第二百二十歩


 「あの時料亭の入り口で君に出会わなかったらきっと今回の話は成立しなかっただろう」


 僕が知る限り、料亭なんて場所は政治家や裏稼業を生業とする腹黒い大人たちが私利私欲を満たすためのマネージメント会場で、一般人には生涯関わる事がないどころか近づくことも許されない、敷居が上空一万メートルよりも高い位置にある謎の施設ではないか?

 そのようなアダルチックな場所に脳ミソがチビッ子の三河君が一体全体どうして?


 「女将とは交流があるんだよね僕。と言ってもまぁ、向こうがガンガン来るって感じだけれど」


 なんとなーくだが想像できる自分がいた。今現在彼の周りにいる女性達を見れば当然かと。


 「それは置いといてっと……今日はね


 おっちゃんだと!?

 どこからどう見ても堅気ではない匂いがプンプンとする不動産屋の御主人を捕まえてだって!?


 「なんでも言ってごらん。私にできることなら協力を惜しまないよ?」


 スルーした!

 いや、させたのか?

 恐るべしコミュニケーションの化け物!


 「今度ね、学園祭があるんだけれどね、僕達のクラスで土地を捌こうと思ってるの」


 「えぇっ!?」


 そりゃまぁ驚きますわな。

 次に頭をよぎるのは何を言ってるんだこのバカはと。


 「数件は確実に売れるから大丈夫なんだけれど、それだと足りないんだよね」


 「足りない? 何がだね?」


 いや、引っかかるのはそこではないでしょう?

 数件はと断言した真相を聞くべきでは?


 「そこそこの物件を捌くからにはそれなりのマージンが欲しんだけれど、実はね……」


 そこから三河君は御主人とヒソヒソボソボソ密談を始めた。

 その間僕と千賀君は出されたケーキを只々口にするのみ。完全に置いてけぼりだ。


 「なるほど、それならば間違いないな」


 「でしょ? んじゃオッケーってことでいいね」


 「あぁ協力しよう」


 商談成立。

 果たして僕と千賀君は必要だったのだろうか?


 「よしつるりん! 持って来た商店街の地図出して」


 「あいよ!」


 えっ!

 言われてみれば千賀君はずっとポスターみたいなものを持っていたような?

 

 「ちょっと前を失礼をば……」


 千賀君は持っていたポスターのような物を僕達とご主人の間にある応接間用の低いテーブルの上へ大々的に広げた。

 それは商店街一軒一軒の概要が記された地図と言うより観光マップに近い感じの物だった。


 「三河に言われた通りパン屋さんに顔出したら渡してくれたよ」


 「ないろんママには事前に連絡しといたからね」


 マジですか!?

 千賀君もしっかりお役に立ててるですと?

 訂正、必要ないのは僕だけのようだった。


 「でね、これを見ると結構空き店舗あるでしょ。これ全部おっちゃんとこが管理してるんでしょ?」


 「うむ。最近不景気で中々埋まらんのよ」


 「マンション下の店舗は賃貸契約で、一戸建は販売って形でいいんだよね」


 「店舗併設の一戸建もムリに販売しなくても賃貸でもいいんだがね」


 「任せておいて!」


 僕が茶を啜ってケーキ食べているうちに全てが終わった。千賀君は地図を運ぶ重要な任務があった。それに比べて僕はと言えば……。


 「で、ここからが重要なんだけれど……ほらゴミッキー、いつまでも対岸の火事きどってないでここからは混ざって!」


 一応僕にも何らかの役目があるようだ。

 ホッとしたような面倒クサイような不安極まりないような……。



 それにしても三河君は人見知りだなんて言ったバカは何処のどいつだろうか?


 


 


 


 

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