第二百二十三歩


 「実はさ、クラス全員で旅行行こうと思ってるの」


 突然の告白。ではなく、壮大な計画の公表。


 「マジか三河? 温泉か?」


 「ノンノンノン。海外だよ。ワイカー行くんだ」


 「へー海外ね。……ってはぁっ!? 海外? しかもワイカーって、あの常夏の楽園と呼ばれるカワイかよ!?」


 カワイだって?

 まるでどこぞの塾みたいな名前だな?

 勿論僕はソレがどこにあるのか知らない。


 「え? もしかして久二君、カワイ諸島知らない?」


 「あ、うん。でも海外って言うからには外国なんだよね?」


 「マジかゴミッキー?」


 千賀君は目玉が飛び出るぐらい目を大きく見開いて僕を見る。その表情からバカにされているのだけは理解できるのだが、それほどか?


 「よくこの高校受かったよなお前? カワイ島と言えば例の大戦でうちらの国がタサキ真珠湾奇襲のトラトラトラヤウイロウで有名じゃんか! 小学生で習っただろ?」


 なんかムカつくな?

 僕は平和主義だから戦争なんて興味ないんだよ!


 「ウチのクラスこんなのばっかりだから見聞を広める意味でも海外行ったほうがいいのかなって」


 「マジか三河! イィィィィィィイヤッホォォォォォォォゥッ!」


 漫画のキャラクターみたいに飛び上がって喜ぶ千賀君。彼を見るに、カワイとは相当に素晴らしい場所のようだ。


 「でも暫く皆には内緒の方向で。じゃないとに嗅ぎつけられて旅行どころじゃなくなると思うから」


 ハイエナとは誰なのか?

 彼の言う様にクラスで行くとなれば隣のクラスにいる海道君や新瑞さんが対象外となるのは間違いない。もしかして彼等のこと?


 「おっさんさんのコネクションを使って超ゴージャスな旅を計画してるんだ。飛行機もファーストクラスは無理でも、エクゼクティブなら何とかなりそうだし」


 三河君の言っている意味が殆ど分からない僕は異端なのだろうか?

 庶民なんてこんなものだと思うのだが違うのか?


 「ラウンジ使えるじゃん!」


 「え? 千賀君は三河君の言っている意味分かるの?」


 「え?」


 千賀君だけではなく、笹島さんや三河君までもが驚いた表情で僕を見る。しかも相当に可哀そうなモノを見る目で。


 「だろ? こんなんがゴロゴロといるんだよウチ等ぐらいの歳だと」


 「だな」


 そんな目で僕を見るな!

 笹島さんに至っては視線をも合わせてくれないではないか?


 「とにかく、ゴミッキーは今日帰ったらについて調べる事! これ宿題だからね!」


 三河君に念を押されてしまった。

 無知で悪かったな!


 「お家帰ったら一緒に調べましょう」


 「えぇっ!?」


 「帰りにカワイのトラベルブックを買いに商店街の本屋さんへ立ち寄ろうね久二君」


 「イィィィィィィイヤッホォォォォォォォゥッ!」


 怒りマックスが笹島さんの言葉で急冷却され、それどころか先程までバカにしていた千賀君をも上回る歓喜の踊りを皆の前で披露する有頂天熱田とは何を隠そうこの僕の事だ!


 「三人には色々手伝ってもらうことになるから頼むね」


 「任せておけ!」


 当面は水面下で動くことになるだろうと三河君は言った。本当は年末年始に行きたいらしいのだが、千賀君曰く、既にこの時期だと予約は無理なのだそうだ。遅すぎるんだと。

 それでも三河君は無理を通そうと色々動いてみるそうだ。なんだか彼ならば遣って退けそうな気がすると感じているのはきっと僕だけではないと思う。


 それにしても千賀君ってああ見えて旅行のこと詳しいんだなって思わされた出来事であった。そして僕以上の無知はいないとも……ぐっすん。


 


 


 

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