言えよお前らしくもない」


 どうやら空気読めずの千賀君は聞こえなかったらしく、再び治村さんに回答を求めた。


 「だから18点っ!」


 「へぁ!?」


 氷河期でもこれ程寒くないぞと思う程にドン冷えの7組教室内。中伝先生のみならず、クラス全員が氷漬け。


 「あ、あのね、あくまでも平均が18点であって、中にはタマゴがそこそこ……」


 0点だと!?

 そのような点数はフィクションじゃないのか?

 まさか現実世界で耳にするだなんて思ってもみなかった!


 「マジか治村! ……マジか」


 ここである疑問が。

 それは僕だけではなく他のクラスメイトも思う所のようだ。

 何故なら伊良湖委員長が……


 「ち、治村さん? この学校に入っておバカさんになっちゃったの?」


 と治村さんを傷つけないよう遠回しに尋ねた。……が、あの男はキッチリ息の根を止めに来る。


 「この学校ってそこそこ難しいと思うんだけどさ、どうやって入試クリアしたの?」


 今度はヘラヘラヘラヘラ不気味な笑みを浮かべて治村さんを見る三河君。答えを知っているものの、あえて本人に言わせようとしているみたいだ。


 「さっきからチロチロチロチロライブを見てるけど、彼女がどうかしたのかい?」


 笹島さんは貝の殻に閉じこもったように両手で顔を覆い隠す。僕には何が何やらサッパリだ。


 「まぁ、これ以上虐めるのもアレだからこの辺りでやめておくとするよ。その代り試験勉強はしっかりやりなよメー!」


 「う……うん。ありがとうみかわん」


 「入試と違って今度は前の席にライブはいないんだからね!」


 「!」


 この一言でクラス全員が悟った。

 やっぱり治村さんは正真正銘の超絶おバカさんだってことを。

 そしてこれ以降、彼女の入試話はタブーとなり、7組の超重要機密として闇に葬られるのであった。



 いや不正かよ!

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