第二百二十一歩


 あれよあれよと学園祭当日。


  「いい? 商談をまとめる役は僕がやるからゴミッキーは僕目当てのを上手くこちらへ誘導して」


 三河君が何処からか調達してきた大きなカーテンを使い、教室の一部へ秘密部屋を作製。これにはクラスメイトも不思議な顔をしていたが、事情を知るつるりんが上手い事誤魔化した。管理者二名以外は自由行動とのことで直ぐに教室内はモヌケの殻に。

 つまり今、教室内には影のボス三河とその幹部千賀、管理者の二名は委員長とマイハニー、そして門番の僕のみである。


 開始から五分、早速一番目の来訪者が。

 因みに学校関係者以外の入場は10時からとなっているのでまだ一時間ほど猶予がある。


 「三河いるかぁっ!」


 どこからどう見てもヤンキールックなその女性は、着ている制服を見るにやはり赤楚見高校の生徒で間違いない。そのとなりには小さなげっ歯類にも似た可愛らしさを持つ小柄な女子が。

 僕はこの二人の女子に一切の面識もないが、実は知っている。なぜなら……


 『いいかいゴミッキー。いっちゃん最初に頭クルクルパーな金ぴか女とチビッ子女子が来ると思うから絶対教室内に入れないで。廊下でヘルプって大きな声で叫べばなんとかなるから僕を信じて!』


 と事前に言われていたから。

 今まさに僕の目の前には頭がクルクルパーな……


 (ドゴッ!)


 突然腹部を襲う鈍痛。


 「お前を見ていたらなんかムカついた」


 (バレてる!)


 「ぼぼぼ暴力反対! そんな人はこの教室に入場できません!」


 「あぁ? お前いっぺん死んどくか?」


 「だめよ伏美ふしみ! ここで騒ぐとあの人達が……」


 「だから一番に来たんだろうべに? もたもたしていると本当に……」


 金髪クルクルパーが一瞬怯んだ!

 叫ぶなら今だ!


 「ヘールプ! ヘェェェェェェルプウゥゥゥゥッ!」


 二人を廊下へ押し出すと同時に僕が出しうる限界の大声で叫ぶ!


 「ちょ、おま!」


 さすがの金髪クルクルパーも僕のハイトーンな叫び声にビビったようだ。


 「どこ触ってんだオラァッ! そこチチだぞ!」


 「いやぁんっ!」


 {パン! パッシーンッ!}


 どうやらビビっていたのではなく嫌がっていたようだ。張り飛ばされても仕方のないことをした。それにしてもメロンとみかん、どちらも柔らかくって食べごろだ。


 「サイテーッ!」


 「テメーは殺すだけでは足りねぇ!」


 二人は両手で胸を隠す素振りをし、僕を激しくなじる……かと思いきや話は思わぬ方向へ。


 「私の触っていいのは三河君だけなのにぃっ!」


 「あぁっ!? 今なんつった紅?」


 「あ、いや何でもないよ伏美ちゃん。エヘ」


 「いや、前から薄々感じていたがアンタ私に隠れて栄ちゃんとコソコソやってんだろ?」


 「し、してないもん! だいたい伏美は木頃君と付き合ってるんだから三河君には手を出さないでよね!」


 「誰がクソキッコロと付き合ってんだ! その噂には迷惑してるんだっつーの! ははぁーん、読めたぞ紅。噂を流してるのはアンタだな?」


 「うっ!」


 内輪もめ勃発!

 面白いから暫く見ていよう。


 「今日という今日はアンタの腐った性根を叩き直してやる!」


 「ハン! やれるもんならやってみな!」


 「開き直りやがったな紅!」


 「それがどうしたヤリマン!」


 「キーッ! わたしゃだっつーの! 寧ろその仮面で人を騙しては片っ端から食い散らかすアンタのほうがヤリマンじゃねーかっ!」


 「わ、私だってとしかしてないもん!」


 「それが海道か?」


 「あんな生臭いヤツとなんかするかっ!」


 飛び火した!

 どうしてここで海道君の名前が?


 「お前等いい加減にしろ! 俺達のクラスまで聞こえてんぞ!」


 救世主現る!

 ヘルプと叫んで現れるのは海道君だったのだろか?

 しかも噂の張本人という、なんとも間が悪い。


 「どうして中村と錦は喧嘩してるんだ? そもそも……」


 もしかして昨年のクラスメイト?

 二人の間に入って仲裁を試みる海道君だが、やけに距離が近くない?

 いくら服を着ているとはいえ、露出している部分は肌と肌が密着しているけれど。


 「黙れフナムシ!」


 「お、いいのか紅? お前は噛むと有名なあのフナムシを噛んだんだろ?」


 「そんなことするかキモイ!」


 「…………」


 海道君撃沈!

 彼はその場で横たわる!

 もう何が何やら……。


 「あんたらいい加減にしな! 私のを侮辱したこと絶対に許さないんだから!」


 新瑞さんだ!

 しかも彼って恥ずかしげも無く言い切ったぞ?


 「なんだアンタは? 関係ない者は引っ込んで……ひっ!」


 突然話を止める金髪クルクルパー。その表情はどこか怯えている様にも見える。

 

 「なるほど、三河君の言っていたのはこのことだったんですね」


 五平先輩だ!

 ヘルプで駆けつけてくれるのは彼だったのか。

 しかしそれと彼女たちの怯える理由が結びつかない。


 「君等は僕と向こうへ行きましょうか」


 「ひあっ!」


 「あひゃっ!」


 五平先輩は金髪クルクルパーと仮面チビッ子の間に入り、肩を組むように二人の後ろへ腕を回す。しかも掌は彼女達の胸をガッチリ捉えていた。


 「じゃあ後は僕に任せておいて」


 五平先輩はそう言うと、僕達の教室から遠ざかって行った。

 あれ程までに息巻いていた二人だったが、五平先輩の前には成すすべも無いらしい。それにしても逆らわないのをいいことにセクハラ三昧だなんて……恐るべし暴君。


 後、余談だけれど海道君は新瑞さんに担がれて自分の教室へと戻って行った。この日は最後まで立ち直れなかったようである。パワーワードは健在なり。


 


 

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