第二百二十四歩
僕は今、例の喫茶店にいる。
勿論座っているのは一番奥の大テーブルだ。
「揃ったね」
仕切りは三河君。そして集っているのは僕、千賀君、笹島さん、そして五平先輩に、なんと古屋さんまでも。
因みに座席順は古屋さん、三河君、五平先輩が窓側で、対面に千賀君、僕、笹島さんである。
帰りに本屋へ寄ろうと笹島さんから誘われて、ウッキウキだった僕の幸福観測脳領域を、そうはさせるものかと侵略ハッキングしてきた三河糞虫軍。この後例の喫茶店でミーティングするからと否応なしに弱小国家元帥の僕こと熱田久二は拿捕そして連行のコンボをくらう。
「ライブとのイチャイチャタイムを邪魔されたからってそんな顔しなくてもいいじゃん。話が済んだ後ならどこでどんなエロいことしようとも関与しないからさ」
怪しいな?
話がある時はイチイチ邪魔をするって言っているのと同じだけど?
「…………」
僕が三河君を疑っていると、なにやら袖にツンツンとした感触が。
「きゅ、久二君……」
そこには真っ赤な顔で俯きながら僕の服の袖をつまんで引っ張る笹島さんの姿があった。
「なんだお前ら? 帰ったらヤるのか?」
「おいおいおい! 俺の前でそんな話は勘弁してくれよゴミッキー! あと五平先輩も煽らないで貰えるっスか? この二人マジヤりかねないんで」
二人に突かれて漸く彼女の赤面している意味が理解出来た。
「ふ、ふざけないでよ! 僕達はそんな仲じゃないんだからね!」
冷やかすのもいい加減にしてほしい。とはいえ、周りに僕達の仲が認められているようで嬉しくもあったりする。
(アレ? フリではなく完全に付き合っているカップルじゃない?)
気付けば笹島さんの三河君を見る目が変ってきているような?
例えば映画の舞台挨拶で憧れている俳優を見ているかのような?
そして僕を見る目が……暫くニヤニヤが止まらなくなった。
「なんかムカつくな? ちょっとお前たち……」
五平先輩が席から立ちあがり、僕と隣に座る笹島さんの間に入ろうとした次の瞬間!
「ウガッ!」
{ゴッキン!}
どこからか飛んできたガラス製のゴツイ灰皿が先輩の後頭部を襲う!
カレー皿程もある巨大なその灰皿はあまりの衝撃で粉々に砕け散る!
そして五平先輩の頭蓋骨も粉々に……
「だ、誰だこんな重いもの投げたヤツは! この店はゴリラでも飼っているのか!?」
頭部から真っ赤な血しぶきを噴出させて怒鳴る五平先輩を見るに、命に別状はなかったと少しだけガッカリ……いや、安心する。
「あ、い、いや、あの……」
怒りがピークに達したはずの五平先輩だったが、何故だか突然鎮火したようで、その理由は直ぐに分かった。
「おーお、後輩には随分と偉そうな口をきくのねアンタは?」
僕達の近くを細長い影が横切ったと思ったら、突然くるっと返って先輩の顔面を包んでいく。
{メキャ!}
「ウギャアァァァァァァァァッ!」
ホワイトアスパラガスよりも白い指が五平先輩の顔面を覆うと同時に凄まじい破壊音が!
「マッキー! それにないろんも!?」
それを聞いて僕は即座に振り向いた。
パン屋先輩と美人先輩だ!
五平先輩絡みで困ったら呼べと言っていたあの二人が何時の間にか僕達の後ろにいるではないか!?
「オーホホホ、ウチの関係者がお邪魔しましたわね。それと伊歩ちゃんだっけ? 私達は応援しているからね! そして……」
パン屋先輩はそう言うと、今度は三河君を見てこう言った。
「家に帰ったらお話ししましょうね三河君」
「ハ、ハヒィッ!」
珍しく日和る三河君。彼も人の子、そりゃ苦手なモノだってあるだろう。それは間違いなく三河ウーマンズだと彼の態度が表している。
「皆さま、お騒がせしましたわね。それと古屋さん、ケーキご馳走様でした」
「いえ、どういたしまして。ところで小碓さん、その……五平君は?」
「あー、少し預かるだけだから。ほらマキちゃん、行きましょう」
{ゴキャメキャボキャッ!}
パン屋先輩が会話を終えたと思ったら再びあの破壊音が!
「ほらゴミ! ぐったりした演技はいいからこっちへ来るんだよ!」
「…………」
美人先輩はピクリとも動かなくなった五平先輩を顔面鷲掴みのまま引きずって店から出て行った。彼女達の通った後には、赤い絵の具をつけた巨大な筆でなぞったような跡が残っていた。
「…………ご愁傷様」
三河君を筆頭に、僕達全員五平先輩のご冥福を祈った。
こうして店に入ったはいいものの、一ミリも話し合いは進まぬまま時間だけ過ぎるのであった。
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