第二百二十二歩


 盛況とは言えないまでも、それなりの生徒がこの教室を訪れた。しかもその多くは男子生徒。僕から見ても決して面白みのある展示物ってワケでもないが、きっと笹島さんや治村さん目当てで来たのだと思う。問題は例の件に関わる客なのだが……。


 「ではこの物件はウチが買い上げるってことで良いかしら?」


 「あー、女将さんに譲りたいのはヤマヤマなんだけれど、そこは超がつくほどの人気物件でありまして……」


 「んもう、商売上手ねぇ。それならばゴニョゴニョ……」


 「ほほぅ、……千万までなら出せると?」


 「あと不動屋さんには内緒でリベートとしてゴニョ百万を……」


 「マジで!? 料亭の女将さんご契約ありがとやしたっ!」 


 とまぁ、このような具合で物件は次々と契約が交わされていった。

 そしてここだけの話、客には変装した一部上場のメジャー大企業トップ及び経営陣連中、若しくは代理人をうたう者が幾人も紛れ込んでおり、不動産屋から提示された見積もりを遥かに上回る金額で取引されたのであった。これにより商店街付近の店舗及び土地所有者は名だたる著名人や企業が名を連ね、この町の地盤固めに何役も買ったのであった。


 「あ、ダーリン私はこの店舗借りていい?」


 「なんだよ愛ちゃん、トヨカワ辞めて商売すんの?」


 「やぁねぇダーリン。サイドビジネスよサ・イ・ド・ビ・ジ・ネ・ス」


 新罠さんは人差し指を三河君の唇にあてがい、一言ごとに指をトントンとする。その動作のエロいことったりゃありゃしない。


 「小糸さんはこのこと知ってるの?」


 「あら、小糸どころか皆知ってるわよ? それに先生や豊田さんも出資者として一枚噛んでるし」


 「えー? 愛ちゃんや小糸さんは資産がいっぱいあるから分かるけどさ、奈瑠美ちゃんやオバハンはドが付くほどのビンボー人じゃん。現に大人のオモチャにばっかりお金を使って……ハッ! まさかアダルトショップを経営するとか言わないだろうね?」


 「冗談でしょ? そんなの取り扱った日にゃセンセーや豊田さんにモニター名目で道具盗られての業務上横領であっという間に潰れちゃうんだから」


 「……確かに」


 とまぁ、こんな感じで三河君絡みのお姉さん方も物件を物色していたようである。

 思いのほか不動産目当てのお客が多く、あれよあれよと時間が過ぎて気付けば一般公開終了時刻である午後三時を回ってきた。

 

 「おいゴミッキー、ちょっといいか?」


 終了間際、他のクラスを見て回るどころか休憩時間もままならなかった僕と同じ状況の千賀君に呼ばれ教室の片隅へ。そこには途中から接待係に任命された笹島さんも。


 「聞いて驚くなよ? 今日の売り上げ数十億らしいぞ?」


 「はぁ!?」


 正直単位がよく分からない。ポッキーで例えるならば仮に十億だとして……六百二十五万個? うーむ、余計に分からなくなってきた。


 「んでよ、どうも三河は中間マージンどころか賄賂を受け取っているようなんだよな」


 あの悪党ならそれぐらいは当然だろう。寧ろ儲けるのは仕方ないにしろ、その分の税金もしっかり払えと思う僕は彼に毒され過ぎなのだろうか?


 「あんだけ儲けたんなら俺達もお裾分け欲しいよな」


 待てよ? 

 三河君って金の亡者って感じ皆無だったような?

 どちらかと言えば万年ビンボーだったような?


 「うおっほんっ」


 こそこそと会話をしていた僕達を一喝するような咳払いが教室内へと響く。


 「ひぇっ!」


 ふいの大きな音で僕は口から心臓が飛び出る思い。


 「うわっ」


 「ひぃっ」


 どうやら千賀君と笹島さんもビックリしたようだ。それにしても驚く姿ですら美しいなマイハニーは。


 「ビビらんでよろしい」


 声のする方へ目を向けると、そこには成金三河の姿があった。

 余程懐が温かいのかニッコニコのホクホク顔で僕達へと近づく。


 「えー、皆さまお疲れっした。おかげさまで今回利益が軽く億を超えました」


 「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 売り上げではなく利益が億?

 そりゃホクホク顔にもなりますわ!


 「でね、このお金でさ……」


 この後僕達三人は成り上がり三河の企みを聞いてもう一段階驚くことになるのであった。


 そして余談だが、学園祭から数年ののち、学校前商店街はゲーロタワーや若鯱屋のある街の中心街に遜色のない発展を遂げるのであった。



 

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