第二百二十五歩
「大丈夫だと思うよ」
「マジおっさんさん!?」
「その代わりお正月は外すからね」
「ぜんぜんオッケーだよ!」
意外にも話はすんなり決まる。年末年始さえ避ければ予約は可能とのこと。それはなにも古屋コネクションだけでなく、ごく一般的にも大丈夫だろうって。
「本当に俺も一緒に行くの?」
不安そうな表情で三河君を見る古屋さん。僕から見ても財布代わりは明らかである。
「おっさんさんも偶には息抜きしなきゃだよね。だから例の二人組には絶対バレない様にしないとね」
「!」
古屋さんの表情が一変した!
まるで呪いの憑き物が抜けたかのように!
「最終的にはバレると思うんだけれど、出発手前の時既に遅しぐらいまで隠し通せればこっちのモンだと思うんだよね」
「なるほど! 場所が国内ではないからおいそれと追いかけることが出来ないって訳だ」
「ザッツライツ!」
頓珍漢な博士と間抜け助手の会話を見て居るような古屋さんと三河君の陳腐な掛け合い。三河君と絡んでいる時の古屋さんは度々ポンコツな面を覗かせる。それでいて本当に楽しそうな顔をする彼は、時折三河君とダブって見えるのは気のせいだろうか?
それにしても、見れば見る程二人の仲の良さが伺える。
「じゃあ世間のUターンが始まる正月明け三日ぐらいから行くとしようか。それならば冬休み中に帰って来られるだろうし」
「それとさ、モッチーは勿論、キッコロと東も数に入れといてね」
海道君はまぁ分かるとして、五平先輩も参加するんだ。不安要素が跳ね上がったと思うのは僕だけだろうか?
それにキッコロって誰だろう?
「そこまで誘って矢田君は誘わないの?」
「あー、イヤンはいいや。アイツ誘うとゆりねーちゃんにバレそうだから」
イヤンって変なあだ名だな。でも本名は矢田っていうんだ。……あれ?
ここで僕はある噂話を思い出した。そう、赤楚見高校に纏わる例の屑三人衆の話。
”暴君の五平”に”変態の矢田”、そして”最強最悪の人間ハプニングバーのアンジョー”。事実、五平先輩はあの”暴君の五平”本人で、その名に恥じない程の暴れっぷりを何度も目にしてきた。いや、それ以上に女子からの暴れられっぷりの暴力受けまくりっぷりも……。となれば矢田は”変態の矢田”で間違いないだろう。噂にたがわぬ五平先輩の暴君ぶりを見るに、変態の矢田も相当なものに違いない。正直想像すらできない。しかもその二人を上回る”最強最悪の人間ハプニングバーのアンジョー”ってどんなんだろう。僕は関りが無くて心底ホッとしている。
「矢田君はいつも仲間外れだね。ちょっと可哀そうかも」
「なに言ってるんだよ? おっさんさんの為を思えばこそじゃん?」
ここでふと思う。
会話から想像するに、三河君は”暴君”だけでなく”変態”とも仲が良さそうだ。となればあの”最強最悪”にも大なり小なり縁があるのではないのだろうかとの一抹の不安が僕の頭の中を過る。
「そんなワケで、あまり大っぴらには出来ないから一人一人順番に伝えて行ってね。ライブは女子担当でつるりんは男子担当ね。で、ゴミッキーは僕と一緒に保護者を押さえるから」
「オッケー!」
「任せておいて!」
「えぇっっ!? 僕は保護者担当なの?」
大雑把な内容だったものの、計画の大筋は理解出来た。それにこの話は、この場にいる僕達だけでなく他のクラスメイトも巻き込んで行けば思ったより簡単に事が運ぶのではないだろうか。なにせクラス全員参加をモットーとしているのだから。
「いいかい、最後にもう一回確認するよ。他のヤツラには絶対知られないようにね」
三河君の言う他のヤツラが誰を指すのか分からないが、正直それは無理があるのではと思う僕がそこにいた。何故なら……
「ああ会長? 今度のゴルフの時さ、あの旅行会社の社長も誘ってもらえるかな? なんでも三河君がグラス全員で海外行きたいらしいから……」
などと古屋さんが三河君を知っているであろう人物へ旅行の話を頼んでいたから。
速攻第三者にバレたワイハー旅行計画の第一歩であった。
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